先週、先々週共に投稿を休んでしまって本当に申し訳ありませんでした。
もう夏になって来ているというのに、体調管理は大切ですよね。
そんな訳で、エナジードリンクとアーモンド小魚にドハマりしだした
萃夢想天でございます。ああ、ドデカミンは私の癒しとなりつつある!
本来ならばもっともっと謝り倒さなければならないところですが、
また投稿が遅れるといけないのでさっさと書いちゃいましょう。
それでは、どうぞ!
幻想郷の朝。
それは幻想郷に住む者の中で最も弱い生き物であろう人が最も栄える時間帯であり、
その他の者達がそれぞれの本来の生き方を制限されてしまう面倒な時間帯でもある。
人は朝日の輝きが自らの暮らす土地を照らし出すのと同時に起床して生活を始めていき、
妖は照月の輝きが自らの生きる時間から消えていくと同時に姿をどこかへと隠していく。
幻想郷ではそうして互いが過度な接触をして問題が起きないように十分な配慮がされている。
しかし中にはその暗黙の了解に従わぬ者もいれば、滅多にいないがそれを知らぬ者もいる。
普段通りの幻想郷の朝と昼の間頃、そこにちょうど後者に当てはまる人物がやって来ていた。
純白のナイトキャップの下からまろび出る純金を溶かして編み込んだような煌きを放つ
金色のサイドテールヘアに上下ともに赤色の洋服が映える少女、フランドールことフラン。
そして
特徴的なブレザーチックな服装をしている長身の少女、鈴仙・優曇華院・イナバこと鈴仙。
この夜を統べる吸血鬼と月からの脱兎兵の二人もまた、人ならざるものとして永遠亭の眼前に
そびえる迷いの竹林を出立してから実に二時間も幻想郷の朝空の下を歩き通していたのだった。
「ねぇ………ちょっと、そろそろ休んだ方が良くない?」
「………………」
迷いの竹林の中は吸血鬼にとって最も厄介な日光を遮る無数の竹の葉がひしめき合っていたが、
今現在二人が歩いているのは永遠亭と人里を挟んだちょうど対角線上にある魔法の森の手前で、
風通しも悪く日光もほとんど遮断されずに降り注いでいるため、非常に危険な状態だった。
特にフランの体力の消耗が著しく、鈴仙が心配の声をかけても上の空でひたすら足だけを前に
一歩ずつ踏み出していって歩く亡者のような有り様と成り果ててしまっていた。
元々フランはつい最近まで紅魔館の地下牢で半ば監禁に近い環境で生活してきたために歩いたり
走ったりなどの基礎的な運動能力は吸血鬼の生まれ持つポテンシャルから増長してはいなかった。
さらに生まれて初めての紅魔館外での活動という初体験にテンションが沸き上がっていたらしく、
永遠亭を出てからしばらくはひたすらにはしゃぎ回っていたのだが、時間が経つにつれて段々と
疲れが出始めたのか口数が減り、ついには今のように目に見えて衰弱しきってしまったのだった。
流石に見るに見かねた鈴仙がトボトボと歩き続けるフランに対して優しくも強いトーンの声で
語り掛けて一先ず休息を取らせようと考えた矢先、フランの足の動きがふと急に止まった。
「え、何? どうかしたの?」
自分よりも少しだけ前方を歩いていたフランがいきなり立ち止まったまま何も言わずにただ
前方をぼんやりと眺めたまま動かなくなってしまったのだ。明らかに異常が起こっていると
判断した鈴仙はとりあえずの応急処置をしようとフランに駆け寄り、彼女の視線の先を見た。
フランの視線の先にあったのは、美しい色とりどりの花々で彩られた優雅な風景だった。
今の季節にピッタリなハルジオンが野分きの小道の端で無造作でありながらも丁寧に列を成し、
そこから先には春を代表する様々な草花が大地の一面を己が色に染め上げんと緑に萌えていた。
幻想郷広しといえどもこれほどまでに美しい花畑の景色はこの場所以外では拝めないであろうと
理解させるには充分過ぎるほどに咲き誇っており、フランはその景色に眼を奪われていたようだ。
