東方紅緑譚   作:萃夢想天

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最近リアルが忙しくなってきました。
ですが、こちらの更新だけは決して止めません。

だって、東方大好きですから‼


そんな決意を胸にしてこれからも頑張ります。
それでは、どうぞ!


第弐十四話「緑の道、山頂の二天柱」

 

 

 

紅い霧の異変の終幕を見届けた縁は、その足で博麗神社へと向かった。

しかし、そこに居た鬼の伊吹 萃香と戻って来た東風谷 早苗の誤解によって

彼は自分の主人からの命令を実行出来ぬまま、早苗の住まう守矢神社へと誘われた。

既に日は落ちかけ、月の輝きが段々と強まってきた頃になってようやく彼らは

神社を山頂に建立してある『妖怪の山』へと辿り着いたのだった。

 

 

「意外と距離があったな」

 

「いや………まさか神様である貴方が空を飛べないなんて思わなくて」

 

「すまない。だが、空中を走って来た分遅れは取り戻せたはずだ」

 

「空を走るとはね、流石のあたしでも驚いたよ。どうやったんだ?」

 

「またいずれ話すとしよう」

 

元々空を飛べば早かったのだが、縁には飛行能力など存在しなかった。

だが彼は空中に移動してすぐに、自分の足を出した先と地面を(つな)いで足場を作り

それを繰り返すことで空中を走るようにしてここまでやって来たのだった。

これには流石の萃香も驚いたようだったが、そのタネは教えてもらえなかった。

早苗も直接口には出さなかったが、内心では聞きたかったと残念がっていた。

 

 

「と、とにかく今は先を急ぎましょう。夜になってしまいますから!」

 

「それもそうだな。では東風谷 早苗、道案内を頼む」

 

「ハイ、こちらです。(なんでフルネームで呼ぶんでしょうか?)」

 

 

早苗は空を見て予定よりも時間がかかった事に焦りつつ山への道に足を踏み出した。

縁と萃香は早苗にそれに続いて足を踏み出し、彼女の後を着いて行った。

そして三人が山に入ってから十分くらい経過した頃だろうか、萃香がふと立ち止まる。

それを見た縁と早苗は、何事かと尋ねようとした直後に萃香が口を開いた。

 

 

「あっちゃ~…………やっぱり何の連絡も無しに来たのはマズかったかね」

 

「萃香さん? どうかしましたか?」

 

「ん、ちょいとね。しかし参ったね、あたしはただ神酒を一杯貰おうと思っただけ

なんだけど、アイツら(・・・・)はそうは思っちゃくれんだろうなぁ………やらかした」

 

「伊吹 萃香、一体どうしたというのか」

 

「何でもないよ。ささ、早いとこ神酒貰って帰ろうや!」

 

「…………………」

 

 

立ち止まっていた萃香がまた突然歩き出し、そのまま早苗を追い抜かしていく。

早苗は何だったのだろうと思いながらも道案内として役目を果たそうと続いた。

しかし今度は縁が萃香のように立ち止まり、同じように後ろを振り返る。

その行動に早苗は疑問を抱き、萃香は彼の視線(布で隠れて見えないが)の先に何が

あるのかを何となく察し、口を挟もうとした。

だがその瞬間、縁の姿が突如現れた裂け目に消えて影も形も見えなくなってしまった。

 

「あ、アレ⁉ もしもーし、名も知れぬ神様ー、どちらへー⁉」

 

「ああ、アイツも勘付いたのかい。でも良く分かったね、あたしでも気配を掴みにくい

奴らの居所を一瞬で見破るなんてさ。なあ守矢の、あの神は何の神様なんだい?」

 

「へ? い、いえ………私にも何の神様かは分からないんですが」

 

「そうかい。でも、アイツ相当力はあるね。鬼のあたしにでも分かるよ」

 

「そ、そうなんですか……………しかし、いったいどこへ?」

 

 

縁が消えた場所でやり取りを続ける二人は、消えた彼の事について話し始める。

しかし、それほど時間も経たない内に再び二人の目の前に裂け目が現れた。

その中から出てきたのは、顔に布を掛けた縁と、もう一人の姿があった。

二人がその人物の名を頭に浮かべた直後、その人物が噛み付くように縁に吠える。

 

 

「貴様、一体何者だ‼ ええい放せ、人間風情が! ここは妖怪の山なんだぞ‼」

 

