「ねぇ、藍」
「なんです? 紫様」
「貴女……お姉さんがいるの?」
「……えぇ、まぁ、不本意ながら」
「おじさん、ありがとうございますー♪」
「なぁに気にすんな! 嬢ちゃんも、山道は気ぃつけろや!」
はーい、だなんて甘ったるい声を出せばたいていの男は落ちてくれる。あのおじさんも中々シブメンだったけど、私の趣味とはちょおっと違うかな~? やっぱりイケメンですねー、世の中は。顔、というより魂がイケメンな人だけどっ♪
おじさんのお店でお手伝いして得た油揚げを1枚口にして、私は山を目指す。都心は避けてるから、今が何県なのかはちょっと分からない。それでも私が目的地を違えないのは一重に、周囲で漂う「妖気」のおかげ。私が目指すべき場所からは、隠そうとしても隠せないだろう妖気が発せられていて良く分かるから。
そのまま歩き通して、私がたどり着いたのは1つの神社だった。ここを守護している神に挨拶をし、お賽銭も微々たるものだが入れておく。こういうのは最初が肝心、気を抜けばナメられますからねー。
「で、私を呼び付けたのは何処の誰ですか? この私を「九尾の狐」こと「玉藻の前」と知っての無礼なら、それなりに痛い目を見てもらわないといけませんねぇ……」
少しドスを効かせた声で、ここら一帯に殺気を放つ。木々から鳥が飛び立ち、森からは動物たちが逃げていく。そんな中、私は妖気の元を特定しようとしてーーー
「あらあら、怖いですわ」
ーーー背後から聞こえた声の主に、両腕を捕まれていた。
驚きと同時に地を蹴って跳躍。両の足で思い切り背後を蹴る、拘束が緩んだ瞬間に距離をとり、呪符を構えて相対する。
「それで……何者ですか? この時勢に、あなたのような妖怪がうろついているだなんて話は初耳です。私の命でも取る腹積もりで?」
知らず声に怒気が乗ってしまったかもしれない、しかし眼前のこの女が相手だ。油断も慢心もできやしない。眼に納めれば更に濃密に感じられる妖気に嘘くさい笑み。金髪に日傘、ドレスと洋風の佇まいを鑑みるに西洋妖怪?
すわ吸血鬼クラスの物の怪かーーーと、符を指に挟んで身構える。しかしこの女は不敵に笑むだけで、それが私に悍気を走らせた。
「矛を納めてくださらない? 私は、貴女と争うつもりなど毛頭ありませんもの」
それこそ尻尾の毛先ほども、とおもむろに口を開いた女は言う。
「……あーら、お上手ですねぇ。しかし生憎、はいそうですかと言う訳にもいかないのですよ」
「八雲紫、幻想郷の賢者。種族は隙間妖怪ですわ、九尾のお姉さんーーーこれで宜しいかしら?」
「これはこれはご丁寧に。私は玉藻の前と言う偉大なる狐の女王、隙間妖怪も幻想郷とやらも初耳ですね。……それと妹を知っているので?」
くすくすと笑いながら扇子で口元を隠す様は、なるほど美しくて妖しいものだ。それにしてもーー私の妹を知る者だなんて、歴史を紐解いても大した数いない筈。という事は本当に妹の知り合い?
「ーー貴女を幻想郷にご招待しに参りましたわ」
完全な見切り発車