NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

60 / 62
もし、リリスが殲滅されたら……
そんな38話の分岐ストーリーです。
途中までは本編の38話のままです。



第38話If 選択

遥か昔

神は七日間でこの世を作ったとされる。

 

1日目 暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来た。

2日目 神は空(天)を創った。

3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物を生えさせた。

4日目 神は太陽と月と星を創った。

5日目 神は魚と鳥を創った。

6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人を創った。

7日目 神は休んだ。

 

神は赤き土から自らを模った一組の男と女-人を作った。

男と女は神の作った楽園で過ごすが、長く続かなかった。

女は男に対等の地位を要求するが、男がそれを断った。

女はそれに絶望し、男のもとを離れる。

…………

もし、対等の立場を求めたのが男であったのなら

女はどうしたであろうか

・・・

 

最近のリリスの様子がおかしい

コウスケは執務室で業務を行いながらそう考えていた。

コウスケとリリスが会う時間は家以外にあまりない。

レイが出てくる時間はシンジと一緒にいるときが多い。

そのため、コウスケといるときはリリス、シンジといるときはレイなどという構図が出来上がっていた。

レイが出ているときはリリスは眠るようにしている。

そう言う取り決めが二人の間であったらしい。

原因はリリスのことを初めて紹介した時のことだ。

リリスがレイの心情を吐露したことをレイ自身が恨んでいた。

そのための取り決めなのだ。

最もリリスが出ているときにレイの心情がリリスに漏れているんじゃないかとコウスケは疑問に思ったが……

コウスケ自身レイといる時間が減っていることに多少不満はあるものの、リリスに面として言うことは無かった。

それが何故かはわからない。

一つ言えることはコウスケがリリスとの時間をそれなりに大事に思っていることは確かだ。

そんな時間にふと感じたことであった。

「…リリス、いったいどうしたんだ?」

「何が?」

「……いや、なんでもない。」

そう言ってコウスケはリリスを見ていた。

どことなく悲しそうに見えた。

何かを思いつめているように思えた。

リリスの異変を感じ取ったのは、加持リョウジを救出した後である。

どんなに揺さぶっても口を割らないためコウスケは断念するが、やはり気になってしまうのであった。

そんな時、コウスケの執務室にリツコが現れた。

「ん? 赤木か。……休憩時間じゃないよな。」

コウスケは時間を確認しながら言う。

コウスケが休憩するにはまだ早かった。

「……あなたに見てもらいたいものがあるの。」

そう言ってリツコは一つの資料を差し出した。

表情がないリツコに疑問を感じる。

こういう表情のリツコは何か嫌なことがあった時のものである。

「……レイの定期検診の結果?」

レイはリツコのもとで定期的に検診を受けている。

とは言ってもコウスケと同居してからというものの特に異常がないため、その頻度は大きく減っていた。

先日、リリスが現れてから初めての検診があった。

そのデータをリツコは持ってきたのだろう。

「なんでわざわざ持ってきてくれたんだ? データを送信してもよかったろ。」

コウスケのPCはNERVのネットワークに繋がっている。

そのためこうしたデータはネットで送信した方が早いのだ。

実際、レイの定期検診のデータはずっとネットで送られてきていた。

「ことがことだけに直接渡しに来たのよ。」

「……そうか。」

どことなく釈然としないものを感じるが、コウスケは資料を見ることにした。

「………そう言うことか。これは本当なんだな。」

「……ええ。」

「これを知っているのは?」

「私とコウスケ君だけよ。」

「……手立てはあるのか?」

「今のところないわ。」

「そうか………」

表向きでは平然としているコウスケを見てリツコが不思議そうに言う。

「もっと怒ると思ったのだけど……」

「それでどうにかなる問題なのか?」

「それもそうね。」

・・・

 