「え、(もみじ)さん? どうしてその人と一緒に?」

 

「守矢の巫女、貴様だな⁉ この人間を山の中に入れた………の………は…………」

 

縁に対して文字通り食って掛かっていた、不思議な姿をした少女。

まるで一本一本を絹糸で編み込んだかのように煌びやかな銀色の短髪。

その銀色の髪の中に一点だけ映える、紅色の頭巾(ときん)と呼ばれる被り物が添えられ、

頭巾の下から両側頭部にかけて、モコモコとした綺麗な毛並みの犬のような耳が生えていた。

上半身は早苗と同じように何故か脇を露出させた濃白色の布地で繕われた天狗の装束を

身に纏い、下半身は浅黒色の中に真っ赤に染まった紅葉が散りばめられた絝を履いている。

そして彼女の背中には、彼女の体よりわずかに小さいほどの巨大な大剣が携えられていた。

彼女がその背に携えた剣の鞘の下から、耳と同じように白銀色の大きな尻尾が見え隠れしている。

今もなお縁に服の裾を掴まれて身動きを封じられた彼女の左腕には、白色の小楯が備わっていた。

彼女の名は__________『犬走 椛(いぬばしり もみじ)

 

彼女の特徴的な耳や尻尾は、白狼天狗(はくろうてんぐ)という種族の証明でもあった。

白狼天狗は主に妖怪の山の警護や哨戒に当たっていて、普段から非常時に備えての

武器の所持及び携帯を全ての天狗の中で唯一認められているのだった。

彼らは鴉天狗達と共生し、互いの役割をキッチリと取り決めて暮らしている。

つまり、人間で言う『縦社会』の縮図のような間柄なのであった。

種族の格で言えば鴉天狗の方が上であるため、白狼天狗は彼らの言う事を基本的に聞き入れる。

背けば、それなりの罰が与えられるためであった。彼女もまた例外では無い。

故に彼らは、使命感や仲間意識が非常に強く、自分達以外の種族に容赦は無い。

だが、そんな確立したシステムを構築している彼ら天狗にも、勝てない相手がいた。

それこそが『鬼』である。

 

天狗の人間を遥かに超えた身体能力も鬼に対しては赤子も同然であり、

彼らの鍛え抜かれた様々な妖術も、鬼の発する覇気の前では紙クズに等しい。

力でも、知恵でも、決して鬼には叶わない。

人間よりも長い年月を生きる彼らでも、その絶対的な上下関係は覆せなかった。

だからこそ天狗は人間と共謀し、鬼を自分達の暮らす山から追い出す事にしたのだった。

その結果が、今の平和な妖怪の山の現状なのである。

 

しかし今、事この場に至ってそれは覆った。

 

椛の釣り上がった両眼にはハッキリと、鮮明に、そして絶望的にしっかりと映り込んだ。

彼女の視線の先には、彼女ら天狗が恐れ忌むべき相手である鬼が立っていたのだから。

先ほどまでの敵意は軽く吹き飛び、彼女の表情にはくっきりと絶望が浮かび上がった。

 

 

「おお、久しぶりだね。やっぱりさっき見てたのはアンタだったかい」

 

「い、ぶ、き、すい、か……………さん? どうして、ここに」

 

「ちょいと用事が出来てね、すぐに帰るから心配無さんな。

大丈夫だよ、もうやたらめったら能力で人やら(あつ)めて夜通しの宴会なんざ開かないから」

「ほほ、ほんとでしゅか⁉ ももも、もうお帰りに、なるの、ですかっ⁉」

 

「んー? 何だい、帰っちゃいけないのか帰ってほしいのかハッキリしな。

そういう曖昧なのが一番ムズムズするんだよ。で、どっちなんだい?」

 

「どど、どちらと言われましても、その!」

 

「…………もういいよ、邪魔して悪かったね。おいアンタ、コイツを放してやりな」

 

「いいのか? コイツは我々を密かに監視していたようだったが」

 

「それがコイツらの仕事なのさ。分かったら放してやりな、ほら早く」

 

「………そういう事なら問題は無い。すまなかったな、邪魔をしてしまって」

 

「いい、いえ………でで、でも、人間のお前が来たことは上に報告をするからな!」

 

「私がこの山に入ってはいけなかったのか?(もしや、紫様に敵対する連中か?)」

 

