皆さんお久しぶりです。
なんだか最近またPCの調子が悪くなってきました。
気温の変化とか関係あるんですかね…………?
機械類にはあんまり強くないので、怖いです。
さて、今投稿している緑の道ですが
予定より長くなる可能性が出てきました。
なるべく年内には次の章へ行けるようにしたいです。
それでは、どうぞ!
朝日が地平線からゆっくりと顔を覗かせ始めた頃、とある寺社の参道にて。
まだ冬の名残である冷たい北風が参道を通って行く中、二つの人影が姿を現す。
片方は緑色の逆立った短髪を風になびかせている和服の男、八雲
もう片方は水色の流麗な髪をそろえた小柄な体躯の少女、氷の妖精 チルノだった。
二人の間には早朝の清々しく気分を晴れやかにするような空気は無く、ただ殺伐としていた。
「アタイはさいきょーだから‼」
「二度と朝日は拝めないと思え」
人差し指を突き立てて縁に宣戦布告した水色の髪の少女、名は『チルノ』。
青色を少しだけ薄めたような色合いのワンピースを着こなしていて、
髪の色より少しだけ濃い色合いのサファイアのような輝きを宿した二つの瞳。
胸元には髪や服とは真逆の赤色に染まったリボンが可愛らしく付けられている。
だが後頭部には前方からも視認できるほど大きな薄い緑色のリボンが結わえられていた。
そして彼女の身体で最も人間離れしているのが、彼女の背中の後ろに浮遊している
三対六枚の規則正しい形状で浮いている彼女の羽は、透き通った氷の如く透明だった。
そんな彼女の眼前で、縁は剣を抜き放っている。
普段は剣を抜刀したりはしない、それは自分の主人から許可を得ていないからだ。
しかし今彼は主人の紫の許可も無く抜刀してチルノに向けている。
いつものように冷静だったなら、縁はこんな行動は決してしない。
そう、冷静だったのならば。
「撃ち貫け、線廻【アトランティスの螺旋階段】」
相手の弾幕を待たずにいきなりスペルカードを宣言し、発動する。
縁の背後に空間の
全ての筒が縁の背後に出揃った瞬間、轟音と共に無数の弾幕が放たれ始めた。
だが縁は弾幕を放ちながらチルノに向かって駆け出し、抜刀した剣を真横に薙いだ。
「うわっ、うわわっ!」
「決して逃がしはしない。粉微塵にして存在ごと消してやる」
常人の目では決して捉えられない速度で撃ち出される弾幕を、チルノは危なげに躱す。
だが弾幕に紛れて繰り出される縁の、同じく常人では捉えられない斬撃が襲い掛かった。
「___________なぁ~~んてね!」
「何⁉」
縁の振り抜いた剣が確実にチルノの首を切り捨てるであろう瞬間の直前、チルノが呟く。
そして彼女の顔には自信に満ち溢れた笑みが浮かび上がり、縁の太刀筋に合わせて振り向いた。
チルノが向けた視線の先には、ピクリとも動かずに停止している縁の刃先の欠けた剣があった。
押しても引いてもビクともしない、縁は慌てて距離を取ろうとするがチルノが先に動いた。
「アタイには剣は効かないよ! 今度はコッチの番だ‼」
「くっ‼」
チルノが右腕を縁に向けて突き出し、そこから水色の細やかな弾幕が放出された。
放たれた弾幕が直撃する寸前、縁の体が空間の結ぎ目の中に飲まれて掻き消えた。
そして充分に離れた位置に再び姿を現した縁は、右手に握った剣の切先を見つめる。
「剣をあの場に結いでおいて逃げねばやられていた………」
「アレ? 剣の先っぽがここにあるのになんでそっちにいるんだ?」
心の底から不思議そうに振り返りながらチルノが縁に尋ねる。
