例えばご高齢の方が死んだ時、その方は百歳を超えていました。 きっとその時は納得して心は余り痛まないでしょう。
でも近しい人、家族や友人が死んだ時は酷く心が痛みます。 きっとその死に納得出来ないからだと思います。
今回涙を流す人がいます。 皆さま、どうかその人の流す涙に納得してください。
35話
突然現れたキリト君に頭の中が追いつかないオレ達。 そんな中キリト君はどんどん話し出す。
「ボクの話をする前に……一回お姉さんには元の身体に戻ってもらうよ」
そういうとキリト君の身体がノイズがかったようにブレる。 いや、ブレているのはオレの身体もだった。
「一先ずはそれぞれの身体に……」
突然目線が上がる。 足元を見るとオレの足が違う人間の足に徐々に変わっていく。 驚きキリト君の方を見てみるとキリト君の足も違う人間の足に変わっていく。 その変化は下半身から上半身に移り、数秒のうちにオレとキリト君の姿が変わる。
「輝凛の身体が……」
「彼の身体が……」
先ほどまで女性のようしをしていたキリトは、よく鏡で見るオレの姿に変わっていて、オレの姿はキリト君の姿に、本来のオレの姿に変わる。
『入れ替わった!?』
「……そういうことか」
驚くみんなとは別に、拳君は何かに気づく。
「もしかして分かっちゃいましたか?」
「目の前でそんなことをやられればある程度は予測できる」
「でも話すのはボクです、どうか話さないでください」
『??』
何のことだか分からないオレ達。 オレもオレで本来の身体をよく観察する。
「……本当にオレの身体だ」
「女ってのは本当だったのね……」
「それならメイド服とか着たがっていたのも納得できる……?」
「素敵な女の人だったんだぁ……」
(輝凛は本当に女だったの!? あれ!? でも今は男の子で……でも……あれ、あれ!?)
アリサちゃんとすずかちゃんは本当のオレの姿にしげしげと見てくる。 なのはちゃんはオレの容姿に素直に驚いていて、フェイトちゃんは……どうしたの? 目をグルグルさせて、大分混乱しているのかな?
「キュウ(女の人だったなんて……)」
「一体どういうことだ……変態じゃなくて痴女だったのか?」
「摩訶不思議ってこういう時に使うのかしら……?」
「だから女物の服ばっか着てたんだ、納得ぅ〜」
「あらあら、大変ねフェイト」
ユーノ君とクロノ君は目を見開き、リンディさんは手を頬に添え声を漏らし、エイミィさんは一人関係ないところで納得していて、プレシアさんは……よく分からん。
「……醜女じゃないのか、残念だ」
「女なのに淫夢ネタを口にしていたのか……」
転生者二人はそういうことに慣れているのか、意外と余裕がある。
「皆さん驚いているなぁ……あ、そうだ」
キリト君はなのはちゃん達の所に近づく。
「三人には謝らないといけないんだ。 ごめんなさい、踏み台になったからとは言え酷い事をしてしまって……」
キリト君は頭を下げようとする。
「待った、えぇっと……キリト?」
それを制するアリサちゃん。
「あんたの事は私が許す」
「え、でも……」
「私らの中だともうそんな昔のことなんてどうでもいいのよ。 あんたも男だったらこれ以上食い下がるな、いいわね?」
「私達の意見ガン無視なんだね……まぁ、いいけど」
「ははは……みんな同じことを思っているし、多少はね?」
「……まるでお姉さんみたいだ。 うん、分かったよ」
「輝凛より素直じゃない……気に入ったわ」
どうやらアリサちゃん達の中ではもうキリト君の行いはすでに過去の話のようだ。 それに安心したのか、キリト君はホッと胸を撫で下ろす。
「それじゃあボクの気になっていたことも終わったし、話していくよ」
キリト君がみんなの顔を見渡す。
「ボク達がここにいる理由を……」
ボクはトラックの事故に自分から首を突っ込んで死んだ。 そして気がついたら何もない真っ白な空間の中にいたんだ。 一体何が起こったのか、混乱するボクが辺りを見渡すと一台のパソコンが置いてあったんだ。 パソコンは地面にそのままで放置されていた。 ボクは何故かこのパソコンが気になってパソコンの目の前に座ったんだ。 そしたら真っ暗だった画面に一人の人間のような存在が映し出されたんだ。