家に帰宅したコウスケの前にはレイとシンジがいた。

リリスにはシンジとレイに話したいことがあると言って代わってもらった。

「すまないな。急に呼び出して。」

「いえ、大丈夫です。」

レイはぴっとりとシンジの横に座っていた。

既に夕食は済ませておりシンジの前には紅茶があった。

「……これは、綾波が入れたものですね。」

一口飲んだシンジが答えた。

「よくわかったな。」

「何となくですけど…」

「愛は格別の調味料と言うやつかな?」

そう言うとシンジはお約束通り赤くなってしまった。

「愛が調味料になるんですか?」

レイはきょとんとしながら聞いてくる。

「ああ、そうだよ。」

コウスケがそう答えるとレイは紅茶を一口飲んだ。

「……特務一尉のと変わりません。」

「そりゃ、そうだ。自分の愛しい人が作ってくれたものなら嬉しいし、おいしく感じるものさ。」

そう言うとレイは少し考え込んだ。

「……リリスが作ったものもそうなのですか?」

「…………は?」

思わず間抜けな返し方をしてしまった。

「リリスが作った料理もそう感じるのですか?」

「……誰が。」

「特務一尉。」

コウスケは少し動揺していた。

まさかレイがこんなことを言ってくるとは思わなかったのだ。

横にいるシンジも目を丸くしていた。

「そんなわけないだろ。」

「……嘘。今日の夕食を食べてる時、とても嬉しそうだった。」

レイの言葉にコウスケは疑問を持った。

「……レイが準備したものだろ?」

「違います。リリスが準備しました。」

レイはニヤっと笑っていた。

そう思うと確かに味がいつもと違うものだった。

「どうでした?」

「どうだったと聞かれてもな……」

今までで一番、美味かった。

そう言うのをグッと堪えた。

「……まあまあだな。」

そう答えたがレイは相変わらずニヤっと笑っている。

「……よくわかりました。」

納得しているレイに釈然としないものを感じる。

するとシンジが口を開いた。

「……コウスケさん。」

「なんだ?」

「今、すごく嬉しそうでしたよ。」

「……何を言ってるんだ。」

そうは言うが実はコウスケは嬉しかったりする。

リリスが料理の練習をしていることは知っていたが、まさかこんな短期間で上達するとは思わなかったのだ。

黒焦げの何かを食べさせられた時が一番死を覚悟したときだった。

……ATフィールドで拘束されてはコウスケも抵抗できなかったのだ。

その後の記憶はコウスケには無い。

気付いたら朝になっていて、リビングで起きた。

横にはレイが寝ていたが、目がかなり腫れていた。

コウスケが倒れたことに驚いてリリスは泣いていたのだ。

「コウスケさん…もしかして…」

シンジが言おうとしていることを察知したコウスケはすぐに反応した。

「そんなこと…」

「あります。」

レイに妨害された。

「何を根拠に言ってるんだ?」

「特務一尉はリリスといる時、一番嬉しそう。」

「それはレイが勝手にそう思っているだけだろ。」

「そんなことない。…リリスが抱き付く時、特務一尉は優しく受け止めてる。」

「それは……しょうがないだろ。」

「嫌なら嫌だと特務一尉は言える。でも言わない。」

実際コウスケは危ないとは言うが嫌だとは言わなかった。

「それにリリスを見ている時の特務一尉の目は私の時よりも優しい。」

思わぬレイからの猛攻であった。

レイはニヤリと笑っている。

「そうだったんだ。コウスケさんってリリスさんのことが好きだったんだ…」

シンジは意外だという表情を隠さなかった。

「そんなことない。」

「本当にそうですか?」

レイがじっと見つめてくる。

「当たり前だろ。」

「リリスに代わっても同じことが言えますか?」

「ぐ……」

(本人を目の前にして……)

そう考えたときリリスの悲しそうな顔が浮かんだ。

コウスケは何も言えなくなった。

二人はそんなコウスケを楽しそうに見ていた。

・・・

 

