東方紅緑譚   作:萃夢想天

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どうも皆様、迫る年の瀬に一年の短さを痛感する萃夢想天です。

それにしてもホント、何故だか今年は例年以上に過ぎるのが早いような
感じがしますね。コレが年を取るってことなのかな(遠い目

それはさておき、今回は前回のマルチサイコに堕落依存してしまった
咲夜さんを(裏で)救済した紅夜の、翌日から物語が始まります。
なんだかんだ言って、魔人を主にして描くのはこれが初かもしれません。
一人称にして、って意味ですけどね。大変そうだなぁ。


それでは、どうぞ!





第六十八話「紅き夜、魔人と語らう」

 

 

 

 

 

 

 

この僕、十六夜 紅夜の朝は早い。

早いと言っても、あくまで人間という種にしてはというだけで、早過ぎるわけではない。

僕らが仕えているのは吸血鬼。夕刻に目覚めて朝に眠る種族だから、自然と生活サイクルが逆の

ベクトルへと向かっていくのも当然だろう。せめてもの救いは、僕らが仕えている吸血鬼が、

夜更かしならぬ昼更かしをすることを好まず、昼前には眠ってしまわれる事だ。

流石に眠る直前まで御傍に控えることはしない。主人が寝ることを決定した時点で、僕たち

従者の仕事は終わりを迎え、翌日の従事に差し支えないように早く眠ることを心掛ける。

紅魔館に帰って約三日目の朝をたった今迎えた僕は、かつての自分との些細な違いに驚く。

 

 

「………もう朝の10時か。随分と長く寝てたようだ」

 

 

いつもならば、午後5時に目覚めて翌朝の午前9時前には眠られる主人たちに合わせて、従者の

僕たちもそれに近しい時刻に就寝する。ただ、僕が仕えているフランお嬢様は、遊び相手である

霧雨 魔理沙や博麗 霊夢らが来ることを待つために、人間と同じ昼型の生活に近づいてきた。

そのため、彼女の従者である僕もまた、生活のサイクルを不規則に変動させられていたのだが、

今日はどうにも目覚めるのがいつもよりも遅い。まぁ、原因は分かってるんだけどさ。

 

 

「…………ん、ぅん」

 

「…………………」

 

 

僕がベッドから上体を起こしたままの姿勢で、静かに、そっと同じ寝具の中に居る人物を見る。

さながら精巧に作られた人形のように、美しい顔で寝息を立てているのは、咲夜姉さんだ。

彼女は普段の仮面のような無表情では無く、安心しきって緩んだ薄い笑みを湛えているのだが、

普段ならばこんな表情を他人に見せるようなことは決してない。彼女は普段、時を止めたままで

眠りについているのだから、誰かに寝顔を見られることなど、どう転んだって有り得ない。

では何故、そんな人の寝たままの笑顔を見ているのかと言えば、答えは簡単。

 

一緒に寝たのだ。同じベッドで、肩を寄せ合った状態で。

 

誤解を招くような言い方だが、相手は姉だし、そもそもそんなことになった記憶はどこにも無い。

ただ同じベッドの中に入り、一人用の狭さを補うために寄り合い、そのまま眠りについただけだ。

しかし、そうなる前の姉さんの容態を思い出して、ふと彼女の寝顔を見やる視線に力がこもる。

 

昨日の様子は誰にも言えない。もし命令が下ったとしても、レミリア様にもフランお嬢様にも

この事だけは言えないし、言いたくない。あれほどまでに傷ついた姿を、言いふらしたくない。

 

「………すぅ………」

 

「姉さん…………」

 

 

安らかな寝息を立てる姉の笑顔を見てしまった僕は、微かな声を喉からこぼしてしまったものの、

幸いにも彼女の眠りを妨げることにはならなかったので、とりあえず一安心と軽く息を吐いた。

 

姉さんの左手は、僕の服の裾を掴んで離さない。眠っているはずなのに、その力はすさまじい。

多分彼女は、僕がどこかへ行ってしまうことを無意識に恐れている。というか、ほぼ間違いない。

凶行に及んだ昨日の彼女を落ち着かせるため、彼女の部屋で話を聞いた時に色々と聞いた。

それらを聞き終えた今では、それまで心のどこかで分かり合えないんだと諦めていた自分を

殴り飛ばしてやりたいと思えるほどに、姉さんの想いと本気に応えようと思っている。

 