それもそのはず。フランが今まで見た花というのは紅魔館の門の内側から本館にかけての庭園に
のみ設置されている美鈴の趣味の花壇に咲いていた程度の花である為、目の前の明らかに広大な
敷地いっぱいに咲き乱れる無数の花々は見たことも聞いたこともなかったからだ。
幻想郷で生きていながらも初めて知る幻想的な風景を見て、二人は心の奥が熱くなるのを感じた。
「すごい…………お花がいっぱい!」
「ホント、話には聞いてたけど実際に見てみると壮観だわ………」
フランは先程の疲れも忘れて揺れる草花の美しさに飛び上がるようにして喜び、
後ろで棒立ちになっていた鈴仙も噂程度でしか聞いたことのなかったこの場所を自分の目で見て
感じることで、表現のしようがないほどの満ち足りた感覚を味わっていた。
しかし鈴仙はあまりの絶景に心奪われるあまり、大事なことを一つ忘れてしまっていた。
フランと共に目指していたこの場所、通称『太陽の畑』にいる幻想郷きっての大物妖怪の存在を。
「あら、気に入ってくれたみたいで何よりだわ」
「ッ‼」
「?」
小道でそろって立ち尽くしていた二人の背後から、透き通った女性の声が聞こえてきた。
フランは当然相手が誰なのか分からないので警戒心は皆無に等しく、声の主を確認するために
後ろを振り返ろうとするが、少し後ろにいる鈴仙がフランの頭を軽く押さえてそれを止める。
何をするのかと問い質そうとしたフランだったが、自分の頭を押さえている鈴仙の右手が微かに
小刻みに震えているのが感じられたため、何も言えなくなってしまった。
そして鈴仙もまた、突然現れた"最も警戒すべき相手"に対して恐怖の色を隠せず黙していた。
(ヤバいヤバいヤバい! どーしよ⁉ この子送ったらすぐ帰るつもりだったのに‼)
相手に悟られぬよう内心で己の弱さを露呈させるものの、こうなってしまった以上は仕方ないと
半ば諦めに近い感情の波に身を任せることにして自分達の背後にいる人物に言葉をかける。
「ど、どーも。流石は幻想郷の誰もがその名を知る大妖怪が育てた花、お綺麗ですね~!」
「あらそう? 急に褒められても困ってしまうのだけれど」
「いえいえそんな、あなたのような方が謙遜なんてされる必要なんて!」
「ねーうどんげ、この人だぁれ?」
相手を持ち上げるだけ持ち上げようとした鈴仙の策は、フランの一言で早くも崩れ去った。
ついさっき「誰もがその名を知る」と自分で言っておきながら、自分の横にいるフランが
相手に名前を尋ねるという大失態を犯した鈴仙はもはや諦観を超えて死すらも覚悟する。
ところが振り返って言葉をかけた先にいる人物は鈴仙に対して技を放つでも拳を振るうでも
なく、いつまでたっても紹介しようとしない彼女の代わりに自分からフランに名を名乗った。
「私の事を知らない人がいるなんて珍しいわね、今日は花たちの機嫌もいいし教えてあげる。
ここ『太陽の畑』で花と共に暮らす一人の普通の妖怪、『
毛先の強めの癖が特徴的な、活力ある若葉を彷彿とさせる色合いをした緑色のボブカットに、
髪の色とは対照的な滴り落ちる血滴の如き深紅色の瞳が長めの前髪の隙間からのぞいている。
一般的な白いシャツを着ている上から赤いチェック柄をしたベストを羽織っているが、
どうしても女性特有の豊満な膨らみが邪魔をしてベストのボタンは一つも閉じられていない。
腰から下はフリルが付いたベストと同じ柄のロングスカートを履いており、ほんの些細な
動作やわずかなそよ風でさえも彼女のスカートの裾が持ち上がってしまい、足が見え隠れする。
右手に持っている薄い桃色の日傘は開いていて、中にいる幽香に懜げな印象を抱かせる。
自ら名乗った幽香は尋ねてきたフランを見て膝を軽く折り目線を同じくらいに合わせてから
ゆっくりと丁寧な口調で日傘をくるくると回しつつ問いかけ返した。
