NERV第二発令所
第十四使徒との戦闘で大破した第一発令所の代わりに司令部として現在使用する場所である。
常にオペレーターが配置についている。
彼らは定時に仕事を終えることがたいへん少ないがそれに不満を漏らすことは無かった。
なにせここは司令部なのだ。
使徒との戦闘が起これば逐一状況を把握し戦闘を有利にする義務が彼らにはあり、使徒出現の第一報を常に聞けるようにしておかねばならないのだ。
とはいえ使徒が来なければ平和そのものであった。
「今日も使徒は現れないな。」
そう言うのは青葉シゲル二尉である。
ロン毛が特徴の彼は使徒が出現した際、日本政府と国連軍に報告するオペレーターだ。
また、チルドレンの居場所も彼が把握しているのだ。
「いいことじゃないか。それだけ平穏な時間が過ごせるんだから。」
中央に座る眼鏡をかけたオペレーターである日向マコト二尉が言う。
彼は作戦部一課に所属しており参謀役として戦闘をサポートする立場にある。
最も最近の彼は上司に押し付けられた雑務をいかに効率的に終わらせるかが仕事となっている
「そうですよ。それにEVAも最終チェックが終わってませんし、来られても困ります。」
上部の司令部ただ一人の女性である伊吹二尉が言う。
彼女は技術開発部技術局一課に所属している。
主にEVAの補修、修理、MAGIの管理などを担当している。
このような会話をできるほど司令部はゆったりとした雰囲気であった。
このままなら彼らも今日という一日を無事に終わることができるのだ。
今日も一日が終わる
そう彼らが考えたとき警報が鳴り響いた。
それを聞き、彼らは一斉に目の前のモニターに集中する。
それは幾度と使徒との戦闘で培われたものである。
司令部の最上段に一人の男がいつものポーズで地下から現れた。
NERVの総司令である碇ゲンドウだ。
警報を聞いてすぐさまに発令所に現れたのだ。
本来なら副司令である冬月コウゾウも現れるのだが、今日は外に出張していた。
「状況を報告しろ。」
ゲンドウが低い声で言う。
その声に青葉が答える。
「本部施設内で攻撃を確認。」
「パターンオレンジ……使徒とは確認できません。」
使徒ではないことにほっとする発令所だが、すぐに緊張が走る。
「使徒ではないのだな。」
「はい。」
「警報を止めろ。……探知機のミスだ。日本政府と委員会にはそう伝えろ。」
ゲンドウの命令を青葉は忠実にこなした。
「……それで何の警報だ?」
「MAGIが使徒ではないものの、本部内で異常を確認したため知らせてきた模様です。」
伊吹の報告を受けゲンドウは相手が人であるだろうと考えた。
だが、誰であるかは特定ができない。
もしかしたら戦自の特殊部隊かとゲンドウは考えた。
「異常を確認したのはどこだ。」
「はい。NERV本部の第一層です。」
「モニターに出ます。」
発令所のメインモニターに映し出されたものを見て一斉に驚きの声が上がる。
「し、シンジ君にレイちゃん!?」
モニターにはレイを担ぎ上げ走るシンジの姿があった。
時折後ろから飛んでくる何かを回避している。
シンジの顔は恐怖にまみれており、何かから逃げるような動き方であった。
一方レイはシンジとは正反対に大変嬉しそうに、幸せそうにしている。
「いったいどういうことなんだ?」
日向がそう言うが、それは発令所全員が感じることであった。
シンジの表情を除けば別に異常とは感じられないのだ。
ただ単にシンジが所謂お姫様抱っこでレイを抱えて走っている。
そういう風に見えた。
「シンジの後方を映せるか?」
ゲンドウが言う。
シンジの後ろから時折飛んできているものが気になったのだ。
「出ました。」
伊吹が言うとともにメインモニターはシンジの後方を映し出した。
それを見てさらに一同が驚きの声が上がる。
「あ、綾波特務一尉!?」
青葉が驚きのあまり声が上ずっていた。
そこにはグロック17を片手にシンジを追いかけるコウスケが映っていた。
