アイドルグループのメンバーと殺し合いなう
三時を少し回った頃だろうか
lucky☆7のライヴはもう終わっているはずだ
なのに、お目当ての人物は一向に気配を感じさせない
「チッ・・・」
向こうにトラブルがあったら、折角の自由な休日が台無しだ
映画や本屋に向かう時間を割いてまで、この正気の沙汰ではない行為を優先させたのだ
おじゃんになっては本当に困る
ライヴの情報が載っているチラシを見れば、ライヴ終了は午後の二時だ
それから一時間以上経っている
後片付けを考えても充分すぎると思える
遅い
「おー、君か~」
背中から声をかけられた
清仁はゆっくりと振り向く
そこに立っていたのは、眼鏡をかけた美少女
「待ってたのかな?」
「・・・そうだな」
清仁と同い年くらいのこの少女は、まるで清仁と知り合いのような物言いをする
だがお互いこれが最初の対面だ
最後の対面でもあるが
「いやー君気配ビンビンだったからさ、すぐ見つかったよ」
「そういうアンタは気配を感じさせなかったが」
「まあね~、それが私の能力らしいね」
他愛ない会話だ
もしかしたら、彼女は自分以上に命の奪い合いを重く感じていて、その恐怖を紛らわそうとしているのかもしれない
だとしたら、この会話に付き合うのもやぶさかではない
「君は幸運だね、lucky☆7のメンバーと握手どころか殺し合いできちゃうなんて!一生ものの思い出だよ?」
前言撤回
今すぐこの女を殺そう
志田清仁の体が、哺乳類特有の柔らかな皮膚から甲殻類特有の頑丈な甲羅へと変化した
肌色の体色は漆黒に染まる
相手も、アイドルになれたのも納得のベイビーフェイスをこの世のものとは思えない不気味な顔相に変える
そして、清仁と同じく、ヤワな衝撃では砕けそうにない緑の外骨格に身を包んだ
アイドルの変化した異形が、背中から倒れる
否、倒れたのではない
軟体操のブリッジのように背中を下にして四つん這いになった後、その勢いのまま足を上へ上げたのである
ムーンサルトキックと呼ばれる技だ
生半可な人間では繰り出すことなどできない高等技術だが、怪人達には関係ない
振り上げられた爪先は、黒い異形の顎に迫る
清仁は後ろに倒れてそれを避けた
否、倒れたのではない
バック転だ
倒れた勢いで手を地面に着け、手をバネにして地面から跳ね、そして着地
両手の拳を構える
ムーンサルトの体制からすぐに立ちあがった緑の怪人
構えを解かない清仁に拳を振るう
しかし、既に複数人をその手にかけた黒い異形はそれを待っていたのだ
殴られそうになった怪人の片腕が鞭のようにしなる
強く払いのけるような動作で、アイドルの腕はあらぬ方向へ
ガードするべき上半身は、無防備となった
もう片方の手で、握り拳を作り、顔面に突き込む
それだけの簡単な動作だ
一メートル程度吹っ飛んだ緑の異形
だが彼女は吹き飛ばされた勢いを利用して転がり、素早く立ち上がった
清仁が追撃をかけようと駆け寄る
一歩、二歩、三歩目で緑の方から行動を起こした
片足を上げて、もう片方の足を軸に、一回転したのである
駒のように一回転した緑の異形の踵
遠心力がこれでもかと乗せられた回し踵蹴り
黒い異形の腰部が、それを喰らってしまう
横っ飛びする清仁
無様にゴロゴロと転がり、摩擦で回転を止めた頃にはすぐ近くに緑の異形が接近していた
せめて立とうとしても、このままでは間髪入れずに蹴り飛ばされる
なら立たずに一撃で殺れば良い
黒い異形が背中から剣を引き抜く
刃が尖っていない完全になまくらなその剣は、縦に割れる
剣と黒い異形は、チューブのような器官で繋がっていた
そのチューブが脈動すると、割れな剣からホースの水の何万倍もの勢いの液流が飛び出す
志田清仁は、新たに手に入れた背中の剣に名前を付けていなかった
なので、今この技に名前を付けることにする
ゲルブレードスラッシャーだ
液体の刃を手に入れた黒い異形は、今まさにキックを放とうとする緑の異形にそれを振った
アイドルだろうと全く関係無い
何人ファンがいても知ったことではない
ゲルブレードスラッシャーは、緑の怪人を縦に別けてしまった
せめてもの救いは、彼女が人間の姿をしていなかったことくらいだ
lucky☆7のライヴ会場のすぐ近くで、原因不明の大爆発が起こった
「チッ」
携帯の画面は、今の時刻が七時を回ったことを告げていた
明日は学校なのだ、早めに帰らなければ面倒なことになる
先程にアイドルを殺害した場所を振り向くことすらせず、清仁は足早にその場を去った
戦闘後の快感を、確かに感じながら