東方紅緑譚   作:萃夢想天

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一週間ごとに投稿するペースにも
慣れてきました……睡眠不足ですがw

それでは、どうぞ!


第十八話「紅き夜、月は東に陽は西に」

 

 

 

幻想郷の空を紅い霧が覆い隠してしまうという異変が起きてから既に四時間。

今もなお続いている霧の噴出に怯えている人間達の暮らす人里の真上を二つの影が過ぎ去る。

その二つの影は一直線に、霧の発生源である吸血鬼の館を目指していた。

 

「いよっしゃあ‼ 霧雨 魔理沙、完全復活だぜ‼」

 

 

空を往く影の一人が大きな声を上げていた。

博麗神社で半ば廃人と化していた白黒の魔法使いである。

その少し後ろを着いて行っているもう一つの影が、疲れたように低く声を掛ける。

 

 

「あのーー魔理沙さーん‼ ペース早過ぎませんかねぇーー⁉」

 

 

そう言いながら徐々に空を飛行する速度を落とし始める。

博麗神社で半ば廃人と化していた魔理沙の介抱を頼まれていた風祝(かぜはふり)の巫女である。

 

「当たり前だ! 全速力で行かなきゃ霊夢に先を越されちまうぜ‼」

 

「いやいや! 今から行っても間に合いませんよ‼」

 

「そんな事ない! まだ間に合う、いや間に合わせる‼」

 

「無茶苦茶ですよ………ああ、ちょっとーー⁉」

 

 

風祝の巫女こと、東風谷 早苗の静止も聞かずに更に速度を上げる魔理沙。

彼女の速さに着いていけなくなった早苗は速度を落としてその場で一息つく。

そして既に点ほどにしか見えなくなってしまった魔理沙に対して愚痴をこぼした。

 

「また返事のないただの屍になっても、知りませんからね~」

 

そして彼女は身を翻して、元来た道をゆっくりと戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、魔理沙さん。また性懲りも無くやられに来たんですか?」

 

「そこを退け中国! 恋符【マスタースパーク】‼‼」

 

「いきなりそれは無s(ピチューン‼)」

 

 

紅魔館に辿り着いた魔理沙は勢いそのままに門番の美鈴を瞬殺し、館中へ突入した。

そして内部にいた妖精メイド達を薙ぎ払いながら、図書館を目指して突き進んでいく。

だが、その図書館への扉の前にある人物が待っていた。

魔理沙は乗っている箒から飛び降りて、彼女と向かい合った。

 

 

「待っていたわ魔理沙。あなたの相手はこの私が務める」

 

「へっ………弟の次は姉かよ。とことん楽しませてくれる姉弟だぜ」

 

「………………あいつは私の弟なんかじゃないわ、二度とそんな話をしないで」

 

 

魔理沙と向かい合って不機嫌そうな表情を浮かべているのは、この紅魔館のメイド長である

『完全で瀟洒な従者』、十六夜 咲夜であった。

彼女の言葉に疑問を抱いた魔理沙は、率直にその事について尋ねた。

 

 

「え? でもアイツはお前のこと『姉さん』って呼んでたぜ?」

「戯言よ。私に弟なんていない、いるわけがない。…………くだらない話はここまで」

 

 

先程よりも更に顔を歪めて魔理沙の問いに応えた咲夜は、その手に一瞬で数本のナイフを

出現させて腕をクロスさせつつ、いつでも投擲出来るように構える。

魔理沙も箒に(またが)り、少し宙に浮いてミニ八卦炉を咲夜に向けて構えた。

 

 

「さぁ、もう一度脱落してもらうわよ魔理沙。………お嬢様の悲願の(いしずえ)になりなさい」

 

『_______________我らが願いの為、ここで倒れて生贄となるがいい‼‼』

 

「…………へっ、似たような事言うんだな。やっぱ姉弟だろお前ら」

 

「ッ‼ ………気が変わったわ、明日の妹様の朝食にしてあげる!」

 

「それは勘弁だぜ‼」

 

 

紅魔館内で、もう一つの弾幕ごっこが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________目の前が全て、紅く染まっていく。

 

 

僕の発動したラストスペル『狩人【CRIMSON NIGHT】』によって、この幻想郷を覆っていた

紅い霧の風向き______風の方向を操ってこのヴワル大図書館の一点へと吸い寄せているからだ。

瞬く間に図書館の内部が紅い霧で埋め尽くされていき、僕の相手でもある博麗の巫女の姿すら

見えなくなっていたが、僕は構わずに図書館内の何処に居ても聞こえるような大声で叫んだ。

 

 

「コレが僕の切り札! 貴女にブレイク出来るか、博麗 霊夢‼」

 

もはや空間そのものが血飛沫をあげているかのように、全てが紅いこの図書館で

紅白の衣装を着た彼女は今頃、僕が何処に居るのかすら分かってはいないはずだ。

そう、これは僕の最後の賭けなんだ。見つかったらその時点で勝負は終わる(ゲームセット)だろう。

とにかくこのスペルは完全にして完璧、敗北は決して有り得ない。

だからこそ僕は再び自信を持って、博麗の巫女に告げる。

 