コウスケはなんとか切り抜けた。

レイが学校に登校する前に鏡の前で笑顔を作る練習をしていることをばらすという、かなり大人げない切り抜け方だった。

レイは真っ赤になっりながらコウスケに謝ることになる。

「シンジ君、何故レイがそんなことしているのかわからないって顔だな。特別に教えてやろう。レイはな、いか…」

「特務一尉ごめんなさい。私が悪かったです。敗北を認めます。だからそれ以上言わないで…」

「別いいだろ? それにもうばれたみたいだしな。」

「……特務一尉のいじわる…………」

ちなみにレイがそんな練習をしている理由は、とある少年のためにだ。

シンジは夜遅くになったということで葛城家に帰って行った。

レイはリリスと代わっている。

コウスケはリビングで残業を片付けていた。

「ねえ、コウスケ。」

そんなコウスケにリリスが声をかける。

「どうしたんだ?」

「シンジを呼んだのって何か話したいことがあったのよね。」

リリスがいつになく真面目な顔になっていた。

「……そうだよ。」

「何の話だったの?」

「………レイは?」

「寝てるわ。」

「そうか。」

コウスケはPCを閉じた。

「今日、赤木がレイの定期検診の結果を持ってきてくれた。」

「どうだったの?」

「………」

これを言うべきなのか

コウスケは迷っていた。

これを信じたくないという心情が働いていた。

だが、決心してコウスケは口を開いた。

「一か月後にレイは死ぬ。」

リリスは目をぱちぱちさせていた。

「死ぬ? ……レイが?」

「心臓の組織が衰弱し始めているらしい。……MAGIの計算では持っても一か月だそうだ。」

「どうして? 今まではそんなことなかったんでしょ?」

コウスケは一枚の資料を差し出した。

レイの体の組織の活性度を示すものだ。

「この日を境に変わった。」

折れ線グラフは三つの坂で出来ていた。

一つ目は下り坂になっていて、コウスケと同居する前

最もコウスケと同居した日に近づくにつれて下り坂は緩慢になっていた。

真ん中は同居した後

緩やかながら上向きになっていた。

だが、それも突然下り坂に変わっていった。

それが三つ目の坂だ。

二つ目と三つ目の坂の境目をコウスケは差していた。

「この日って…」

「そう、俺とリリスが初めて会話した日だ。」

忘れるわけがなかった。

あの時ほどコウスケが焦ったことは無かった。

「……もしかして私が原因なの?」

リリスの声は恐る恐ると言う表現が正しいほど震えていた。

「あくまで推測に過ぎないが、リリスが表に出てきたことが原因らしい…」

「なら、私がいなくなれば…」

コウスケは首を横に振った。

「そうしてもダメらしい。……衰弱が思ったより進行している。リリスが離れても一年がやっとだそうだ。」

「そんな…」

「……親より先に死ぬなんて親不孝な奴だな………」

リリスは黙っている。

コウスケもそれ以上言う言葉が見つからなかった。

・・・

 

翌日

綾波執務室

コウスケはいつも通りに執務室にいた。

朝、レイはいつも通りに学校へ登校していった。

その様子から昨日の話をレイは知らないようだった。

ただ、コウスケは気がかりな事があった。

あの後、黙っていたリリスは

「ねえ、私が何かしても信じてくれる?」

などと言ったのだ。

いきなり何を言いだすのかと言いたかったが、リリスの目が真剣であったためコウスケは頷いていた。

ふと時計を見るとレイたちはNERVに登庁している時間だった。

「いったい何をするんだ?」

コウスケの呟きは人知れず消えていった。

・・・

 

同時刻

NERV第6ゲージ

ここにはアスカの搭乗機であるEVA弐号機が格納されている。

初号機のある第7ゲージと作りは同じでEVAの顔の前にブリッジがある。

そこに青い髪の少女が一人

「行きましょう。アダムの分身、リリンの僕。」

その言葉と同時に弐号機の目が光る。

・・・

 

NERV第二発令所

コウスケは警報を聞きつけて発令所に駆け付けた。

「状況は?」

コウスケの声に日向がすぐに応答した。

「EVA弐号機が起動しています!」

(弐号機が起動? どういうことだ…)

発令所からの発進命令が出ていなければ、弐号機を使った実験もない。

弐号機が何故、起動したのかわからなかった。

「アスカは!」

「確認済みです。パイロット控室に移動中です。」

「無人です! 弐号機にはエントリープラグが挿入されていません!」

(無人……ダミーでもないな…)

尚更わからなかった。

弐号機が何故、動けるのか…

この時、コウスケの脳裏にピンと来るものがあった。

(まさか…)

「セントラルドグマ周辺にATフィールドの発生を確認! パターンブルー……使徒です!」

日向の報告を聞いてコウスケは誰が弐号機を動かしているのかわかった。

「モニターに出ます。」

発令所のメインモニターを見てコウスケ以外の全員が驚いていた。

ゲンドウや冬月ですら唸っていた。

「れ、レイちゃん!?」

伊吹がかろうじて声を出せたようだ。

モニターにはNERV職員なら誰でも知っている蒼い髪の少女がひどく無表情で映っていた。

弐号機はそれを守る騎士のようにそびえ立っている。

(リリス……何故だ。)

