……今回は土俵に上がった者、上がろうとしない者の戦いです。
27話
虚数空間むき出しの空間で睨み合う二人の子ども、輝凛とメアリー。 メアリーは先ほどカウンターの要領で拳を貰った顔面を抑えながら、何故自分が攻撃されたのかを考えている。
(……確かに何の策も労せずに愚直に突っ込んだのはボクが悪い。 でも並大抵の魔導師では目で追う事も出来ないボクのスピードについてこれるだど……!?)
メアリーとてよくいる馬鹿な転生者ではない。 しっかりと分析し、出来る限り完璧な勝利を掴むために思考を重ねる。
(ただの偶然で片付けるにはまだ早い。 次の攻撃で見極めてやる!)
再び輝凛に向かっていくメアリー。 今度は高速移動を繰り返し、輝凛を翻弄する作戦に出る。
「どうだ! この速度にはついてこれまい!」
「な、何て速さだ!」
「メアリーが……何人も……!」
驚愕の声を上げるアルフとフェイト。 しかし二人だけではない、その場にいる人間にはメアリーの圧倒的な速度で生まれた残像に驚く。 いわゆる残像拳と言うやつだ。
「ふははははは! どれが本物か分かるまい!」
四方八方に現れるメアリーの残像、しかし輝凛はそれらに目もくれず、ただ真っ直ぐ視線を伸ばしている。
(これで決めてやる!)
無数の残像の中から本物のメアリーが飛び出す。 メアリーは上空から姿を現し、輝凛の脳天に向かって拳を下ろそうとする。 今だメアリーの方向を向こうとしない輝凛の姿を見てメアリーはほくそ笑む。
(やはりさっきのはただの偶然! 奇跡何て一度しか起きない!)
勝利を確信し、より強く握る拳。 その拳をーーーー
「!?」
ーー正面を向いたままの輝凛が掴む。 そして右手でメアリーの手首を、左手で拳を握り、剣道の素振りの要領でメアリーを地面に叩きつける。
「フンッ!」
「〜〜!?」
視界が急に変わり、背中の痛みによって初めて自分が地面に叩きつけられたことを把握する。 メアリーが混乱している中、輝凛はメアリーの手を離さず、メアリーを持ち上げる。 そして回転し始める。
「〜〜ッ〜〜!」
またしてもメアリーの視界が変わるかわる。 当然だろう、何せまるで鉄球投げみたいに輝凛に回されているからだ。 必死に脱出しようとするも、目まぐるしく変わる景色。 先ほどからの自分の醜態に、脳が追いつかない。 いや、追いついたとしても心が追いつかない。
「オラッ!」
そして誰もいない方向へ投げ飛ばされるメアリー。 メアリーはされるがままに投げられる。 メアリーの頭には疑問で一杯だった。
(何故だ……百歩譲ってカウンターを決められたのはいい。 しかし、何故だ……!)
立ち上がり、輝凛を睨む。
(何故サイヤ人の肉体でされるがままにされているのだ!?)
