Koyの短編集   作:Koy

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兄デレマス

四月。

学業に専念する学生にとっては、新たに学年が上がる。若しくは、入学する学校に胸躍らせる。そんな期待と不安の入り混じった時期。

仕事を生活の主とする社会人にとっても、後輩が出来て、自分の仕事を今以上に出来なければ示しがつかないと、少々焦り気味になる時期。

 

桜は舞い、全てを祝福するかのごとく晴れ渡る空。

この日の最高気温は20℃前後。やや肌寒いかもしれないが過しやすい天気だ。

天気予報では、今日は一日雨も降らず。穏やかな日になるとのこと。

 

さて。学生が遅刻を回避するために100m9秒台を切りそうな猛烈ダッシュや、峠を攻められるレベルの自転車漕ぎをしていたり、会社に遅刻しそうな大人がタクシーの運転手に「安全運転且つ超スピードで! ドリフトも混ぜて!」などと無茶を通り越して気が狂ったとしか言いようの無い注文をしている最中。

まあそのタクシーの運転手も「よっしゃ! ゲロ吐いても知らねぇぞ! ――――――吐くのはお前じゃなくて俺だけどな!」と返していたから中々狂っている。というか車の運転を職業としている人間としてそれはいいのだろうか。

 

閑話休題。

ここに、一軒の喫茶店が存在していた。

 

それは、朝のラッシュをしている人々を見守るかのようにその場所に在り、事実ラッシュで忙しく、朝食を摂る時間すらない人ですらそこに立ち寄り一分後には店から出て行く。

 

喫茶店の名前は『シンデレラ』

少し前に、腕のいい若手の店長がいるということで評判となった喫茶店だ。

否。今でもかなりの評判で、平日の午後や休日には常に満席状態になることがザラである。

スター○ックスや○トール。タ○ーズなんかと一緒に、今ではブランドとして数えられそうになるほど。

それらの評判もあり、連日賑わっている。

 

主な客層は10代~20代の若者が中心だが、3,40代の中高年。果てはお年寄りなどの高齢の人々にも、この店は親しまれている。

その理由の一つが、「店長の人柄」にある。

 

若干22歳の、まだ青年といえるだけの若さを持った男性。

いくらか子供っぽさが抜け、しかし時折見せる無邪気さ。

そして、おそらく生来のものであろう優しさ。

彼を知るものは皆、口を揃えて、

 

「真面目な好青年」

 

と評する。

実際、その人柄が第一印象を良くし、リピーターを増やす要因の一つになっている。

が、なんと言ってもその料理の腕前。

 

当時17歳だった彼は、調理系の専門学校に在籍し、そのときの教師から海外留学を薦められた。

彼は一も二も無く飛びつき、家族の承諾の下。料理の本場イタリアへと留学。

一年後、彼は卒業するために日本へ戻ってきたが、そのときには既に海外で学ぶことは全て学んできた。

これには推薦した教師も唖然。

普通なら五年はかかる内容の料理修行を僅か一年でこなしてしまったのだから。

 

そして、卒業と同時に調理師免許を取得。

その後は、親族の伝手を頼り、調理場での経験を積み、店を構える事になった。

その時点での年齢はなんと二十歳。

 

それが、現在のこの喫茶店『シンデレラ』である。

最初は若すぎる、ということであまり客の寄り付かなかったが、とある料理評論家が訪れた。

かなり辛口なコメントで、だが舌は確かな人物が「褒めるべき点しか見当たらない」とまで言わしめたことにより、一気に知名度は急上昇。

最近では「老若男女問わずに大人気! お洒落な内装と素敵な料理がウリの喫茶店!」と雑誌でも取り上げられるほど。

 

かくして彼、島村葉月は「若手の三ッ星クラスのシェフ」として有名となったのだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「――――――で。本来ならロイヤルホテルの専属シェフにでもすぐになれるのに。なーんで未だにこの店に拘ってるんスか?」

 

…………散っ々人のことをわざとらしい位の説明口調で紹介した挙句そんなことを言いやがった。

俺はそいつを半目で見る。

 

「……今は客が来ない時間だからって厨房でサボるなよ」

「てんちょー。口悪いでーす」

「お前にだけは言われたくないぞ佐名木」

 

佐名木幸平。俺の店の厨房(キッチン)スタッフで、料理の腕もそこそこ。

というか、実質厨房の連中は俺が仕込んだようなものだから腕前にして言えばそこらのファミレスよりずっと美味いだろう。

……だというのに。コイツと来たら常にやる気が欠如している。

まあ、そこが俺としては気に入ってるんだがな。

 

「というか店長。今度俺の持ってきたCDかけていいッスか?」

「……ちなみに何をかける気だ?」

 

