33話
ボクは一体何がしたかったんだろう。
転生する前のボク、朱澤 メアリーこと翔次は、所謂いじめられっ子だった。 運動が出来なければ勉強も大して出来ない。 いつも誰かの足を引っ張って生きてきた。
兄貴の一喜は違かった。
運動も出来て頭も良くて、誰からにも好かれる兄貴は中学二年の時に生徒会長になっていた。 教師からの人望も厚く、市の中じゃちょっとした有名人だった。
ボクと兄貴はこんなにも違う。 だが違うだけでボクと兄貴の価値はそんなに変わるのだろうか? 運動が出来たら体育の時間に虐められないのか? 勉強が出来たら馬鹿にされないのか? 生徒会長になったらそんなに偉くなるのか? ならボクの人としての価値はそんなに低いのか? ……誰かに答えて欲しかった。 誰も知らない人に答えて貰いたかった。
何故目の前は闇が広がるだけなんだろう。 何故ボクはここで苦しんでいるんだろう。 誰かボクに気付いて…………!
ーーーー翔次?
誰かがボクの名前を言った。 瞬間、光が訪れた。
目を開けると見知らぬ天井が見える。
「ここは……?」
「お、起きたか翔次」
「……兄貴?」
惚けていたボクに声をかけたのは兄貴だった。 兄貴が状況を説明してくれた。
「……という訳で、現在アースラは地球に向かって行っているんだ」
「そうか……地球か……」
ボクは寝かされていたベッドから上半身だけ起こす。 そして兄貴と向き合う。
「兄貴……ボクは何がダメだったんだろうな?」
「翔次?」
突然語りだすボクに困惑する兄貴、だがこのまま続けさせてもらう。
「ボクは……今までイジメられてきた。 兄貴だって知っているはずだ」
「……」
「ボクらが死んだ時、あの時ボクは雨が降る中兄貴にこう言ったよな『あんたは何にも知らないだろ! ボクの苦しみも……怒りも!』って」
「……あぁ、覚えているよ。 その後走り出すお前を追いかけて……一緒にトラックに轢かれたことも」
ボクはあの時の嫌な感触を思い出す。 兄貴も同じなのか嫌な顔をしている。
「……あの後出会った、あの胡散臭い神によってボクは転生した。 そしてこの『リリカルなのは』の世界が二回目の人生を送る場所になった」
「……翔次」
「ボクは転生して得た力で、ボクを見下してきた奴らを見返すつもりだった。 でも……この世界にはあいつらはいない。 この世界には! ……ボクを見てくれる人間はいなかった。 だからボクはもう踏み台の真似事をする以外選択肢が生まれなかった」
「お前……」
視線を下げるボク。 一体何をしているんだろうか。
「踏み台になれば、きっとボクを知っている転生者に出会えると思った。 ……そしてこれがその結果だ。 他人を傷付け、そして終いには力を剥奪される……愚かしいにも程がある」
自虐して……そんな自分を笑う。
「兄貴と再会できたのに……ボクは兄貴の否定しか出来なかった。 あいつの言う通りだ、ボクは理解されようとしなかった。 自分の世界に閉じこもって……見もしないのに」
「俺は……」
「兄貴……?」
顔を上げ兄貴を見る。
「俺はずっとお前を見てきたつもりだった」
「兄貴が……ボクを?」
「家での生活、学校での生活……俺はいつだってお前を気にしていた」
「……冗談だろ?」
ボクはつい否定してしまう。 でもいつも周りに誰かいる兄貴がボクのことを気にしていただなんて信じられなかった。
「本当さ、授業を聞いてる時だって、生徒会の仕事をしている時だって常にお前の事を考えていたよ。 ……少しお前の事が羨ましかったからからもしれんが」
「ボクの事が……羨ましいだって?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。 兄貴は少し恥ずかしそうに答える。
「俺はずっと人の目に晒され続けた。 その目はいつも期待の眼差しで、俺はいつもその期待に答える為に必死だった。 だからそんな眼差しを向けられないお前が少し……羨ましかったんだ」
「……ボクと逆だね、ボクはいつも兄貴が羨ましかったよ」
……もしかしたら初めて聞いた兄貴の本音、そして初めてボクの事を兄貴に話したのかもしれない。 そう思うとなぜか頬が緩む。
