「よし、揃ったな。」
NERVの会議室でコウスケは皆を見ながら言う。
皆と言ってもコウスケの他に四人いるだけだ。
「準備の方はどうだ?」
「いきなりの話だったからちょっち慌てたけど、あの日には間に合うわよ。」
「場所の確保はできてるし、人数も多くないけど確保済みよ。」
コウスケの後にミサトとリツコが続けて言う。
リツコはコウスケに何かのリストを差し出した。
「あまり人が多すぎても困るだろうからこれくらいでいいだろう。」
コウスケはリストに満足すると一人の少年の方に向いた。
「それでシンジ君の方はどうだ?」
「それが……まだちょっと……」
「いまだに悩んでるわよ。全くそんなに悩む必要は無いって言ってるのに。」
歯切れの悪いシンジの言い方にアスカがきっぱりと言い放った。
「しょうがないだろ! こういうのは初めてなんだから…」
「本当にバカね。あの娘ならあんたのあげるものなら何でも喜ぶわよ。」
「そうかな……」
そう言ってシンジは悩み始める。
「……まあ、時間はまだあるからじっくりと考えてくれ。」
そう言いつつもシンジの態度にコウスケは少し満足そうだった。
「そういうコウスケ君はどうなの?」
ミサトは少しにやけながら言う。
「………俺もまだだ。」
「あら、以外ね。この話を持ってきた時にはもう考えてあると思ってたのに。」
リツコがコウスケの答えを聞いて言う。
「いっそのこと自分にしちゃえば?」
「既に夫婦となってるのに俺をあげるなんて葛城は何を考えてるんだ?」
「コウスケ君も言うようになったわね。」
リツコがからかうように言った。
だが、コウスケ以外には少し残念そうに聞こえるのであった。
「とにかくあの二人には情報が漏れないようにしてくれ。」
「別にいいけど……隠れながらやる必要はないんじゃないの?」
アスカの声に一同は少し頷いた。
「あの二人に取ってこれは初めてのことだろう? できるだけ喜ばせてやりたいんだ。」
「そうね……レイにこんなことをするなんてあの時は考えられなかったから……」
リツコは自嘲するように言い放った。
「もう済んだことをくよくよ言ったところで何も変わらないだろ?」
「そうよ、リツコ。今、大事なのはこれからでしょ?」
「そうね……ありがとう、二人とも。」
そう言うとリツコは優しく微笑んでいた。
「もう時間も遅いから今日はこれくらいにしよう。各員、準備を怠るなよ。」
・・・
同時刻
綾波家ではコウスケを除いた三人が夕食を取っていた。
リリスはコウスケが帰ってくるまで待っているつもりだったのだが……
「帰りが遅くなるかもしれんから、先に食べていてくれ。」
とコウスケに言われたため先に食べることにしたのだ。
最もその姿はかなり寂しそうにしていた。
「渚君。」
レイが不意にカヲルを呼んだ。
「どうしたんだい?」
「……碇君……いったい何をしてるの?」
「変なことを聞くね。」
「そう……」
レイはそう呟くと視線を落とした。
「ねえ、カヲル? コウスケも何をしてるの?」
「今度はリリスですか? あなたたちがなんで……」
カヲルはそこで言葉を切ると少し考え込んだ。
「……そう言うことですか。」
カヲルは納得したという顔つきになった。
カヲルがふと気づくと二人は全く同じ顔でカヲルを見ていた。
瞳からは少し不安が見て取れる。
「そんなに心配しなくてもいいですよ。」
「渚君は知っているの?」
「知っているよ。」
「どうして私たちには何も言ってくれないのかしら……」
リリスの言葉を聞いたカヲルは困ったような顔つきになった。
「失礼ですが、自分のことをもう少しよく知ったほうがいいですよ?」
それを聞いたリリスは頭に疑問符が浮かんでいる。
一方レイはあきれたような顔つきになっていた。
「それはあなたにも言えることだわ。」
「僕? いったいどういうことだい?」
レイはかなりあきれていた。
これがアスカなら
「あんた、バカ~?」
と言われていただろう。
いや、この場合はビンタかもしれない。
「渚君はアスカのことどう思っているの?」
「よく畑仕事を手伝ってくれるし、太陽みたいで明るいリリンだね。でも、シンジ君みたいに繊細な心の持ち主だよ。」
「へえ、よく見てるわね。」
一見するとカヲルは無関心そうに見えるのだが、思った以上に人を見ていることにリリスは感心していた。
「ただ……」
カヲルは顔を顰めながら実に不可解そうにしていた。
「僕の前だとすぐに逃げ出すんですよ。」
それを聞いたレイはニヤリと笑った。
