東方紅緑譚   作:萃夢想天

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どうも皆様、最近野菜ジュースが手放せない萃夢想天です。
健康に気を使ってるのか、健康に気を使われてるのかの真偽は不明ですが、
それでもどうにか日々を生き抜いておりますです。

それと近頃、艦隊これくしょんのVITA版をやり直し始めたんですけど、
未だに第三艦隊以上の艦隊が解放されないんです…………なんでやろ


どうでもいい与太話に花を咲かせる前にさっさと書けって言われそうなので
さっさと書き出すことにしますそうします!
今回は日曜日にまで派生しなきゃいいけど…………先行き不安です。


それでは、どうぞ!





第四十九話「名も無き魔人、謳われる怪力乱神」

 

 

フランドールと鈴仙の奇妙な二人組が永遠亭から出立したちょうどその頃、

永遠亭の数ある部屋の中でも滅多に人が出入りしない部屋で二人の人物が談話していた。

談話と言うには少々殺伐とした雰囲気が流れているようにも感じられていたが。

 

 

「姫様、一体何をお考えなのですか?」

 

「何をって、別に何でもいいじゃない」

 

 

普段よりも若干怒りが混じった声で疑問を投げかけたのは、銀糸の三つ編みをなびかせる永琳。

その永琳からの問いかけにぶっきらぼうな態度で応じたのは、漆黒の長髪をたゆませる輝夜。

異なる美しさを絶やすことなく放ち続ける二人は先程から同じ問答を繰り返していた。

永琳も輝夜も永遠の生を生きる大罪人である身とはいえ、時間を浪費するのは愚かな行為だと

理解しているはずなのだが、どうしてか今日の輝夜は永琳が知る普段の彼女とは違っていた。

確かに輝夜という人物は生い立ち故にわがままな節がありまくりなわけだが、永琳はなぜか

今回の彼女のわがままにはいつもとは違う何かがあるのではと訝しんでいた。

そして実際、その疑念は確信に変わるのであった。

 

 

「そうはいきません。勝手に薬の売り子の任を務める鈴仙を他所へやられては」

 

「…………ねぇ永琳、あなた随分含みのある言い方するようになったのね?」

 

「含みのある言い方、とは?」

 

「素直に言えばいいじゃない。『今回は何を企んでるの』、って」

 

「では聞きますが姫様、素直に言えば教えてくださいますか?」

 

「いーや♪」

 

こめかみに青筋が浮かび上がるほど隠し切れない怒りの感情が永琳の表情に表れるが、

当の怒りの矛先である輝夜は一切気にすることなどせずにまくしたてる。

 

 

「別に私がやること何でもかんでも永琳が決める必要は無いわけじゃない?

そもそも永琳、あなた少し厳しすぎるのよ。そういうのってもはや束縛よね」

 

「お望みなら文字通りに縛りつけて二度と永遠亭から出られないようにしてさしあげても」

 

「ホンット冗談が通じない女ってつまらないわね!」

 

「貴女もそうでしょうに」

 

「うるさいわね」

「煩くて結構。それで、本当に何を考えておいでですか?」

 

 

流れるように好き勝手な言葉を飛ばしていく輝夜をあっさりと論破した永琳は先程よりも

少し冷静さを取り戻したようで、輝夜の顔を真っ直ぐ見つめながら聞きに入った。

それまでは適当に流していた輝夜も腹を据えた永琳のしぶとさを長年来の付き合いで知って

いるようで、わずかな逡巡の後に真面目な受け答えをするために軽く息を吸い込んだ。

 

 

「……………はぁ。分かったわよ、言えばいいんでしょう、言えば」

 

「ハイ。ちゃんと言わなきゃ伝わらないことくらい分かるでしょう」

 

「ハイハイそーねそーですわね。それで、何から言えばいいんだっけ?」

 

「何から何まで全部です」

 

「あーハイハイ、そういうね。分かったわよ…………そうね、まずは」

 

 

そこまで言ってから輝夜は勿体ぶるように一拍おいて永琳の方を見やるも、

明らかに不機嫌さを放つ彼女の雰囲気にこれ以上はヤバいと感じてすぐに話すことにした。

 

「欲しいと思ったのよ」

 

「欲しい? またいつもの悪い癖ですか」

 

「そんな昔の話は置いて、今回は違うのよ永琳。私は、あの人間もどきが欲しいの」

 

