ある日。気がついたときから、人生が全く楽しくなくなった。
勉強……は元々そこまで好きではなかったが。それでも体を動かすのは好きだったし、知識が増えていくのは楽しかった――――はずだ。
趣味でやってたバイオリンやギターも、やる楽しさを一気に削がれた。
もう。何もかもが楽しくない。それどころか。自分が今きちんと生きているのかすらも危うくなってくる感覚に時折、襲われる。
ぶっちゃけた話。もう完全に惰性で生きているみたいなものだ。目標も無ければ努力しようとする気も起きない。ニートでももう少しはやる気があるだろうというくらいには無気力状態になっていた。ゲームもやる気が起きないし。
中二病みたいな感じに聞こえるかもしれないが、本当にこういう感じなのだ。
そんな割と真剣な悩みだが、周りの奴には話せない。
いや。以前に一度話せたには話せたんだが、解決方法が結局思い浮かばず「時間に任せる」という方法をとることにした。
……後から思うとそれは問題の先送りだったんだよなあ。未だ何にも解決できてねえし。
今でもこうしてだらだらと大学の構内にいるし。ちなみに今日の分の授業は終了した。
やること無いなら勉強でもしろよと言われるだろうが。考えても見ろ。というか言われて、それを実践しようという気になる奴が一体何人居ることになるのやら。まず間違いなく拒否が来る。
…………まあ、ここまでつらつらと思いの丈を吐き出してはいるが。こういうこと自体は前からあった。というかそれが最近になってようやく表に出始めただけのこと。
ちなみに「人生楽しくない症候群」が出始めたのは中学の終わり頃。五年くらいは我慢が出来てたんだな。
それ以前は普通に、何かあるごとに楽しいと思えていた――――いや。どうだろうか。割と今も昔もそこまで変わらない気がする。
「あー………………………………死にたい」
ふと、口から漏れ出た本音に近いような言葉。その瞬間、後頭部に軽い衝撃が来た。
振り向くと。手刀の形にして俺の背後に立っている青年が一人。
「なーにをこんな真昼間っから絶望真っ盛りになってんだよ」
説教染みたことを言う。
薄めの金髪に黒の瞳。最初は染めているのかと思ったが、どうやら母親がイギリスの出身であるハーフらしく、その血が濃く出た結果らしい。
「……いや。もうなんかダルい」
「だったら家帰って寝りゃあいいだろうが。今日はもう授業、ねえんだろ?」
「だからと言って帰宅してもやることないし。今から寝ると確実に夜寝れなくなる」
「ガキかテメェは」
「まだガキだろうよ俺は」
だが確かにコイツの言うとおり。何もすることないなら家に帰るとするか。
「晶も来るか? 今なら飯も奢るが」
「あー。そりゃあいいが、悪い。俺このあとちょいと用があるんでな。夕方頃でよけりゃあ行くが?」
「おーけー。じゃあ晩飯だな。適当に出前でいいだろ?」
「おう。じゃあな」
この大学での数少ない友人、佐上晶を見送る。
あの方向だと、向かう先はサークル棟か。そういえば昔、なんかのサークルに入ったとか言っていたな。あまり興味がないから聞き流していたが。
このまま一人で居てもしょうがないので、素直に帰ろう。そう思い、立ち上がる。
……が。数歩も行かずに誰かにぶつかってしまった。その際、ドサドサと何かが落ちる音がする。見ると、数冊の本が地面に落ちていた。
「あっ、すみません」
「いえ……こちらこそ」
急いで本を拾い集め、持ち主に渡す。
見ると、相手は女性。というか同じ学部に所属している女生徒だった。あまり会話をしたことは無いが。
「…………あー、すまん。大丈夫だったか?」
「はい……すみません。少し、持ちすぎたようです」
彼女の抱える本の量は、持ち方もあって彼女の視界の半分以上をその分厚さで隠してしまっていた。
というかこんなハードカバーの本をよくもこんなに持ち運んで、しかも読む気なのか?