参考までに、サイヤ人は拳銃で撃たれても痛いの一言で済み、車に轢かれても轢いた車の方がひしゃげ、レンガを指一本で粉砕することが出来るほどの強靭な肉体なのだ。 その肉体を持ってしても、今だ目の前の転生者に翻弄されているメアリー。 徐々に彼のフラストレーションは溜まっていく。
「貴様……何をした……」
「……」
メアリーの問いかけに輝凛は答えない。 ただ黙ってメアリーを見据える。
「クソ……ボクを馬鹿にしているな……」
「……」
「く、グ……うおぉぉぉぉぉぉ!」
再び輝凛に向かうメアリー。 左手を構えて、手刀を放とうとする。 余りにも愚直な行動、その攻撃に輝凛は避ける事もせず、再び攻撃が届く前に右手でメアリーの手首の辺りを掴んで止める。
「グググ……!」
止められてもなお左手に込める力を抜かないメアリー。 しかし、どれだけ力を込めても左手は前に進まない。
「く、くっ……くっそぉぉぉぉ!」
今度は右手を固めて輝凛の顔めがけて拳を放つ。 しかしこの攻撃も輝凛に阻まれる。
「何故だ……何故止められる!?」
左手は右手が、右手は左手が、それぞれ反対の手で攻撃を止められ、二人の顔と顔は今にもくっつきそうなくらい近い。
「ならば覇気は止めて……この『万華鏡写輪眼』で異空間に飛ばしてやる!」
メアリーの両手から黒みが引いていき、今度は両目が変化する。 二重の三枚刃の手裏剣の様な模様になる。
「喰らえ……神威ーーーーーーーー!?」
……しかし……しかし、ほんの一瞬だ。 ほんの一瞬両手の力を緩めたからだ。 前に進まなくなった左手からいつの間にか輝凛の右手が消えている。 そしてーー
「ガフッ!?」
ーーそしてメアリーの顎を打ち抜く右拳。 衝撃で顔は上を向き、万華鏡写輪眼は不発に終わる。 そして、忘れてはならない。
「……!」
人間にはもう一つの手があることを。 輝凛は左手を開き、メアリーの顔面に左手を置き、右足を前に思いっきり出す。 そして前に進む力を利用して左手でメアリーを前に押す。
「〜〜ッ〜〜ッ〜〜!」
再び、何度目だろうか。 メアリーは吹き飛ぶ。 悶絶している彼に輝凛はようやく話しかける。
「お前、二つの能力を同時に扱えないんだろ」
「!?」
「あのまま万華鏡写輪眼うっときゃ顎は打ち抜かれなかったのに。 まぁ、その時は足を使ったがな」
ようやく口を開いた輝凛はメアリーの弱点を話し出す。
「まぁ、多分鍛えりゃ両方同時に使えるんだろうけど……どうせ特訓とかもしてないんだろ?」
「黙れ……」
「まぁ……仮にそうだったとしてもオレが勝つけどな」
「黙れぇ!」
怒りに任せ輝凛に突進するメアリー。 輝凛は闘牛士の如くヒラリと躱し、拳を叩き込む。
「くっそぉぉぉぉ!」
悔しさのあまり叫び出すメアリー。 その様子が信じられないのか、プレシア女史は驚きの声を上げる。
「あの子……メアリーをあそこまで翻弄するなんて……」
「うん、私もびっくり……」
輝凛の後方、なのは達は輝凛の戦いを見て感心している。
「すごい……まるでお父さんみたい」
「輝凛さん凄いや!」
「まさかあの変態があそこまでやるなんて……」
素直に感嘆するなのはとユーノとクロノ。 しかし拳と心悟と一喜は何だか微妙な表情を浮かべている。 しかも心悟にいたっては輝凛を見ずにメアリーばかり見ている……自身の能力を使いながら。
それでは皆様の為に、何故輝凛がメアリーを圧倒しているのか、その理由をお教えしよう。 それは今から時間を巻き戻し、輝凛が鼻血を流して医務室に運ばれた時の時間に戻そう……
医務室にいるのは輝凛、心悟、拳、一喜が集まっていた。 目的は心悟がメアリーの心を覗いた時の情報共有だ。
「さて、心を覗いたと言っても実際に会って覗いたわけではないから詳しいことは分からないが、色々分かったぞ」
全員黙って話を聞く。
「まず、彼には目的という目的はない」
「ん? どういうことだってばよ?」
「彼はねぇ……何となくさ、そう何となくで行動しているのさ」
「つまり……どういうことだってばよ?」
「そうだねえ……彼は行動することが目的であって、目的に向かって行動はしていないのさ」