「それは…………つまりどういう意味で?」

 

「一言で言うなら、勿体ない、かしら? あの吸血鬼の下で腐らせるには惜しい人材よ。

だから一度死んであそこから居なくなったというなら私にも得る機会はあるはず」

 

「冗談でもよしてください。あんな下賤な改造人間をここに入れるなど」

 

「下賤も何も、私たちが最も醜い罪の形じゃない。今更上も下も無いわよ」

 

「ですが!」

 

「心配なのは分かるわ。吸血鬼共の下らない幼稚な遊戯に首を突っ込むなと言いたい

のでしょう? だとしても私はあの人間もどきが気に入ったの。欲しくなったの」

 

「姫様…………」

 

 

普段のだらけきった姿とは違う、凛々しい佇まいのまま要求を述べる輝夜に永琳は驚く。

彼女がこんな姿を自分たちの前で見せるのはあの異変以来ではないだろうかと心の内で

目を見張りながらも、輝夜の言いたいことが読めた永琳はその後の言葉が出せずにいた。

何も言おうとしない永琳を横目で見やりつつ、輝夜はそこからさらに付け加える。

 

 

「このまま死なせてあげたいと、彼の最期を看取った時にそう思ったわ。

でも彼は甦らされてしまった。なら今度は、次の人生くらいは苦痛無き日々を送らせて

あげるべきではないか、そう思えてしまっているの。ねぇ永琳、私って変かしら?」

 

「……………い、いえ」

 

「つまり変ってことね、態度で分かるわ。でもね、これはもう決めたことだから。

この私、蓬莱山 輝夜が欲しいと言ったの。永琳、分かってくれるわよね?」

 

「…………ハイ、承知しております。ですが姫様、問題はまだございます」

 

「問題?」

 

「仮に彼を手に入れられたとして、その後はどうするのですか?」

 

「その後、ねぇ……………どうしようかしら」

 

「失礼ですが、姫様は結局誰も愛することは出来ませんよ。理由は承知のはずです」

 

「永遠の命、ね。それくらい考えてたわよ。でも永琳、『アレ』もまだあるんでしょう?」

 

「………ハイ」

 

「だったらそれを使えばいいじゃない。永遠の命を拒める人間なんてそうそういないもの」

 

「姫様、本当に彼を?」

 

「最初からそう言ってるじゃない。欲しくなったって」

 

複雑な表情を浮かべる永琳にそう言って少しだけ微笑む輝夜。

その彼女の笑顔はまさしくこの世のどんな美貌ですらも打ち負かせるほどの輝きを放ち、

世の男であれば、また女であっても完璧に魅了できたであろうそれを自然に浮かべる。

今まで輝夜にすり寄ってきた男は星の数ほどいたが、彼女が興味を示すことは無かった。

だが今回は違う。彼女の方が彼に興味を示している、永琳はわずかに危機感を抱き始めた。

 

 

「それが鈴仙を外へ出した理由になるかしら? あとはそんなところね」

 

「はぁ…………貴女という人は本当に、どこまでいっても変わりませんね」

 

「人は短い生であるが故に変わろうとする。でも私たちの生は永劫終わらないから、そもそも

変わる必要自体がないのよね。だからってわけじゃないけど、変わらないのかもね」

 

「変にこじ付けをしなくても結構です。それで、今後はどうされるので?」

 

「あら、やっと分かってくれたの?」

 

「貴女が欲しいと望むなら、致し方ありません」

 

「ありがとう永琳。そうね、今後と言っても彼を捕らえなきゃ始まらないものね」

 

「それなのにあの吸血鬼の子供を行かせたのですか?」

 

「ええ、まぁ見てなさい。私には私なりの考えというものがあるの」

 

「…………仰せのままに」

 

 

主君に忠誠を誓う従者の如き(うやうや)しい素振りでお辞儀をしてみせた永琳は

同時に心の中で一つの計画を練り始める。自らが姫と崇める人物の望みを叶えるための。

そしてその計画を実行するうえで一つだけ付け加える項目が増えた。

 

その少年、十六夜 紅夜には最大限の警戒をするべしと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は半日ほど遡り、幻想郷の大地の底にある【旧地獄跡】と呼ばれる地底都市にて。