萃香が何かを諦めたようにため息をつくと、縁に椛を解放するように頼んできた。

縁は一先ずの非礼を詫びつつ椛を解放したが、その椛は再び敵意を向けて言い放った。

その言葉の意味を勘繰った縁はやはり捕らえておこうと思い直し能力を使おうとした。

しかし、それを制するように今まで黙っていた早苗が両者の間に割り込みながら声を上げた。

 

「椛さん、その件に関してですが問題はありません。

人間のようですが、こちらの方は神通力を宿しています。つまり神様です。

例え低級だったとしても、人間ではない以上この山へ踏み入る事自体は問題無いはずです。

この方を守矢神社のお二人に会わせようとして連れ込んだのは私ですので、もしもそちらの

大天狗様が厳罰を言い渡すようなら、その時は私も同罪として処罰を受けますよ」

 

「い、いや。お前をどうこうするとあの二柱が黙ってはいないだろう。

そうなることは大天狗様も避けたいはずだからな、仕方は無いか」

 

「御協力感謝しますよ」

 

「と、とにかく私は哨戒に戻るが他の仲間には絶対に見つかるなよ!

あ、いや見つからないでください萃香さん、色々と厄介になりかねますので………」

 

「承知してるってば、今回はあたしが悪かったよ。

そういう訳だ、あたしは今から霧状になってあんたらに着いて行くことにするよ。

そうすりゃ多少は妖力を抑えられるし、見つかってもコイツのせいにしときゃ、な?」

 

「私の能力か何かのせいにするということか、いいだろう」

 

「話はまとまりましたね? それじゃ行きましょうか」

 

 

息を吹き返したように目を吊り上げていた椛は萃香を見るたび委縮する。

それを見て何か思うところがあったのか、萃香も同じように肩を落として妥協した。

縁達とも話をまとめ、再び早苗が先導して山道を歩み始めた。

そんな三人の、もとい二人の背中を見つめながら椛もまた別の参道を駆けていく。

鬼と遭遇したためか、普段の椛であれば気付けた異常に気付くことが出来なかった。

縁の歩いた道のりを、確かめるように追っていく一つの影がいた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁達が妖怪の山に足を踏み入れてから更に日が傾いてきた今現在。

彼らの目的地である守矢神社の(やしろ)の中で、二人の女性が会話をしていた。

大柄な方の女性の声は凛としていながらも決して華奢ではなく、むしろ腹の底まで

響くような重厚な雰囲気を纏っているようでもあった。

対してもう一人の小柄な少女の声は先ほどの女性とは真逆の印象を抱かせるほど

幼いようであり、天真爛漫(てんしんらんまん)という言葉が似合う声色であった。

そんな対照的な二人が顔を同じようにしかめながら、会話を続ける。

 

 

「やっぱり気のせいなんかじゃないよ、確実に迫って来ている」

 

「ああ、今ハッキリと分かったよ。コイツは敵か、それとも…………」

 

「安易な考えは止めといたら? これほどの力の持ち主なんだしさ」

 

「それもそうだな、だがそれ故に奇妙でもある。そう思わないか?」

 

「何が?」

 

「これだけの力の持ち主が何故、こんな時間にここまで来たのか。

しかもつい先ほどまで『異変』が起こっていたにも関わらずだ。

この二つの出来事がたまたま、偶然の出来事だと思えるか?」

 

「うーん、どうだろうね。まだ判断材料が少なすぎるよ」

 

「かといって後手に回るのはまずい、か……………」

 

 

大柄な女性があぐらをかきながら右手を顎に添えて悩む素振りを見せ、

小柄な少女が両手を床につきながら足を開いて、まるでカエルのような体勢のまま

相手と同じように思い悩むようなうめき声を上げる。

結局いい考えが浮かばなかった彼女らは、考えるのを止めた。

 

「…………もういっそのことさ、殺っちゃう?」

 

「それが出来れば苦労は無いが、もし敵意の無い者だったらどうする?」

 

「うーーん……………ごめんちゃい?」

 

「許される訳が無いだろ」

 

「だよねー! うんうん、言ってみただけだよ。そんな怒んないで」

 

「全く、安易な考えはどうこうと言っていたのはお前だろうに」

 

「えへへ~、もうメンドくさくなっちゃってさ」

 

「まあ、確かに。もうそこまで来てるし、手っ取り早い方がいいよな」

 

「決まり! そいじゃ一発で決めちゃおうよ。手っ取り早く、さ?」

 