とにかくまずは起きて動くとしよう。

姉さんには申し訳ないけど、服を掴んでいる手を優しく包んでどかし、着替えようと身体を無音で

動かそうとしたその時、姉さんと僕しかいないはずの室内に、野太く粗雑な声が響き渡った。

 

 

『オイ、クソガキ』

 

「……ビックリしたなぁ、君か」

 

 

室内というより、正確には僕の内側から響いてきた声に驚かされ、静かに返事を返す。

実に三日ぶりに聞いた声は、以前聴いた時よりかは幾分か刺々しい印象が薄らいでいるように

感じられる。でも、どうしてコイツは今まで静かだったんだろう。それに、静かだった奴が今度は

急に現れて話し出したことにも違和感を覚える。浮かぶ疑念をよそに、声の主は憮然と語る。

 

 

『誰の邪魔も入らねぇ場所に行くぞ』

 

「は? いきなり何だよ」

 

『いいから行くぞ。昨日の霧が深ぇとこなら大丈夫だろ、オラ早くしろ』

 

「…………分かったよ」

 

 

傍若無人な態度を取るこの声の主は、僕の精神内に不慮の事故で宿ってしまった魔人だ。

これまでずっと慇懃無礼な言動しか聞いたことがない僕にとって、今日の彼の態度はどこか、

違和感を禁じ得ない。でもここで言い合っても意味ないし、何より姉さんを起こすとマズイ。

せっかく穏やかに眠ってるのを起こすのは忍びない、ここは彼の言うとおりにしようか。

そこまで考えた僕は、姉さんが掴んだままの服を脱ぎ捨てて、代わりに燕尾服を羽織り、

万が一にでも音を立ててしまう可能性を考慮して、能力を使って部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りでいいかい?」

 

『ああ。こんなとこまで来るバカは、テメェとあのよく寝る女くらいだしなァ』

 

「酷い言い方するなぁ」

 

 

内側に居る魔人の言うがままに外へ出て、彼が言っていた場所に二分未満で辿り着く。

霧の濃さが異常なせいか、やたらと寝起きの肌に湿気がまとわりついてきて不快な気分に

させられるけども、そんなつまらないわがままを言うつもりもないので、すぐに話を切り出す。

 

 

「それで、僕をこんなところに呼び出して何の用かな?」

 

『……………………………』

 

「あ、もしかして決闘のこと? 心配しなくても、不正なんかしないよ」

 

『そんなンじゃねぇ。テメェの中に居たんだ、分からねぇ訳ねぇだろうが』

 

「それもそうだね。じゃあ、なんでわざわざこんな場所まで?」

 

 

話を切り出したものの、何故か妙に歯切りの悪い、というかあやふやな言葉を口にする彼に

今度こそ不信感を抱く。いつもなら乱暴極まる発言が既に、四回ほど飛び出てる頃合いなのに。

 

『テメェは俺様をどう認識してんだ………』

 

「今更ソレを聞くのかい?」

 

『………チッ』

 

 

精神の内側に居ることで、彼は僕の思考をある程度まで筒抜けにすることができるらしいので、

それを逆に利用させてもらったんだけど、本格的におかしい。今日はいやに突っかかってこない。

本気で怪しさを感じ始めた僕に舌打ちを聞かせて、魔人は苛立った口調で本題を明らかにした。

 

 

『___________家族ってのは、どんなモンなんだ?』

 

 

緩やかな風が起こした波が、霧深い湖の湖畔に居る僕の鼓膜を優しく揺すり、音を響かせる。

そういった外部からのものとは違う、独特な聞こえ方をする声が、唐突に疑問をぶつけてきた。

 

「はぁ?」

 

 

しかし、それに対する僕の返答は、あまりに簡潔で間の抜けたものになった。

いきなり何を言い出すんだ。家族がどんなものか、何故魔人がいきなりそんなことを。

浮かんでは言葉にならずに消えていくそれらに思考を埋め尽くされていると、僕の返答を受けて

またしても決まりが悪そうな声をあげている彼から、再び同じ質問が繰り返される。

 

 

『だから、家族ってのは何なんだって聞いてンだよ』

 

「………いや、言葉の意味は分かるよ。ただ、急に聞かれて驚いただけで」

 

『ならさっさと答えろ。家族っつーのは、どんなモンなんだ』

 

「…………質問には答えるけど、その前に一つ。どうしてそんなことを聞くんだ?」

 

 

どうにも普段と違う魔人の言葉に動揺しながら、疑問文に疑問文で答えるという無礼を働く。

相手は自分の中に居る存在だから無礼も何も無いんだけど、本来の用途では有り得ない対応を

している時点で失礼にはなるかな。そんな事を思いながらの逆質に、彼は意外にも答えを示す。

 