そこでは少し前から普段聞かないような物と物とがぶつかり合う轟音が響いていた。

地底に住まう者たちはその音が何であれ構わず酒を飲み、歌い騒ぎ、また飲み明かす。

地上の世界と地底とをつなぐ大穴の底で、荒ぶる二人の猛者が戦っているとも知らずに。

 

 

「オラァ‼」

「よいせっ、とぉ! はは、いいねいいねぇ!」

 

「余裕ブッこいてると死ぬぜ、女ァ‼」

 

「たまんないねぇその煽り! 血がますます滾るってもんさぁ‼」

 

 

地底への唯一の入り口とされる大穴の底で、暴虐が激しく競り合っていた。

一人は薄い金色の長髪をなびかせる、全面が秀でた肉体を揺らす鬼の姫というべき女。

一人は漆黒の短髪を逆立てつつ全身の筋肉を異常なほど隆起させた悪鬼というべき男。

女の名は星熊 勇儀、男の名は無くただ魔人という。

 

二人は互いに互いの攻撃力が最も活かせるリーチを保ったまま拳を振るい合っていた。

だが勇儀と魔人の身長差は激しく、背の高い勇儀は一方的に上からの攻撃を振るえる

アドバンテージを最大限に発揮して魔人に反撃の隙を与えることをしない。

勇儀はその上背を利用した上から押し潰さんとする勢いでの拳の乱打を延々と繰り出すが、

対する魔人は高低差や度重なる連撃であっても軽く返し、いなす防御をこなしている。

 

「せいぜい俺が殺す前に血を沸騰させ過ぎねぇようにしてろ‼」

 

「………私の一撃はそこらの岩なら粉微塵に出来るくらいの威力はあるはずなんだがねぇ。

さっき、魔人とか言ってたっけ? お前さんは一体どこから来たんだ?」

 

「あ?」

 

「お前さんほどの力の持ち主が今更になってここへ来た理由が分からないんだよ。

そもそもお前さん、ここがどういう場所だか知ってて来てるのかい?」

 

「知ったことかよ! 俺がしてぇのは戦いだ! 殺戮だ! ブッ殺せりゃそれでいい‼」

 

「とんだ荒くれ者だね、悪くはないんだが………ここで暮らすにも決まり事があるんだよ」

 

 

一度攻撃の手を止めて魔人に語り掛けた勇儀だったが、魔人の言葉を聞き入れた直後から

言葉の端に怒りを含めて吐き捨てるように言い放って再び絶対的優位の攻撃を開始する。

魔人の使っている肉体は元々紅夜のものであるため、身長や体重、その他諸々の面において

圧倒的に不利な状況ではあるものの、むしろ魔人はその逆境の中での戦闘を愉しんでいた。

常に怒涛のように押し寄せる上からの拳に加え、今度は先程と違って足を使った体幹崩しも

繰り出してくる勇儀により興味を、そして殺意をそそられた魔人は拳の雨の中で笑い続ける。

しかし勇儀からの拳を受け続ける魔人ではなく、その魔人の足場である岩盤そのものが攻撃の

負荷に耐え切れずに深い地割れを起こし、その中に魔人の踏ん張り続けている足を引き込んだ。

 

「うおぉッ⁉」

 

「もらった‼」

 

 

地割れに足を引き込まれた魔人は大きく体勢を崩し、勇儀はその隙を突かんと拳で風を切る。

唸りをあげて人間の知覚速度の限界を遥かに超えた神速の打撃が魔人の頭部に直撃しようと

したその直後、あとほんの数cmの距離まで伸びていた拳がピタリとその運動を止めてしまった。

 

「んっ? 何だいこりゃ、動かない…………どうなってんだ?」

 

「はぁ、はぁ、クソ! テメェなんかにこの力を使うハメになるたぁな…………」

 

「力? へへぇ、お前さんも能力を持ってんのかい」

 

「てこたぁテメェもか、ハッ! どんな能力にしろ俺には絶対に勝てんがな‼」

 

「口じゃ何とでも言えるさ。肝心なのはその力だよ。さぁ、やってみようや!」

 

「面白ェ‼ 肉塊になるまでボロクソに痛めつけてやらぁ‼」

 

 