『この人は……人?』
『やぁ、私を確認出来るようだね』
『喋った……? でもこれパソコンだからどこかに繋がっている……?』
そのパソコンは不思議だった。 モニターもある、本体もある、マウスもきちんとある。 でもコード何てどこを見ても見つからない、なのに画面がキチンと映ったんだ。
『君は都霧刀、キリト君だろう?』
『え!? どうしてボクの名前を?』
『分かるとも。 私は神さまだからね』
『神さま……本物の神さま!?』
『君の事を全部知っているし、君が記憶を失っているのも知っている』
『……信じられない』
突然モニターに映った人物が神さまだと名乗った。 ボクは当然疑った。
『信じられないなら信じさせてあげよう』
神さまと名乗る人物はボクを見る目を閉じる。 そして目を見開いた瞬間ーーーー
『ーーーーッ!?』
失ったボクの記憶が戻ったんだ。 たった数日間の出来事がボクの頭を蹂躙し、しかし足りなかったピースが埋まるような奇妙な心地よさがあった。
『ボクの……記憶……一体……お姉……』
『どうだい? それっぽい事をしてみたんだが、信じてくれるかい?』
『……信じます』
『ありがとう、こっちこそ乱暴に記憶を戻してすまなかったね。 と、言っても記憶が戻る時は大体こんなもんだし』
神さまは本当に奇妙な存在だった。 話しているだけで心が安らぎ、対面するだけで心が軽くなる。 画面越しでコレだから、実際に会っちゃったらボクはきっと神さまに忠誠を誓ってしまうだろう。
『さて……そろそろ落ち着いてきたと思うんだ。 そんな君には一つの疑問が生まれると思う』
神さまはボクに向かって話しているようで、ボク以外の存在に向けて話しているような感じがした。
『何故死んだはずの自分がこんな所にいる? もしやここがあの世なのか? 天国と呼ばれる場所なのか? そう君は考えているはずだ。 その疑問に対して私が言えるのは……YesともNoとも言えないんだ』
『??』
『察しがいい人間ならここで気付く。 そう! 君は転生のチャンスを与えられたんだ! 君は選ばれた人間なんだよ!』
『……はぁ』
『やっぱり君にはそんなに大した話題ではなかったね……ちょっと前に来た子はグイグイ反応したけどね』
『そうですか……』
この時のボクは知らなかったけど、神さまに転生してもらうのが最近の中学生の夢だと神さまが話してくれた。
『まぁ、それで君を転生してあげるよ。 あぁもちろん断っても大丈夫だ。 その場合は君を閻魔の所にやるだけだからね』
『……転生よりもボクはお姉さんが……』
『お姉さん? ……あぁ、君が外国に攫われた時に出会った女性のことかい? 彼女が気になっておちおち転生もしてられないと? そらなら今の彼女の姿を見せてあげるよ』
神さまはまるでこちらの事情を知っているみたいに喋り、画面に小さな枠が生まれそこから映像が流れる。 とんとん拍子で話が進んでいったのは困惑したけど、記憶を取り戻したボクには一目でもお姉さんの姿を見れるのはとても喜ばしいことだった。
『これが今の彼女の姿だ』
『ーーえ?』
ボクのその感情は一瞬で消えた。 そこにはボクの死を知って自暴自棄になっていたお姉さんだった。 ボクの知っている姿はなく、虚ろな目をしながらおぼつかない足取りで歩いていた。
『一体どうしたのお姉さん!?』
ボクは訳が分からなかった。 自分の死がお姉さんにこんな影響を及ぼしているだなんて思いもよらなかった。
『この通り、君の訃報を聞いてすでにボロボロだった心が完璧に壊れたんだ』
『そんな……』
『でも君は悪くない。 何故なら全てこの女が自分で招いた結果だ、そして君はそれに巻き込まれただけだよ。 だって君の死因は強い正義感故の行動じゃないか。 君の死は尊く偉大だよ。 でもこの女は全て自分の責任、だから君が胸を痛めなくてもいいんだよ……?』
神さまはまるで他人事みたいに、当事者のようにボクを擁護した。 でもこの時のボクは神さまに少しだけ怒りを感じていた。 でも神さまにはぶつけようとは思わなかった。
『まぁまぁこんな女の話はもういい。 今は君の転生の話だ』
