第三使徒襲来から三週間ほどたっていた。
使徒は依然発見されないため、特務機関NERVでは平穏な日々が続いていた。
そんな中コウスケはUNからの転向者という評価からスタートし、持ち前の真面目さ、勤勉さから整備員を中心に意外な支持を受けていた。
ただ、煙草をこよなく愛するコウスケは喫煙所にいることが多く、マナーの悪い喫煙者を注意したり、喫煙所の清掃を好んでやっている姿から「喫煙所の番人」と呼ばれているのをコウスケは知らない。
コウスケはというとNERVに対する不信感を払拭できず、ちまちまと情報を集める日々を送っていた。
しかし成果は一向に現れない。
末端の職員に聞いてもわからぬの一言で終わるのだ。
せいぜい噂程度のものばかりであった。
(上層部でないと無理か…)
ここ数日で出した結論だった。
(あともう一人くらいいれば…)
しかし容易ではない。
(焦ることはないか。)
そう焦ってはならない相手も人間だ。
いずれは隙を見せるだろう。
それはまるで獲物を追うハンターのように見えた。
・・・
通路の向こうからレイが歩いているのが見えた。
いまだにギプスが取れていないようだ。
「レイ、こんにちは。」
「……こんにちは。特務二尉」
「特務二尉って言う呼ばれ方は好きじゃないんだがな。」
「………」
「レイがそう呼びたいのならいいか。」
ここ数日で大変な進歩だろう。
最初は無視されていたのだから。
しかしコウスケの度重なるアプローチによって、今では簡単な会話くらいはするようになった。
それこそ妙な噂が流れるくらいに
「今日はどうした?」
「……これから実験です。」
「そうか。頑張れよ。」
「はい。」
レイは去って行った。
いまだにギプスが取れないためシュミレーターを使った実験である。
(まだまだだな。)
コウスケは微々たる情報からレイの保護者が碇ゲンドウであることを知っていた。
当初怒りが先行したが、同時に納得もした。
(まったく……臆病ものらしいな。)
つまり他人の心が怖いならば心をなくせばいい。
心のない人形なら怖がる必要はないからだ。
だがそれはその人を認めていない。
結局それは虐待と変わらないのだ。
人形のように育った人をどうすればいいのか?
まずは自分に素直になることだろう。
自分に心があるということを教える。
それは大変困難な作業だが、これを突破せねば次には進めない。
そう結論付けたのだ。
シンジは自分なりにアプローチしているみたいだった。自爆が多いのはご愛嬌だろう。
(焦ることはない。)
そう時間はあるのだから。
そう思いコウスケはシュミレータールームへと急いだ。
・・・
それは突如起こった。
時間どうりにNERVに出勤したコウスケはけたたましいアラート音を格納庫にて聞いた。
『総員、第一種戦闘配置。繰り返す、総員、第一種戦闘配置。』
『第三新東京市戦闘形態に移行します。』
(来たか。)
コウスケは発令所に向かった
・・・
「綾波特務二尉、参りました。」
発令所に向かうと各オペレーター、作戦部長、技術課長がすでにいた。
モニターを見ると茶色いイカのようなものが空を飛んでいた。
応戦する国連軍
しかしまったく意に介さないように使徒は向かってくる。
「税金の無駄遣いだな。」
老人がつぶやく。
「綾波特務二尉。あなたにも出てもらうわ。」
ミサトが厳かに告げる。
「了解。」
そういって愛機のもとに向かった。
・・・
「こちら綾波。機体に搭乗。これより機体チェックを行う。」
燃料、武装、無線機、操縦桿、モニターなどを念入りにチェックする。
「機体に異常なし。」
『了解。綾波特務二尉、射出口へ移動せよ。』
「了解。射出口へ向かう。」
機体を射出口に移動させる。
『最終チェック完了。これより射出する。グッドラック。』
すさまじいGがコウスケを襲う。
カタパルトはEVAのリニアを改造したもので、ジオフロントから地上までほぼ垂直に移動する。
重力に真っ向から逆らうのだから当然Gもかかる。
が、毎日の訓練が裏切られることはなかったようだ。
無事に大空へと飛び立った。
空に出るとすぐさま機体を水平に戻し状況を確認する。
使徒は市内に入っていた。
「綾波特務二尉。これより状況を開始します。」
『了解。今からEVAを出します。EVAの攻撃に連携して当たってください。EVAはパレットレイフルを装備しています。』
「了解。」
すると初号機がビルから出てきた。
「シンジ君……行くぞ!」
「はい。」
初号機はビルから躍り出る。
コウスケは使徒の後ろにまわる。
同時に発射される弾
煙で使徒が見えなくなる。
『バカ!弾着の煙で敵が見えない。』
ミサトが叫ぶ。
コウスケは使徒と距離をとる。
(やったか?)
