今回は砂糖を吐かせようと頑張りましたが、私の力量ではまだまだでした。 こんなんじゃ甘くないよ。(戒め)
36話
キリト君はこの世界から消えた。 その事実なんてものはもう理解しているつもりだった。 なのに、オレは泣き叫んで、フェイトちゃんにまで迷惑をかけてしまった。 情けないったらありゃしない。
「朝か……いつも通りの時間に起きるあたり、存外ショックを受けていないのかもな」
今日は当然平日、学校に行かないといけない。 昨日あんなことがあったのにオレの思考は驚くほど現実的だった。
「……フェイトちゃんはどうしたんだろ?」
昨日何やかんやで一緒に寝た記憶があるけど……ベットにはオレしかいない。
「ミョルニル、いるか?」
《はい、ここに》
オレの問いかけにミョルニルは答える。 ミョルニルはベットのすぐそばにある棚の上に置いてあった。
《フェイト様は起きてリビングに下りましたよ》
「そっか……なら行くか」
オレはミョルニルを手にして一階のリビングを目指す。 途中でミョルニルが心配そうにオレに聞いてきた。
《大丈夫ですか? その……昨日色々ありましたから……》
「……大丈夫じゃねぇがまぁ、取り敢えずフェイトちゃんに礼を言わないとな」
オレは元気なく答えてしまった。
リビングにつくとフェイトちゃんがエプロンを付けて朝食を作ってくれていた。 リビングに入ったオレに気づくとフェイトちゃんは挨拶をしてくる。
「あ、おはよう輝凛。 ちょっと待ってて、もう少しでご飯出来るから」
「え、あ……おはようフェイトちゃん。 何だか悪いね……」
「いいの、座って待ってて」
何か……フェイトちゃん生き生きとしてない? どういう事なの……?
《そういう事ですよ》(ニヤニヤ)
「どういうこったよ……あとニヤニヤって自分で言うのか……」
フェイトちゃんが朝食を作ってくれているので、大人しく待っていようと思った時、チャイムが鳴り響く。
「……こんな朝から誰だ?」
オレはインターホンを確認すると、そこには拳君とプレシアさんが映っていた。
「どうしたんだろ……」
「どうかしたの?」
「拳君とプレシアさんが来たみたいなんだ。 オレがでるよ」
キッチンから顔だけを出したフェイトちゃんに二人の来訪を話し、オレは玄関に向かう。
「おはようさん、一体朝からどうしたんだ?」
玄関の扉を開けて二人に挨拶する。
「俺は貴様の様子を見に来た」
「私は娘の様子をね」
「そう、なら上がっちゃって」
オレは二人を家に上がらせる。 するともう出来たのかフェイトちゃんがエプロンの裾で手を拭きながら二人に挨拶をする。
「二人ともおはよう。 珍しい組み合わせだね」
「やだうちの娘ったら、一夜にして可愛さが増してるわ」
プレシアさんはフェイトちゃんのエプロン姿に興奮しているのか、珍しく頬を紅潮させている。
「え、何あんた達ヤッたの? これなの?」
「……プレシアさんてこんなにダイナミック痴女だったっけ?」
「知らん」
「……何の話?」
プレシアさんは親指を人差し指と中指で挟んで見せつけてくる。 ……この人朝からテンションおかしくない?
「あら違うの? 残念……いや、それならそれで色々教えられるから……」
そろそろ話を変えなくては……
「お、オレ達今から朝飯だけどお二方はどうする?」
「俺はすでに終えている」
「私も結構よ」
「それじゃあ私達食べてるね」
オレとフェイトちゃんは朝食を食べ始める。 朝食は普通にベーコンエッグとトーストが用意されていた。 いつもは米を食べているけどたまにはいいだろう。 オレは食べながら二人に話しかける。
「そういうや、プレシアさんは昨日どこで寝てたんだ?」
「私? 私は昨日リンディさんに誘われてアースラで泊まらせてもらったわ」
「……ちなみに朝ここに来る事は伝えたんすか?」
「もちろん。 でも勝手に転送魔法を使ったから今頃向こうは少しくらい騒がしいんじゃないかしら?」
「……えぇ」
何だってこの人は自由なんだ……。 つーか初めて見た印象とは180度違うぞ……
「……あ、そういや拳君はオレの様子を見に来たって言ってたけど、何か用があったの?」
以前プレシアさんの寿命を延ばしてもらった時に、「何でもやる、と言ったよな」って言っていたような気がするんだが……
「あぁ、本当なら二人だけの時に話そうと思っていたんだが……存外プレシア・テスタロッサは無関係とは言えないからな。 フェイト・テスタロッサは……この際構わん」
「何だ? 何か随分と面倒な物言いだな」
拳君にしてはいやに気を使った言い方をする。
「あぁ、物語の改変を行ったんだ。 それ相応の事をしてもらう」