そんな彼女の顔の横には、先程の剣の刃先だけが宙に浮いていた。
剣は折れているわけでは無く、空間の結ぎ目に飲まれるような形になっている。
「おっかしーなー? コレどーなってんの?」
「……………………氷の妖精、これほどとは」
縁は自分の剣が止められた原因を悟った。
それはチルノの『程度の能力』である『冷気を操る程度の能力』だと。
チルノは今、空気中の水分を一点だけ凝結させて凍らせ、剣を止めたのだ。
恐ろしく勘が鋭いか、相当な場数を踏んでいなければこんな芸当は出来ない。
敵が自分の予想以上の手練れだと、縁は再認識した。
「まあいいや、いっくぞー! アタイの『おうぎ』を見せてやる‼」
「……………来い」
結ぎ目に飲まれた剣を一瞥しながら、別の結ぎ目を作り出してそこにしまう。
そして空いた両手をチルノに向けて再び距離を詰めようと駆け出した。
逆にチルノは先程よりも少し空中に飛び、上から雨のように弾幕を放ち始める。
その弾幕の雨を、背後の結ぎ目から放つ弾幕で相殺して徐々に距離を詰めていく。
しかしそれを待っていたかのように、縁との距離感が狭まった直後チルノが叫ぶ。
「くらえーー! 氷符【アイシクルフォール】‼」
「妖精が! 貴様の弾幕が一番生温い‼ 線行【平行線のパラノイア】‼」
上空でチルノがスペルを発動し、縁もまた同じタイミングで発動した。
チルノの左右に4つずつ弾幕が放たれ、それが分裂して真下へと急降下する。
降り注ぐ弾幕の角度が段々と狭くなり、チルノ本体からは円状の弾幕も放たれる。
しかしそれらの弾幕は縁には辿り着かず、その全てが彼の眼前で打ち消された。
「あ、アタイの『おうぎ』が!」
「このままお前を弾幕の海に沈めて潰すと予告しよう!」
縁の背後にあった6つの結ぎ目は消え、新たに2本の線が彼の頭上に現れた。
二本の線は少しずつ太くなっていき、お互いが平行な状態になるように伸びる。
そして二本の線の中間辺りが膨らみ、そこから爆発したかのような勢いで
苛烈ともいうべき量の弾幕が四方八方へと飛び散って行った。
「うわわわ!」
「このまま飲まれて消え去れ」
平行線上でありながらも放たれ続ける弾幕は、容易には避けられない。
だがチルノは力任せに弾幕を出して相殺して隙間を作って逃げ延びる。
それでも縁の線行【平行線のパラノイア】は終わらない。
圧倒的な物量でチルノを潰そうと結ぎ目から弾幕を溢れさせている。
「こーなったら…………凍符【パーフェクトフリーズ】‼」
「今度は何だ⁉」
上空から縁の弾幕に業を煮やしたチルノが新たなスペルを発動させた。
先程よりもさらに膨大な量の弾幕を全身から放ち、周囲にばら撒く。
縁はその攻撃の意図が読めずに接近するのを中断し、上空を見回す。
朝日が既に東の空から離れ、南に向かって昇っているのが見えたが、
そんな普段通りの空には、星以上に明るい弾幕が散りばめられていた。
「こ、これは…………弾幕が止まっている?」
「今だっ! それーーーーっ‼」
全ての弾幕がその動きを止めた瞬間、チルノが一気に弾幕を放つ。
縁は冷静に判断し弾幕を避けようとしたが、周囲には止まった弾幕がある。
身動きを制限され、縁は思うように動けず数回ほど服に弾幕がかすってしまった。
「ふふん! どーだ、アタイの力を思い知ったか!」
「…………………………」
縁の頭上から腰に手を当てて高笑いし始めたチルノを無言で睨む。
だが彼が今考えている事は、自分自身に起きている『変化』についてだった。
(身体が………………動かない?)