・・・
事はコウスケがリリスのことを公開した後の話(第36話の後)である。
いつも通りにコウスケは仕事を終え、帰宅の準備をするために執務室に帰る途中であった。
「今日も終わった。帰るだけだな。」
そんなことをつぶやいていたコウスケは視界に入ったものを見過ごすことができなかった。
「あれは……レイとシンジ……いったい何をしているんだ?」
少し遠くから見ていたため二人が何をしているのかわからなかった。
すると二人がキスをするのを見てしまった。
しかもシンジの方から……(36話のおまけ)
その光景にコウスケは愕然とする。
だが、婚約者であるのだからそう言うこともあるだろうと思い、いつもの調子でからかってやろうと考えたのだ。
そしてコウスケは二人に近づく。
「何をしているのかな? 碇シンジ君。」
その声にシンジがとっさに反応した。
「コウスケさん!?」
一方レイはコウスケを少し煩わしそうに見ていた。
「何をしていたのかな?」
「そ、それは……その………」
シンジは赤くなりながら答えようとはしなかった。
「接吻です。」
レイがきっぱりと答える。
「あ、あやなみ!」
「碇君が私を求めてくれた。」
と嬉しそうにレイは言うのであった。
「まあ、婚約者だからな……だが、場所を考えろ。」
「す、すみません。」
「大丈夫だとは思うが、押し倒すとかそう言う不埒なまねはするなよ。」
からかっているつもりが、幾らか本音が混じってしまったようだ。
シンジは必死に頭を縦に振った。
しかし
「押し倒す……私、押し倒されたことあります。」
レイのとんでもない一言が飛び出すのであった。
この一言にコウスケはピンとくるものがあった。
「レイ、あの時のことを言ってるのか? 俺とシンジが入れ替わった時の…」
「いいえ。」
てっきりそのことだと考えていたコウスケはレイの答えに耳を疑いたかった。
「………レイ、嘘だよな。」
「本当です。」
レイの声がはっきりと聞こえた。
「……………頼むから嘘だと言ってくれ。」
「本当です。」
この時シンジもショックを受けていた。
いったい誰がそんなことをしたのか
諜報部と零課はいったい何をしていたのか
シンジとコウスケは同時に同じ考えをしていた。
さらにコウスケはその日の警備担当者を更迭、抹殺を考えていた。
その点はシンジとは違うだろう。
「…………いったい誰に?」
コウスケは顔を俯かせて言う。
この時シンジはとあることが頭に浮かんだ。
ヤシマ作戦前の話だ。
そしてレイが言っていることの意味がようやく分かったシンジはレイを止めようとする。
「あや……」
「碇君です。」
一足遅かった。
「なに!? ……いつの話だ。」
「ヤシマ作戦前に碇君がIDカードを届けに来てくれた時のことです。」
「あ、あやなみ!」
それ以上言われるとシンジとしてはとても危険な状況になってしまう。
だが、コウスケが途中で止めることを許さなかった。
「シンジは黙ってろ。」
この時コウスケは初めてレイと同居した時のことを思い出していた。
レイが風呂から出たとき、どういう格好だったか…
「………まさかとは思うが裸だったなんてことは……」
「裸でした。」
その時のことを思い出していたのだろうか。
赤くなっていたレイはきっぱりと答える。
プツン
まるで綱のようなものが切れる音
そういう音がシンジの耳に入る。
その音を聞いてシンジは恐る恐るコウスケを見た。
コウスケは顔を俯かせてぶるぶると震えている。
「こ、コウスケさん?」
「………仮にも婚約者だからな……デートとか接吻くらいは大目に見てやらないこともない……だが……」
コウスケは顔を上げる。
………怖いほどの無表情であった。
「婚約者になる前からすでに手を付けていただと……」
実際はただの事故であるのだが、状況をすべて知らないコウスケから見ればそうなってしまうのだ。
ただ、コウスケはレイの体について詳しく知っている。