「……具体的には?」
みんな拳君を見る。 拳君は一呼吸置いて話す。
「それはーーーー」
「参ったなぁ……」
拳君からの話を聞いたオレは一度自分の部屋に戻ってきた。 学校まで行くにはまだ時間がある。 オレはベットに体を預ける。
「……なぁミョルニル」
オレは手にしているミョルニルに話しかける。
《何ですかマスター》
「オレってば結構勝手な事ばっかやってるよな?」
《そうですね》
「即答かよ……」
ほんの少し落ち込むオレにミョルニルはズバズバと言い放つ。
《そもそもマスターはよかれと思ってやった事の大半がダメな方向に行きますし、勝手に何回も死にかけますし、大体なのは様達に対しても遠慮なんか一切ありませんし》
「うぐっ……、だってなのはちゃん達が拳君好きなのは客観的にみても明らかだし……老婆心ながらお手伝いしているだけだし……」
《迷惑にも程がありますよ》
「……何だかミョルニルが正論言ってると変な感じだなぁ」
《失敬な、私はいつだって清楚を心がけていますからね》
何だかミョルニルがお姉さん口調になっていて調子が出ないなぁ……。 多分オレの所為なんだろうけど……
《……私じゃあやっぱり駄目ですね》
「何がだ?」
《いえ、世の中には適材適所という言葉があります》
「おう、そうだな」
《というわけで、後は他の方に任せます》
「……え? 何の話?」
《……》
「え、うそ、ダンマリなの?」
なんだよ……、周りにほっぽっとこ。 ……ん?
「輝凛、入ってもいい?」
扉越しにフェイトちゃんの声が聞こえる。 オレはもちろん招き入れる。 オレは体を起こし、ベットの上で壁にもたれかかる。
「おじゃましまぁ……す」
フェイトちゃんは恐る恐るオレの部屋に入ってくる。 ……あ、エロゲとか放置されてっけど……まぁいいか。
「隣に座っても……いい?」
「え、あぁ、うん」
フェイトちゃんはオレの隣に来て腰を下ろし膝を抱えて座る。
「……」
「……」
……え!? 何もないの!? どういうことなの?
「……少し元気ないね」
「え?」
「輝凛は不思議な雰囲気をいつもだしているの。 その場の空気を察して、みんなが笑ってくれるように行動している。 アルフも言っていたよ、憎むに憎めない奴、だって」
アルフさんってぇと……温泉の時かな?
「そんな貴方が、いつもの元気を無くして落ち込んでいる。 私は何とかして元気にさせようと思ったんだけど……どうしたらいいのか分かんないや」
フェイトちゃんは膝を強く抱えて俯く。 オレは咄嗟にフェイトちゃんをフォローを入れる。
「そんな事ないさ、フェイトちゃんが隣にいるだけで暗い気持ちがどっかに行くし。 フェイトちゃんだって不思議な雰囲気があって…………」
「……輝凛?」
言っててオレはある事に気づく。
「……そっか、オレってばそんな風に……」
「どうしたの?」
自分でも意外な発見をフェイトちゃんにも教える。
「オレ、初めてフェイトちゃんに会った時からずっとフェイトちゃんの事をずっと気にかけていたんだ」
フェイトちゃんとの出会いを思い出す。 あの時はメイド服を着ていたから女の子に間違われたんだっけ? ……今思えば的を得ていたのかもしれない。
「今その理由が分かったんだ。 きっとフェイトちゃんとキリト君が似ているから、オレは無意識のうちに気にかけていたんだ」
「似ている……?」
「フェイトちゃんもキリト君も、優しい雰囲気、そして温かくて深い心を持っている。 それがそっくりだったからオレはずっとフェイトちゃんの事を……」
フェイトちゃんもキリト君も、泣きじゃくるオレを抱きしめてくれた。 二人には奇妙な共通点がいくつもあるんだ。
「……何だか恥ずかしいね」
オレの話を聞いて、頬を赤らめるフェイトちゃん。 照れてらっしゃる。
「……さっきの拳の話を何だけど」
一泊置いてフェイトちゃんが先ほど拳君がした話について話しだす。
「本当に…………
拳君が言った、オレに課せられる『それ相応の事』。 それはみんなから離れ、どこか異郷の地に拳君と一緒に行く事であった。 その旅には翔次君も一緒だと聞いたが、オレはみんなとの別れにしばし衝撃を受けていた。
「……行っちゃうっつーか、多分行かないといけないんだと思う」
「でも……嫌だよ……」
「……」
フェイトちゃんがオレの服の裾を掴んでくる。 でも顔を伏せたままだ。 オレは何て言ってやればいいのか必死に考える。
「せっかく……出会えて、仲良くなれたと思ったのに……。 遠くに行っちゃうなんて……嫌だよ……いやだよぉ……」
オレは……いや、オレはしっかり告げなければならない。