アスカをからかういいネタが上がったとでも思っているのだろう。
そこら辺はレイの父親たるコウスケの影響である。
最もそれを指摘されるとレイは否定する。
だが、レイを知る者にとってはそれ以外に考えられない。
あの碇シンジですらそうだと思っている。
シンジは当初、シンジの父親である碇ゲンドウの影響だと考えていた。
だが、レイがそのように笑うようになったのはコウスケと同居した後からである。
そのように理屈で考えた結果、コウスケの影響であると結論を出したのであった。
時々、そのように笑いながら洞木ヒカリをからかう姿を見ながら、それは真似しないでほしいとはシンジが内心で思っていたりする。
「被写体としてはかなりいいのに、あの笑い方はないよな。」
とは相田ケンスケの言葉である。
そのように言うもののケンスケは既に写真を用いた小遣い稼ぎを止めており、カメラにかなり熱意を持って取り組んでいる。
とは言っても写真を頼まれたら断るようなことはせず、本人の許可をもらってそれを譲渡したりはしているらしい。
「他のリリンの前ではそんなことないのに……」
カヲルは考え込んでしまった。
その姿にレイはあきれていた。
「そう……あなたも特務一尉と同じなのね。」
「どういうことだい? 僕がルシファーと同じ?」
「レイの言いたいことはわかるわ。」
納得するリリスをよそにカヲルは首をひねっていた。
「僕がルシファーと同じ……戦闘機には乗れないし、煙草を吸うわけでもないし、綾波でもない……リリンについてよく知るわけでもない。だから今回、ルシファーが考えた作戦には参加できないのだし……」
「コウスケが考えた作戦って何?」
カヲルが呟いた言葉の中にリリスに取って聞き捨てならないものがあった。
「どうしてリリスが知っているんですか? さっきまでは知らないはずだったのに……」
カヲルは大真面目に返していた。
「渚君……口から出ていたわ。」
「なんてことだ……僕としたことが…………」
そのように和やかな雰囲気であるが、リリスの心の中では一つのことに集中されていた。
(コウスケが考えた作戦って何なのかしら……どうして私には何も言ってくれないの?)
それがもやもやとなってリリスの頭に引っかかっている。
コウスケが帰宅してもそれについて聞くことができなかった。
・・・
「う~む……」
コウスケは自分の執務室で唸っていた。
それをリリスは横から見ている。
「さっきから何を悩んでいるの?」
「む……いや、何でもない。」
「そう………」
ずっとこの調子である。
それでも業務に支障が生じるようなことは無い。
コウスケは何かを悩みつつもきっちりと仕事をこなしているからだ。
だが、そのようなコウスケを見るたびにリリスには先日、カヲルが言っていたことが頭の中をよぎる。
「コウスケ。」
「なんだ?」
「私に何か隠してない?」
そう言われたコウスケは少し動揺していた。
傍目からはわからないだろうが、コウスケをよく見ているリリスには感じられることだった。
「どうして私には何も言ってくれないの?」
「い、いや……そんなに大した事じゃ……いや、大した事でもあるんだが……」
コウスケはしどろもどろになっていた。
リリスはじっとコウスケを睨んでいる。
コウスケは冷や汗をかいていた。
「コウスケ君。ちょっち……」
執務室にミサトが入ってきたが、リリスを見て不味いという表情を隠さなかった。
「あ、ああ……葛城か。」
そう言うとコウスケは立ち上がった。
「どこに行くの……」
かなり冷ややかなリリスの声であった。
「ちょっと……ほら……葛城の今後について話し合うんだよ。」
「なら、私も……」
「い、いや……リリスは大丈夫だ。ここで休んでてくれ。」
そう言うとコウスケは逃げるようにミサトを連れて執務室を出ていった。
コウスケたちが出ていった後にリリスは受話器を手に取った。
『私だ。』
受話器からゲンドウの声が聞こえてきた。
「私よ。」
『リリスか。どうした。』
「コウスケがミサトと今後について話し合うと言っていたけど、何か聞いてる?」
コウスケは作戦局の二課課長、ミサトは一課課長であり、二人とも作戦本部の部長と副部長でもあるのだ。
その二人が今後について話し合うということはNERVに取って重大なことでもある。
そのためそう言うことについてはNERVの総司令である碇ゲンドウに日時と結果を報告するようになっていた。
コウスケが来る前はすべて部下に投げていた。
だが、総司令としてそれは不味いので結果だけでも知っておいた方がいいというコウスケの提言を受け入れたのだ。