データはコウスケと同居した後のものだ。
それを冷静に思い出せばただの事故であることに気付くかもしれないが、今のコウスケには無理であった。
今のコウスケに取って重要なこととは
シンジが娘を押し倒した。それも婚約者になる前に
である。
「なんてことだ…」
「違います! ただの事故なんです。」
「ほう、そういう風に責任逃れするつもりか。」
「本当なんですってば!」
「子は親を映す鏡とはよく言ったものだ。」
そこでなんでゲンドウが出てくるのかシンジには理解できなかった。
だが、コウスケの誤解を解かねば大変なことになると本能で感じることはできたようだ。
「コウスケさん! 僕の話を…」
「ここまで来て、まだ言い訳をするつもりか! レイだって認めてるんだ! 男なら潔く覚悟しろ!」
レイは認めているというか事実をありのまま話しただけである。
そのレイは何故コウスケが怒っているのか理解できないようだった。
ともかく全身が灼熱の炎と化しているコウスケを前にシンジは逃げなきゃダメだと本能で感じたそうだ。
「ごめん! 綾波!」
そう言うとシンジはきょとんとしているレイを担ぎ上げて逃走を図る。
……火事場の馬鹿力とはよく言ったものだ。
突然のことにレイは目を見開いて驚くが、そっとシンジの胸に頭を預けるのであった。
「待て!」
それを見たコウスケが追いかける。
どう考えてもコウスケの方が早いのだが、命の危機にさらされた人は強かった。
コウスケと同じくらいのスピードでシンジは走っていた。
・・・
発令所にミサトが走って入ってきた。
傍らにはリツコもいた。
「状況は?」
「綾波特務一尉がサードチルドレンとファーストチルドレンを追撃しています。」
日向が状況を正確に報告する。
「コウスケ君!?」
「……冷静な判断ができないようね。」
コウスケの表情を見て二人が反応する。
コウスケの感情がモニター越しでもありありと滲み出ていた。
「あ、危ない!」
伊吹が叫ぶ。
モニターにはグロック17を構えるコウスケが映っていた。
そして発砲。
それをシンジが驚異的な反射神経で避けていた。
「……すごいわね。」
「ええ、シンジ君にしては上出来だわ。」
上出来どころではないと作者は思う。
「……どうなされますか? 碇司令。」
青葉がゲンドウに判断を委ねる。
ことがことなだけに判断しかねるのだ。
「……総員、第一種戦闘配置。」
「戦闘配置!?」
驚きのあまり青葉が声を上げていた。
「そうだ。急げ!」
「……相手は使徒じゃないのに……同じ人間なのに……」
伊吹が顔を顰めながら言う。
「しかもNERV職員……上級職員だしな。」
「……やるしかないだろ。」
発令所にはいつにない暗い雰囲気に包まれた。
……幸せそうなのはレイとすでに帰ったアスカだけ………
・・・
『R警報発令、R警報発令。NERV本部内に緊急事態が発生しました。D級勤務者は全員、退避してください。』
『総員、第一種戦闘配置。対人迎撃戦用意。』
「きゃ~!」
「何なんだ! いったい!」
突然繰り広げられた逃走劇にNERV職員が驚き、グロック17を向けているコウスケに恐怖し一目散に逃げだす。
そんな中をシンジはレイを担いで走っている。
「どうしよう……」
「特務一尉は冷静さを失っているわ。」
ことの元凶とも言えるレイは自分が原因ではないみたいな口調で言っていた。
ただ、シンジに担ぎ上げられているのをいいことにシンジの胸に頬擦りしている。
そこは役得だと考えていた。
「わかってるよ。」
シンジの後ろでは鬼のような形相で追いかけるコウスケがいる。
「……碇君。来るわ。」
それを聞いたシンジが横に避ける。
……銃弾が通り抜けて通路の壁にめり込んだ。
「このままじゃ……」
シンジが必死に打開策を練っているが逃げる以外何も思い浮かばなかった。
「……何? ……わかったわ。」
そう言うとレイは目を閉じた。