先程チルノが放ってきた数々の弾幕は、縁にとっては本来取るに足らなかった。
しかし今は違った、何故か思うように身体が動かずに何度かかすってしまった。
一体自分の身に何が起こっているのか、必死に考えるが原因は分からない。
思考の海に潜っていた縁に向けて、チルノのさらなる追い打ちが襲い来る。
それを避けようとした縁だったが、何故か身体が思うように動かなくなっている。
「な、何故だ…………」
「よそ見をするなーーー‼」
今度はチルノが上空から縁に向かって距離を詰めて来る。
突貫しながらも弾幕を放ち、縁の逃げ道を少しずつ塞いでいる。
それに縁は即座に気付いたが、さっきよりももっと身体の動きが鈍くなっている。
地面を転がるようにしてチルノの弾幕を回避するのが精一杯だった。
「う、動けん……………馬鹿な」
「なんか良く分かんないけど、弱ってるっぽい!」
いつの間にか荒くなってしまっていた息を大きく吐きながら、
今ではもうほとんど動かなくなってしまっている腕を前に出す。
戦う意志だけは折れていない、尽きてはいない、その表れだろうか。
それでも、縁の身体は謎の硬直から解き放たれはしなかった。
「これでおしまいだよ! 雹符【ダイアモンドブリザード】‼」
新たなスペルを発動させた直後、チルノが縁に突撃する。
縁も何とか迎え撃とうとするが、身体は意志に反して動かなかった。
そして彼我の距離が5mにも満たなくなった瞬間、無数の弾幕が放たれた。
まるで爆弾が爆発するかのように、チルノの周囲で弾幕が弾け飛んでいく。
その内の幾つかが縁の眼前で弾け、彼の全身に躊躇無くダメージを与える。
やがて全ての弾幕が止むと、ドサリと何かが音を立てて地面に倒れた。
「………………アタイ、勝った?」
地面に倒れたのは、縁の方だった。
前のめりに倒れているのに、受け身一つ取れていない。
それは、彼の体が全く動かせていない証拠でもあった。
「勝った、勝った勝った! アタイ勝った‼ やったーーーー‼」
空中を器用にピョンピョン飛び跳ねながら、チルノが舞い上がる。
彼女の顔には曇り一つない晴れやかで爽やかな『歓喜』が浮かんでいた。
ひとしきり喜んだチルノは、ようやく違和感に気付いた。
地面に倒れてから、ピクリとも動かないままなのだ。
「…………………いきてるかな?」
冗談半分に呟いたチルノだったが、少しだけ不安になった。
今まで自分はがむしゃらに戦っても、大抵は相手にされなかった。
戦う事になってとしても、いつも相手に遊ばれながら負けてしまう。
そんな自分が弾幕ごっこで初めて見た相手とはいえ、勝利したのだ。
その相手が凍死したなんて事になれば、ますます自分の立場が無くなる。
「だいじょーぶかな…………」
一度嫌な予感が頭をよぎると、簡単には拭い去れない。
自分が最強という立場に固執するようになった原因を思い出して涙ぐむ。
周囲の妖精よりもズバ抜けて高い力を宿したチルノは、いるだけで周囲の気温を下げる。
直接肌に触れようものなら、例え夏場であろうとも凍傷になってしまうほどだった。
近付くだけで危険な存在に、好き好んで近付きたがるような物好きはいない。
チルノは、そうやって少しずつゆっくりと孤独になっていった。
「……………………」
自分に触れた人間の子供の苦悶に歪む表情が忘れられない。
自分に近付いた妖精が向ける侮蔑の眼差しが忘れられない。
自分の後ろを振り返っても誰もいない恐怖が忘れられない。
自分から離れていく人々や妖精達の後ろ姿が忘れられない。
_________________独りは、寂しい。
だから自分は誰もに必要とされなくてはならない。
だから自分は誰もに勝てる力がなくてはならない。