「それで、あなたは誰かしら? 見たところ人間ではなさそうだけれど」
「あっ、えと、この子はですねぇ」
「私はこの子に聞いているのだけど?」
「ひっ! ひゃい、ずみまぜん‼」
物腰柔らかくフランに話しかけていたところに鈴仙が横槍を入れた瞬間、幽香の元から
細かった眼がスッとより鋭く切れてしまいそうなほどに尖って鈴仙に視線をぶつけてきた。
絶対的な強者からの圧力に耐えることなどできずに鈴仙はすぐさま己の全霊を込めて謝罪した。
その迅速さとひた向きさを良しとしたのか幽香は何も言わずに鈴仙からフランへと視線を戻し、
再び同じ質問を尋ね返した。
「ねぇ、あなたの名前は?」
「私はフランドール・スカーレットよ。フランでいいわ」
「スカーレット…………ああ、霧の湖にある館の吸血鬼もそんな名前だったわね」
「そうよ! 私もそこに住んでいるの!」
「あら、そうだったの。なら朝に弱いはずの吸血鬼がどうしてこんな時間帯からこの
太陽の畑の近くをうろついていたのかしら? それも教えてくれるかしら?」
フランの名前を聞いて即座に霧の湖に浮かぶ紅魔館に暮らす吸血鬼と目の前の少女との
関連性を明らかにした幽香は、続けてフランに新たな疑問を質問として投げかける。
先程の態度とは少し違ってわずかな敵意のような尖った感情を見え隠れさせる表情になった
幽香に気付きもせず、フランは尋ねられたままに純粋に返事をした。
「私、紅夜を探して館から抜け出してきたの!
ねぇ、あなたは紅夜を見なかった? 私の執事なの!」
「紅夜? 執事? ちょっと聞き覚えが無いわね」
「そう…………」
望んでいたものとは少し違う返答が返ってきたことに幽香は若干戸惑いつつも答えた。
幽香の返答を聞いたフランは姿を消した愛しい執事の手がかりが得られなかったことに
落胆と悲哀を隠せず、目尻にほんの小さな涙の粒を溜めてのどを微かにしゃくる。
幼く見える少女の悲し気な姿を見た鈴仙と幽香はいたたまれなくなり顔を見合わせた。
正面から見た幽香に本能的な恐怖を感じたのか鈴仙は半歩後ろに後ずさろうとするも、
自分の脇で零れ落ちようとする涙を拭っている小柄な吸血鬼の少女を見て踏み止まり、
つい先ほどまでビクビクと震えていたのと同一人物とは思えないほど凛々しい表情に
切り替わっておもむろに言葉を紡ぎだした。
「あの、執事服っていう黒系の厚めな服を着た銀髪の少年なんですけど知りませんか?
姫様………私たちのお仕えする月の姫が昨晩この辺りから強い力のぶつかり合いを感じたと
仰っていまして。何か心当たりとかはありますか? どんな小さなことでもいいんです!」
「銀髪に黒系の服、ね。悪いけど本当に心当たりが無いわ。 それよりもあなた、
さっきまで何に対してかは知らないけれど、やたら怯えていたくせに急にどうしたの?」
「い、いえ。別に何も………………ただ」
「ただ?」
「こんな小さな子が懸命に頑張ってるのに、私が怯んでちゃカッコ悪いかなと思って」
普段は何事にも怯えて逃げ腰になる鈴仙だが、その実彼女はやる時はやるタイプである。
まして今回は自分の傍らでは(実際には違うが)よりか弱いフランが涙を堪えていたため、
なけなしの勇気と持ち前の度胸を振り絞って大妖怪の風見 幽香に面と向かって対峙した。
恥ずかしいと自分では思いながらも、急に態度を変えた自分に違和感を抱いた幽香からの
疑問に鈴仙は内心で感じていた自らの行動の決定打を教えようとフランの頭に手を置き、
力を入れすぎないように優しくフワフワと撫でてくれた。
急に鈴仙に頭を撫でられたフランは急な出来事に驚きながらも彼女からのスキンシップを
嬉しく思ったのか少しずつ抵抗しなくなり、最後は鈴仙の置いた手に身を任せるようになった。
手で髪を撫でる動作と共にクラクラと頭を動かす仕草に可愛らしさを感じ始めた鈴仙は