「綾波? ……じゃない。……リリスさん?」
「うふふ、やっぱりわかってくれるのね。」
嬉しそうにリリスが言う。
「……もしかして何とかしてくれるんですか?」
「それはどうかしらね。」
そう言うとリリスは
「きゃ~! 碇君にさらわれる~!」
と叫ぶのであった。
少し嬉しそうに聞こえたのは聞き間違いではない。
「おのれ! レイだけでは物足りないとでも言いたいのか! ……許さん!」
リリスは火に油を注いだ。
もしかしたらガソリンだったのかもしれない。
……コウスケはレイとリリスを声だけでも聴き分けることができるようだ。
コウスケの叫び声が聞こえると同時に銃弾がシンジの横を通り抜けていった。
シンジの髪が数本撃ち抜かれた。
はらりと撃ち抜かれた髪が床に落ちていく。
「ちょ、リリスさん!」
「頑張ってね。」
片目でウィンクをした後リリスは目を閉じた。
・・・
「目標は第一層を突破! 第二層に突入します。」
青葉からの報告を受けミサトは苦い顔をした。
こんなに早く第一層を突破されるとは思いもよらなかったのだ。
「部隊配置はどうなっているの?」
「目標の進行スピードが速く、いまだに完了しておりません。」
日向からの報告にミサトは舌打ちする。
NERVの対人迎撃システムがここまで弱くなっているとは思いもよらなかったのだ。
「構わないから逐一部隊を送って。」
「しかし……」
日向はさすがに戸惑った。
相手は敵ではないNERVの職員なのだ。
それにミサトの言うことは戦力の逐次投入を意味しているのだ。
下手をすれば戦局が泥沼になる可能性が高い。
「早くしないとシンジ君は確実に消されるわよ。」
「消されなくとも長期入院は確実ね。」
コウスケの形相からリツコがそのように予測する。
それに日向が消極的ながら同意し部隊に指令を送る。
相手は一人なんだから
それにシンジが長期入院などすれば使徒との戦いに支障が生じる
そう日向は納得するのであった。
・・・
「ちっ、思ったよりすばしっこいな。」
コウスケは少し焦っていた。
グロック17で攻撃しても当たらないことに焦りを感じているのだ。
ましてや相手はあの碇シンジである。
簡単に捕まると思っていた相手だけにこうも長期戦になるとは思わなかったのだ。
だが、コウスケは全く疲れていない。
日頃の訓練のおかげかもしれないが、この時ばかりはそれだけではなかった。
「レイだけでなくリリスにまで手を出すとは………許せん。」
それがコウスケの原動力になっていた。
ただ、戦場では冷静になることを彼らしくも無く完全に放棄していた。
最も戦場では無いが……
そんなコウスケの前に黒服たちが立ちはだかる。
総勢20名ほどだ
「なんだお前ら。そこをどけ!」
「綾波特務一尉には拘束命令が出ています。」
黒服のリーダーが言う。
「ほう、俺の邪魔をする気か。」
一人の黒服がコウスケに近づく。
コウスケは特に反応しなかった。
それを見た黒服は抵抗しないと思ったのだ。
コウスケに近づいた黒服はコウスケに思いっきり殴られた。
顔面に容赦なくコウスケは叩き込んだ。
黒服は吹き飛び通路に激突した後、沈黙する。
それを見た黒服のリーダーは
「一斉にかかれ!」
と号令を発した。
黒服たちは一斉にコウスケに襲い掛かる。
「ふ……」
コウスケは正確に容赦なく攻撃を当てていた。
一人、また一人と黒服たちは沈黙する。
黒服のリーダーは驚愕しUSPを取り出そうとしたが、コウスケの方がわずかに早かった。
黒服のリーダーは床に崩れ落ちる。
黒服たちが来たことに安心して休憩していたシンジは驚き、レイを担いで再び逃げ出した。
「待て!」
コウスケも再びシンジを追撃する。
・・・
「第一迎撃部隊、沈黙。」
青葉が怖々と報告した。
「嘘でしょ!? 20人はいるのよ!」
ミサトはあまりにも衝撃的な報告に声を上げていた。
「第二迎撃部隊、目標と接触まであと200m!」