「……オレの最初の目的は『オレを知っている奴に会いに行く』事だったんだ」
「……」
フェイトちゃんは顔を上げてオレの方を見てくれる。 突然関係のなさそうな話に耳を傾けてくれたんだろう。 オレは続ける。
「あの時のオレは記憶が無かったから……もしかしたら転生者の中にオレを知っている奴がいるかもしれない。 そう思いながらオレは色んな人に出会ってきた」
拳君から始まり、なのはちゃん達、高町家のみんな、ユーノ君、月村家の人達、クロノ君やリンディさん、そして……フェイトちゃん。
「誰もオレを知っている人は居なかった。 でも不思議と空っぽのオレに何かが満たされていくようだった。 特に……フェイトちゃんはそうだった」
「わ……私……!?」
意外な言葉に驚くフェイトちゃん。 でもオレからしてみれば至極当然のことなのだ。
「オレは今回の一件、なのはちゃんやユーノ君の為に動いてきた。 最初はね。 でも……フェイトちゃんに出会ってからはずっと……ずっとフェイトちゃんの事ばかりを追いかけていたんだ」
「どうして……?」
「さっきも言ったけど……フェイトちゃんとキリト君は似ているんだ。 だからなのかもしれない……自然に……無意識のうちに君を追いかけていた」
今思えばこの世界で初めて怒ったのも、初めて魔力を解放したのも、自分の名前を思い出したのも、全てその時その場所には必ずフェイトちゃんがいた。 オレの行動には必ずフェイトちゃんがつきまとっていたんだ。
「フェイトちゃんと一緒に居れば記憶が戻るって、勝手に思い込んでいたんだろう。 ……でも違う。 『自分』を知っているのは何時だって『自分』なんだ。 誰かからヒントや助言を貰ったって、最後に見つけるのは自分自身なんだ」
これまでの全て、それは『自分自身を見つけだす』為の道のりだった。 そしてそれはまだ続いている。
「記憶を取り戻したって、本当の自分を見つけないと意味がないんだ。 そしてまだその目的は果たされていない」
オレはフェイトちゃんに向き合ってしっかりと伝える。
「オレはどっか遠くに行っちまう。 それは拳君に言われたからじゃあない。 これはオレ自身の意思だ、遠くに旅立って、必ず本当の自分を見つけて向き合う。 そうすることで初めて『村咲 輝凛』として生きていけるんだ」
まだオレはオレに成りきっていない。 このままみんなと一緒にいたらみんなに甘えてしまう。
「……止めても行っちゃうんでしょ?」
「うん」
「そっか……」
「でも……」
「?」
オレはフェイトちゃんの手を握り、あの日、乗ったバスの中で言ったように『宣言』する。
「必ず、君の元に帰ってくる。 もう一度君と……話がしたいから」
「輝凛……」
オレ達は見つめ合う。 そしてフェイトちゃんは笑ってくれる。
「……うん、待ってる! 私も……貴方と沢山話がしたいから!」
オレ達は微笑み合う。 必ず、この笑顔を見る為にオレは戻ってくる!
《……どうでもいいですけどそろそろ時間ですよ?》
『ファッ!?』
《珍しく拳様が空気を読んで呼びに来ないのに……ウチのマスターは何してるんですかねぇ……》
今まで黙っていたのに急に喋り出すな! 素直にビックリしたわ!
「急げ急げイソゲルゲー!」
制服はもう着てるからカバンとミョルニル持って……っと。
「……そうだ」
オレは髪の毛を縛るゴムを手に取り、鏡の前に立つ。
「うん……しょっと」
元の世界でいつも気合いを入れる時にしていた様に髪を後ろで縛る。 綺麗にポニーテールが仕上がったのを確認する。
「うっし……!」
オレは部屋を出て下に向かう。 後ろからフェイトちゃんも付いてくる。 もう玄関には拳君が靴を履いてスタンバっていた。 プレシアさんもいる。
「……もう『準備』はいいのか?」
「もち!」
オレは笑顔で答える。 すると拳君は満足そうに微笑む。
「私とフェイトは転送魔法でリンディさんの所に戻るわ」
「……そんなにバンバン転送魔法使って大丈夫なんすかねぇ」
「気にしないの」
「えぇ〜……」
リンディさんの胃痛が酷くなりそう……なりそうじゃない?
「うし、それじゃあ行きますか!」
「いってらっしゃい、輝凛」
「行ってきます、フェイトちゃん」
フェイトちゃんに見送られて家を出る。 もちろん鍵を閉める。
「急ぐぞ、遅刻はしたくないからな」
「イクゾォォォォ!! オエッ!」
オレ達は学校に向かう。
村咲 輝凛、完全復活だぜ!
そろそろこの物語も最後の話になりました。 もう少しの間お付き合いくたさい。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。