最もすべてを知ることは不可能に近いので管理職レベルの重要な事は報告が行くようになっている。
『いや、何も聞いていない。』
「そう……」
ここでリリスはコウスケが嘘をついたことを確信した。
『はっ……リリスま……』
ゲンドウが何かを言っていたが、リリスは構わず受話器を置いていた。
・・・
リリスは一人で第三新東京市に出ていた。
リリスの視線の先にはコウスケがいる。
今日もコウスケから先に帰っているように言われたのだが、コウスケが何をしているのか知るために追ってきたのだ。
「いったい何を隠しているの?」
先ほどからそれしかリリスは呟いていない。
リリスの視線の先にいるコウスケは心なしかどこか嬉しそうだった。
本来ならばコウスケは人の気配を察知できるのだが、この時のリリスは自身のATフィールドを巧みに使い自身の気配を遮断していた。
こういう使い方はリリスがコウスケと付き合ううちに体得していたのだ。
コウスケが不意に止まった。
リリスはとっさに物陰に隠れた。
そっと様子を窺うとコウスケは何かを待っているように見えた。
それも嬉しそうに……
「何を待っているのかしら……」
それが不安でたまらない。
かなり長く感じられた。
するとコウスケに駆け寄る一人の女性が見えた。
NERVの制服を着ていた。
「あれは………マヤ?」
NERV発令所のオペレータでリツコの助手をしている伊吹マヤだった。
「どうしてマヤが……」
それ以上にリリスは言葉を続けられなかった。
伊吹が何かを喋った後にコウスケは頭を掻きながら少し赤くなっていたのだ。
そしてそのままどこかに行ってしまった。
信じられない光景にリリスは呆然としていた。
「どうして……」
そこまで言うとリリスは先日見たTVを思い出していた。
リリスの主な情報入手方法は自宅のTVである。
休日などもコウスケと一緒にいる傍らでTVを見ることは日常となっていた。
コウスケ自身はあまり好ましく思っていないが、昼間にやるドラマなどもリリスは鑑賞している。
「……もしかして……これが……不倫?」
自分のことを妻とも言ってくれたし、夫婦だとも言ってくれた。
そんなコウスケが不倫をしているなど考えたくもない。
だが、今見たものはそのようにしか見えない。
帰りたくなくてもそこしか帰る場所がないリリスは力なく帰宅するのであった。
・・・
帰宅したリリスが見たものは困り果てた様子のカヲルと力なく椅子に座っているレイだった。
「遅かった……リリス、どうしたのですか?」
「………何でもないわ…………」
そう言うとリリスは力なく椅子に座った。
本来なら喜んで夕食を準備するリリスだが、この時はそんな気分になれなかった。
「コウスケ……どうしてマヤと………」
リリスの呟きを聞いたレイが反応する。
「リリスも?」
「レイ?」
「碇君……洞木さんとどこかに行ってた……」
レイの口から衝撃的な言葉が出ていた。
「碇君……嬉しそうだった……」
レイもリリスと似たようなことをしていた。
シンジが隠れて何かをしている
それが頭に引っかかり、リリスと同じくシンジの後をつけていたのだ。
そしてリリスと同じく衝撃的なシーンを見てしまったと言うわけだ。
「どうして? 鈴原君の事も裏切る気なの?」
レイの言葉が重くのしかかる。
綾波家ではいつにない暗い雰囲気であった。
そんな雰囲気の中、カヲルがたまらずに口を開いた。
「もっとルシファーを信じていいと思いますよ。レイ君も……」
だが、実際に見たものから信じていいのかどうかわからない。
「……どうすればいいの……」
「お~い、今帰ったぞ。」
コウスケが帰宅してきた。
「ん? どうしたんだ? 二人とも。」
コウスケはいつになく明るく話しかけていた。
「……何でもないわ。」
いつになく暗いリリスにコウスケは疑問を感じる。
だが、深入りは避けるべきだとコウスケは判断した。
「ん? 夕食はまだなのか?」
「ええ、まだです。」
答えない二人の代わりにカヲルが答えた。
「そうか……久しぶりに俺が作るとしよう。」
そう言ってコウスケは冷蔵庫の中を見る。
「……私はいらないわ……」
「……私も要りません……」
そう言うとレイとリリスは立ち上がって部屋に戻って行ってしまった。
「お、おい……」
それを呆然と見送ることしかできないコウスケ
「いったい何なんだ?」
「ルシファー、あの二人は気付き始めてますよ。」
コウスケの呟きにカヲルが答えた。
「何!?」