伊吹が続けて報告を行う。
「……ダメです。進行を阻止できません!」
メインモニターには床に崩れ落ちている黒服たちが映っていた。
「第四部隊の投入も許可する! 直衛に回せ!」
「NERV職員の避難よりサードチルドレンの保護が最優先だ。」
『第三迎撃部隊、避難中の職員に足止めを受けています。』
オペレーターたちから次々に報告が上がるが、戦況はよろしくなかった。
大兵力を展開できれば一気に戦局は変わるだろうが、NERVの通路では大兵力を生かしきれない。
次々に突破されていった。
「目標、第三層に突入します!」
青葉が振り返りながら叫んだ。
「どうすればコウスケ君を止められるの?」
ミサトが奥歯をかみしめながら言う。
「あれは暴走EVAとでも言えるわね。」
リツコはモニターを見ながら淡々と言う。
その時、ゲンドウが口を開いた。
「零課を戦線投入しろ。」
「零課をですか?」
「そうだ。」
「しかし、零課課長の許可もなく…」
さすがのミサトも戸惑った。
いくらコウスケを止めるとはいえ、戦自に匹敵するくらいの戦闘力を持った零課相手に無傷でいるはずがない。
この時、リツコは
「その零課課長があれじゃね…」
と呟いていた。
「構わん。チルドレンの保護を最優先だ!」
・・・
シンジは疲れ始めている。
コウスケはそう思った。
最初よりシンジの走るスピードが遅くなっているのを感じていたのだ。
それでもシンジには追い付いていない。
この時、コウスケが考えていることはとても悪辣なことである。
シンジの活動限界を正確に見極めて捕まえることにしたのだ。
その後でゆっくりと尋問するのだ。
レイに何をしたのかを……
リリスをどうするつもりだったのかを……
そんな黒い炎と化したコウスケの前に男が一人立ちはだかる。
「……ミツヒサ。」
コウスケの前には榛名ミツヒサが立っていた。
「綾波特務一尉、やり過ぎですよ。」
ミツヒサは諭すように言う。
「いくらミツヒサでもこればかりはダメだ。」
「そうですか……」
そう言うとミツヒサは眼鏡を取り胸ポケットにしまった。
コウスケは身構える。
「……どうしても俺の邪魔をしたいんだな。」
「綾波特務一尉が引けばいいんですよ。」
「そうか……」
コウスケはそう言うと背中からAKS-74Uを取り出してフルオート射撃を行った。
コウスケは先日の使徒戦以降、グロック17の他にAKS-74Uを携帯するようにしていたのだ。
弾丸は正確にミツヒサの所に飛んで行く。
ミツヒサは冷静に腰にある高周波ブレードを構えると、弾丸を切り落とした。
切られた弾丸はミツヒサの足もとに落ちていった。
「つまらないものを切らせないでください。」
ミツヒサは高周波ブレードを腰に戻しながら言う。
「……さすがだ。」
「お褒めいただき光栄です。」
「でも、これならどうかな?」
コウスケは丸い何かをミツヒサに投げつけた。
ミツヒサは高周波ブレードで正確に切り落とす。
途端に煙が充満した。
「スモークグレネード…」
コウスケの姿が見えなくなる。
ミツヒサは神経を集中させた。
「……そこだ!」
みねうちモードに切り替えると高周波ブレードで切り付ける。
だが、そこにあったのはコウスケが持っていたAKS-74Uであった。
「なに!?」
「終わりだ。」
コウスケはミツヒサの背後から現れ、ミツヒサの首筋に手刀を放った。
ミツヒサは床に崩れ落ちる。
それを見届けるとコウスケは追撃に入った。
「さすがだな。綾波特務一尉。」
「今度はシンゴか。」
煙が晴れると吹雪シンゴが立っていた。
M16A4を構えている。
「引く気はないんだろ?」
シンゴはコウスケが答える前に引き金を引いた。
コウスケはとっさに物陰に隠れた。
シンゴはコウスケを炙り出そうと威嚇射撃をしている。
コウスケはリロードのタイミングを見計らったが、隙が無さ過ぎて無理であった。
「これでおとなしくなるだろう。」
シンゴはそうつぶやいた。