そのまま少しずれたナイトキャップを元の位置に戻すように被せ直してやった。
「……………そう」
「ええ、そうです。一応今は私が保護者だし」
「それなら一つ言っておいておくけれど、その子は吸血鬼だからそもそも外見と実年齢は
必ずしも合致するとは限らないわよ。それに実力でもあなたとは比べ物にならないわね」
「え? それはその、えっと…………」
「あなたが庇って守ったり、手助けしてやれるほどこの子は弱くないと思うけどね」
「あは、あははは、はは」
幽香の一言で鈴仙の右手の動きがピタリと止まって一切動かなくなる。
急に頭を撫でるのを止められたフランはもっとしてほしいと言わんばかりに自分の両手を
鈴仙の右手に乗せてグリグリと動かそうとして、それを見た幽香はクスリと小さく笑う。
「何だか面白い組み合わせね。吸血鬼と竹林のウサギだなんて滅多に見られないわ」
「は、はぁ。そうですかね…………」
「ええ、とっても面白いわ。気に入った、せっかくだから花言葉を贈ってあげる」
「は、え? 花言葉?」
「嫌いかしら?」
「そ、そそ、そんなことはないです! 花言葉大好きです‼」
「そう、それは良かったわ。フランドール、だったかしら。あなたはどう?」
「花言葉ってなぁに?」
「あら、まずはそこからね」
どうやら気を良くしたらしい幽香はフランと同じ目線にするために折っていた膝を
伸ばして立ち上がり、軽く周囲を見回した後で再びフランと目線を合わせて話しかけた。
「ねぇフラン、この花畑にあなたの知っているお花はあるかしら?」
「お花?」
「ええ。あなたが知ってるお花、それかあなたの好きなお花があれば教えて?」
「うーん……………あ、あそこの花と、あとアッチのお花も!」
「…………へぇ、素敵じゃない」
尋ねられたフランは注意深く幾千もの花々の花弁や葉を見比べながら自分の知っている
種類をどうにかして見つけて指をさして教えると、幽香は意味深な笑みを浮かべた。
そのまま幽香はフランと鈴仙をその花のある所の近くまで来るように促して説明する。
「コッチの花の名前はビオラというの。本来ならもう少し寒い季節が一番の旬なの
だけれど、どうやらこの子は他の子と違って少し暖かい気候が好みのようね」
「スゴイ! ゆうかってお花の事が分かるの⁉」
「まぁね。この子たちは私が育てたんだもの」
「へー!」
「うふふ、興味津々みたいね。フラン、お花にはその花になぞらえた花言葉と呼ばれる
象徴に似た言葉があるの。例えばこのビオラで言えば【誠実】とか【信頼】とかね」
「へー…………でも花言葉って確か、一つの花に幾つもあったような気が」
「そうよウサギさん。このビオラにも多くの花言葉が、花への思いが込められているの。
そして、花は人と惹かれ合うのよ。その人の思う気持ちが一番強い思いと運命的にね」
「運命、的に………」
「フランがこのビオラに惹かれた理由は多分、【少女の恋】という言葉にだと思うわ」
幽香がビオラの花びらを優しく触りながら呟いた花言葉を聞き、フランの顔が真っ赤に染まる。
すぐさま顔が赤みに比例して熱くなっていき、ナイトキャップの隙間から湯気が出るほどに
なってしまった。あからさまな反応を見て幽香は何やら満足げな表情になって話を続ける。
「どうやら当たりみたいね。もちろん最初の二つも当たってはいたんでしょうけど」
「うー!」
「純真無垢ってこういうことを言うのよね。さて、残る花は………パンジー、か」
「パンジー?」
「…………まぁこれは後でもいいわね。最後はあなたね、ウサギさん?」
「え、私ですか? いえいえそんな、私は別に大丈夫ですから!」
「遠慮しなくてもいいわ。あなたの名前は確か、うどんげとか言ってたわね」
「え、いや、その」
「うどんげ、優曇華ねぇ。確かフサナリイチジクという種類がそう呼ばれてたかしら」