握られたままピクリとも動かない拳を見てすぐに能力の可能性に勘付いた勇儀は軽く笑い、

また能力の存在を露見させた魔人も勇儀の言葉に煽りを込めて返し、足を引き戻す。

そこからはまた延々と殴り合いの連鎖が始まり、終わりの見えないレースが始まった。

勇儀が剛腕を振るえば魔人がそれをいなし、魔人が拳を振り上げれば勇儀はそれを受け止める。

殴打には殴打を、蹴打には蹴打をと二人は互いの攻撃を打ち消し合いながら戦いを続行した。

 

しかし、その二人の戦いの余波は確実に地底にダメージを与えていた。

 

勇儀が拳を振るうために力強く踏み込めばその分だけ大地が震えて地割れを起こし、

魔人が蹴りを浴びせ損ねて空ぶる度に空気が裂けて振動を飛ばして岸壁を削いでいく。

二人の戦いは次第に二人だけの戦いではなく、地底を揺るがす戦争と化していた。

無論それほどの震源地を地底の有力者たちは見逃すはずもなく、皆が集まり始めていた。

 

 

「にゃーん! おやお二方、鬼のお頭様の調子はどうだい?」

 

「…………………」

 

「勇儀があんなに楽しそうに喧嘩するなんて__________妬ましいわ」

 

 

勇儀と魔人の一騎打ちが繰り広げられている地底都市前の橋のたもと。

そこからさらに遠い岩肌が露出した小道の上に、いつの間にか三つの人影が姿を現していた。

三人はそれぞれ特徴的な口調で会話(成り立たない者が一人いるが)し、現状を把握した。

一番最後にやって来た三人目がしなやかな動作で小道を駆け下りてさらに近寄ろうとするが、

最初からいた一人目によって取り押さえられ仕方なくその場で戦いを見物することにした。

 

 

「にゃーん、別に止めやしないさ。ただもうちょっと近くで見たくなっちゃって」

 

「勇儀と互角に戦える相手に近付こうとか、その度胸が妬ましいわ」

 

「………………………」

 

 

そんなもんかね、と溜め息交じりに呟いた三人目は地底に沸き立つマグマに照らしだされる。

 

黒を混ぜたような深く暗い緑色のゴスロリチックなドレスに身を包み、

その服と同系色のリボンを四つ使って三つ編みをツインテールのように縛っている。

地底に沸き立つマグマに溶かされた岩石のように焼け付く赤色の長髪に加えて何故か、

頭頂部からは黒色の猫耳のようなものが可愛らしく顔をのぞかせている。

 

猫らしい口調の少女の名は、『火炎猫(かえんびょう) (りん)』といい、

幻想郷でも珍しい、『火車』という人の死体を盗む悪どい性質の妖怪でもある。

ちなみに彼女は自分の事を他人に自身の愛称である『お燐』と呼ばせている。

 

 

「でも実際さ、あの勇儀さんとやり合えるようなのがいるなんて驚かないかい?

あたいはビックリしてるけどねぇ。キスメはそこんとこ、どう思うにゃ?」

 

「………………」

 

 

お燐にキスメと呼ばれた無口な二人目の人物は黙って首を縦に小さく動かした。

 

死んだ人間が喪に服した時などに着用する白い着物を身にまとい、

さらに自身は人の頭が三つほど入る程度の大きさしかない桶から胴より上部分の身を

突き出し、その桶のふちを身長に見合った小さな手で愛らしく掴んでいる。

地底の大穴の途中で自生していた苔に近い色合いの髪を黒い髪紐でちょこんと結わえ、

短く太い疑似ツインテールな髪型に上手くまとめていた。

 

一切口を開かない彼女の名は、『キスメ』といい、苗字などの区別は無い。

彼女は『釣瓶(つるべ)落とし』という妖怪で、見た目の割にかなり残忍な種族らしく、

地上の世界に居ては博麗の巫女に退治される未来しかないために地底にこもったようだ。

普段は地上との出入り口である大穴でどこからともなく侵入者の頭上へと落下してくる

のだが、今回はそれが出来なかったために怪しいと考え、ここまで見に来たという。

 

「やっぱりキスメもそう思うよねぇ、橋姫さんはどうなのさ?」

 

「キスメは何も言ってないから判断できないし、今更そんな名前で呼ぶだなんて………」

 

「妬ましいにゃん?」

 

「妬ま________私より先に言うだなんて妬ましいわ!」

 

 

