14話
夢を見た後、人はその内容をほとんど覚えていない。 それがどんなに楽しい夢でも、悲しい夢でも。 ならば夢を見たとしてもそれを思い出さない方が本人にとっては良いのではないか? だとしたら記憶を失っている彼が見る夢は目が覚めた後思い出さない方が良いのか? 今はその結論を出すには早い。
「ーーお? ここは……」
夢の主、都 霧刀の中の人物は暗闇の中目を覚ます。 本人は夢だとまだ気づいておらず、目の前に広がる暗闇を見つめていた。
「あれ……? 何でこげんなとこに?」
今までの自分の行動を思い出す。
「たしか……みんなにギター披露して……その後温泉にまた入って……」
順を追って思い出していく。
「そうそう、その後みんなでお散歩して、旅館に戻ったらちょうど晩飯の時間になって……んで、その後卓球とかで遊んで……また温泉入って……」
そして床につく。 ここまで思い出して気づく。
「およ? ならこ↑こ↓は夢の中……?」
自分の置かれている状況を把握する、今夢を見ている事に。
その事に気づいた瞬間、突如謎の声が響き渡る。
「よくーやっーーれたな! このーーーーが!!」
「へ? 男の声?」
どこからか分からぬ所から響き渡る男の声。 その男の声は怒りと邪悪を込められた様な、聞いてて嫌悪感を感じる声だ。
「だがテメェのーーローごっこもここまでだ! 今からテメェに最高のショーを見せーーる!!」
男の声が響き渡り、目の前にはある光景が映る。
「え……ぇ……!」
そこには以前夢の中に出てきた銃を持った男達がその銃口を縛られている子供達に向けている、あまりにフィクションが効きすぎている光景だ。
「ふーーんな!! ガキどもはーー無いだろ!!」
「この声……どこかで……」
男達とは違う怒りの籠った声、その声はどこかで聞いた事のある声だと直感で感じる。
「これからこのガキどもを順番に◼︎す! テメェはそこで見てな!!」
「なっ……!」
「ふざけんな!! ◼︎すならオレだけ◼︎せ!!」
この男は一体何を言っているのか一瞬理解できなかった。 突如言い渡される子供達の◼︎◼︎に呆気に取られていたが、すぐに怒りを露わにする。
「やめろぉ!」
男に向かって駆け出すも、スルリと体が通り抜ける。 まるであざ笑うかのように怒りは男の体をすり抜ける。
「安心しろよ? テメェのお気にーーは最後に◼︎してやるよぉ!」
銃を持った一人の男が引き金に指を添える。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
「まず一人……♪」
「助けて! おーーーーーーー」
響く銃声、しかしその先の光景は映される事なく、世界が闇に堕ちる。
「ーーーーはっ!?」
ここは彼ら男組が寝ている寝室、夢から解放されいきなり目を覚ます。 そこに声をかける一人の男子。
「大丈夫かい?」
その声の主は木村 心悟であった。 彼は心配そうな顔で見つめる。
「あ……あぁ……」
「そうかい? 結構うなされていたから起こそうか心配したんだよ?」
「ありゃりゃ、そんなに酷かったの?」
「そうさ、珍しく彼も心配していたよ」
「彼?」
心悟の指指す方には窓の外をじっと見つめる真条 拳の姿があった。
「拳君が心配だなんて……始業式以来じゃないかな?」
「ふん、俺は別に心配などしておらん」
「寝起きツンデレありがとナス」
拳は窓から視線を離さずに会話する。 しかしそれは彼のちょっとした照れ隠しなのだ。
窓から視線を離さない拳に疑問を持ち、彼に質問をする。
「さっきから何見てんの? 月蝕にはまだ早いでしょ」
「あれを見ろ」
一緒に窓の外を見る、そこには青い光が柱の様に上に伸びている。 その光が何なのか気づく。
「あれって確かジュエルシードの……」
「そうだ、ちょうど今それが回収され、高町 なのはとフェイーーーー以前貴様らが出会った少女がジュエルシードを懸けて戦いを始める頃だ」
「えぇ!? 何でぇ?」
「説明は面倒だ、奪い合いをしているとでも思っておけ」
「そんなに雑に説明しなくても……」
雑にだが、必要な部分は全て伝えた拳。 それを聞いて突然浴衣を脱ぎ始める。
「どうしたんだい? いきなり脱ぎ始めて」