神さまは急に明るく振る舞う。
『転生する? 転生しない? 出来れば早めに決めてくれるかい?』
お姉さんの姿を見たボクにはある決意が固められた。
『ボクは……転生しない』
『そうなのかい? そりゃ残念』
『だから代わりにお姉さんが死んじゃった時転生させてあげて!』
『……君、面白い事言うねぇ』
神さまはボクを可笑しそうに見た。
『せぇ〜っかく新たな命が手に入るのに、それを他人にあげるだなんて変わってるねぇ。 ……理由を聞いてもいいかい?』
『……ボクは確かに頭を撃たれたりしたし、記憶だってなくした。 でも自分の人生に恨みなんてこれっぽっちも存在しない!』
ボクは自分の中にある思いを神さまに打ち明ける。
『ただ、唯一ある今の心残りはお姉さんの存在だ! ボクを救ってくれたお姉さん、ボクを受け止めてくれたお姉さんだけがボクの心残り! そんなお姉さんが自らの心を失って、今にも消えてしまいそうだなんて……ボクには我慢ならないッ!』
『だから……転生のチャンスを捨てるのかい? それほどこの女性は君にとって大切なのかい?』
神さまの質問にボクは力強く答えた。
『大好きな人だから』
ボクの答えに神さまは満足そうに笑う。
『……いいねぇ、そのある意味での狂信、自己犠牲を超えた犠牲の精神。 気に入ったよ!』
神さまは笑顔で続ける。
『彼女は元々転生出来ない存在……私が定めたルールに乗っ取った結果だけどね。 でも転生は出来なくても他の方法ならなんとかできるよ』
『本当ですか!?』
『これでも神さまだからね。 彼女の魂を別の肉体に入れればいいのさ。 その時に記憶でも奪っとけば勝手には死なないだろうし。 ……でもこれは私自身もそんなにやりたくない、管理会のやつらに何か言われるだろうし……。 そこで君にはやらねばならないことがある』
『やらねばならないこと……?』
『君には踏み台の役目を担ってもらう』
踏み台とは神さまがその世界の為に用意した引き立て役、他者を際立たせる為に現れる転生者のことだって神さまが説明してくれた。
『君がこれから送る世界で踏み台を演じる。 そうすれば管理会の人間が君から能力を剥奪する。 その後で彼女の魂を君の身体に入れて、君の魂は抜け殻になった彼女の身体に入れる。 あぁもちろん彼女の身体はここに運ぶよ』
『……分かりました。 ボクはその踏み台になればいいんですね』
『そういう事。 それじゃあ早速転生の準備にかかろうーー』
神さまは踏み台に相応しい能力を三つ選んでくれた。 そして神さまがくれた剥奪されない能力、いや概念。 それは魂を操る事が可能になる概念。 これを使ってお姉さんをボクの新たな身体に入れる事も、ボクがお姉さんの身体に入る事も可能になった。
『ーーとまあこんなものかな。 それじゃあ転生先の世界は……』
神さまは顎に指を添え、何かを思い出そうとした。
『さっき来た如何にも踏み台って子がリリカルなのはの世界に行ったっけ。 うん、彼女にその踏み台を倒してもらおう。まだオリ主はいないからちょうと良かった。 転生先の家族は……主人公の父親の友人にしておこう。 ついでに子どもに恵まれない設定にして。 君から直接渡して行ってくれないか?』
そういうとボクの腕の中に赤ん坊が現れる。
『その子が君の新たな肉体にして彼女の新たな姿だ。 それを君から直接渡して行ってくれ。 そして……そうだね、原作開始前には入れ替えが出来ると思うから終わったらここに戻ってきてもらうよ』
『はい、ありがとう神さま』
『それじゃあイキなさい』
ボクと赤ん坊が光に包まれる。 ボクが能力を剥奪されるまでの世界に行こうとする。 別れ際に神さまに感謝の言葉を告げた。
『本当にありがとう神さま。 また来ます』
『感謝したまえ、何故なら私は神だからね』
そこからお父さんに赤ん坊を託して、踏み台を行って、そしてお姉さんに身体をあげたんだ。 ボクはお姉さんの身体を借りて神さまの所に戻り、ずっとお姉さんの事を見ていたよ。 これが今までの全て。