だから自分は最強という称号がなくてはならない。
「……………起きて」
不安に押し潰されそうになる。
恐怖に支配されそうになる。
でも、どんなに怖くても決して屈したりはしない。
何故なら、
「………起きてってば」
少し離れた場所から声をかけても一向に返事が無い。
近付いてゆすってみようかとも考えたが、自分の能力を思い出して止めた。
どうすればいいか分からず、しばらく周囲をおどおどしながら見回す。
だが、まだこの道を通る人の影は見受けられなかった。
「…………………う、うぅ」
「‼」
どうしようかと考え知恵熱で身体が溶け始めた頃、縁が僅かに唸った。
本当に微かな声だったが、今のチルノにはなんとか聞き取る事が出来た。
「ね、ねぇ! アンタだいじょーぶ?」
「………………………」
ようやく目覚めた縁に慌てて問いかけるが、返答が無い。
気を失ってしまったのか、それともまさか死んでしまったのではないか。
嫌な考えに頭が埋め尽くされる直前、チルノは確かに聞いた。
「………………申し訳ありません、紫様………」
縁が小さく漏らした、主人への償いの言葉を。
「…………チルノ……お前は確かに強かった………」
先程まで戦っていた自分への、賞賛の言葉を。
「お前は………本当に…………最強、かも……な…………」
自分が最も欲していた、自分を認めてくれる言葉を。
そしてその言葉を最後に、縁は二度と言葉を発しなかった。
縁とチルノが激突する前日、守矢神社から縁が脱出した直後。
元々出されていた自分の主人からの命令を果たすべく、縁は博麗神社へと戻った。
既に暗くなっている境内を歩き、神社の中へと足を踏み入れた。
「おや? また来たのか、お前さん」
「…………伊吹 萃香か。野暮用でな」
「ほえぇ~、ご苦労なこったね」
「上がらせてもらっても構わないか?」
「あたしの家じゃないからね、好きにしなよ」
「そうさせてもらう」
すると、神社の縁側で一人酒を飲んでいた萃香に声をかけられた。
縁は守矢神社の二柱から貰った神酒を飲んでいる彼女に一応許可を貰って
神社の中へと入って、本来の目的である『
主に言われた通りの事を確認すると、入ってきた時と同じように神社を出ていった。
「ん? なんだい、もう行っちまうのかい?」
「ああ。私の主人である紫様からの指令は果たしたからな」
「…………へえ、紫が神社で何しようってんだい?」
「伊吹 萃香、紫様のご友人でもある貴女にも、それは言えない」
「…………そうかい」
「失礼する」
神酒の入った盃を傾けている萃香に一礼して、縁は空間の結ぎ目に消えた。
グビグビと音を立てて酒を飲んだ彼女はゆっくりと夜空を見上げて呟いた。
「今夜は半月、上弦の月…………良い夜だね、紫」
「ええ、そうね」
夜空に淡く浮かんだ月を見上げながら、萃香の呟きに反応した人物がいた。
萃香の背後に不気味な空間の裂け目を作って現れたのは、八雲 紫だった。
最初から来るのが分かっていたかのように二人分用意されていた盃を手渡して、
並々酒を注いで同じタイミングで口に運び、ふぅと小さく息を吐く萃香と紫。
手にした盃を膝に置いて、紫は萃香に尋ねた。
「それはそうと、どうしてあの子を試すような事をしたのかしら?」
「ん? ああ、守矢とのアレ見てたんだね。何だい、駄目だったかい?」
「駄目とまではいかないけど…………あの子はまだ
「未完成、ねぇ…………アイツが本当にお前の会いたがってた男なのかい?」
「だったら何よ」
「別に? …………怖い顔しなさんな、取ったりなんかしやしないさ」
「本当かしら」
「疑心暗鬼になり過ぎだっての。そんなに大事なら手元に置いときなよ」
萃香がぶっきらぼうに呟いた言葉を聞いて、紫は神妙な面持ちになる。