「決まってる、すぐに追いつく為に動きやすい格好に着替えんだよ」
「それは待って欲しい」
「あぁん、何で?」
着替えを制して心悟は言う。
「一応聞くが、あの少女達に会うなら女装をちゃんとしないと駄目だぞ?」
「女装……それなら大丈夫!」
自分のカバンを漁り、一着の服を彼らに見せる。
「じゃじゃ〜ん! チャイナ服〜」(ダミ声)
「 」
「何だ、あるならそれを着てくれ」
さも当然の様に女物の服を取り出す姿を見て拳は言葉を無くす。
「やはりこいつはバカだ……こんな奴を心配したのか俺は……」
「んじゃ、着替っか」
「面白そうだから僕も行くよ」
「なら俺も行かざるを得ないではないか……」
思わず頭を抱える拳を無視し、一人の馬鹿は女装を始める。
女装も終わり、残りの二人も動きやすい服に着替え、旅館から駆け出す。
「あ、待って! そんなに早いのはらめぇ!!」
当然拳と心悟の方が足が早いので後ろで何とか見失わない様に走る。
「はぁ、はぁ、な、なのはちゃんとユーノ君は大丈夫なのか……?」
走りながら二人を心配する。 もちろん信頼はしているが、あの転生者が現れるかもしれない。 そう思うと拳を握る力は増し、いつもより足は早く動く。 三人は森の中を駆け抜ける。
そのころ森の上空にいるなのはとユーノには収穫が幾つかあった。 一つはジュエルシードの反応があった付近に以前出会った少女達がいた事。 二つ目はその少女の名前が『フェイト』と言う名前だと分かった事。
しかしその少女ーーフェイトはなのは達に冷たい視線を向け、側にいる女性ーーアルフは素早く構える。
「あなたの用はそれだけ?」
「悪いんだけどさぁ、今いいところだから引っ込んどいてくれないかい?」
はっきり伝わる敵対の意。 それに負けじと声を上げるユーノ。
「君たちの集めているジュエルシードはとても危険な物なんだ! 使い方を誤ればどんな事が起こるか分からないんだぞ!? なのに君たちは!!」
「関係ない、私達はジュエルシードを回収しなければならない……ただそれだけ」
しかしユーノの説得に耳を傾けないフェイト。
フェイトは長い柄の斧をなのはに向ける。
「私と戦って、それぞれのジュエルシードを一つ賭けて」
「ど、どうして戦わないといけないの!? 私は戦うつもりなんて「いいから早く!」うぅ〜〜〜〜!!」
当然なのはの言葉にも耳を貸さないフェイト。 そんなフェイトを見て少し目を閉じるなのは。 深呼吸をしながら二人の友の姿を思い出していた。
一人は自分の想い人、拳の姿。 自分と親友を助けてくれた大切な人。 その人は言っていた、「本来は介入してはいけないのだが、どうやらこれは自分でやらなくてはならない事のようだ」。 自分でやらなくてはならない事、今のなのはにとってジュエルシードを集める事は自分でやらなくてはならない大切な事、他の誰かではなく自分が成し遂げなければならないこと。 それを自分の想い人から教わった。
二人目は最近友達になった霧刀の姿。 始めてジュエルシードに遭遇した際、霧刀はボロボロになりながらもユーノを助けだしなのはに託した。 その時叫んでいた言葉、「受け取ってくれ」。 その言葉にはユーノを受け取って欲しい、それ以外の意味があると今のなのはは考える。 あの時の霧刀の姿をなのはだけでなく恭也とユーノも見た。 怖い筈なのに化け物に立ち向かい、痛くてたまらないのに立ち上がるその姿に、黄金の様に輝く意思を感じ取った。 なのはは霧刀から『黄金の精神』を託されたのだと考える。
数ヶ月たった今、拳から教わった事を理解し、霧刀から託された意思を受け取る。
なのははゆっくりと目を開け、目の前で武器を構えているフェイトを見つめる。 その目に宿るのは恐怖ではなく勇気。 彼女は今この瞬間、一人の魔導師になったのだ。
「行くよ、ユーノ君!」
「なのは…………うん、分かった!」
睨み合う二人、言葉はもう必要ない。
「…………!」
「…………ッ!」
ーーーーぶつかり合う二つの閃光、星が輝く真夜中に新たな光が生まれる。
その光を三人は確認する。
「どうやら戦闘が始まったようだ」
一度立ち止まる拳、他の二人も拳に追いついて足を止める。
「どうだい?