「ただ、変な誤解をしているようです。リリスはルシファーと伊吹二尉が一緒にいるところを目撃したようです。」
それを聞いたコウスケは慌てていた。
「なんだって!? じゃあ……」
「何をしていたかまでは見ていないようです。」
「そうか……」
コウスケは複雑そうにリリスたちが入った部屋を見ていた。
・・・
「なあ、リリス……」
「なに。」
翌日の綾波執務室はかなりぎすぎすした雰囲気であった。
その主たる原因は不機嫌そうな表情を隠そうとしないリリスにある。
「お前さんは誤解してる。伊吹二尉とは何でもないんだ。」
朝からこの調子なのである。
コウスケはあれこれと弁明しているのだが、リリスは一向に聞こうともしなかった。
「なら、何をしてたの?」
「それは……その………」
「もういいわ。」
そう言うとリリスは立ち上がって部屋を出ていこうとする。
この事態を解決するにはやはり真実を話すしかない。
コウスケがそう思い至るまでさほど時間はかからなかった。
「すまん。ちゃんと訳を話すから……」
そう言ってコウスケはリリスに駆け寄るが、何かに阻まれた。
コウスケは勢い余って尻餅をつくことになる。
「もういいって言ったでしょ。」
リリスの前にATフィールドが張られていた。
コウスケはリリスが部屋を立ち去るのを呆然と眺めることしかできなかった。
その後もコウスケはめげずに何度もリリスと話そうとするが、そのたびにATフィールドに阻まれることになる。
・・・
夜、綾波家にはコウスケを除く三人が席に座っていた。
ただ、リリスが一向に不機嫌であり雰囲気は最悪であった。
「特務一尉、遅い。」
「どうせマヤや他の人とよろしくやってるのでしょ!?」
それを聞いたカヲルの顔に明らかな表情が出ていた。
怒りだ。
「リリス、それではルシファーがかわいそうですよ。今日と言う日をどれだけ楽しみにしていたかあなたにはわからないのですか?」
「どういうこと?」
首をひねっているリリスにレイが答える。
「……今日、お祝い事をする予定だった。碇君がそう言ってた。」
「お祝い事?」
「そしてリリスとレイ君はこういうことは初めてだろうから驚かせて喜んでもらいたかったそうですよ。」
「碇君が洞木さんと一緒に居たのも、その準備だと言ってた。」
そこまで聞いてリリスの頭の中で物事が自然と整理されていった。
「それじゃ、この前マヤと一緒に居たのも……」
「そう考えるのが自然ですね。」
その時、綾波家の玄関が開いた。
「おい、しっかりしろ。」
「お前らしくないぞ。」
「俺だってこういう日があるに決まってるだろ!」
加持と剣崎に続いてコウスケの声が聞こえてくる。
少しろれつが回っていないようだ。
コウスケの脇を二人が支えながら中に入ってきた。
「すまん。綾波がどうしても今日は飲みたいってついて行ったんだが……」
「予想以上に飲んで酔っているんです。」
加持と剣崎は少し赤くなっているもののしっかりした足取りであった。
それに比べてコウスケはふらふらしており自分の足で歩くこともできないようだった。
「ちょっと、大丈夫なの?」
リリスの声を聞いたコウスケは赤くなっている顔をあげた。
「なんでこんな所に連れてきたんだ!」
「ここがお前の家だろ。」
加持の言葉にコウスケは鼻を鳴らした。
「どうせもう俺の居場所はないんだ! こんな所に連れてくるな!」
「お前は酔ってるんだ。少し冷静になれ。」
剣崎がコウスケを咎める。
「そうよ。少し休みましょう。」
「うるさい!」
コウスケの大声にリリスがびくりと反応した。
「昼間はあんなに……虫けらのように追い払ったくせに……今更、女房面するな!」
「綾波! いい加減にしろ!」
「一時の感情に身を任せるなんてお前らしくないぞ。」
加持と剣崎に言われてコウスケはしおらしくなった。
「…………そうだな。すまん。」
コウスケは二人の手を振りほどくとふらふらとしながらもどこかに行こうとした。
「どこに行くんだ。」
「NERVに行って……少し頭を冷やしてくる。」
そう言ってコウスケは出ていった。
「ねえ……コウスケ……どうだったの?」
「最初は静かだったんだけどな……」
「その後なだめるのに苦労しました。」
コウスケは飲み始めていくらかたった頃、急に怒り出したそうだ。
「伊吹二尉と一緒にいただけで浮気なんて決めつけやがって!」
その後、急に暗くなり
「まあ、俺が悪いんだな……変にこだわり過ぎた。」
などと言っていたそうだ。
そして最後には
「昼間のあいつの態度はつらかった……俺にはリリスしかいないのに……あいつはそうじゃないのかもしれない……」