メアリーの行動原理はチートを使って好き放題やることが目的。 行動し続けることが目的であり、何かを成し遂げようとはしないことを心悟は伝える。
「……それって変じゃね? だってアレだけ奴隷だの調教だの……色欲丸出しだったやん?」
輝凛の疑問は最も。 しかし自らの会見を心悟は話す。
「僕が思うに、彼にはそれしかないんだよ」
「それしか……?」
「そう。 この世界では確かに一番の実力者なのかもしれない。 でもその強さを元いた世界の人間には見せることも出来ない。 見返したい奴も、復讐したい奴も……だから彼には目的がない。 転生したことで彼の目的は成されたんだ」
メアリーは転生前の世界でイジメにあっていた。 学校に行けば誰かに痛めつけられ、教師達はそれを黙認している。 家に帰っても両親は共働きでいない。 彼には味方となる人間がほとんどいなかった。 転生する際に色んな能力を得たのも、今まで自分をイジメて来た人間を見返すため。 しかし転生先には自分を知っているものはいない。 誰も自分を知らない。
「だから彼は転生者だから、そういう理由であんな事を言っていたんだ。 女性を囲おうとするのも、力を振るうのも、全て転生者だから。 それ以外の理由がないからだろう」
心悟の口から告げられるメアリーの心境。 その心はもしかすると輝凛よりも空っぽなのかもしれない。
「……だからこそ、朱澤兄、君の力が必要だ」
「俺の力……ですか?」
「そうだ。 君が彼の心を救ってやれば、まだ彼はやり直せる。 真っ当な道を歩める」
「俺が……はい!」
一喜の中で決意が固まる。 自分が弟を救わねば! 思わず拳を握る。
「なら……オレがメアリーを一喜の目の前にださないとな」
「はい……お願いします。 俺はこの『異能を打ち消す能力』しか持っていないので……」
「それでさぁ……木村君と一喜君に協力してもらいたいんだけど……」
ついに……いよいよ……輝凛がシリアスを壊しにかかる。 嫌な笑みを浮かべながら二人に話す提案とは……
「一喜君はあいつがマップ兵器使ってきたらそれを止めてくれ。 ぶっちゃけ隙が生まれる。 そして木村君……」
輝凛が心悟に頼みたいこと……それは戦っている最中ずっと能力でメアリーの心を覗き、メアリーの行動を輝凛に念話で伝えると言うもの。
そう! これこそが輝凛がメアリーを圧倒している理由なのだ!
時間を元に戻して見てみよう。 メアリーが輝凛に向かっていく、その行動を心悟が念話で伝え、念話を聞いた輝凛がカウンターを打ち込む。 つまり一対ニの状況で戦っていたのだ! 最初から!
しかしそれを知っているのはその場にいた4人のみ。 知らないなのは達は輝凛の優勢に喜び、フェイトにいたっては尊敬の眼差しを向けている。 だが真実を知っている一喜は何だか微妙な表情を浮かべている。
だが、待ってほしい。 この戦法は一見簡単そうに見えて難しいのだ。 心悟はメアリーを見逃さずに目で追いかけ、輝凛は伝わった情報を元に最善の手を決めて行動する。 この二人の瞬発的な判断力によって成り立っている戦法なのだ。 二人の力量はメアリーを圧倒的に超えているのだ。
「クソ! クソ!」
そんなことは露知らず、メアリーのストレスはどんどん溜まる。 そしてついに彼はデバイスに手をかける。
「貴様は斬月で殺してやる!!」
五角形の形をし、ドクロにバッテンが描かれている札を出す。 そしてその札は大きくて無骨な大剣に変化する。
「もう小細工はしない、一気に刻んでやる! 卍解!」
凄まじい光がメアリーから発せられ、辺りは噴煙が巻き起こる。 煙が晴れると、そこには全身を真っ暗に染め上げ、先ほどまで背丈以上の高さがあった大剣は細身の刀に変化している。
「『天鎖斬月』」
「……」
変化したメアリーに何の反応もせずに、輝凛はただ見つめている。
「卍解したボクのスピードはさっきまでの倍以上だ! ついてこれまい!」
言い終わるとメアリーはその場で消える。 いや、高速移動が余りにも早くて消えたように見えるだけなのだが。 しかし、メアリーの言う通り先ほどまでとはあきらかに速度は違う。 ……しかし、それでも変わったのは速さだけなのだ。
「だりゃ!」
「なっーー!?」