「いや、あの感じだといなさそうだ」
「って事はパツキン女の子とオレンジお姉さんだけか?」
「そのようだな」
現状を確認する三人、どうやら転生者はこの場にいない様子。 彼らの心配は杞憂に終わったようだ。
「それなら安心だが……野郎の顔を見れないのは残念だ」
「そうだねぇ、高町が酷い事をされていないのなら良いんだけどねぇ」
「心配しているのかどっちなんだ?」
『一発ぶん殴りたい』
「はぁ……」
彼らに余裕が生まれる、しかしそれとは裏腹に遠くに見える光は強さを増していく。
「だいぶ戦闘も激しさを増してきたな」
「どうする? 僕らは少し隠れておくかい?」
「ならもう少し近づいてから隠れるとしよう」
「オレは?」
「都はむしろ堂々としてくれ」
「OK!」
三人は彼女達に近づき、拳と心悟は身をひそめる。 逆に女装をしている馬鹿は堂々と彼女達に近づく。
「戦場に颯爽と現れるチャイナショタ……じゃなくてロリ! オレ参上!!」
何て言いながら接近するが、途中である異変に気付く。
「な、奴は……一体……」
突如現れた全身を黒い髪、黒い服、黒い杖。 なのはの白いバリアジャケットとは対極に位置するような色彩の服装。
「あ! アレは
現れた人物が少年である事に気付く。 少年はなのはを魔法で拘束し、標的をフェイトに変える。
「くっそ……!」
明らかな異常事態、隠れていた二人も飛び出す。
「おい真条! 何故彼がここで!?」
「知らん! まさかここで転生者の影響が……!?」
少年達が困惑する中、フェイトは現れた少年を見て狂気に堕ちる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
フェイトの悲鳴が響き渡る。
なのはは突如現れた少年の拘束魔法を受けて身動きが取れなくなっていた。 なのはは黒い少年に向かって叫ぶ。
「フェイトちゃんは男の人が駄目なの! だからフェイトちゃんに酷い事しないで」
以前心悟から聞いたフェイトのトラウマ疑惑、それはここになってほぼ真実になる。 しかし少年はなのはを無視し、フェイトとアルフに伝える。
「僕は管理局の者だ。 事情は分からんが取り敢えず大人しくして僕についてきて欲しい」
「ふざけんな! フェイト逃げるよ!」
「……! 待て!」
フェイトを抱え逃げようとするアルフ、少年は二人に向かって魔法を放つ。 彼は彼女達が戦闘によって焦げ付いた部分を的確に狙撃し、最小限の魔力で無力化をはかる。
「かはっ!」
「うぐ……フェイト!」
フェイトは衝撃によって意識を手放す。 フェイトを抱きかかえ彼女の事を心配するアルフ。 どうやってこの場から逃げるか、彼女は悩み、考え、思考の渦に飲まれ足を止める。
少年はその隙を見逃す事もない、デバイスの先端に魔力を込めながらアルフ達に狙いを付ける。
「ダメ! そんな事したら……!」
「殺すわけじゃない、拘束したいだけだ」
少年を止めようとするなのは、だが少年はフェイト達から視線を外さず、魔力をさらに込める。
「止めて! フェイトちゃんを傷つけないで!!」
「えぇいしつこい! だから殺す気はないと言っているだろう!」
なのはの必死の制止も、少年は怒鳴り散らしてかき消す。 そして意識を完全に杖に移す。
アルフに抱きかかえられていたフェイトは目を覚ます。 どうやら傷はそこまで深くない模様。