発令所にミサトとリツコも駆け込んできた。

「……レイ!?」

「………」

リツコは黙ってモニターを見ていた。

「これはどういうこと? コウスケ君!」

「綾波特務一尉……」

視線がコウスケに集まる。

前からは憐れみと同情

後ろからはどう責任を取るのか

上からは成すことを成し遂げろ

「……あれを第十五使徒と識別……個体名はリリスと名づける……」

「でも…」

「あれは使徒だ。レイの体に寄生したんだろ。……殲滅だ。」

「しかし…」

日向が何かを言おうとするが言えなかった。

コウスケが無表情でモニターを見つめていたからだ。

・・・

 

セントラルドグマ メインシャフト

リリスは弐号機を従えて下に降下している。

「今頃大騒ぎね…」

リリスは悲しそうな表情になるが、それも一瞬だった。

「でも、あなたにとっては一石二鳥のはず…」

リリスが下を見ると、隔壁が閉まっていった。

「……来てくれるかな……」

その呟きは誰にも聞こえない。

・・・

 

NERV第二発令所

「初号機で追撃だ。……構いませんね。」

コウスケはゲンドウに確認を取った。

初号機は凍結処分が下されている。

その撤回を求めたのだ。

「わかった。初号機に追撃させろ。」

その指示を聞いてオペレーターが一斉に動き出した。

「何故、弐号機なのかしら?」

ミサトが言わんとしていることはわかる。

レイの体ならば零号機で行くこともできたはずだ。

「単純な計算だ。零号機で行けば追撃が増える……だからだろう。」

「それにシンジ君のことも考えてるのね。」

リツコが付け加えるように言った。

「シンジ君?」

「そうよ。使徒とは言えレイの体よ。」

「……そう言うことね。」

それを聞いたコウスケは

「すまんが、後を頼む。」

とミサトに言う。

「なんで?」

「……子供の尻拭いは親の務めさ。」

そうしてコウスケはゲンドウを見た。

「構わん。」

ゲンドウは一言言った。

コウスケは発令所を出ようとした。

「コウスケ君!」

ミサトが止める。

「大丈夫よね?」

「……刺し違えてでも止めて見せるさ。」

それだけを言うとコウスケは走り出した。

・・・

 

初号機エントリープラグ内

シンジは表立って騒ぐことは無かったが、内心では平然としていられなかった。

(綾波なわけがない……リリスさんどうして……)

そう思っていると弐号機の姿を確認した。

「いた…」

初号機は弐号機に追いつくと弐号機に掴みかかった。

弐号機もそれに応じる。

初号機と弐号機で取っ組み合いになった。

「リリスさん、どうして…」

「レイのためよ。」

「綾波の?」

シンジにはわけがわからなかった。

レイのためならば何故こんなことをするのか

「それなら止めてよ! どうしてこんなことをするんだよ!」

「ダメよ。……私の本体が必要なのよ。」

この時、シンジはこれもリリスの計画だったのではと考え始めていた。

サードインパクトを起こすのに障害となるものを排するために人に近づいたのでは

「……リリスさんは裏切ったんだ……僕たちを……なによりコウスケさんを!」

「………あなたに何がわかるの……」

「そうじゃないか! 今こうして……」

シンジは言葉を続けられない。

……リリスが泣いていたのだ。

「あなたに何がわかるの? ……私はリリンと一緒になれない。……リリンはリリンに惹かれ合うもの………コウスケだって………」

シンジはハッとなってリリスを見た。

「そんなことない! コウスケさんだって……」

「下手な慰めはいらないわ。」

弐号機がプログレッシブナイフを取り出し、初号機の胸に突き刺した。

その痛みがシンジにも伝わる。

「ぐ……この!」

初号機も負けじと弐号機の首に突き刺す。

「リリンにとって忌むべき存在……それを使ってまで生きようとする……不完全でありながら不完全ではないのね……」

リリスは目を瞑った。

・・・

 

NERV第二発令所

突如大きな振動に見舞われた。

「どうしたの?」

「これまでにない強力なATフィールドです!」

「光波、電磁波、粒子も遮断しています! 何もモニターできません!」

オペレータの報告を聞いたミサトは呟く。

「まさに結界か……」

横ではリツコが何とかモニターしようと伊吹に指示を出している。

ミサトは一人の男を思い出した。

「コウスケ君は?」

「ダメです。反応をロストしました。」

「……頼んだわよ。」

・・・

 