「はっ!」
何かに驚くシンジ
初号機が後ろにこける。
真っ二つになるパレットライフル
『予備のライフルを出すわ。受け取って。』
動かない初号機
「大丈夫か! シンジ君!」
コウスケは再び使徒に接近する。
打ち込まれる機銃
効果はない。
「伊吹二尉。ATフィールドの反応はあるか?」
『反応は有りません。フィールドは無展開です。』
「……外皮が固いのか。」
そうしてる間に初号機は使徒の攻撃を受けている。
「葛城! ライフルじゃダメだ。」
『じゃどうするのよ!』
作戦部長らしくない発言に憤りを感じるがそれどこれではない。
「ナイフでコアを一突きしかないだろう。」
『……わかったわ。』
「シンジ君。ナイフで近接戦闘だ。」
「………」
「シンジ君?」
「ああ……」
「まずい。恐怖に身を取られているのか。」
再び使徒の攻撃を受ける初号機
アンビリカルケーブルが切れた。
(まずい。)
アンビリカルケーブルがなければEVAは5分しか動けない。
使徒が鞭で初号機の足を絡み取る。
吹き飛ばされる初号機。
山に仰向けになっていた。
「しっかりしろ。」
突然モニタ―に二人の子供が映し出される。
「シンジ君のクラスメート?」
初号機の近くを確認する。
左手の近くでうずくまる子供たちを見つける。
「こちら綾波。二名の民間人を肉眼で確認。」
使徒は追撃をかけようと初号機の近くに寄っていく。
振られる鞭
それを初号機は掴んだ。
融解していく手
コウスケはスピーカを起動した。
「そこのふたり早く逃げろ。」
動かない二人
「こちら綾波。二人は恐怖で身動きがとれない。」
『二人をプラグに乗せるわ。』
『越権行為よ! 葛城一尉!』
『全責任は私がとります。』
排出されるエントリープラグ
『そこのふたり乗って。』
死に物狂いで走る二人
無事に乗り込んだようだ。
『エントリーリスタート。』
『神経系統に異常発生。』
『異物を二つも挿入したからよ。』
初号機が鞭を思いっきり投げ飛ばした。
それにつられる使徒。
初号機はゆっくりと立ち上がった。
『今よ後退して。』
「ダメだ!」
『ちょっ……綾波特務二尉!?』
「シンジ君…危険な賭けだが、山の斜面を利用してコアをつくんだ。」
コウスケに促されるようにナイフを装備する初号機。
『ちょっ……あたしの命令を聞きなさい!』
ピー
活動限界が1分を切った。
「行け!」
『うわあああああああああああ!』
雄たけびを上げるシンジ
鞭が初号機の腹部に突き刺さる。
『うおおおおおおおおおおお!』
ナイフがコアに突き刺さった。
『活動限界まで10秒!』
『9,8,7,6,5,4』
永遠とも思えるひととき
(だめか……)
『3,2』
コアが色を失う。
『1』
コアの割れる音がした。
『活動限界です。』
『パターンブルー消滅。』
「ふうー……状況終了。綾波特務二尉帰還します。」
『了解。C-18から帰還してください。』
「了解。」
コウスケは誘導に従いNERVへと帰って行った。
・・・
パイロットルームに行くとシンジがいた。
「よくやった。シンジ君。」
「コウスケさんも……」
「俺は特に出番がなかったからな。」
「いえ。コウスケさんが指示をくれたからですよ。」
「そうか。」
パイロットルームにミサトが現れた。
「シンジ君。どうして私の命令を聞かなかったの。」
「ごめんなさい。」
「あなたの作戦責任者はあたしでしょ。」
「はい。」
「あなたには私の命令に従う義務があるの。わかるわね。」
「はい。」
「今後こういうことの無いように。」
「はい。」
「あんた本当にわかってんでしょうね。」
「おい、葛城。」
「なに!」
「そこまでにしろ。」
「何言ってんのよ!」
「それにあの時指示したのは俺だ。お前も聞こえてただろう。」
「あんたにはそんな権限ないでしょ。」
「お前……資料を見てないのか? 俺には現場で指揮できる権限があるんだぞ。」
「ちょっ……聞いてないわよ!?」
「副司令に確認してみろ。」
「……だとしても、なんであの時、特攻を命じたの。」
「他に方法がなかったからさ。」
「一度体制を立て直せばいいじゃない。」
「そんなことしてたら使徒はここまで来てただろうな。EVAが使ったリニアを使って。」
「………」
「それにシンクロ率も落ちていた。あの鞭から逃げ切れるとも思えん。」
「………」
「すこし頭を冷やせ。葛城。」
「そう……ね。」
「そうだ。」
「ごめんなさい。シンジ君。」
「いえ、いいんです。」
「今日は帰ってゆっくり休んでちょうだい。」
「はい。」
ミサトは出ていった。
「じゃあな、俺も行くから。」
「はい。お疲れ様です。」
「お疲れ。」
コウスケは部屋を後にする。
すると誰かがいるのを感じた。
あたりを見回すとレイがいた。
「どうした?」
「……なんでもありません。」
そういってレイは去って行った。
「他人に関心を持つようになったか。」
シンジかそれともコウスケか判断はつかないが
(シンジのほうが個人的にはいいんだがな…)
などと野暮なことを考える。
「帰るか…」
そういってコウスケは帰って行った。
・・・
総司令執務室にて冬月は誰かと連絡を取っていた。
「第四使徒の戦闘記録は見たか。」
……
「しかし、危うく初号機を失うところだったんだぞ。」
…………………
「そうだなこの程度の被害で済んだのは幸いだな。」
……………
「わかった。」
そういって冬月は回線を切りモニターに目をやる。
モニターにはコウスケが映し出されていた。