「あれ……私は……」
「フェイト! 気が付いたんだね!」
「アルフ……私どうしちゃったんだっけ?」
「ごめん、説明は後。 今は逃げるよ!」
フェイトが目を覚まし、安堵するアルフ。 しかしそれによって生まれたスキを少年は見逃さない。
「狙うなら……今!」
「くっ!」
アルフはフェイトを抱えたまま上空へ逃げる。 少年はそれを見逃さず照準を合わせ、そして青い光がついに放たれる。
「やめて……」
目の前の光景にただ叫ぶしか出来なかったなのは、その声は次第に弱くなっていく。
「やめてよ……」
それでもやめない。
「誰か……フェイトちゃんをーーーーーーーー」
声にすらならない叫び。 誰の耳にも届かないと思われたその声にーーーーーーーー
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「な……うわっ!?」
「……え?」
たった一つ、闇夜を貫く様な咆哮が答えた。
ほんの少し前、少年の到来に驚く三人の少年達は目の前で起こっているイレギュラーに戸惑っていた。
「おいおい、まさかアレが例の転生者じゃねぇだろうな!」
「いや、彼は管理局の人間だろう。 悪人ではない」
「何だ……って男の子だとパツキン少女がヤベェだろ!?」
「その通りだ。 ……しかし何故このタイミングで彼が??」
少年が悪人でない事を知るも、それでもフェイトの危機である事には変わりない事を知る。 一方で拳と心悟はこのイレギュラーをどう対処するか必死に考えていた。
「僕の記憶が正しかったら彼の登場はもう少し先ではなかったか!?」
「えぇい! 俺にだって分からない事くらいある!」
「あ! 攻撃しやがった!」
口論する心悟と拳、それを他所に少年がフェイトとアルフに攻撃を始めるのを見る霧刀(仮)。 二人が傷ついていく光景に我慢出来ずに走り出そうとする。
「くそっ! 止めないとーーーー!?」
しかし突然動きを止める。
そして頭の中に木霊する謎の声。
ーーーーーーやりやがったなクソが!
「ーーーー何だ……これ……?」
ーーーーーーいつの間に仲間なんざ呼びやがって……!!
「うぐっ……こ……これは……オレの記憶……!?」
「お、おい、どうした?」
「大丈夫かい都?」
口論をしていた二人は異変に気付く。 しかし二人の声は霧刀(仮)には届かない。 脳裏に巻き起こるフラッシュバック、現れては消えて、何度も起こるソレは視界を奪い意識を支配する。
ーーーーただじゃ死なねぇ! そのガキも道づれだ!
叫んでいるのは何度も夢に出てきては悪意に満ちた声を発する男。 その男は血を流し、足も切断されている状態で這いつくばりながらもこちらに銃を向けている。
ーーーー次の瞬間、やけに乾いた音が聞こえた。
自分に何も起こっていない、そう気付くと後ろに振り向く。
ーーーーそこには一人の少年が頭から血を流して倒れていた。
その少年も何度も夢に出てきた少年、きっと自分にとってとても大切な少年だったのだろう。 その少年が今、血を流し倒れている。
嘲笑うかの様に叫ぶ男。
ーーーーハハッ! ざまぁねぇな!
「……黙れ」
男の声に霧刀(仮)は小さく呟く。 だが男の叫びは止まらない。
ーーーー俺たち全員仕留めても結局結果は変わらねぇ!