「それ……全部読む気なのか?」
「いえ……半分は返却で、もう半分は先生から借りていた参考書なので」
それだけ言うと、彼女は軽く礼をして行こうとする。
だがその足取りはまるでおぼついておらず、あのままではまた誰かにぶつかる。あるいは階段辺りで落とすだろう。
俺はそのまま女生徒に並び本を数冊持つ。
「えっ、あ、あのっ……!」
「そのままじゃ今度は転ぶぞ。手伝う」
「で、でも……」
「いいんだよ。どうせやることないし――――迷惑なら止めるが」
「いえ……ではその、お願いします」
位置的には図書室が近いため、まずは借りている本の返却手続き。その後、借りていた参考書を先生のところへ返却。
どうやらこの参考書。今では手に入れることが困難なもののため、大学の図書室にも置いておらず、学校内ではこの先生しか所有していないのだとか。
全ての本を返し終わり、しばし女生徒に付き合っていた。
「ありがとうございました……実を言うと、一人では重かったので」
「誰か他に頼める人居ないのかよ」
「……私。あまり人と話をしたことがないので」
そういって、俯き気味になる。
これで実は
「……鷺沢は、アイドルやってんじゃん?」
「はい。そうですが……?」
「楽しい? アイドルやってて」
思わず聞いてしまった。
女生徒――――鷺沢文香は一言。はい、と頷きながら答えてくれた。
「昔の私だったら、考えられないことですが……今は。ステージに立つのが、楽しくて」
「……そう」
そういう鷺沢の顔は、本当に楽しそうだった。
俺から見た鷺沢の印象は「暗い」だ。いつも一人で本を読み、気がつけば居ない。そんな、クラスに一人は居そうな影の薄そうな女子だ。
とはいっても。男子連中にはかなり人気高かったけど。
「……じゃ。俺はここで。本は確かに届けたからな?」
「あ、はい。ありがとうございました」
「いいって。じゃあ」
そういって、俺は鷺沢と別れ。大学を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時刻は午後三時。
家に帰るのもいいが、することも無いので適当に町を散策する。
己の視覚と聴覚に入ってくるのはいつもと同じ店の看板。人の流れ。会話。音楽。
「……ふー」
ため息にも似た何かを吐き出し、俺は少し上を見上げる。
そこには、10人中10人が「可愛い」や「綺麗」といった評価をするであろう少女たちが満面の笑みで映っていた。
アイドル。それが彼女たち。
今この世界は「アイドル戦国時代」なんて呼ばれるほどに、アイドルを志す少女が多い。
男性アイドルも居ないわけではないが。やはりアイドルと聞いて最初に思い浮かぶのは「可愛らしい少女」だろう。
そんな少女たちは、楽しそうに笑って観客を魅せる。
実際に、楽しいのかは分からない。もしかしたらただの演技かもしれないし、心のそこから楽しいと思っているのかもしれない。
だがどちらにしろ。俺からしてみれば羨ましい。
そこまで考え、俺は頭を振る。
「……なーに考えてんだか」
俺がそんなことを考えたってしょうがないし、この虚しさが埋まるわけでもない。
彼女たちには彼女たちの、俺には俺の天分というものがある。
差し詰め。彼女たちの天分は人を笑顔にすること。俺は……まあ、生きることか。
「あー、やめやめ。どうせ考えたって何も分からんし。菓子でも買って帰るか」
そういや晶の奴。どれくらいかかるんだ? あまり遅いと俺も腹減るんだがな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結局。晶が来たのは六時になるかならないかという時間だった。
「ワリィな。ちょっと話し込んじまってよ」
「別に構わねえけど。今度からメールかLine飛ばせよ」
適当に店屋物でも取ろうかと思ったが、賞味期限がギリギリな鶏肉があったのを思い出し、唐揚げにすることにした。あとサラダ。
俺と晶はアケコンを操作しながら某格闘ゲームをプレイしながら今日のことを話し合っていた。
「へえ。鷺沢と話したんだ。お前」
「まあ、な。流石に目の前で困ってるのに放ってはおけなくて……」
「お人好しめ……っと、あっ!?」
晶が呟いた瞬間、俺のキャラが晶のキャラを沈める。