床で寝ているミツヒサを何とか回収せねばと考えたとき、コウスケが物陰から躍り出た。
「諦めが悪いな。」
シンゴは一瞬で狙いをつけたが、撃てなかった。
「なに!?」
コウスケがミツヒサを盾にしながら走ってくるからだ。
さすがのシンゴも戸惑ってしまう。
そうしているうちにコウスケがシンゴの懐に潜りこんでアッパーを放つ。
シンゴはそのまま後ろに倒れこみ、沈黙する。
コウスケは服を払う。
するとコウスケの横を弾丸が通り抜けていった。
コウスケは再び物陰に隠れた。
「……今度はユキか。」
全くの無言だが、通路の奥から気配を感じながらコウスケは言う。
長良ユキが使う武器はM24である。
コウスケはゴミ箱のふたを通路に放り投げた。
銃声とともにゴミ箱のふたが撃ち抜かれる。
「狙いは正確……」
コウスケは息を大きく吸った。
「おい、ユキ! 聞こえてるだろ!?」
返答は返ってこないがコウスケは続けた。
「俺が知ってるお前の秘密をここでばらすぞ!」
返ってきたのは銃弾だった。
銃弾はコウスケの手前に落ちた。
「なんだ? ここで言っていいのか?」
銃弾が返ってくる。
さっきよりはコウスケより離れていた。
「そうかそうか…お前の代わりに言ってやるよ!」
そうコウスケが言うと発砲音が聞こえた。
銃弾は正確にコウスケの前ではじける。
コウスケは物陰から飛び出し、走る。
それと同時に円筒状のものを転がしておいた。
コウスケが走る先にはユキがいた。
ユキはリロードを行っていた。
「私の方が早かったわね。」
ユキはリロードを終わらせていた。
「終わりね。」
だが、ユキはコウスケの姿に違和感を感じた。
コウスケは黒いゴーグルをかけていたのだ。
そう、強い光から目を守るための…
「は!」
ユキが気付いた時、コウスケはニヤリと笑う。
途端にコウスケの後ろから強い光が見えた。
ユキはもろに光を見てしまう。
コウスケが転がしたものはフラッシュグレネードだった。
コウスケはユキの首筋を狙って手刀を放つ。
ユキもコウスケに敗北した。
シンジを護衛していた零課職員もコウスケの前では無力に等しかった。
・・・
「ぜ、零課が……全滅……」
「そ、そんな……」
「もう彼を止める手立てはないわね。」
発令所ではコウスケと零課の戦闘がリアルタイムで監視されていた。
誰もがコウスケを止めることができると思っただけに零課の敗北は発令所の士気を大きくそぎ落とした。
もはやシンジの長期入院は避けられない。
誰もがそう思った時、一人の男が立ち上がる。
「……葛城三佐、あとを頼む。」
「碇司令?」
「赤木博士、例のものがある部屋に誘導しろ。」
ゲンドウの言葉にリツコはゲンドウが何をしたいのか気付いた。
「あれを使うつもりですか!?」
「そうだ。綾波特務一尉を止めるにはあれしかない。」
「しかし……」
ゲンドウは強い意志を込めながらリツコを見る。
「……わかりました。」
「では、あとを頼む。」
ゲンドウは発令所を後にした。
・・・
『シンジ君。聞こえる?』
「ミサトさん!?」
『今、館内放送を使って連絡してるわ。ただ、そっちの声は聞こえないから一方通行になってしまうわ。』
「そんな…」
『いい? これから誘導するからそれに従って。』
「本当に大丈夫なのかな。」
零課も敵わなかったのにどうすればいいのか
シンジはそう不安になっていた。
「碇君、葛城三佐を信じましょう。」
「でも…」
シンジは不安そうにレイを見るが、レイの芯の通った視線を受けて
「わかったよ。」
と言うのであった。
・・・
シンジはミサトの誘導に従って一つの部屋に入った。
部屋に入るとゲンドウが一人で立っていた。
「父さん!?」
「シンジ、よくここまでたどり着いた。」
ゲンドウはシンジに向かってやさしく微笑む。
「こっちだ。」
シンジはレイを降ろすとゲンドウに従って行動する。
「隠し通路だ。ここなら大丈夫だろう。」