「そうだな。良し! 一丁デカいの決めてやるか‼」

 

結局話し合いの甲斐も無く、二人は会話を終えて立ち上がった。

大柄な女性は背中に背負った巨大な注連縄を背後で揺らしながら歩み、

小柄な少女は先ほどの姿勢のままカエルのように飛び跳ねて前へ進む。

そこまで長い距離があった訳でもないので、二人はすぐに玄関に着いた。

神社の扉にしてはそこまで豪勢では無いそれを勢い良く開き、前を確認する。

目の前に広がる神社の境内には、二人の待つ人物はいないようだったが、

恐らくまだ到着していないのだろう、そう考え二人は境内に出た。

しばらく待つと二人の感じていた凄まじい力の塊がすぐ近くまでやって来た。

二人は不敵な笑みを同時に浮かべて、弾幕ごっこのスペルカードを取り出す。

肉眼で境内に上がろうとする者の存在を目視した直後、二人は全く同じ

タイミングでスペルカードを発動させた。

 

 

「_________神祭【エクスパンデッド・オンバシラ】‼」

 

「_________開宴【二拝二拍一拝】‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁と早苗が長い参道を登り切り、霧状になっていた萃香が実体化していたその時。

突如三人の真上が夕暮れだというのに明るく輝きだし、その光が徐々に強まっていく。

萃香と縁はその光を不思議に思い空を仰いだが、早苗は光の正体にいち早く気付くと

自分の横にいた二人に対して身を(かが)めて動かないようにと叫び伝えた。

 

「コレは神奈子(かなこ)様の、神祭【エクスパンデッド・オンバシラ】⁉」

 

「おいおい、何だいこりゃ? 随分なお出迎えじゃないか」

 

「弾幕………スペルカードか?」

 

萃香が身を屈めながら飛来してくる弾幕を睨みつけ、縁が攻撃の出所を探る。

早苗は何故自分の仕える二人の神の内の一人の弾幕が飛んでくるのか分からなかったが、

その理由を考えるよりも早く別の危機が迫っていることに気付き、再び声を荒げた。

 

 

「そんな、今度は諏訪子(すわこ)様の、開宴【二拝二拍一拝】⁉」

 

「何だい何だい、アンタのとこの神様は神酒の一杯もくれたくはないらしいね!」

 

「上からと真横から、か。逃げ場を完全に塞いでいるな」

 

 

自分達の真上から降り注いでくる茶褐色の細長い弾幕の雨の中、縁が小さく呟く。

絶え間なく降り続く弾幕に加え、次にやって来たのは横薙ぎに飛来してくる弾幕だった。

逆扇型の形状で飛んでく弾幕に合わせて、時折青く輝く巨大な丸い弾幕が三人の頭を掠める。

しばらくそのままでいた三人だったが、現状に痺れを切らした人物が大声を上げて立ち上がる。

 

「いい度胸してんなぁ神様よぉ! 鬼相手に先手打ってご満悦かい⁉」

 

「ちょ、あの、萃香さん⁉」

 

「けどね、ナメてもらっちゃ困るよ! この程度足止めにもなりゃしないっての‼」

 

「萃香さん! ああもう、どうしてこうなっちゃうんですか~!」

 

萃香が理由も無く攻撃してきた相手に対して、浴びせられ続ける弾幕の中で吠える。

両腕に力を込めて、ひざを軽く曲げていつでも動けるように体勢を整える。

だがその一連の動きを見て、一人黙っていた縁が萃香の方に顔を向けて冷静に語る。

 

 

「伊吹 萃香、私達は今攻撃をされているのだな」

「あ? 見りゃ分かんだろ、歓迎されてるように見えるってのかい⁉」

 

「いや、そうは見えない。だが何故攻撃をされている?」

 

「あたしが知ったことか! アイツら殴りゃすぐに分かることさ‼」

「殴れば分かるのか。分かった、ならば敵を殴って理由を問い質そう」

 

そう言うと縁はすっと立ち上がり、弾幕の雨の向こう側をじっと見つめる。

自分の名が書かれた布で覆われていながらも、彼の眼はハッキリと敵を捉えた。

敵を確認した縁は向きを変え、早苗と準備万端な状態の萃香に向き直った。

そのまま縁は萃香に近づき耳打ちし、右腕で空間を薙いで裂け目を作り出した。

 

 

「殴ればいいのだな、伊吹 萃香? ならば協力させてもらおう」

 

