変身願望ブルゥス   作:アルファるふぁ/保利滝良

17 / 31
停戦協定

 

「さっさと始めようぜ」

睨む

視線には、自分の住む県の知事

だが、その男はもう人ではない

己と同じ、殺し合いが快楽の、人ならざる化け物なのだ

「どうせそのために呼んだんだろ」

清仁の目に殺気が宿った

だが、県知事松井は涼しい顔で受け流す

そして、一言言った

「そんなことのためじゃあない」

「何?」

「君を呼んだのは、そんな慌ただしいことのためじゃないんだ」

清仁の目が細まった

わざわざこうして呼び出して、それにお互いが怪人だと言うことを知っている

なのに戦闘以外の用件とは、なんなのか

目の前の男を睨み付ける

現役男子高校生の冷たい視線を浴びてもケロリとしている県知事は、そのまま捲し立てるように言葉を紡いだ

「とりあえず座ったらどうだい?」

「・・・あぁ」

松井の提案に大人しく従い、清仁は向かいの椅子に腰を下ろした

家族連れやカップルが、バイキングに群がりながら騒いでいた

その五月蝿い光景を全く無視し、人外二人が会話をする

「単刀直入に言おう、今後私を攻撃しないでほしい」

にこやかな笑みを浮かべながら、松井京二は言った

互いへの殺害衝動を強く持つ怪人らしからぬ発言だ

だが、理由は大体見えた

「欲望より周囲への奉仕を大切にできる人間か・・・なるほど」

いつのまにか店のスタッフが持ってきたお冷やをかっくらう

喉を、キンキンに冷えた飲料水が通る

「そういうことだ、なかなか洞察力があるね」

「そりゃ、建前だろうが?それに例の欲求を抑えてそんなことを求める理由も・・・」

「おっと、そこは流石に気付くか」

不機嫌そうな男子高校生は、うんざりしたような顔をした

もともと頭を使うのが苦手な清仁だ

こういう腹芸は、特技には入らない

とっとと話を切り上げることにする

「俺に得がない」

コップの中身を一気に飲み干して、清仁はドスの効いた声を発する

「今ここで貴様を殺してもいいんだぞ」

またも殺気のこもった目線を向ける

清仁にしてみれば、県知事だろうが総理大臣だろうが、怪人なら殺さない理由がないのだ

あの、満たさねば死んでしまう快楽を求めるためなら、殺し合いをもいとわない

「私もそう思ってね、これで勘弁してもらえないか」

県知事が紙包みを清仁の目の前に置いた

天井に設置された照明器具の光に、包み紙の向こう側が透けて見えた

学問のス〃メを執筆した偉人、故福沢諭吉氏の肖像画だ

「わかりやすいな、血税か?」

「いや、ポケットマネー」

「そうか」

ここで清仁の決意は揺らぎ始めた

厚さからして、数百万はあるだろう

だが、正直これで足りるほどあの欲求は抑えられるものではない

額でどうにかなるものではないのだ

顎に手を置いた清仁

悩んでいる彼の目の前に、紙のブロックがもう一個積まれた

「一千万ある」

もはやドン引きする清仁に、松井はさらにだめ押しを決めた

「これもついでだ」

「・・・寄越せ」

「他に何かいるのかい?」

「別の怪人の居場所だ、生きている奴の」

紙包み二つをリュックサックに押し込みながら、少年は呟く

動揺しているのが見てとれたが、大金の前に妥協を選んだのは明らかだった

「わかった、命には代えられないからね、この店から八キロ先の書店の・・・」

 

 

 

 

 

 

結局バイキングをご馳走になって、膨らんだ腹を揺らした

ついでにと渡された高めの売春店の割引券を財布に挟んでから、清仁は自転車に跨がった

「なんなんだ、あれは・・・」

狐につままれた感覚を味わいつつ、帰路を辿る

帰宅して最初にするべきことは、鞄の中の紙包みがちゃんとした現金か調べることだろう

松井京二

よくわからないが、何か考えている男だ

清仁が苦手な部類でもある

なまじ自分から害を与えてくる訳でもなく、しかし腹では何を考えているかわからない

これがいきなり殴りかかってくるヤンキー共なら、意気揚々と返り討ちにできるが、それもできない

「マジでなんなんだ」

ほぐされかけた警戒心を引き締め直し、清仁はペダルを踏み込んだ

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。