「……黙れ……!」
否定する様に呟く。 それはとても小さな声。
ーーーー結局テメェじゃ…………
「黙れ……っ!」
男の声を遮る様に呟く。 まるでその先を知っているかのように。
しかし、男はその先に言葉を続ける。
ーーーー……なぁんにも守れぇんだよッ!!
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
霧刀(仮)の叫びは目の前の光景をかき消す。
視界は元に戻り、男の声も消える。
「はぁ……はぁ……」
息が乱れ、肩で呼吸し、汗も滝の様に流れる。
「どうした!? 一体何が……?」
「落ち着くんだ都、深く深呼吸して息を整えろ!」
心配する二人には一体目の前の人物がどんな光景を見ていたのかは分からない。 それでも伝わってくる異常な様子に二人は心配せざるを得ない。
しかしイレギュラーはまだ続いている。
拳がなのは達を見ると少年がフェイト達に向かって魔法を放つ準備をしている。 なのはが必死に訴えかけているが、魔法は徐々に光を増していく。
「なんとういことだ……! このままあちらを放って置くとマズイ!」
「どうすればいい!?」
「何とかしてこちらに意識を向けさせて攻撃を止めさせなければ……!」
「……攻撃?」
未だ頭の整理が出来ていない霧刀(仮)は拳が言った『攻撃』と言う単語に反応する。
視線を上に上げると少年がフェイト達に向かって魔法を放とうとしている光景が目に入る。
「やめろぉーーーーガッ!?」
少年に向かって叫ぼうとしたが、ある異変が体を襲う。
「うっ……なん……体が熱……!?」
それは熱、体の内側から溢れ出す熱が霧刀(仮)を襲う。
そんな事は露知らず、少年はフェイト達に向かって魔法を放つ。
心悟は驚き、拳は割って入る準備をする。 霧刀(仮)はその光景を見て先ほどの光景がまた映る。
無慈悲な弾丸が少年を撃ち抜くその時、自分は何をしていた?
「やめろ……」
力が無かった? 自分は強くなかったから?
「やめろ……」
ならば問おう、力があるなら目の前の少女を救う事が出来るのか?
「やめろぉ…………ォ……ォ……」
霧刀(仮)を苦しめていた熱にとうとう体は耐えきれず、その熱を体の外へ放出する。
「ォ……ォ…………ォォォォォオオオオオオオオオッ!!」
小さな体から発せられる大きな雄叫びと共に……
その雄叫びは周りの木々の葉を散らし、少年に向かっていく。
「な……うわ!?」
その雄叫びを聞いた少年がこちらを向いた瞬間、雄叫びが聞こえた方向と真反対の方向に吹き飛ばされる。
まるで質量を持った声、その声が少年と少年の放った魔法を吹き飛ばす。
その場にいた全員が一斉に振り向く、雄叫びの主の方へ。
「き、霧刀君!?」
「い、今のは霧刀さんが!?」
驚きの声を上げるなのはとユーノ。
「あ、あれはあの時のガキンチョ……!」
「あの子……!」
フェイトとアルフも声を上げる。
「くっ……!」
吹き飛ばされた少年は少し吹き飛ばされた後、すぐに体制を持ち直す。
「ま、まさか今のはあの子供が……!?」
誰もが霧刀(仮)に意識を向ける中、この場から離れようとする人物が二人。
「逃げるよフェイト!」
「え……でもあの子が……」
視線の先にいる霧刀(仮)はいつの間にか地に伏している。 まるで糸が切れた人形のように。
「あんなにひょうひょうとした奴が簡単にくたばったりしないよ! それより早く逃げないと!」
「う……うん」
霧刀(仮)の雄叫びのおかげで冷静になれたフェイト。 二人はどこか遠くの空に飛んでいく。
「……ごめんね」
「無事でいるんだよ……」
小さく呟く二人、二人だって心を持った人間だ。 目の前で倒れる一人の子供に何も思わないわけではない。 少しの後悔を残し、二人は闇夜に溶けて消えていく。
「霧刀君……」
「……っ!」