基本。この店の音楽は従業員(スタッフ)の奴らが持ってきたやつを選別してかけている。

 

「んー。じゃあ無難に如月千早の『眠り姫』でもどうです?」

「朝っぱらから眠りに誘うようなタイトルかけるの止めんか」

 

いや。いい曲なんだけどね。

そういえば千早ちゃん。海外レコーディング決まったんだっけか。今度何かお祝い持って行かないと。

 

「……おーい。皆まーた店長が凝った贈り物作ろうとしてるよ」

「凝ったって……だって千早ちゃん、海外だぜ? 祝わなくてどうするよ」

「ぶっちゃけ彼女。あまり喜びそうに無いんですけど」

 

そうか? 結構笑いの沸点低いほうだと思うんだが。

……にしても。

 

「やっぱ。どこもアイドルなんかねぇ」

「……何言ってるんスか?」

「いや別に」

 

一人ごちる。

 

アイドルブーム、といえば聞こえはいいが。その実。現在の芸能界の半分を占めているのはアイドルたちだ。

この東京なんかは、一歩歩けば違うプロダクションがあるとまで言われるほどの激戦区。

「アイドル戦国時代」なんて言われているが、あながち間違いでもない。

 

そう。現在の世の中。アイドルたちが主役みたいなものなのだ。

 

そんな空気に感化されてか、アイドルを目指す少女たちが後を絶たない。

俺は別に否定をするわけではない。むしろ夢を持つのはいいことだし、それに目指して頑張ろうという努力は絶対に悪いことではない。

ただ、それで成功するかどうかと言われたら微妙だ。

 

アイドルの壁は非常に高い。

まず最初の壁でほぼ全ての人間がぶつかる。

それを乗り越えても、さらに大きな壁が立ち塞がる。

壁、壁、壁の繰り返しだ。

それに耐えられるメンタルの持ち主と、実力を併せ持った子だけがこの業界で生きていける。

アイドルは、ただ華やかなだけではない。

……だというのに。

 

「うちの愚妹は全く……」

「ああ。そういや店長の妹さんもアイドル目指してるんでしたっけ?」

 

何を血迷ったかは知らんがな。

今でも養成所に通い、アイドルになる夢を捨てていない。

だが先にも言ったように、アイドルはそんな甘い仕事ではない。

まず選考の段階で落とされる。

妹は特にそうだ。今まで幾つか受けたらしいが、全て落選。

よくまあ心が折れないものである。

 

だが、それも今年で終わりだろう。

今年でアイツも高二。そろそろ真面目に進路を考えないといけない時期だ。

アイドルを目指すのは構わないが、それで自分の将来を疎かにしては本末転倒。

 

…………あー。

 

「ハァ……」

「てんちょー。ため息つかないでくださいよー。幸せ逃げてこの店潰れたらどうするんスか」

「縁起でもねえこと言うなし」

「どーせ妹ちゃんのことで悩んでいるんでしょう? 大丈夫ッスよ。妹ちゃん可愛かったし。養成所通ってるなら素人が受けるよりよっぽど希望ありますって」

「だといいけどな」

 

アイツ。アイドル志望の癖にダンス系統が危なっかしいところがあるし。

ふと時計を見る。

時刻は十時。そろそろいい時間だ。

俺は厨房スタッフをに指示を下す。

 

「よーし! 全員聞いてくれ。そろそろ昼の仕込みやるぞ。手順はいつも通り。ミスったら俺か佐名木に聞いてくれ。焦らず、だがスピーディにやること。OK?」

『OK!』

 

これが俺ら『シンデレラ』スタッフの返事。

基本、この店の従業員は若い。平均年齢が20代前半な人間ばかりだ。

だからあまり堅苦しいのは抜きにしている。

厨房スタッフは慣れた手つきで仕込みを始め、俺はホールにいるアルバイトの子達に指示を出そうとしていたとき、一人のホールスタッフが俺を呼んだ。

 

「あのー。店長」

「ん? どした?」

「あ、いえ。その、店長を呼んで欲しいって子がいまして」

 

それを聞いたとき、誰が呼んだかすぐに分かった。

この店に来て俺を呼ぶのは大体二通り。

 

一つは、テレビ・雑誌等の取材。

そしてもう一つは……身内。

 

俺は厨房を佐名木に任せ、シェフコートを取りその人物を迎える。

そこには俺と同じ髪色をした少女が立っていた。

ひとまず入り口に立っていられるのもアレだし、カウンター席に案内する。

 

……んで。

 

「どうしたんだ卯月」

 

島村卯月。

俺の実妹であり、アイドル志望中の女子高生。

 

本来なら、この時間は学校にいるはずなんだが。

 

「あ、今日は授業無くて。養成所に行ってたの」

「ん。そうか――――待て。行って()?」

「う、うん――――私、養成所辞めるから」

 

その言葉を聞いた瞬間、一瞬記憶が飛びかけた。

辞める? あれほど喧嘩してもアイドルになることを譲らなかったコイツが?