全てを話し終えたキリト。 その話を聞いて誰もが『神』という存在に疑問を持ち、そして恐る。 この世界は神によってつくられ、そして常に転生者によって変わっていく事に。 言いようのない感覚に襲われるが、拳一人だけは頭を抱えていた。
「神……俺は聞いていないぞ!」
「確か……黙っていた方が面白いから……って言っていたよ」
「あぁぁの方はぁぁぁ!」
珍しく憤慨している拳を見て一同落ち着きを取り戻す。 キリンが持っているミョルニルは念話でキリトと話す。
『そういう事だったんですね……』
『ミョルニル……君には黙っていてゴメン。 でも君には本当に感謝している』
『いいんです。 私はあの日に貴方と別れました。 これ以上貴方には私からの言葉はありません。 ただただ貴方の事を思っています』
『……本当にありがとう』
そこでミョルニルは念話を切る。 キリトも念話をしようとは思わなかった。 二人の間には主従を超えた不思議な絆がそこにはあった。
「……まぁ何にせよオレは元の身体に戻ったし、オレを知っている奴にもようやく会えたし。 これで大団円だな!」
本来の目的、そして消えたキリトも戻ってきた。 キリンは喜びの声を上げる。
「オレは女に戻っちまったけど暮らしていく分には大丈夫だし。 それにこれでも頭はそこそこいいからな。 3〜5ヶ国語くらいなら喋れるし。 あぁでもノンノやリーデスには悪いなあ……まぁあいつらならオレが居なくても大丈夫だろ、元々二人だったしそれに……」
一気に重しが取れた感覚になったキリンは笑顔で喋り続ける。 無邪気に、本当に嬉しそうに話す声。 周りも皆笑顔になっていく。 当然だろう、記憶を取り戻してからのキリンはどこか静かで、フェイトが怖いと称するくらい静かな雰囲気を出していた。 キリンの笑顔に釣られ皆が笑顔になろうとしている、もちろんキリンの嬉しそうな声で。
「……ゴメンね、お姉さん」
その声を遮る一言。
「ーーーーえ?」
「ボクはね……もう消えないといけないんだ」
現れた時と同様の光がキリトを包み込む。 その光景を見た翔次は兄の最後を思い出す。
「兄貴と同じ……」
「……一喜君と同じってなんだよ……」
「……この世界から消える、のだろう……な」
「消える……何言ってんだ……」
それは紛れもなく、この世界からの消失を意味していた。
「待てよキリト君……消えるって……なんだよ……」
キリンは膝をついてキリトの肩を掴み、キリトに問いかける。 告げられた言葉が真実と信じたくなくて。 否定をしたくて。
「ボクはね、本来ならお姉さんに身体をあげた時点でもう会わないはずだったんだ。 記憶だって気付かれないように戻したし」
「違う……聞きたいのはそんな……そんな言葉じゃない……」
キリンはキリトに訴えかける。
「元々転生する権利が君にはあった、ならこの場に居るべきなのは君なんだ……キリト君のはずなんだ!」
言葉を口に出さないキリト。 ヒートアップしていくキリンの目から涙が流れ始める。
「君が撃たれたのも、記憶をなくしたのも……全部オレが悪いんだ! オレの所為なんだ、本当だったら君はもっと幸せになってよかったんだ!!」
「……」
「この世界は……この場所はこんなにも暖かくて、優しくて……こんなにもステキな場所にいるのはオレじゃあないんだ! 君なんだ!」
「……」
「本当ならオレは絶望の闇に飲まれたままなんだ。 こんなにも暖かな陽だまりにいていいはずがない! だから君がーー!」
「お姉さん……」
激しく訴えかけてくるキリンをキリトは優しく抱きしめる。 膝立ちをしているキリンはちょうどキリトと同じ高さになっていた。
「もういいんだ……」
「何も良くないだろ!オレはーー」
「お姉さん……ボクはね……」
キリンの目の前に顔を出して話し出すキリトの顔は、余りにも安らかで、優しさに溢れていた。 そんな彼はキリンを『納得させる言葉』を口にしていく。
「ボクはもう……」
「ーーっ! やめて……くれ……ッ」
キリトの言葉を察知したキリンは……キリトの言葉を拒絶しようとする。
「ボクは……!」
「やめてくれ……やめて……やめーー」
強く拒絶するキリンに対して、キリトは無情に……いや、救いを与える。
ーーーーボクは『幸せだった』。
「あっ……あぁ……アアアッ……!」