「……そうか、分かったかもしれない」
「何がだ?」
「ボクが本当にやりたかった事さ。 ボクは兄貴と話したかっただけなのかもしれない」
ボクは兄貴にボクの本心を語る。
「昔みたいに……兄貴とただ喋り続ける事が出来れば……それ以外何も望まなかったんだ。 ……なのにボクはいつの間にか兄貴に劣等感を感じて……一人で塞ぎ込んで……どうして忘れていたんだろう」
語り終えたボクに今度は兄貴が話し出す。
「俺もだ。 俺も翔次とこうして話がしたかったんだ。 不思議だな、俺達は初めて心が通じ合ったんだ。 ……昔みたいに」
昔のボクらを思い出す。 昔から仕事が忙しかった両親はいつも家にいなかった。 家で二人だけだったボクらはずっと話をしていた。 あの頃のボクはそれだけが唯一の楽しみだった。 唯一笑顔になれたんだ。
「思い出したよ兄貴、昔のボクを」
「ああ、今のお前は昔の翔次だ」
ようやく……ボクらは笑い合う。 ……不意に兄貴の体に異変が起こる。
「兄貴、何か体が……透明に……それに光が……!」
「……どうやらもう時間みたいだ」
「時間ってなんだよ!?」
「俺は一度転生を断った。 その上で転生を願ったからな、お前を助けるまでしか転生が許されなかったんだ」
説明をしている間にも目の前の兄貴は少しづつ消えていく。
「そんな……せっかく兄貴と分かり合えたのに……!」
「翔次……いいか翔次、これが最後の言葉だ。 よく聞いてくれ」
兄貴は消えかかっている両手をボクの肩にかけて真っ直ぐにボクを見つめながら……最後の言葉を告げる。
「これでいいんだ。 俺はここで初めて
どんどん消えていく兄貴、でもボクは黙って兄貴の言葉を聞く。
「『本当の死』とは誰かに
肩に触れていたはずの兄貴の手の感触を感じなくなる。 でもボクは兄貴を見る。
「俺の意思は……兄弟を思う意思はお前に託す。 いや、もうお前に託した。 俺はもう満足だ」
何故だろう? 悲しいからか? 涙が止まらない、涙がボクの視界を遮る。 それでも兄貴の顔をしっかりと捉える。
「輝凛さんや拳さん達には勝手に消えてごめんなさい、そしてありがとうと伝えてくれ」
消えかかる兄貴を光が包む。
「これが『本当の死』……怖いけど……嬉しいんだ……そんな不思議な感覚だ」
直感で理解する。 あと数秒後には兄貴が消えてしまうと。
「兄貴!」
ボクは最後の言葉を、最後の本心を伝える。
「ボクは! ボクは兄貴が兄弟で……本当に嬉しかったんだ!! 本当に……本当に……あ゛り゛がどう゛……ッ!!」
最後の方は言葉にするのが辛かった。 でもボクの言葉を聞いて兄貴は笑ってくれた。
「俺の方こそ……本当にーーーー」
ーーーーーーーー転生してくれて、本当にありがとう。
「……メアリー?」
廊下を歩いていたら部屋から出てきたメアリーに遭遇する。
「輝凛……だったか」
「どうしたんだ? 目元が真っ赤だぞ?」
「気にするな」
オレはメアリーと一緒にいると思っていた一喜君を探す。
「一喜君は一緒じゃないのか?」
「兄貴は……もう
「……そうか」
オレはメアリーの顔を見る。 今までの表情とは違う、何か『正しい意思』を持っている。
「……今からみんなの所に行って話さなきゃならない事があるんだ。 お前も来るか?」
「……あぁ、ボクもテスタロッサ親子に謝らねばならない」
オレは思わず目を見開く、そしてすぐに元に戻す。
「……一喜君はやっぱりいいお兄さんだ」
「何を言っている。 そんなの当たり前だろ?」
「そうだな……」
オレは彼を認める、その上で話し出す。
「行こうか、
「ああ」
オレは歩きながら心の中で一喜君に礼を言う。
(オレの方こそありがとう。 少しだけ君の、『正しい答えを見つけ出す意思』を借りるよ)
オレは翔次君を連れてみんなの所に進む。 ……オレの今までを話す為に。
と言うわけで一喜君は今回までの出番となりました。 彼は結構普通な人物のつもりで書きました。 能力も一つだけですしね。
次回は……長くなるかもしれませんし、気分で短くなるかもしれません。 まぁ、待っていてくだしい。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。