そう思ったが、いくつものオーディションに落ち、一人で養成所にいる卯月を思い出すと、自然と合点が行った。

 

「まあ、今まで良く頑張ったとは思うさ。本当にな」

「え、えっとぉ……その……」

 

卯月は何か言いづらそうにしている。

……? 何か俺に後ろめたいことでもあるのか?

すぐに考えるが、俺には思いつかない。

あったとして、昔言い合ったことくらいか。

 

……まさかそれを気にして?

 

昔、散々「アイドルになるのは辞めておけ」と言ったが。別にそれに関して今言及するつもりはないし。そもそも妹が今まで頑張ってきた苦労を馬鹿にするようなことは絶対にしない。

……だけど。コイツ根が真面目だからなー。

 

すると卯月は、決心したように俺を見ながら言う。

 

「わ、私! アイドルになったから!!」

「ああそうかい。アイドルに………………―――――――」

 

What!?

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

あの後。卯月の話を聞いた。

数日前。346という大手芸能プロダクションのアイドル部門のプロデューサーさんがスカウトに来たそうだ。

内容を聞くと、メンツが足りないから落選したこの中でも一番の子を選んだとかなんとか。

 

同時期に、もう一人街中でのスカウトの子も含めて二人だとかも聞いたがそれ以上に、

 

「――――――卯月。大丈夫か? あまりの現実の厳しさに脳が幻覚を見せているんだな。よし。分かった。今すぐ病院に見てもらってやるから。大丈夫。あそこの診察を受けた人は妙にハッピーな気分になれるぞ。その後のことは知らんが」

「なんか酷い事言われた!? あとそれって病院として大丈夫なの!?」

 

知らん。

ともあれ。コイツの念願がやっと叶ったか。

 

「卯月。アイドルになっても、厳しいことには変わりないからな」

「……うん。分かってる。でも頑張る」

 

頑張る、か。

卯月の口癖になってる言葉だが、不思議と、今はその言葉に現実味が帯びている。

 

卯月は立ち上がると、そのまま店を出ようとする。

そのとき、こちらを振り返り、

 

「ありがとうね。お兄ちゃん」

「何が」

「ずっと私のこと。心配しててくれたから」

「…………」

 

そんな言葉を笑顔で言う卯月。

 

それは、心の底から俺に感謝をしているということ。

 

……ったく。

 

「死んでもお前のファンにはならねえ」

「酷い!?」

「いいからさっさと行け。アイドルになるっつっても、事務所に申請やらなんやらしなきゃいけないんだろうが。学校ないんならさっさと済ませて来い」

「……ッうん!」

 

そういって、卯月は店を出た。

すると、まるでタイミングを見計らっていたかのように佐名木がやってきた。

 

「店長も素直じゃないッスね――――――素直に祝ってやればいいのに」

「うっせ」

 

アイドル成り立ててで何を祝うってんだよ。

さて。俺も仕込みのほうに入ったほうがよさそうだな。そのほうが午後に余裕が出来る。

 

「まあそれはそうですねー。ただその顔どうにかしたほうがいいッスよ」

「俺のイケメンフェイスがどうしたって?」

「うっわ腹立つ――――――めっちゃ嬉しそうに笑ってますよ」

 

佐名木の言うとおり。触ってみると俺は笑っていた。

 

……あーもうったく!

 

「え、あ、ちょ店長何を――――影分身!? いや、超高速で動いているだけか! いやでもこれ人間がしていい動きじゃねえ!? なんで全料理の仕込を一人で出来るんだよアンタ化物か!?」

 

煩い。まあでも。

 

(卯月の夢の第一歩が叶ったからいいか)

 

ここからが大変だぞ。卯月。

 




どうもKoyです。

……アニメでふみふみが動いたああああああああああ! そして喋ったあああああああああああああ!!
周子もありすちゃんもいるじゃないか! なんだこの回は! 私をモバマスに誘おうというのか!? あわよくば課金兵に仕立て上げるつもりか!!

……ということで。ええ。まさかふみふみが来るとは思って無かったですよ。
あと唯ちゃん。なんか美希っぽい。外見が。

それから。以前書いた設定より少し若くしました。
こっちのほうが色々と都合がいいし。
まあ普通こんな若さでなれるものじゃないとは思いますけど。

それでは。
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