桶に入っているキスメを抱きかかえながら、お燐に促されてなお声を荒げる一人目。

陽の光が差さない暗天の地底世界のあちこちに見られる金鉱石を集めたような金の短髪に、

炭鉱夫ならば探して止まない緑翡翠(エメラルド)の色をした、強い光を放つ二つの瞳眼。

さらにおとぎ話の妖精と見紛うほどに端正な顔立ちに加え、人とは違う先端の尖ったエルフ耳。

黄土色の上着を羽織り、その裾やドレスなどは地下では見られぬ青空色の布地が見受けられる。

右手の親指の爪を歯噛みしている彼女は、『水橋 パルスィ』といい、

地上と地底の境目で無闇な交流をさせないための番人である『橋姫』という種族でもある。

 

お燐、キスメ、パルスィの三人はそれぞれがそれぞれの思惑を胸に勇儀と地上からやって来た

謎の男との一騎打ちの真剣勝負を見物していたのだ。

 

「でも実際に見てどう? あたいには本当に互角にしか見えないんだけど………」

 

「………………………」

「悔しいけど、あの男は強いわ。単純な力だけで測れば勇儀とほぼ同等でしょうね」

 

「へ~、それで? 橋姫さんはこの勝負、どっちが勝つと思ってるんだい?」

 

「問題なく勇儀ね」

 

「その心は?」

 

「負けず嫌いだもの、勇儀は」

 

「にゃるほど! そりゃあ分かりやすい答えだねぇ!」

 

「逆にあなたは想像つくの? 勇儀が負けるところなんて」

 

「ん~、正直思えないねぇ。でも、世の中絶対なんてありゃしないのさ」

 

「…………それはあなたの考え? それとも、あなたの『ご主人様』の考え?」

 

「…………さて、どっちかにゃん?」

 

勇儀と男との勝負を遠くから見物しながら密やかに会話していたお燐とパルスィだったが、

言葉を切り返したパルスィに対して、お燐は回答をはぐらかすような言い回しで応える。

確かに、その場に居た三人の内に一人でも勇儀の敗北を考えた者など居なかった。

しかしその言葉を、ひいては現状を否定するような言い回しにパルスィは心当たりがあり、

その心当たりについてよく知る人物であるお燐にそれとなく促したのだが、回答は無かった。

これ以上は無駄骨だろうと諦めたパルスィはお燐への詰問を止めて見物に専念する。

するとその時、ちょうど勇儀と男の拳が互いに互いの身体に突き刺さって吹き飛んだ。

勇儀はその巨体のおかげかすぐに体勢を立て直せたが、男の方は身体が二回りほど小さい分

大きく吹き飛ばされていき、数回転した後に近くの岩壁にすさまじい勢いで叩きつけられた。

 

「勇儀!」

 

「おー痛たぁ…………ん? おおパルスィ、見に来てたのか」

 

 

男が勇儀から離れたため、パルスィはすぐさま勇儀の元へと駆け出して行った。

服の汚れを手で払いながらやって来たパルスィに手を振る余裕を見せる勇儀は、

少し離れたところでこちらを見ているお燐とキスメも視認して軽く微笑みを向ける。

勇儀の近くまでやって来たパルスィは先程の勇儀の言葉に慌てて言葉を返す。

 

「べ、別に勇儀を見に来たわけじゃないわよ! 私はただ、橋姫として」

 

「分かってる分かってる、仕事だもんな。まぁそこで見てな、もうちょいさ!」

 

「う、うん」

 

 

男勝りな口調と姉御肌とを併せ持つ豪放磊落な性格の勇儀にそう言われた以上は他に何も

言えなくなってしまい、パルスィは仕方なく「妬ましいわ」とぼやきながら彼女から離れる。

パルスィが安全な場所まで離れていくのを目で追った勇儀は視線を戻して魔人の居る場所を

一睨みしてからよく通る声を張り上げて語り掛けた。

 

 

「おいおい、まさかもうおしまいかい? 情けないねぇ! 私の見込み違いか?」

 

ほんのわずかな静寂の後、岩壁にヒビを入れて出てきた魔人は勇儀を睨み返す。

そして先程かけられた言葉に対して怒気を孕ませた返事をぶつけるように吐き捨てる。

 

 

「________ざっけんな女ァ…………俺様を見くびるんじゃねぇぞ‼」

 