NERV通路内

コウスケは走っていた。

あと少しでターミナルドグマ最深部直通エレベーターにたどり着く

そう思った時、大きな振動が起こった。

「……やり過ぎだ。」

それをリリスがやったことを直感で感じた。

「……あのバカ野郎……」

コウスケはエレベーターに飛び乗った。

・・・

 

ターミナルドグマ ヘブンズドア前

コウスケはついにたどり着いた。

後ろでは何かの音が聞こえてくる。

弐号機と初号機が戦闘しているのだろう。

だが、徐々に近づいていることはわかった。

コウスケは暗い通路を進んでいく。

いつもなら厳重な隔壁があるのだが、今は開いていた。

その隔壁を越えるとLCLの池と目的の人物がいた。

「リリス…」

コウスケが声をかけるとリリスは振り返った。

「来てくれたのね。」

よく見ると白い巨人に刺さっていたロンギヌスの槍が無くなっていた。

コウスケは特に気にせずリリスに近づいた。

「何をするんだ。」

「レイの治療よ。」

「レイの?」

「そのためには私の本体が必要なのよ。」

そう言うとリリスは白い巨人の方に振り返った。

「……止めないの?」

「何言ってるんだ。信じろと言ったのはリリスだろ?」

コウスケの方からリリスの顔は窺えなかったが、嬉しいという感情だけは伝わった。

「そうよね……ありがとう。」

リリスの体から一つの紅い光が離れた。

コウスケは膝から崩れ落ちるレイの体を抱きとめる。

赤い光は白い巨人に呑み込まれていった。

白い巨人-リリスが楔から離れてLCLの池に降り立った。

LCLが雨のようにコウスケたちを打ち付ける。

リリスが腕をコウスケの方に向ける。

途端にレイの体が光った。

光は徐々に薄くなり、やがて消えた。

コウスケはとっさにレイの状態を確認する。

「……見た目、脈、呼吸音ともに異常なし。」

そう言うとコウスケはほっとした。

それと同時に何かが倒れる音がした。

弐号機だった。

頭には初号機のプログレッシブナイフが刺さっていた。

その先には初号機がこっちに歩いて来ていた。

『コウスケさん!』

「シンジ君か。」

『綾波は?』

「大丈夫だ。」

レイを確認した初号機はリリスに目を向けていた。

『リリスさん……ですね。』

『そうよ。』

レイと似ているがレイとは違う声が聞こえた。

リリスのどこから声を発しているのかわからなかった。

まるで心に直接語り掛けてくるような感覚だった。

『さて、私のしたいことは終わったし……その槍で刺してくれれば元通りになるわ。』

初号機は動かなかった。

『……間違ってますよ。そんなことしてコウスケさんが喜ぶわけないじゃないですか……』

「何を言ってるんだ?」

『リリスさんは死ぬ気なんですよ!』

「何!?」

コウスケはリリスに視線を送る。

「死ぬだと? いったいどういうことだ!」

リリスはコウスケを見ていた。

なかなかの威圧を感じるが、コウスケはそれどころではなかった。

『そのままの意味よ。使徒を倒して終わり……ただ、それだけよ。』

「使徒って……まさか……」

『さあ、早くしてちょうだい。』

リリスは両手を広げていた。

『……やっぱりダメなのね。でも……』

コウスケはリリスの言葉にはっとなった。

「シンジ君! 弐号機を止めろ!」

コウスケの声に初号機が弐号機の方に振り返る。

いつの間にか弐号機はロンギヌスの槍のそばにいた。

初号機が止めに入る。

弐号機はロンギヌスの槍を手にした。

初号機が弐号機を後ろから羽交い締めにする。

『どうして邪魔するの? あなたたちNERVの仕事でしょ?』

「なんでこんなことをするんだよ。」

『……こうすれば使徒として私が記録に残るわ。そうすれば覚えてくれるでしょ?』

「……バカ野郎……」

『何?』

「お前さんはバカ野郎だ。……こんなことするバカなんて一瞬で忘れるわ。」

コウスケの言葉にリリスは狼狽えていた。

『……レイは治療したし、使徒は殲滅される。それに私がいなければサードインパクトも阻止できるのよ。』

「だから死ぬのか?」

『そうよ。』

コウスケは俯いた。

後ろでは初号機と弐号機の争いが続いている。

「……初めてだったんだよ。」

コウスケはぽつりとはっきりと言う。

「俺のために何かをしてくれた人はお前さんが初めてだったんだよ。」

『それはコウスケが気づいてないだけ……』

「そうだよ。だからだ。」

『いったいなんのこと?』

「……昨日、料理を作ったのはお前さんだろ? レイから聞いた。」

『それがどうしたの…料理ならレイだって……』

「確かにな……でも今までで一番うまいと思った。」

レイの顔に滴がぽつり、ぽつりと落ちていた。

「もう、俺のために作ってくれないのか……」

リリスはただじっと聞いているだけだった。

・・・

 