『幸せ』。 それこそがキリンを納得させる、救う言葉だった。
「幸せだったんだよ……お姉さんに出会って……」
都 霧刀の人生は決して楽なものではない。 幼い頃に誘拐され、頭に銃弾を受け、記憶を失い、そして他人の為に命を捨てる。 決して他者から見てみれば『幸せな人生』とは大きな声では言えない。
「本当に短い時間だった。 でも……ボクはお姉さんと話してるだけで、一緒にいるだけで、一緒に笑っているだけで『幸せ』だった」
しかしたった数日間の間に出会った村咲 輝凛と言う人物に出会い、確かな喜びと『幸せ』があった。 誰が何と言おうと否定することの出来ない『運命』があった。
「ボクはもう幸せでいっぱいなんだ」
「キリトく……あぁ……うあぁぁぁぁ……ッ」
キリンは受け止めるしかなかった。 大切な人が言った『幸せ』を否定することなど出来ない。 その『幸せ』の要因が自分だったとしても否定出来ない。 何故なら彼が『幸せ』なのだから。
「ボクの人生は……全てお姉さんに出会う為にあった。 今この瞬間の為にあったんだ。 これは『天啓』でもあり、『運命』でもあるんだ」
キリンは心が痛かった。 何故自分の心が痛いのか? 大切な、最も想っていた人物が消えてしまうから? もう二度と会えないから? もう笑い合うことが出来ないからか……? キリンには分からない。 ただただキリトが消えてしまうのを見ているだけだ。
「本当に『幸せ』だった……。 神さまに感謝しないといけないね」
キリンを抱きしめていたキリトの身体は宙に浮く。 光はますます輝いていき、眩しいはずなのに誰も目を離すことはない。
「キリト君!!」
膝をついたまま、立ち上がることが出来ないキリンは両手をもがく様に振り回す。 必死にキリトを掴もうとするも、光を掴んでもすぐに消えてしまう。
「キリト君! キリト君!」
「お姉さん……お姉さんはもう自分を許していいんだよ。 救われていいんだよ……? だからーー」
強い光を放っていたキリトの身体は、光を抑えて徐々に霧散していく。 そんな姿をキリンは溢れんばかりの涙を流しながら見ていた。 そして最後の言葉がキリトの口から出る。
ーーーー幸せになって。
消えた光。 それはこの世界からキリトが消えた証拠になる。 キリンは泣き続ける。 そんな彼女のそばに近づこうとする者はいない。
「輝凛……」
目の前で泣き叫ぶキリンを心配してフェイトがポツリとキリンの名前を漏らす。 それに気づけないキリン。 彼女の身体は先ほどキリンが元の姿に戻った時の様に下半身から徐々に姿を変えていく。 その姿は先ほどまでここにいたキリトの姿。 キリンは再びキリトの肉体に逆戻りした。
「うあああぁぁぁぁ…………あ……あ……あぁ……」
しかしそれにも気づかないキリン。
「輝凛……ッ!」
そんな姿に見かねてか、それとも別の感情があったのかフェイトはキリンに近づき、抱きしめる。
「私には貴方の涙の理由が分かる……」
フェイトは抱きしめたまま、まるで泣き喚く子どもを諭すように喋り出す。
「私はずっと冷たい……悲しい涙だけを流していた。 でも輝凛の涙は違う、暖かいんだ。 きっと悲しみだけが泣いている理由じゃないんだよ」
フェイトはキリンの頭を撫でる。
「悲しい涙、そして『嬉しいから流す涙』がキリンから流れている。 あの子が許してくれた、貴方を救ってくれた……『幸せ』だと言ってくれたのがたまらなく嬉しいからだよ」
フェイトは目を閉じる。
「今は泣いていいんだよ。 私たちは生きているんだから……嬉しい時にも悲しい時にも涙を流すもん。 だから泣いていて、私は側にいるから……」
その日、キリンの家から出ていく人達の中にはフェイトの姿は無かった。 フェイトはキリンの側に居続けた。 その事にアルフもプレシアも、誰は一人として口を挟む事は出来なかった。 キリンはひたすらに涙を流し続けた。
ーーきっとこれでいいんだ
ーーーだってコレはボクの物語じゃない
ーーーーだってコレは『お姉さんの物語』なんだから
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。