「このスペルは僕そのもの‼ 貴女に訪れる紅き夜(CRIMSON NIGHT)は、決して明けはしない‼‼」

 

未だに膨張と集合を繰り返し続けている霧の中から、僕は標的(ターゲット)を探す。

するとやはりと言うべきか、彼女は僕のすぐ近くで僕を探して辺りを見回していた。

しきりに彼女の視線があちこちを向いているが、それも当然だろう。

だがそれでもなお僕を探している彼女へ、少し浮かれた口調で語りかける。

 

 

「さぁどうしました? 僕の居場所が分かりませんか?」

 

「くっ…………!」

 

 

若干悔しげに唇を浅く噛んで顔をしかめた彼女の様子を見て、僕は更に舞い上がりそうになるが

それでもすぐに気を引き締める。相手は博麗の巫女、決して油断など出来る存在ではない。

すると図書館の恐らく本棚の後ろ辺りから、天狗の文さんの声が聞こえてきた。

 

 

「霊夢さぁーーーん‼ 一体どうなってるんですかぁーー⁉」

「知るわけないでしょ! ………………でも、かなり厄介なのは確かよ」

 

「れ、霊夢さんが厄介って、かなり不味くないですか⁉」

 

「集中するから少し黙ってなさい!」

 

 

そう言って彼女は文さんとの会話を無理やり終わらせて再び僕の行方を探り始めた。

無駄だと分かっていながらも、やはり気を抜けないのは相手が相手だからだろう。

さて………ここからが本番だ、一瞬たりともこの女から目を離したりはしない。

僕の発動しているこのスペルがある限り…………楽しもうじゃないか。

 

 

「しかし、本当に上手く隠れたわね。これで公平な勝負のつもり?」

 

「フフフ………公平かどうかを決めるのは、僕でも貴女でもない」

 

「じゃあ、誰よ?」

 

「この勝負の『結果』ですよ。答えが全てを物語る、それすなわち________」

 

 

 

「「______勝者こそが正しい」」

 

 

 

 

「アンタってホント咲夜に似てるわ。基本的な人間としての倫理観がまるで無い所とか」

 

「標準的な人間では、吸血鬼(かのじょ)達の従者なんて務まりません………僕も姉も」

 

僕を探しながらも問いかけに応じるあたり、彼女には随分余裕があるのだろう。

まずはその余裕から剥がしていこうと考え、取り敢えずナイフを数本彼女へと投げつける。

 

 

「______ッ⁉ (今のナイフ、何処から飛んで来たの⁉)」

 

 

すると僕の予想通りに、彼女はナイフを余裕を持って躱すことは出来なかった。

当たる直前になってようやく気付き回避したが、それだけで終わるわけがない。

 

 

「……なるほど、また反射するスペルってわけね。今度は霧のオマケ付きの」

 

 

したり顔で彼女が避けたナイフが再び自分に向かってくる事を確認して呟いた。

だが、残念ながらそうではない。この弾幕は単なる反射などでは無いのだ。

それを証明するかのように、再びナイフが彼女へと向かっていく。

そしてそのナイフは突然姿を消し、別の方向から現れて速度をそのままに飛来していった。

 

 

「くっ‼」

 

「おや惜しい、あと少しで被弾させられたのに」

 

 

僕は彼女をからかうような口ぶりで挑発する。

しかし彼女は僕の声で居場所を特定したのか、弾幕を放ってきた。

誰もいない前方へと(・・・・・・・・・)

手ごたえが無いことに違和感を感じたのか、彼女は再び周囲を見回す。

そろそろ気付くだろうか、このスペルの正体に…………………。

 

 

「何で? ただの反射じゃない…………一体何が?」

 

「考えている時間はありませんよ」

 

「えっ?_______嘘⁉」

 

 

悠長に僕のスペルの謎を考えていた彼女の眼前に迫っていたのは、彼女の放った弾幕。

それに気が付いた直後、彼女の背後には僕の投げたナイフがすぐそばまで来ていた。

前後を挟まれた彼女だったが、少し高く浮いてその二つの弾幕を相殺させた。

だが僕のスペルはまだ終わってはいない。

 

 

「私の弾幕が返ってきた…………つまり、包囲されてるのかしら」

 

「おお、流石ですね。たった三回で見破ってしまうとは」

 

「いくら何でも、こんなわざとらしく手を抜かれたらね」

 

どうやら本当に気付いたらしい、僕のこのスペルの正体に。

そう、僕はあえて彼女への攻撃の手を緩めていたのだった。

彼女は博麗の巫女、だからこそまだ生かさなくてはならない(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「だって、すぐに勝負が終わってしまってはつまらないでしょう?」

 

僕は再び彼女に挑発紛いの言葉を口にする。

しかし彼女は今度は僕の挑発には乗らずに、真上へ向けて弾幕を放った。

でも、それでも意味は無く別の場所から弾幕が彼女へと跳ね返った。

 

 

「………なるほど、やっと把握出来たわ。このスペルの正体」

 

「ほほう、是非ともお聞かせ願いたい」

 

 