NERV第二発令所

「………綾波コウスケ特務一尉、只今戻りました。」

「「「綾波特務一尉!」」」」

コウスケは発令所に戻っていた。

コウスケの姿を確認したミサトが声をかける。

「コウスケ君! 無事だったのね。」

「ああ、心配かけたな……」

「全くですよ。反応がロストした時はもう終わりだと思いましたよ。」

青葉が軽い口調で言っていた。

「綾波特務一尉。」

発令所の上段にいるゲンドウが声をかけ。

「なんでしょうか?」

「……リリスはどうした?」

ゲンドウの言葉に発令所のメンバーがじっとコウスケを見ていた。

「………殲滅しました…………」

「……そうか。」

「申し訳ありません。」

傍目からではよくわからないが、ゲンドウはかなり落胆していた。

すべてが終わればリリスがユイを救出してくれる

それが崩れてしまったのだ。

そんなゲンドウに落ち込むなと言う方が無理な話だろう。

「じゃあ、レイちゃんは………」

ゲンドウたちの会話を聞いた伊吹が恐る恐る声をかけた。

「レイは無事だ。」

コウスケの言葉に伊吹はほっとしていた。

彼女を含むオペレーターにはレイに寄生したとしか知らされていないからだ。

「今回はヘブンズドアまで侵入したからな。」

「人に寄生するなんて、使徒もバカじゃないんだな。」

「ともあれ、サードインパクトが阻止されてよかったです。」

発令所の所々からそんな声が上がってた。

「その……コウスケ君?」

「どうした。」

「大丈夫?」

「俺はいたって平常だ。使徒を殲滅できた。サードインパクトを阻止できた。レイも無事だ。それでいいじゃないか……」

それでもミサトはコウスケをじっと見ていた。

瞳からはどう声をかければいいのかわからないと言いたげだった。

何故ならコウスケはいつも以上に……そう第十三使徒を指揮した時以上に無表情で佇んでいる。

そんなコウスケを見て、そしてリリスのことを知っているミサトがそのように反応したとしてもおかしくはない。

オペレーターたちもそんなコウスケをおかしく思っていたが、心労が重なったからだと考えていた。

その時、発令所にリツコが現れる。

それに伊吹がかなり素早く反応した。

「先輩! レイちゃんはどうでしたか?」

「検査の結果、レイは無事よ。ただ……」

リツコは途中で言い淀んだ。

コウスケを見ながら今、ここで言うべきなのか迷っているようであった。

「どうしたんですか?」

「まさか……使徒に寄生されて何かあったんじゃ……」

青葉と日向がそのように言う。

それに促されるようにリツコはつづけることにした。

「コウスケ君……あなた、名実ともにレイの父親よ。」

リツコを言葉に発令所が騒がしくなった。

一方、コウスケは全く関心を示していないように見えた。

「ん? 綾波特務一尉が父親なら、母親は誰なんですか?」

青葉がリツコの言葉を聞いて疑問に思ったことを話していた。

「……わからなかったわ。」

「わからない?」

「MAGIには世界中の人のデータが登録されているのにわからなかったの。……いったい誰なのかしら?」

とリツコは言うが大凡の見当はついていた。

ただ、目に見えて確証に繋がるものがないのと、殲滅されたリリスに係わるかもしれないことなのでそのように答えた。

だが、コウスケには自分がレイの父親になったという話が出た時から何となく予想はしていた。

それが今、確信に変わった。

「……あのバカ……こんな残し方しやがって………」

そうコウスケが呟いたのを聞いた者はいなかった。

発令所では使徒の殲滅とレイの無事を喜ぶ声で満ち満ちていたからだ。




この続きは最後まで考えてあります。
私の中ではIfシリーズと名付けてあります。
ただ、IFシリーズは本編の0話を無視する形になりますので……

本編の方もちゃんと最後まで考えてありますよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。