「え⁉ あるんですか⁉」
「あるわよ。優曇華の花言葉は、【裕福】ね」
「ゆ、裕福ですか? なんか漠然として分かりにくいですね」
「別に今がそうだとは言ってないわよ。あなたの"過去"か未来か、どちらでもないのかも」
「……………どうでしょうね」
紅くなったまま唸り続けているフランの横で鈴仙と幽香は冷ややかな視線で見つめ合う。
特に鈴仙は幽香の発した言葉に何かを感じたらしく、態度が一気に急変してしまった。
鈴仙の過去のことなど知りもしないし興味も無い幽香からしてみれば、花言葉の意味が
またしても当たったようだくらいにしか思っていなかったのだが、想像以上に堪えたらしい。
三人とも黙り込んでしまってから数瞬の後、花畑にそよ風が吹いてきた。
季節の境目に吹く風は花畑に咲く無数の花々の芳醇な香りをブレンドしつつも柔らかに
それぞれの髪や肌を撫でるようにしながら過ぎ去っていく。
そよ風が吹けば当然花びらは踊りに誘われた貴族の公女が如く風に舞って流れていき、
桃色や黄色、白や赤などの折々の色合いの花吹雪となって見る者の心に情景を刻む。
「わぁ………!」
「きれい………」
「風が吹き、花が散る…………他者の命の散り際が最も美しいというのが、自然の摂理ね」
三者三様の感想を抱きながらも風は止むことなく香りと色を乗せて流れ去っていく。
穏やかで緩やかな風が過ぎ去るころには既に、三人の心は安らぎに満たされていた。
そこに敵意も警戒心もなく、ただただ美しいものを美しいと感じられる心の拠り所。
純真無垢なフランも、臆病で逃げ腰な鈴仙も、花を慈しむ幽香も、誰であったとしても
この風景の中で他者を敵視しようなどと思うものは一人としていなかっただろう。
しばらく風の吹いていった先を見つめたままでいたフランと鈴仙だったが、
自分達がここへ何をしに来たのかを思い出して我に返り、新たな情報を求めてこの場を
立ち去ろうとした。しかし礼を述べようと二人が口を開きかけた時、幽香が語り掛けてきた。
「そう言えば今思い出したのだけれど、あなたって霧の湖の吸血鬼なのよね?」
「そうだよ」
「ということは、この前に起こった紅い霧と太陽が巻き戻る【異変】のあなたたちが
やったということで間違いは無いのよね?」
純粋なフランは気付かなかったが鈴仙は幽香の顔つきが若干険しくなっていたことに気付き、
口を挟もうかとしたけれど最初の時に睨まれたことを思い出して委縮してしまった。
鈴仙がどうしようかと迷っている間にもフランは迷うことなく正直に答え続ける。
「そうだよ」
「そう……………それはつまり」
数週間前に起こった【異変】が自分達によって引き起こされたものだと認めた瞬間、
幽香の口の端が大きく弓なりに曲がって目つきも上から下を見下ろすようなものに変わり、
ようやく彼女の雰囲気が変化したことに気付いたフランに圧をかけるようにして告げた。
「ここに咲く花たちの成長を阻害するような真似をしたのはあなたってこと?」
その一言を口にし終えた瞬間、力の波動が無防備だった鈴仙とフランを襲った。
唐突な出来事に対応しきれずに容易く吹き飛ばされてしまう二人に、幽香は一歩ずつ
踏みしめるように近付いていき、さらに言葉を紡いだ。
「この子たちはあの日、太陽の光を浴びることが出来ずに苦しんでいたわ。
しかもそれだけに留まらず、太陽の位置を巻き戻そうとしていたわね。
誰がどこで暴れようと好きにすればいいけれど、私の花に害があるなら容赦しない」
その美しい女性的な顔には似つかわしくない冷静な怒りを感情を浮かべたままに、
幽香はさらに一歩ずつ踏み出して吹き飛ばされていった鈴仙とフランに近付いていく。
しかし話の途中にフランが立ち上がって前を向き、幽香と対峙する威勢を見せた。
「……………」
「あら、何か言いたいことでもあるの?