「協力だ? 鬼のあたしに? 笑わせんじゃないよ、お前に何が出来る?」

「あそこにいる二人を殴る事が出来る」

 

「………………いいね、面白い奴だ。なら手伝わせてやるよ‼」

 

「ではどちらがどちらを相手にする?」

「あたしはあのちっこいのだ。ああ見えてアイツは確か大雑把な攻撃しか

してこなかったはずだしね。お前さんはあのデカい注連縄の方を頼むよ」

 

「了解した」

 

「チンタラしてたら両方あたしが殴っちまうからね?」

 

「案ずるな、その頃には私が殴り終えている」

 

「………くははッ! やっぱり面白いねお前、ますます気にいったよ‼」

 

 

縁の提案を承諾した萃香は、持っていた瓢箪を持ち上げ逆さまにして

中身の酒をこぼすようにして自分の口へと運んでいって喉を鳴らして嚥下する。

大きく息を吐いて腕をぐるぐると回して、自分が敵と定めた相手を鋭く睨む。

そのまま萃香はスペルカードを取り出し、飛来し続ける弾幕を掻き消さんとする

ほどの声量でスペルを唱えて発動させた。

 

 

猪口才(ちょこざい)なハエはまとめて潰すに限るってね、霧符【雲集霧散】‼」

 

萃香がスペルを唱えてから、大きく息を吸い込んで間髪入れずにそれを吐き出す。

すると彼女の吐き出した息が白い霧となって、早苗や縁を包み込んで滞留していく。

だがこの霧はただ単純に彼女らの姿を隠すだけのスペルカードでは無い。

このスペルで発生した霧は、一定時間だけ霧に触れた弾幕を消す効果を有している。

つまり、今まさに降り注ぐ弾幕も横薙ぎに飛来する弾幕も、全てが無効化されているのだ。

そしてその瞬間を、縁は見逃さなかった。

自分が結いでいた空間を移動して、一気に弾幕の射出されている地点へと着地する。

弾幕の射出地点にいた人物は驚いて振り返るが、既に縁は次の行動に移っていた。

 

 

「__________遅い、境線【遥か彼方の地上線】」

 

 

縁が移動すると同時に取り出していたスペルカードを発動させる。

その瞬間、彼の背後に先ほど自身が開いた空間の結ぎ目よりもさらに巨大な

空間の裂け目が発生し、そこからかなりの速度で長大な一直線上の弾幕が放たれた。

ビームかレーザーに見紛う弾幕が、恐ろしい速度で空間を左から右へと一薙ぎする。

だがその直後に弾幕の射線上にあった全ての物質がキレイに切断され、爆発した。

幸いなことに守矢神社は射程圏内に入っていなかった為、切断されることは無かったと

境内に今だ踏み入れずにいる早苗が胸を撫で下ろしていた。

しかし、これで終わったわけでは無い。

 

「お前はコッチだよ、酔神【鬼縛りの術】‼」

 

突然の反撃に驚いていた二人の内、小柄な少女に向け新たなスペルを発動させた萃香。

自分の腰のベルトから伸びている鎖を手に取り、彼女の妖術でそれを長大化させて

頭の上でグルグルと振り回して狙いを定め、一気に相手へ向けて投擲した。

小柄な少女は横合いからの一撃に反応出来ず、突き出していた両腕に絡められてしまう。

手応えを感じた萃香は鎖を介して相手の力を能力で自分に寄せ萃め、吸収して弱体化させ

縁のいる方向とは逆の方向に向き直って握っている鎖を力いっぱい引き寄せた。

 

 

「ほらほらどうした? まだまだ勝負は宵の口だよ‼」

 

「あーうー……鬼だったのかぁ、道理で強い妖気を感じた訳ケロ」

 

「相手があたしと知らずにケンカ吹っ掛けて来たってのか?