などと言い泣き出したそうだ。
それを何とかなだめつつここまで連れてきたそうだ。
「二人とも……ごめんなさい。」
「別に大丈夫さ。俺と綾波の仲だからな。」
「あれだけ感情を爆発させるなんて……綾波はそうとう今日のパーティーを楽しみにしていたんですね。」
それを聞いたリリスは胸が痛くなるのを感じた。
それと同時にそこまでコウスケがこだわった事とは何なのか
それが疑問だった。
・・・
翌日
NERVに登庁したリリスはさっそくコウスケを探すことにした。
最初はいつもの執務室に向かったのだが、そこの主はどこにもいなかった。
なのでNERV職員に聞きまわりコウスケを探すことにした。
コウスケはジオフロントに出ている
それを聞いたリリスは速足でジオフロントに出ていた。
暫く探しているとコウスケはジオフロントにある湖のほとりで一人たたずんでいた。
その姿は完全に覇気がなくどことなくどんよりした感じであった。
「コウスケ……」
リリスが声をかけるとコウスケは気付いた。
だが、振り返ることは無かった。
「リリスか……昨日はすまんな。酔っていたとはいえ愚にもつかないことを言ってしまった。」
「私も……ごめんなさい……」
コウスケは何も答えない。
リリスもこれ以上何を言えばいいのかわからない。
暫く沈黙が続いた。
「私……怖いの……あなたは私のことをリリンだと言ってくれるけど、私はリリンとは違う。」
コウスケはそれを静かに聞いていた。
「だからそれが理由でいつかはあなたが離れていくんじゃないのかって………」
「知っている。」
コウスケの答えにリリスは驚いていた。
「お前さんの言動にはどこかしら人とは違うなんて言うニュアンスが少し感じとれたからな。それを不安がっていることも知っていたさ。」
コウスケは自嘲気味に嗤っていた。
「だというのにお前さんを不安がらせるようなことをしたんだ……」
コウスケは振り返ると真剣にリリスを見つめていた。
「リリスは人だ……それは自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。」
「コウスケ……」
「リリスはリリスでここにいるのにな……無理やり人の枠に当てはめようとかどこかで思っていたのかもしれない。」
それを聞いたリリスはコウスケに抱き付いていた。
「お、おい……」
「ありがとう……今までそんな風に真剣に考えてくれるリリンなんていなかったから……」
「俺だってお前さんみたいにまっすぐ見てくれる人はいなかったからな。」
そう言うとコウスケはリリスの頭を撫でていた。
何故かわからないがこうするべきだと思ったのだ。
「昨日……楽しみにしてたって聞いたわ。」
「はぁ~……あいつら喋ったんだな。」
コウスケは少し困ったように頭を掻いていた。
「それで何をしようとしたの?」
「そこまで聞いて無いのか?」
「昨日、お祝い事するほどのことなんてあったの?」
それを聞いたコウスケは突然笑い始めた。
「そうか……わかってなかったんだな。」
「へ?」
「実際は違うだろうが、昨日はお前さんとレイの誕生日になっているんだ。」
そう言われてリリスは思い出した。
昨日は3月30日であることに
「だからお前さんの言うリリン式のお祝いをしようと考えたんだ。」
「そうだったんだ……」
「全くあんなことになるなんて……策士、策に溺れるとはこのことだな。」
コウスケは困ったような表情になった。
するとコウスケははっと何かを思い出した。
「そうだ。一日遅れたが……」
そう言うとコウスケはポケットから小さな箱を取り出した。
「誕生日のプレゼントだ。」
リリスはそれを受け取ると箱を開けた。
中にはなんの飾り気のないがどことなく気品がある指輪が一つ飾ってあった。
「これは?」
「うむ………所謂、婚約指輪ってとこかな。」
コウスケは恥ずかしそうに続けた。
「戸籍上は夫婦になってるが、今までそれらしいものをあげたことは無かったからな……」
相当、照れくさいようでコウスケはリリスとは違う方向を向いていた。
「ありがとう……」
もはやリリスはそれしか言えなかった。
他の職員たちが呼びに来るまでコウスケたちはそのままの姿でずっといたそうだ。
コウスケがあげた指輪は今もリリスの左手の薬指にはめられている。
本編が進まない理由
これが書きたかったからです。
そう言うことにしてください。
いろいろあり過ぎてペンが進まないです……
いや、指が進まないです。