「というか何でお前は使い慣れないのにハク○ン選んだし」
「慣れておこうと思って……お前だって普段そんな使ってねえテ○ミ選んでたろうが」
「最近。使っていて面白いことに気づいた」
いやこのキャラマジで凄いぞ。あっという間にゲージ溜まるし。コンボ繋げやすいし。
晶はアケコンから手を離し、皿に盛ってある唐上げを一つ摘む。
「しっかし。よく鷺沢と話して無事だったなお前」
「……? 意味が分からんが」
「ほら。アイドルやってるだろアイツ。だから学内に結構ファンが居てさ。まあ、前から結構狙ってる男子は居たんだが」
「ああ……」
そういや帰り際。妙に後ろからの攻撃的な視線が刺さると思った。
確かに。鷺沢は男子にモテるだろうな。
「それより俺としてはお前が女子と話しているのが結構驚いている」
「……まあ、別に話せないってわけじゃないからな」
とある理由で、俺は他人との交流や接触が苦手な部分がある。
特に女性は若干嫌悪の感情も混ざっている。正直昔は近寄るのも嫌だったくらいだ。
晶とはそんなかなり尖っていた時に会った。今でも、コイツが居なかったらと思うと正直ゾッとする。
真正面からぶつかってくれたからこそ、ではある。
……が、やはり苦手なものは苦手だ。
「そういやさ」
ふと思い出したように晶が呟く。
「鷺沢が所属している346プロダクション。何か新しく男性アイドルも起用するみたいだぜ」
「へえ」
意外といえば意外である。
346プロダクション。複合芸能のプロダクションで。アイドル部門は2,3年ほど前に立ち上げ徐々に成果を上げ始めている。
が、如何せん新規の部門は成果を出すのに五年くらいは掛かる。幸先は良いほうではあるが、まだ他部門に追いついているとはいえないだろう。
おそらくそれを考えての男性アイドル起用。
別に珍しいことではなく、現に315プロダクションという男性アイドル専門のアイドルプロダクションも存在する。
おそらく一気に業績を上げるために、取り入れたんだろう。
「だけど……アイドル業界の現状を見ると相当レベル高くないと無理だぞ」
「だろうなー」
346が男性アイドルを取り入れる。だがそれは、元から所属しているアイドルと同等かそれ以上の逸材を見つけてこなければならない。
そして何より――――
「男って、アイドルより別なもの目指すだろ」
ここら辺が、男性アイドルが少ない理由であったりする。
アイドル=女性という固定観念が出来ているため。男性でアイドルを目指すという人間は思ったよりも少ない。
無論、居ないわけではない。
「龍也。お前応募してみたらどうよ?」
「寝言は寝て言え」
晶がいきなりボケたことを言ってきた。
コイツ昔から突拍子もないことを本当に突然言うからかなり驚かされる。
「無理無理。第一俺が女苦手だって知ってるだろうが」
「慣れだ慣れ。克服するいい機会だろうし――――それに。世界中どこ探してもお前以上のスペックの持ち主は存在しねえよ」
そういってニヤリと笑う晶。
なんかムカついたので、2Lのペットボトルを顔面に投げつけた。
「ってぇな!? 何しやがる!」
「なんか腹が立った。反省はしているが後悔はしていない!」
「よっし喧嘩売ってるんだな!? 今度は本気で相手してやる!」
「ハンッ! 上等だ。返り討ちだ」
その後。画面上で晶のラ○ナに、俺のテイ○ーがアストラルフィニッシュ決めるまでそう時間は掛からなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
このときはまだ気づかなかった。
346プロダクションが、オーディションではなく。スカウトで男性アイドルを起用するなど。
そして、それに俺が引っかかってしまったということに。
ここから、俺の人生が変わっていく。
良い方向か、悪い方向か………………
どうもKoyです。
皆様。新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
次回はデレマスじゃないと言ったな――――アレは嘘だ(ウワァァァァァァァ
見て分かるかと思いますが、男性アイドル起用する346です。
まあコイツ自体はスペックが廃クラスなんで。設定も考えてあります。
それでは。