二人はしばらく黙ったままだったが、紫が残っていた酒を飲み干して、
空になってしまった盃を縁側に置いてから改めて語り始めた。
「そうもいかないの。あの子は成長しなければならない」
「そのためにもう一人の男が必要だったって?」
「ええそうよ。『十六夜 紅夜』、『方向を操る程度の能力』の持ち主」
「方向? なんだかあんまり強くなさそうだね」
「能力なんて使い方次第よ。それよりも問題なのは…………幽々子よ」
「冥界の? どうして?」
「…………縁を狙ってた」
「流石に被害妄想じゃないかねぇ…………分かった分かった、睨むなって」
同じように盃を置いて、空いた両手で紫をなだめる萃香。
その行動に落ち着きを取り戻したのか、興奮気味になった気分を抑える紫。
「とにかく、これからもあの子は成長させる必要があるわ。幻想郷の色々な
文化や歴史、妖怪や人間などの多種多様な者達と触れ合わせる事になるから」
「ヤバそうだったら割って入れって? 自慢の式にやらせたらいいじゃんか」
「出来たらあなたに頼んでないわ」
「だね………………まぁ昔の
「ありがとう」
感謝の言葉を淡々と述べた紫は、来た時と同じようにしてスキマに消えた。
首だけを動かしてそれを見送った萃香は、再び月を見上げて一人酒を始める。
盃に注がれた酒に月が反射して映るのを確認して、一気に持ち上げ飲み干した。
「人と人とは縁の塊…………なら、妖怪とはどうなるんだろうね」
ポツンと夜の空に吸い込まれるような呟きに、返す者はいなかった。
博麗神社を後にした縁はそのまま主人の元へと帰ろうとしたが、
妖怪の山と人里を挟んだ反対側にある荘厳な造りの寺社を結ぎ目の中から発見した。
少し悩んだ結果、その寺社へ向かう事にした。
先程のように、神を祀っているのであれば、その勢力や関係を知っておいた方が
今後何かと自分の役に立つ日が来るのではという考えもあったのだ。
(でも、そんな事よりも…………自分が何者かを知りたい)
しかし大部分は、八坂 神奈子と洩矢 諏訪子に言われた自分の正体。
八雲 紫に仕える道具である自分は、能力を宿した人間であると言われていた。
だが実際は付喪神だという、明らかな矛盾を抱えたままではいけないと考えた。
だからこそ縁は時間帯など気にせずにその寺へと向かったのだ。
「…………午後9時過ぎ、この時間の来訪は悪印象しか与えんな」
今の時刻を考え、訪問は明日にしようと考えた縁は主人の元へ帰ろうとした。
だが彼の視界の(顔は布で隠されているのに)端に、二人組の少女が動くのが見えた。
明らかに怪しげな二人の動きが気になった縁は、二人の後を尾ける事にした。
そこまでの距離を移動することなく、二人の少女の足が止まった。
彼女らの眼前には、夜になって一層不気味な墓地があった。
「ね、ねえチルノちゃん………帰ろうよ……」
「ヤダ! でんせつのキョンシーを見つけるまでアタイは帰らない!」
「またそんなこと言って…………」
「そろそろ出るはずなんだよ」
少し離れた場所から聞いていた縁は、レベルの低さに驚嘆する。
あまりに幼稚で、あまりに拙く、そしてあまりに自由な彼女らに縁は僅かに怒りを覚えた。
だがすぐ冷静に戻ると、チルノと呼ばれた少女が辺りをキョロキョロ見回ししていた。
「あ! いたわね、観念しなさいキョンシー!」
「…………キョンシー? 私がか?」
見回していたチルノが縁を目視した瞬間、一気に及び腰になる。
彼女の横でオドオドしている緑の髪のサイドポニーの少女は、まだオロオロしている。
何か言いたげな彼女を無視して、チルノが続ける。
「アタイ知ってるよ! 顔になんか貼ってあるのがキョンシーなんでしょ!」
とんでもない偏見で間違われた縁は、ここに来なければ良かったと後悔した。