「おーおー、一端の口を利く割には随分と良い恰好してるじゃないか」

「ッ………あァそうかい、分かったぜ。肉塊以下の肉片にして殺してやらァ‼」

 

「気に入った! もっと愉しませてやるから、駄目になるまでついてきな‼」

 

「上等だァ‼ 先にテメェを駄目にしてやっから覚悟しろ‼」

 

 

少しだけよろめいた魔人は暴言をぶちまけてから再び戦闘態勢に移り、

勇儀もまたいつでも相手の攻撃を受けられるように腰を落として迎撃の体勢をとる。

「いいよ、先手は譲ってやる。さぁどうした? 手加減してやるから全力で来な‼」

 

「俺様を舐めたことを後悔させてやる………死んでから文句ぬかすなよ女ァ‼」

 

 

互いが互いを煽る一言を投げかけ、当然の如くお互いその言葉に反応して拳を握る。

雄叫びをあげながら高速で魔人が突っ込んでいき、あっという間に勇儀の正面まで

到達するも、そこから全身を投げ打つようなジャンプをして彼女の左足に狙いを定め、

左拳を横向きで殴りつけ、その反動で彼女の射程圏外へと受け身をとって離脱した。

唐突な脚部への不意打ちに反応出来ずにいた勇儀は大きく体勢を崩し、隙を見せる。

無論、そんな勇儀の見せた一瞬の隙すらも、魔人は決して見逃さなかった。

 

 

「死ねェ‼‼」

 

 

鋭く吠えた魔人は離脱直後でありながら体勢を崩した勇儀の背後へと跳躍し、

そのままその右手を即座に振り下ろして勇儀の背中へと文字通りに突き刺した。

肉を裂いて異物が侵入していくグロテスクな音をさせながら魔人は右手をどんどん

勇儀の体内へと侵入させていき、ついには反対側の腹部から右手の先端を出して見せた。

完全に右腕を貫通させた魔人は狂ったような高笑いを浮かべて喜びにもだえる。

しかし、刺し貫かれた勇儀の肉体は、震え一つ起こしていなかった。

 

 

「っあー、こりゃ酷くやられたもんだねぇ。流石の私でもこりゃ痛いわ」

 

「あァ…………?」

 

魔人の右手に背中から腹部にかけてを貫かれているはずの勇儀はまるでその素振りを

見せずにいとも簡単に立ち上がり、腕によって勇儀の背後に固定させられた魔人は驚愕する。

 

「お前ッ、なんで平気な顔してやがる⁉」

 

「なんでってそりゃ、平気だからに決まってるさ」

 

「ふざけんな! 身体に穴開けられてんだぞ‼」

 

「見りゃ分かるさ。でもね、私は身体の傷程度なんかじゃ止まんないよっ‼」

 

 

魔人をぶら下げたまますっくと立ち上がった勇儀はそのまま腹部からのぞいている右手を

掴んでひねり、痛みに顔をしかめた背後の魔人に右肘のエルボーをいきなり喰らわせる。

腕を押さえられているために回避が出来ない魔人は繰り出されたエルボーをもろに喰らい、

その衝撃と威力によって大きく後ろへとのけぞらざるを得なくなってしまった。

それを見逃さなかった勇儀は右手で背中の方の腕を掴み、強引に引き抜こうと後ろに動かす。

既にエルボーで大きくのけぞっている魔人からの抵抗は無く、悠々と引き抜くことに成功し、

掴んだ腕を自身の前方へと動かして宙吊りになっている魔人を見下ろして快活に笑う。

 

 

「悪いね。私はこれでもここいらの鬼の頭を張ってるんだ。

この程度の手傷でやすやすと殺られるようじゃあ、鬼の衆らに笑われちまうよ」

 

「ケッ! 鬼って連中はどいつもこいつも化け物ぞろいかよ‼」

 

「ああそうさ、みんな同じ化け物だよ。お前さんだって同じだろう」

 

「ほざけ! テメェらみたいなのと一緒にするなよなァ、俺様は魔人なんだからよォ‼」

 

「そういう自尊心の塊みたいなやつもこの地底なら大歓迎だよ。規則を守れるんならね」

 

 

吊るしあげられている魔人の眼を見つめながら勇儀は心底楽しそうに告げる。

勿論その間も彼女の身体に開けられた穴からは血や体液が流れ出続けているのだが、

豪胆である彼女にはまるでさしたる様子も無く、自然なままに振る舞っていた。

 