「父さん、ありがとう。」
そう言ってシンジはレイの手を繋いで隠し通路に向かった。
だが、シンジは止まる。
「…父さん?」
「なんだ。」
「父さんは来ないの?」
「私はここに残る。少しでも足止めが必要だ。」
その言葉にシンジが叫ぶ。
「父さん!? 相手はコウスケさんだよ!? いくら父さんでも…」
「そんなことはわかっている。」
「なら、どうして……」
ゲンドウはシンジに近づき、肩をつかんだ。
「私はお前に父親として接してこれなかった。……だが、シンジの父親として、今できること……それはお前の幸せを願うことだ。」
「父さん…」
「そしてお前の幸せを壊そうとする者がいる。……父親として看過できん。」
するとゲンドウはシンジとレイを通路の方に突き放す。
シンジとレイは通路にしりもちをつく形になっていた。
「父さん!?」
「碇司令!?」
「行け! シンジ!」
ゲンドウは振り返る。
「……レイと幸せにな。」
その言葉を最後にドアが閉まった。
「父さん!」
シンジはドアに拳を叩きつけるがびくともしなかった。
「とうさん……」
シンジは泣き崩れてしまう。
「……碇君、行きましょう。」
「父さんを見捨てていくなんてできないよ!」
「それでは碇司令の思いを無駄にすることになるわ。」
レイの言葉にシンジがはっと顔を上げる。
「行きましょう。」
シンジは強く頷くとレイとともに通路の奥に向かって進んだ。
・・・
「次は碇司令直々のお出ましですか。」
ゲンドウがシンジとレイを送り出した後、コウスケがようやくたどり着いた。
「綾波特務一尉、君の暴走もここまでだ。」
ゲンドウがサングラスをかけなおしながら言う。
「自分を止められるとでも?」
「無理なのは百も承知だ。」
コウスケとゲンドウは睨み合う。
コウスケは少し戸惑っていた。
(碇司令は何もしてこない……いつもの予兆がないからな。しかし、あの碇ゲンドウだぞ? 何の準備なしにここにいるわけがない。)
ゲンドウはただ立っている。
不意にゲンドウがニヤリと笑う。
それにコウスケは悪寒を感じた。
(……まさか、誘い込まれたのか!?)
辺りを見回しても何もない。
それが返って不気味であった。
「碇司令、いったい……」
コウスケが言いきる前に何らかの刺激を感じた。
(なんだ? この不愉快な感じは…)
刺激はどんどん強くなっていく。
刺激はコウスケの舌を中心に広がっていく。
どこかで感じたことがあった。
そう、確か…
ヤシマ作戦前の…
そこまで考えが及んだ時、コウスケは気付いた。
「まさか、MC! 既に完成していたのか!」
コウスケは思い出した。
あの時(第7話参照)、冗談で言ったことをリツコが本気で研究していたということを
コウスケは必死にあたりを見回す。
出口は見つからなかった。
ゲンドウはすでに立ち膝になっていた。
「よもやこれほどとは…」
ゲンドウは苦痛にまみれた顔になっていた。
コウスケも立っていることができなかった。
「……フフフ、碇司令。」
「……なんだ。」
「あなたに敬意を表します。」
「…光栄に思う。」
そう言うとゲンドウは倒れる。
それを見届けたコウスケも気を失った。
・・・
この事件は「荒波の暴走」と言われるようになる。
荒波と言われる理由は「荒れた綾波」からである。
ゲンドウの計らいでテロを受けたときの抜き打ち訓練ということになった。
あの後、コウスケは減俸一か月の処分を受けた。
名目はやり過ぎ。
だが、こんな記録が残されている。
「綾波特務一尉、何か言いたいことはあるか?」
「ありますよ。」
「言ってみろ。」
「今回の件は確かに自分の暴走ではあります。」
「認めるのだな。」
「認めます。ただ……」
「なんだ。」
「碇司令ならわかっていただけるものと思います。」
「……わからんな。」
「そうですか……残念です。」
「……言ってみろ。」
「仮にシンジ君が女の子だったとしましょう。」