余裕といった体で彼女の言葉の続きを聞こうとする僕に対して、

彼女はスペルカードの宣言で返してきた。

 

 

「宝符【陰陽宝玉】‼」

 

 

彼女がスペルカードを発動させると、彼女が体の前に構えたお祓い棒から

色とりどりに輝く巨大な宝玉を模した弾幕が四方八方へと飛び散っていった。

その弾幕が物体に触れた途端に、轟音と共に爆発し本棚を倒壊させた。

全く、後でそれを直す僕とこあさんの身にもなってもらいたいものだ。

だがとりあえずは、目の前の彼女に声を掛けるべきだろう。

 

「残念ですが、それは不正解ですよ」

 

「えッ⁉」

 

 

今度ばかりはやったと思ったのだろうか、かなり驚いた様子で彼女は辺りを見回す。

恐らく彼女は自分の周囲に同時に弾幕を張れば、どこかで弾幕を反射させる瞬間を

僕が見せてしまうと思ったのだろうが、それは大きな間違いだ。

 

 

「さて、お次はどんな回答をお見せいただけるのでしょうね」

 

「くっ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あやや………どうなってるんですかコレ」

 

 

十六夜 紅夜 と博麗 霊夢の弾幕ごっこを観戦していた射命丸 文は

今目の前で起こっている出来事に、ただただ口を開けて唖然とするだけだった。

幻想郷中の紅い霧が一点に集まり、その中心に二人が飲み込まれていった。

その中で今も弾幕ごっこは続いているようだが、その様子は見る事は出来ない。

だがしっかりとカメラを構えている彼女に、横にいたパチュリーが声を掛ける。

 

 

「コレは紅夜のスペル、彼の最後の切り札であり…………使ってはいけない力」

 

文は少し悲しげな彼女の口調が気になり、カメラをしまって代わりにブン帖とペンを

手に取り、彼女の言葉の真意を問い詰めようとした。

 

 

「おや? アレが何かご存知のようですね。教えて頂けますかパチュリーさん?」

 

「………………その前に、一つ私からいいかしら?」

 

「あやや、珍しいですね。私で答えられる事ならいいですよ」

 

「そう…………なら聞くけど、紅夜の事をどう思うかしら」

 

 

いつもと比べて真剣な面持ちで文に尋ねたパチュリー。

だがその質問の意図が上手く読み取れなかったのか、文が表情を取り繕った。

 

 

「えっと……………それはつまり今回の異変の首謀者としてどうか、ですか?」

 

「そうじゃなくって。あなたから見て、紅夜はどんな男に見えるかしら?」

 

「ああなるほど………………………ええぇ‼⁉」

 

 

心底驚いたとでも言いたげな表情でパチュリーを二度見した文は

何故か顔を朱くした後で、その言葉の意味を再び彼女に尋ねた。

 

 

「いやいやいや! なんでそんな事聞くんですか⁉」

 

「あなた、答えられる事なら良いって言ったじゃない」

 

「確かに言いましたけど! 何かこう………違うじゃないですか‼」

 

「あなたの基準なんて知らないわよ。とにかく答えて」

 

 

そう言って手にした魔導書(グリモワール)を開いて魔力を充填していく。

その威圧感に押されて、文は分かりましたと根負けして質問に答える事にした。

 

「そうですね………一言で表すなら『危険人物』ですかね」

 

「……………どうしてそう思うのかしら」

 

「いや、どうしてもこうしてもありませんが………強いて言うなら妖怪の勘、でしょうか」

 

「妖怪の勘………………ね、参考にさせてもらうわ」

 

 

そう言ってパチュリーは魔導書を閉じて独り言を呟き始めた。

文は肝心の紅夜に関しての事を聞いていないことに気付き、再び彼女に尋ねる。

 

 

「ですから! アレについてお聞きしたいんですが‼」

 

「ああ、忘れてた。確かに言ったわね、紅夜のあのスペルについて教えるって」

 

「ええそうです!」

 

 

先程とは打って変わって強気になった文を横目で見ながら、

パチュリーは少し咳き込み、後ろにあった椅子に座って話を続ける。

 

 

「ケホッ………またぶり返してきたかしら。悪いけどまた今度にしてくれない?」

 

「何ですかそれ! そんな引き方はズルいですよパチュリーさん‼」

 

「大丈夫よ、このスペルはどうせ長くは保たない(・・・・・・・・・・)もの」

 

 

パチュリーがそう呟いた途端、紅い霧の中から轟音が響いてきた。

文はその音に驚きながらも素早くカメラに持ち替え、パチュリーは霧をただ眺めていた。

しばらくして、ゆっくりと霧が晴れ始めた。

その中心には、霊夢だけがその場に立っていた。

そして紅夜は______________図書館の床に倒れていた。

 

「霊夢………さん、一体何が?」

 

 

文が恐る恐る髪に手を当てて整えている霊夢に声を掛けると、

霊夢は文とパチュリーに気付き、何でもないような口調で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異変は解決したわ、コイツの負けよ……………正しかったのは、私ね」

 

 

 





少し短めですみません………。

次回は長めで書きますので!


それでは次回、東方紅緑譚


第十八話「紅き夜、異変解決」
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