「……………これでも私は、"語られる怪力乱神"なんて呼ばれてたりしてね。

真っ向から挑みかかって来る奴に負けたことなんか一度も………二、三度くらいしかない」

 

 

肉体に風穴を開けられながらも笑顔でそれを口にしつつ動けるのは、彼女の地の強さ故。

地底へと追いやられた鬼たちをまとめ、それらを一つの党としてまとめあげたのが彼女であり、

逆に言えば勇儀こそが鬼の総力であると言っても過言ではないのだ。

そんな大物を相手にしてしかも腹に穴開けるなんて大したモンだ、と勇儀は軽く笑うのだが、

彼女に腕一本で吊るされているたった一人の男だけは現状に納得していなかった。

 

 

「_________知ったことか」

 

「ん?」

「ごちゃごちゃとうるせぇぞ………最初に言ったろうが、『建前なんざ知るか』ってよォ‼

お前が誰だろうが俺様には関係ねぇ! 全て殺す‼ 俺様を満足させるために死ねやァ‼」

 

「呆れるくらいの戦闘狂かい。まぁいいさ、まだまだやれるからね」

 

「調子に乗ってられんのも今の内だぜ、すぐにあの世に送ってやろうかァ?」

 

「悪いけどそれは遠慮しとくよ。向こうは平和そうだけど、ここよりはつまらなそうだしね!」

 

「ほざいてろォォォオ‼‼」

 

 

勇儀につかまっていながらも抵抗の意を示す魔人は両手を大きく広げて力を込め始める。

少し前に彼の能力らしき力の一端を体験してした勇儀はその動作に警戒して彼を解放した。

そしてそれをあらかじめ読んでいた魔人はそのまま力を込めた両腕を眼前へ向けて突き出す。

途端に無風であるはずの地底の、それも勇儀との一騎打ち場所であるここだけに強大な風が

表れ、その場に居た全ての人物が強烈な風に三者三様の対応を示して見せていた。

 

「オラオラァ‼ これでどうだァ‼ ハッハーーッ‼」

 

「コイツ、こんなことまで出来たのか!」

 

 

突然の強風に勇儀ですらも目をつぶって風をやり過ごさねばならず、場は膠着する。

今こそ好機であると踏んだ魔人は全身の筋肉を膨張させて必殺の一撃に備え始めた。

 

だが、魔人のこの備えは決して報われることは無く終わった。

 

 

「ッ⁉ アッ、ごああぁぁあ‼」

 

「ん⁉ なんだいなんだい、どうしたんだよいきなり!」

 

「があぁぁああ‼ あぁぁあ、ハァッ! グッ、うおおぉぉぉぉお‼」

 

 

勇儀の腕が掴んでいる魔人が突然苦しみだし、頭部を押さえて悶絶し始めた。

何事かと遠くから見守っていたパルスィやキスメを抱えたお燐までもが近寄ろうとするも、

魔人が放った竜巻のような風に阻まれて勇儀の元へとたどり着くことが出来ない。

しかしこの時ついに魔人が誰に言うでもなく粗雑な口調で誰もいない場所に話しかける。

 

 

「クソがァァ‼ なんで今更お前が、戻って、きたん、だぁ‼ ぐああぁぁぁああ‼」

「…………どうなってんだい、こいつぁ」

 

 

状況が呑み込めない勇儀はただただ目の前で意味不明な言葉を吐き出し続ける魔人を

見つめるものの、当の本人は全く以って勇儀に対して意識を向けていなかった。

では誰に対して意識を向けているのか。答えは、彼自身の中に居る別の『彼』だった。

 

 

『_________お嬢様のための僕の体で、一体何をしているんです?』

 

 

 

 







いかがだったでしょうか?

お燐りんの口調がまるで統一されてねぇ。ってか、定まらねぇ。
語尾に「にゃ」とか言ってたっけ? 言ってなかったっけ?
ま、まぁその辺は二次創作だという点で目をつむっていただければと。

そして今回は出したかった地底メンバーを一気に出せました!
寝不足に打ち勝って本当に良かった! アレ、なんて書いてたっけ?
とにかく、これでまた着実にシナリオが進んで_________いたらいいですね(白目


それでは次回、東方紅緑譚


第四十九話「名も無き夜、心さとり」
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