「そんな仮定は無意味だ。」
「わかっています。ただ、あの顔ですからね……レイほどの美少女になったかもしれませんな。」
「………」
「そんな娘が男と接吻していたらどう思われます。」
「……無意味だ。」
「そして男を連れてきて好きな人ですなんて紹介されたら?」
「………むぅ…………」
「ましてや押し倒されて、しかも裸だったなんて……」
「止めたまえ!」
「……お分かりいただけましたか。」
「わかった。……確かに綾波特務一尉の言うことにも一理ある。」
「よかったです。碇司令ならお分かりいただけるものと信じておりました。」
後日、その記録を確認したNERV副司令は総司令にさんざん説教をしたとかしなかったとか。
ちなみにコウスケの誤解はリリスの説明で解けた。
ヤシマ作戦前のレイはリリスと同化しており、そのためレイが体験したことをリリスも知っているのだ。
今は分離していて、互いに共有しようとしなければできない。
リリスは
「レイはいいな……」
なんてコメントを残したとか…
あと、以下のようなコウスケとシンジの会話の記録が残されている。
「すまんが、謝る気になれない。」
「いいですよ。事故とはいえ押し倒したのは事実ですし…」
「そうか…まあ、今回の件で少しは見直したよ。俺から逃げ切ったんだからな。」
「僕も驚いています。」
「だが、変なことはするなよ。」
「し、しませんよ!」
「本当だな?」
このような会話である。
ともかく無事に解決した。
ただ、諜報部と零課は「荒波を乗り切れ!」を掲げているらしい。
いつになく訓練を行う黒服たちがよく確認されているそうだ。
……MCの効果が密かに認められてNERVに実戦配備されたとの噂もあるが、真実は往々にして隠されるものである。
それを知った加持はMCの正体をしつこく問うミサトに
「真実は君とともにある。」
などと言ったらしい。
コウスケ「とうとう書きやがった……」
シンジ「……僕、よく逃げ切りましたね。」
レイ「………ぽっ。」
アスカ「幸せなのはレイだけね。」
コウスケ「ことの元凶もレイだけどな。」
アスカ「……コウスケの暴走でしょ?」
コウスケ「碇司令にも言ったけどな……」
くどくど………
アスカ「……親ばかはほっときましょう。」
シンジ「またこんな目に合うのかな…」
レイ「嫌だった?」
シンジ「え…」
レイ「私を担ぐの嫌だった?」
シンジ「そんなことないよ! 綾波は軽かったし……柔らかかったし……」
ポン
コウスケ「レイの何が柔らかかった……だって?」
シンジ「!」
レイ「胸だそうです。」
コウスケ「ほう、いい度胸だな。」
シンジ「ちょっと! 綾波!」
レイ「事実。」
プツン
シンジ「またこの展開!?」
コウスケ「今日と言う今日は許さん!」
シンジ「うわ~! 綾波、アスカ! 助けてよ。」
コウスケ「待て!」
ドタドタドタ…
アスカ「あんた、それって………」
レイ「ヤシマ作戦の前の話。」
アスカ「わかってて言ったわね?」
レイ「知らないの。私、たぶん後書き用だから。」
アスカ「何言ってるのよ……あ、シンジが捕まった。」
レイ「! …碇君は私が守る。」
ドタドタ…
アスカ「……アホらし。」
?「そのおかげで僕はいまだに出られないよ。」
アスカ「あんた! いつの間に出てきたのよ!」
?「フフフ、僕は自由を司るからね。」
アスカ「そこまで言ったらあんたが誰だかわかるじゃない。」
?「それでもまだ出てきてないから名前が?なんだ。」
アスカ「そこまでは自由じゃないのね。」
?「すべては作者の流れのままに……会える時が楽しみだよ。」
アスカ「そう言うことで次回も楽しみで待っててよ。」
ドタドタドタ!
アスカ「って、バカシンジ! こっちに来ないでよ!」
?「巻き添えは流石に嫌だね。」
シンジ「うわぁぁぁ!」
コウスケ「待て! 大人しくお縄にちょうだいしろ!」
レイ「碇君は私が守るから、待って。」
ドタドタドタ…………