だが呼ばれてしまった以上、黙っているわけにもいかない。
物陰からゆっくりと顔を覗かせた縁は、そのまま二人の少女に近付いていく。
「ち、チルノちゃん…………!」
「心配ないよ大ちゃん! 大ちゃんはアタイが守るから‼」
緑の髪の少女が涙ぐみ始め、水色の髪の少女がそれを励ましてなだめる。
しかし縁からしたら、その反応は全てが癪に障るものであった。
「私はキョンシーとやらでは無い。私は八雲 縁だ」
二人の前に立ってしっかりと自己紹介をした縁だったが、二人は聞いていない。
正確に言えば、大ちゃんと呼ばれた方が彼の名前に関心を持ち、チルノに耳打ちする。
「チルノちゃん、やくもって聞いたことあると思ったら、やっぱりそうだよ。
博麗神社の宴会でたまに見かけるすっごく強い妖怪の人の部下なんだよ」
「すっごい強いって、アタイとどっちが強い?」
「比べるまでも無い、私の主君である紫様だ」
「何だと⁉ さいきょーのアタイをさしおいて‼」
「最強、だと?」
「そうだよ、アタイったらさいきょーね!」
平行線で終わる気配の無い二人の会話を終わらせたのは、縁だった。
目の前にいるチルノの発した言葉が、信じられなかったからだ。
「最強とは、この地を統べる紫様にこそふさわしい言葉だ」
「うるさーーい! 別にいいじゃんか!」
手を振り回しながら抗議するチルノを黙って見つめる縁。
するとチルノが何かにひらめいたような素振りを見せ、縁に得意げに語った。
「だったら明日の朝早くにアタイと決闘ね!」
「決闘だと?」
「そーだよ! さいきょーのアタイに敵はいないって証明したげる!」
今までは話を聞いているだけだったが、それだけでは治まらなくなった。
それも一理ある、しかしこれは違う。
「紫様こそが最強のお方なのだ。最強は紫様だ」
「アタイがさいきょーなの! アタイだけなの‼」
「そうか、そこまで言うのならもう後には引けないぞ?」
「…………?」
「互いの譲れない最強のこだわりを、明日の決闘でぶつけよう」
「いいわ、かくごしてなさい!」
そう言ってチルノは大妖精を連れて墓地を後にした。
しかし去り際になって、彼女は更に大きな問題発言をぶちまけた。
「アタイからさいきょーの座を盗もうなんて、よっぽどの小悪党ね!」
「………………何だと?」
チルノの発言に一気に怒りが頂点に達した縁はその場を即座に後にした。
空間の結ぎ目の中で、早く次の日にならないかと心待ちにしていた。
自分の主を侮辱した、ほんのちっぽけな妖精の少女をいたぶる事を。
「あ、アタイがさいきょー………」
もう倒れたまま何も言わなくなった縁を見つめながらチルノが呟く。
今まで自分を認めてくれたのは、雪女のレティと大妖精だけだった。
いつも気丈に振る舞っているが、レティには冬しか会う事が出来ないし
大妖精も決して自分から関わりあってくれているわけではなかった。
そんな自分を、たった今この男は認めてくれた。
「アタイ…………あたい………………」
目元にたっぷりと浮かべた涙をそのままに、チルノはその場を急いで離れる。
向かった先は、荘厳な造りの寺社『命蓮寺』というお寺だった。
高速で扉を超えて中に侵入したチルノは、目の前で驚いている女性に向かって
寺社全体に聞こえるほどの大声で泣き叫んだ。
「助けて! あたいの友達が死んじゃう‼‼」
氷で出来た壊れやすくも確かな絆。
冬に終わりを告げた今、静かに微かに咲き誇る。
いかがだったでしょうか。
後半は半分寝ながら書いていたので良く分かりません。
少しずつ明らかにしていく縁の謎。
あーー早く紅夜の方も書いたいんじゃぁ^~。
それでは次回、東方紅緑譚
第弐十七話「緑の道、命の蓮咲き乱れる寺」