言い訳なら聞くつもりは無いわよ、聞くだけ無駄だもの」
幻想郷において名を知らぬ者などいないと鈴仙が誇張したが、あながち間違いでもない。
フランのように幽閉でもされていなければ風見 幽香の名は赤子すら聞き覚えがあると
人里で語られるほどに彼女は危険な大妖怪であるのだ。その彼女が容赦しないと豪語する。
それはつまり、この幻想郷から逃げるでもしない限り必ず滅ぼすという宣言とほとんど
同義でもあった。だが、フランは幽香に対して反論も弁解もせず、ただ一言だけ告げた。
「ごめんなさい」
「……………なんですって?」
「ごめんなさい。ゆうかの大切なお花に酷いことしてごめんなさい」
「………………」
自身の大切なものを傷つけられることへの怒りは、フランにも分かりかけてきていた。
だからこそこれまでのように反抗するでも反発するでもなく、理解して受け入れた。
相手の何よりも尊重するべきものへの敬意を胸に、フランは邪な考えなど一切持たずに
ただ幽香の育てた花へ誠心誠意を込めて謝罪をしたのだった。
今まで見たどんなタイプの相手とも違うフランの対応に幽香は焦り戸惑う。
しかし彼女の心からの謝罪に嘘偽りなどが決してないことだけは理解できたため、
自身の内から沸き起こる怒りを抑え込んで話をしようと試みた。
「いいわ、許してあげる。幸い誰も枯れてはいなかったもの、怒るほどのことじゃないわ。
でもフランドール、どうしてあんな異変を起こそうとしたのか理由は教えてくれるかしら?」
「うん。あの異変はお姉様が紅夜を受け入れるために起こしたんだって」
「紅夜………さっき言ってた探してる人だったわね」
「そうよ。あの紅い霧はお姉様とパチェがやったけど太陽の向きを変えたのは全部紅夜が
一人でやったのよ! スゴイでしょ?」
「……………そう、すごいわね。それで、どうしてその人はいなくなったのかしら?」
「それは…………」
幽香からの質問に順当に答えていたフランだったが、紅夜がいなくなってしまった理由を
尋ねられると言葉が淀み、どういえば相手に伝えられるかが分からなくて言葉が出なくなる。
その様子をどう受け取ったのか、もういいわとだけ呟いてから幽香は何かを思案し、答えた。
「いいわ、手伝ってあげる」
「「えっ?」」
「あなたたちの人探しを手伝ってあげるって言ったの、余計なお世話かしら?」
「い、いえ! そんなことないです!」
「手伝ってくれるの? ありがとうゆうか!」
「まぁあんまり長くは手伝えないけれど、一日くらいならいいでしょう」
「やったー!」
幽香が告げた言葉は、意外にもフランと鈴仙を手伝うというものだった。
最初は何かも聞き間違いかと己の耳を疑った鈴仙だったがすぐに間違いではないことに
気付き、噂に名高い大妖怪が何故人探しなんかを手伝うのか、という疑問を新たに抱いた。
しかし何の疑いもなく純粋に喜ん飛び跳ねるフランと、その様子を見てにこやかに微笑む
幽香の姿を見た直後、どうでもいいことだと思い直して概ね肯定することにした。
しかし肯定することにしたとはいえ、やはり理由は尋ねておきたいと考えた鈴仙は
若干引き腰になりながらも喜ぶフランをいさめながら幽香に理由を尋ねてみる。
「あ、あの、どうしていきなり?」
「余計なお世話かしらって一応聞いたはずだけれど?」
「そ、それはそうなんですけど……………」
「…………強いて言えば、この子の執事とやらに文句を言いに行くのよ」
「文句、ですか?」
「ええ。あなたの起こした異変の影響で私の大切な花に被害が及んだのよってね。
まあもう一つや二つ文句があるのだけれど、理由として一番大きいのはそれかしら」
「は、はぁ」
言っていることの筋は通るし一理ある、と鈴仙は幽香の語った理由を聞いて安心し、
先程から喜びを文字通りに体現しているフランを押さえて話をまとめることにした。
「さて、時間が惜しいから探しに行くなら早く探しに行きましょう。
確か強い力のぶつかり合いがどうとか言ってたけど、心当たりは他にないの?」
新たに紅夜を探す道中に加わった幽香の言葉にフランと鈴仙が反応して考え込む。
だがフランはこの幻想郷の土地勘などあるわけもなく、鈴仙もまた輝夜の口にした
太陽の畑へ行けという指示しか受けていない為に心当たりなどあるわけもなかった。
いくら考えても無駄だと悟った幽香は仕方なく自分で思案し、取りあえずの見当をつける。
「そうだ。確か人里で配られてた新聞だと、その紅夜って人間は外来人なのよね?