それは、アレかい? 鬼を……………………ナメてんのかい、ええ?」

 

「うーーん、コッチとしてはあの男の方を追い出せれば良かったんだけど、

ついでだし鬼も一緒にやったって問題無いよね。勝手に踏み込んだのはそっちだしさ」

 

「簡単に言ってくれるね、あたしが鬼だって忘れてないか?」

 

「そっちこそ。私が神だって忘れてないケロ?」

 

頭に奇妙な帽子を被った少女を相手に及び腰の萃香は、再びスペルカードを

懐から取り出して発動しようとするが、相手も同じ行動に出ていた。

互いに互いの次の一手を警戒し、中々先に進みだせない。

しかしながら萃香は、この状況を密かに楽しんでいた。

 

「さあて、いい酒の肴になっておくれ‼ 蛙の神様よ‼」

 

「仮にも土着神相手にいい度胸すわぁ………来なよ、山の子鬼‼」

 

 

 

『萃まる夢、幻、そして百鬼夜行』 伊吹 萃香

VS

『土着神の頂点』 洩矢 諏訪子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁が発動したスペルを回避した神奈子は、内心驚愕に震えていた。

自分達の感じていた強い妖気は、少し離れた所で鎖を振り回している鬼のものと

判明したはいいが、目の前のこの男については全く理解が出来なかった。

見た目は完全に人間そのものだ、多少奇妙な点はあるが幻想郷では大した事では無い。

だが、彼から感じる得体の知れない力については神奈子ですらも分からないのだ。

神として生きてきて、初めて未知の存在と対敵した。

戦場を司る戦神としては、この上ない恐れと好奇を抱いていた。

 

「次はコレでいこう、恍線【ハイパワー・ロウグラスパー】」

 

「くっ‼」

 

 

神奈子は突如自分の背後に現れた男の次なる一手を許してしまった。

しかしそれは自分の知る従来の弾幕とはかけ離れたものであった。

男の頭上と足元にそれぞれ二つずつ裂け目が現れ、頭上の二つからは直線的に

射出される大型の丸い弾幕が、足元の二つからはレーザー型の弾幕がまるで

獲物を見つけて忍び寄る蛇の如く神奈子に向かって蛇行しながら飛来してくる。

神奈子はその弾幕を自分の次なるスペルを発動することで相殺しようと考えて

懐からスペルカードを取り出し、それを発動させようとした。

 

 

「相殺か、いい手だが既に読んでいた。烙線【陽ト共ニマタ月モ沈ム】」

「なっ、馬鹿な! 発動前のスペルがブレイクされた⁉」

 

「こういうスペルもある。流石に読むことは出来なかったようだな、戦神よ」

 

「貴様ァ………戦神の名を、(あなど)るな‼」

 

 

自らを自分たらしめる戦神という名を貶されたような気になった神奈子は、

スペルでの相殺を諦め、自らの放つ弾幕でどうにか凌ごうと決意した。

だが再び押し寄せて来た異なる種類の弾幕の混ざり合った波が、神奈子の視界を埋める。

その波に飲み込まれる直前、背中に背負った注連縄に装着されていたオンバシラを

2本ほど切り離し、即席の防壁として隙を作り、弾幕の隙間を掻い潜った。

自らの弾幕を放つ手数を二つ減らされた事に、神奈子は憤りと焦りを同時に募らせる。

しかし目の前の男は打って変わって、表情の見えない顔で自分を見下ろしている。

 

「侮るつもりは毛頭ない。そして、加減も容赦もする気も同様に無い」

 

「ふん、少し出来る程度で神を超えたつもりか? 図に乗った事を後悔させてやる」

 

「私には後悔という感情は無い。故に八坂 神奈子、君の望みは叶わない」

「……どこまでも人の神経を逆撫でする奴だな、神を何だと思っているんだ貴様は」

 

「神は神だ。人は人、妖怪は妖怪。それと同じことだ」

 

「…………訳の分からん奴だ」

 

「私は縁、八雲 縁だ。これで『訳の分からん奴』では無くなったな」

 

「………八雲、そうかいそうかい。何となく察しは着いたよ。

お前が八雲と繋がってる者なら、何の遠慮も容赦も要らないってことだね」

 

「好きに解釈してくれて構わないが、そろそろ始めよう。

_____________もっとも、すぐに終わりになるだろうが」

「何度も言わせるな人の子よ、図に乗るな‼」

 

 

 

『心優しき無心兵器(オートマトン)』 八雲 縁

VS

『山坂と湖の権化』 八坂 神奈子

 

 





いかがだったでしょうか。
口調とかおかしくなってるかもしれません。
守矢一家は媒体によって大きく変わりますからね。
(大概はそうだと思いますが)


さて、縁の謎は深まる一方で
彼の持つスペルカードが続々登場してきましたね。
縁のスぺカは考えるのが非常に楽しいです。



それでは次回、東方紅緑譚


第弐十四話「緑の道、侵攻を止めた信仰」
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