背後に回ったメアリーを見もせずに裏拳を顔面に叩き込む。 速くなったとしても、二人の戦法には何の影響もないのだ。
「何故だ!? やつは大したことのない踏み台のはずだ! このボクがやられっぱなしのわけがない!」
湧き上がる疑問、不満を叫ぶメアリー。 そのメアリーに対して輝凛は口を開く。
「……はっきり言っておくが、オレはお前に対してデバイスは使わない」
「何っ?」
メアリーを見つめる輝凛。 その目には侮蔑の意思も、哀れむ意思もない。 見下す目ですらない。 何でもない目でメアリーを見ながら話す。
「オレは……みんなの助けがあってここに立っている。 なのはちゃん達がいなけりゃ、拳君達がいなけりゃ、オレはお前に立ち向かおうともしなかっただろう」
輝凛の声はまるで子どもを諭す親のように、優しさを持ってメアリーに伝える。
「だが、お前は常に1人だ。 何故なら誰もお前を理解できないから、お前は理解されようとしないからだ」
メアリーに少しづつ近づいて行く輝凛。
「オレとお前じゃ、立っている土俵が違う、戦う土俵が違う。 土俵も違う相手に本気は出さん」
メアリーの目の前で歩みを止める輝凛。 ただメアリーを見つめている。
「……ふざけるなぁ……っ!」
自分を見つめる輝凛が気にくわないのか、メアリーは輝凛を睨む。
「お前も……お前も……ッ! お前もボクを見下しているんだろ!?」
メアリーの脳裏に蘇る以前の記憶。 同級生にいじめられ、教師に見捨てられ、家族は誰も助けてくれない。 そんな記憶が蘇る。
「見下してなんかいねぇよ。 同じ土俵にも入ってこないのにどうやって見下すんだよ」
「黙れぇ!」
メアリーは後方に飛び、武器を構える。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろきえろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
発狂しながら武器を真っ直ぐに振り下ろす。 そして黒い三日月状の斬撃が放たれ、輝凛に向かっていく。
「やれやれ……最後は飛び道具か」
眼前に迫ってくる黒い三日月に恐れもせずに立ち向かう。
「最後に飛び道具頼るとな……その飛び道具をいなされた時に何も手立てがなくなるからやらねぇのが基本なんだよ!!」
両拳を天に向ける。 その両拳はイナズマを纏っていて、凄まじい魔力が込められていると推測できる。
「フンッ!」
目の前まで来た三日月を拳と拳で挟んで受け止める。 三日月を受け止めた輝凛は少し後ろに押されるも、すぐにそれは止まる。 そして両拳の圧力に耐えられなくなり、三日月はくだけ散る。
「ば……バカな……!?」
最後の手をアッサリと止められ、メアリーはその場に立ちすくむ。
「……」
輝凛はその様子を見てメアリーに近づく。 その無防備な姿に、メアリーは何も出来ずに輝凛をただ見ている。
「あ……あぁ……!」
心が理解してしまったのだろう。 こいつには勝てない、と。
「あぁぁ……ぁぁあああ!」
すでに戦意は喪失し、目の前まで来た輝凛にただただ恐怖している。 そんなメアリーを見て、輝凛は最後の一撃を放とうとする。
「この拳はな……フェイトちゃん達の分じゃねぇ。 オレの分でもねぇ。 ……この拳にはお前の兄、一喜君の思いがこもっている」
メアリーに放つ最後の技とは!
「反省しろ!!!」
「ガッーー!?!?」
拳を握りしめ、真上から真っ直ぐに脳天めがけて振り下ろす……『拳骨』だ。
「感謝するんだな、一喜君の……お前に対する『家族愛』ってやつに」
……どこかの海軍中将が言っていた。 『愛ある拳は、防ぐ術なし』、と。 暴走していた彼を止めるには、やはり愛なのだろうか……?
「ーー」
「ありゃ、もう気絶してら」
何にせよ、輝凛対メアリーの戦い。 輝凛の(作戦)勝ちである!!
まさかの1話で敗北するメアリー。 そして卑怯と言うかズルいと言うか……取り敢えず勝利した輝凛。 しかし、まだその場所には危険が残っている。 早く脱出するんだ!
次回、オレだって原作改変したい。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。