だったら博麗神社にいる霊夢に頼んで外の世界に帰ろうとしてるんじゃないかしら?」
「えっ⁉」
「外の世界にですか? でも、可能性は無いわけじゃないですね」
「まぁもし違ってもそこに行く道中で情報が聞き出せるでしょうし、
居ても意味の無い場所でこうしているよりもよっぽど有意義だと思わない?」
「そ、そうですね」
「霊夢のところに行くのね⁉ 私霊夢のところに行ってみたい!」
「決まりね」
幽香の提案によって次の目的地を定めたフランと鈴仙は幽香の案内によって太陽の畑から
博麗神社へ行くための近道として人里へと向かう小道に出て、そこから三人で歩き出した。
途中で何度も名残惜しそうに花畑の方向を振り返るフランだったが、自分が何をする為に
ここまでやって来たのかを常に胸の中で思い出すようにして焼き付いた光景の残滓を
振り切り、自分よりも身長の高い二人の歩幅に合わせて遅れないように急ぎ足で歩く。
しかしフランはすぐに立ち止まってから幽香の名を呼び、笑顔のままで彼女に告げた。
「一緒に来てくれてありがとう、ゆうか!」
満面の笑みはまるで幽香が愛してやまない夏の風物詩たる向日葵の花の如く。
優しい無垢なる笑顔を向けられた幽香は一瞬戸惑うものの、自分も笑顔で返した。
彼女は本来太陽の畑からはあまり出ようとはしないのだが、なぜか今回だけはフランに
力を貸してあげたいと思えたのだ。その理由は、あえて言わなかった花言葉にあった。
(本来ならば咲かないはずのこの季節に咲いてしまった、遅れ咲きのパンジー。
その花言葉は、【思慮深い】、【慎ましい幸せ】、【温順】ともう一つ…………)
自分の前を元気に歩くフランとその様子を横から頼りなげに見つめる鈴仙。
そんなデコボコな二人を半歩後ろから見つめつつ、幽香は自分の言葉を思い出す。
花は人と惹かれ合う。
一番強い思いと運命的に。
吸血鬼と竹林のウサギ、そしてその後ろには花を統べる大妖怪である自分。
騒がしくも優しいこの二人との道中に何が起こるのかを少し楽しみにしている自分に
内心驚きつつも、フランの目的である紅夜という人物に対しても思うことがあった。
(幼い吸血鬼にこれほどまでに愛される人間、か…………。
面白そうだけれど、それよりもこの子とその人間の関係が気になるわ)
外出する時は常に差す日傘で朝の日差しを遮りながら、幽香はフランと鈴仙と歩む。
(………………【一人にしないで】、ね)
パンジーの持つ最後の花言葉を心中で思い出しながら。
更新が遅くなってしまって大変申し訳(以下略
どうしてこう私という愚か者は毎回毎回(以下略
本当に読者の皆様にはご迷惑をおかけして(以下略
はい、いかがだったでしょうか?
東方キャラの中でも屈指の人気を誇るお姉様こと、ゆうかりん登場です!
お姉さんキャラ好きの皆様も、ドM属性持ちの皆様も待ちかねたでしょう‼
今回のゆうかりんは正直さとり様やお燐りんよりも口調が何となく
想像しやすいうえに安定していて書きやすかったというのが本音です。
ですがどうも上手く執筆が進まず、地の文が疎かになってしまいました。
次回からはたんと気を付けまするゆえ、ご容赦いただきたく思います。
それでは次回、東方紅緑譚
第五十弐話「名も無き夜、今と昔を選ぶなら」