ラーメン屋から歩いて数十分
大きなホテルを迂回して少し歩いたところに、薄いクリーム色の建物が見えた
建物の塗装が黄色系統だったのかコンクリートの変色かはわからなかった
色はともかく、看板には宿泊施設の文字と、営業中を強調されたネオン標識
だが、そこは随分と寂れているように見える
素人目でもそうなのだから、目の肥えた人間にはとても汚い場所に写るだろう
もっともビジネスホテルや高級宿などの良い場所を選んだ場合、失踪した未成年とバレた時のリスクが高い
余裕のある店は、面倒事を抱えている客を排除するのに躊躇がないものだ
逆に客に餓えた宿屋なら、金を払って大人しくしていればまあまあ安全だろう
清仁は財布を取り出して、店の暖簾をくぐった
灯油ストーブの起動を待ちながら、清仁は布団を引っ張り出した
所持金を確認し、現在位置を把握する
風呂上がりに買ったミックスジュースのパックにストローを刺し、敷き布団の上に腰を降ろした
田舎から東京に来たからといって、清仁は別に観光するためにわざわざ足を運んだのではない
やることはひとつ、異形を見付けて殺し合いをすることだけ
清仁は東京にある使われていない駅ホームで怪人になる力を得た
同じプロセスで怪人が生まれるのだとしたら、東京にはうじゃうじゃと怪人がいるに違いない
そもそも人口密度が高い分、割合からして数も多いはずだ
来た甲斐はあるといいが
「・・・ふーっ」
ミックスジュースを一口啜り、ため息をついて窓を見る
幸いにも、雪は降らない
スニーカー一丁しかない清仁には、積雪を踏み越えるのは難しい
清仁は、敵を倒したあの時の快感を思い出し、身震いした
様々な欲望を一気に叶えた時のような、爽快感さえ得られるあの感覚
あれを得られるのなら、清仁は手段を選びたくなかった
だが、金があるとはいえ永遠に戦うことはできない
資金が底を尽きて何もできずに野垂れ死には、正直戦いで死ぬよりも恐ろしい
なら、死に場所を決めておくのも良いだろう
どうせ長くは生きていけない、そういう風になっているからだ
戦い続けるしかない体となったからには、相手に負けて死ぬ可能性は一生付きまとう
だが、清仁はそれも悪くないと思い始めた
野垂れ死によりも、あの腐った学校生活を送って生きていくよりも、まあまあ良いのではないかと
あの、進歩もないうんざりする日々よりは良いのではないかと
いつも通りの思考に陥りかけて、清仁は首を振った
もう自分は、あの生活から決別したのだ
今さら思い出してどうする
そして自分はじきに、何らかの形で死ぬのだ
だから死に場所を自分で決めておく
あとはそこへ向かってゆっくりと旅をして、出会えるなら異形と戦っていく
そして、あの石の下へ向かう
そこを根城として現れ続ける異形を狩るも良し
あそこの番人として異形が増えるのを見守るのも良し
もしくは、いっそのこと、あの石を
ストーブが唸る
暖まってきた空気のなかで、清仁の瞼は重くなってきた
このまま眠ってしまおう
そう決めたあとは、すぐに夢の中へ落ちていく
これから始まるのは、生きる限り終わることの無い戦いの毎日だ
だから今だけは、少しだけ、休んでおくことにした
だが怪人と戦い倒した方が、もっと気持ちが良いことを、清仁は知っていた