地面に倒れている霧刀(仮)を心配するなのはとユーノ。 しかし二人はすでに先ほどの戦闘で疲弊し、魔力もほとんど使い切っている。 二人に戦う力など残っていない。
「……」
吹き飛ばされた少年はなのは達に近づく。
「こ……こないで!」
「くっ……(管理局の人間に手を出した霧刀さんが何らかの罪に問われてしまうかもしれない……そんな事は嫌だ!)」
ユーノは考える、このままでは霧刀(仮)に何らかの罪に問われてしまうのでは、と。 そんな事をさせないよう為に考えるも、すでに自分達に逃げる手段すらも残されていない事に気付いてしまう。
「こうなったら……!」
ヒートアップしていくユーノ、そんな彼はーーーー
「待て待て、勝手に盛り上がらないでくれ」
ーーーー少年の言葉で水をかけられた様に熱を鎮める。
「誤解させてしまったが、僕はただ話しを聞きたいだけだ」
「え?」
「確かに彼女にバインドをかけたり、あの二人に攻撃したが、あのままではこちらが攻撃されていたのかもしれない。 ちょっとした正当防衛だ」
「ほぇ……」
「と、申し遅れた。 僕は時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ」
遅れて自己紹介をする少年ーークロノはなのは達に敵対の意志はない事を伝える。
戦闘の終結、思わずなのはとユーノは力を抜く。
「はぁ……疲れたの……」
「ぼ、僕も……」
「こちらだって予想外の事で頭が痛い」
「あ、霧刀君は……」
なのはの心配する声に地上からの声が答える。
「おぉーい、都は無事だ! 今は気を失っているだけだ!」
「あ、心悟さん!」
「拳君も!」
なのは達に手を振る慎吾、その隣で霧刀(仮)を担いでいる拳の姿を確認する三人。
「よかったーー」
「ちょっと待て、あいつを君付けで呼ぶって事は男なんだよな?」
「え、うん」
「だったら何故男が女物の服を着ているんだ!?」
『霧刀君(さん)だから』
「どういう理由だ!?」
思わず頭を抱えるクロノ。 なのはとユーノは少し困った様に笑う。
数秒後、クロノはなのは達をつれ地上にいる拳達の所に行き、咳払いをしてか、話しかける。
「とりあえず、何故こんな事になっているのか、その理由と君達がこれまでしてきた事を知りたい。 申し訳ないが寝ている彼も一緒に我々の船に同行してもらえないか?」
「えっと……船?」
「あぁと、君達が思っている様な船ではなく……」
[私達の戦艦ーー『アースラ』に来てもらいたいの]
なのは達の目の前で突然開いた様に現れた青い窓枠の様な物から一人の女性が映る。
薄い緑色の髪を後ろで束ねてポニーテールにした、どこかなのはの母親、桃子に雰囲気が似ている女性は話し続ける。
[心配しないで? そちらの……霧刀君だったかしら? その子の事もちゃんと診てさしあげるから]
「本当ですか!」
[ええ、本当よ]
なのはが最も気にしていた霧刀(仮)の容態、それを診てくれると女性が伝えるとなのははすぐに承諾した。
「そちらの二人は……」
クロノは拳と心悟にも同行を願う。
「もちろん行くよ。 戦艦に乗れるとは……これが男の浪漫と言うやつだね」
「こいつらが行くなら俺も行かざるを得ん」
二人はすんなりと承諾する。 なのは達と違って元から答えが決まっていたかのように。
「それなら今から転移魔法をかける、君達はそこから動かないでくれ」
「あ、はい」
「分かりました」
彼の魔法を主張する水色の魔法陣が全員の足元で時計回りに回り始める。 そしてーーーー
「転送!」
『ーーーーっ!!』
その魔方陣が起動した瞬間、その場にいた全員が消える。 その場に残るのは激しい戦闘の傷跡と、異様に晴れた夜空だけだった。
今回は自分で書いててそんなにギャグが少ないと感じました。 次回はもっとギャグを増やさなきゃ(使命感)
今回も誤字脱字等のミスがありましたらコメントにてお教えください。