 

『なんで聞くのかだと? ンなこと俺様に…………イヤ、俺様にもよく分かンねぇんだよ』

 

「……………素直に答えてくれるとは驚きだ」

 

『うるせェ。なんつーか、アレだ。何がそんなにいいのか気になっただけだ』

 

「何がそんなにいいのかって、家族が?」

 

『あァ。テメェはやたら家族にこだわってたろ、あの女と昨日話してた時』

 

「姉さんのこと? それで家族が気になったって?」

 

おう、とどこか上の空といった感じの相づちを返されて、いよいよもっておかしいと確信する。

彼との付き合い、というか関わりが生じたのは、今から一週間ほど前からなのだが、その間には

僕自身の記憶の欠落があるため、実質三日ほどの短い期間しか関わっていないと考えている。

地底に居る時の僕は僕としての人格が無く、忘という記憶のない少年として五日間を過ごして

いたので、その期間の方が接触していた時間は長い。でも、こんな彼を見る(聞く)のは初めてだ。

 

警戒というほどではないけれど、あまり気を許すべき存在でないことは最初から分かってはいた。

けど、こんな質問を投げかけられれば、気を張っていた分だけ勢いを削がれるのもまた事実。

互いに一言も話さなくなった状況をどうにかしようと、ひとまず質問に答えるべく口を開く。

 

 

「家族、家族か…………本当の家族を知らない僕へのあてつけかな?」

 

『ンなモンじゃねぇ。てか、知らねぇのかよ』

 

「うん。本当の、という意味でなら知らないことになる。家族って難しいものだよ」

 

『そう、なのか?』

 

「実のところを言えば、僕だってよく分からないんだ」

 

 

自分の身体の主導権を得ようとする相手だという事も忘れ、僕は驚くほど自然に言葉を紡ぐ。

でも実際、本当に家族という言葉を僕が使っていいのかは甚だ疑問だ。僕たちは改造人間だし、

そもそも同じ血を分けているのかすら不明なんだから、一般的な意味での家族とは違うのだろう。

それを言葉にして聞かせたところ、魔人は肩透かしを食らったようで、白けた雰囲気を漂わせる。

予想していたよりも答えが酷かったからか、それとも自分の求める答えを知っているだろうと

確信していた相手から、何も知らないんだと聞かされて唖然としたか。多分両方だと思うけど。

 

そんな彼の意に答えるわけじゃないが、家族を全く知らないわけじゃないということを話す。

 

 

「それでも、今の僕には家族だって確信を持って言える人がいる。姉さんだけじゃないよ?

美鈴さんやこあさん、おこがましいかもしれないけど、パチュリーさんやお嬢様方だって、

今の僕には家族同然………いや、家族そのものだ。本人が聞いたら否定してきそうだけど」

 

『家族ってのは、血の繋がりがあって家族なンだろ? だったらおかしいだろうが』

 

「広く言えばそうだけどさ。けど、僕はそういう便宜上の家族を言ってるんじゃない」

 

『あ?』

 

「僕が思う家族っていうのは、何の利益も損得勘定も無く、ただ一緒に居られる人こそが、

僕にとっての家族なんだと思う。喜怒哀楽も、辛苦も、悲哀も、全てを共有できる人が」

 

『テメェにとっての家族、って奴なのか』

 

 

今度は先ほどの彼のように、僕が相槌を打って応える。魔人はそれを受けて、無言になった。

今の僕の言葉は、偽らざる本心だ。この幻想郷に来て、フランお嬢様と出逢い、そこからさらに

多くの人々との出会いを果たして、一度生涯に幕を下ろした僕の心にある、願いともいえる。

外の世界で一緒だった姉さんは当然として、この紅魔館の住人は全て、僕にとっては家族だ。

人らしさを取り戻させてくれた、と言えば大げさに聞こえるけど、実際そうだから他に言い様が

ないのだからしょうがない。彼女らは僕にとって、かけがえのない家族とまで思っている。

美鈴さんとパチュリーさん、そして姉さんにまで想いを告げられて困惑の極みではあるものの、

何の淀みもなく彼女らを家族だと言い切れる。血の繋がりとか過ごした時間とか、関係はない。

ただ一緒に居たいと思える人、一緒に居る人、一緒に何かを乗り越えてくれる人、それらを僕は

家族と呼びたい。温もりのない世界で生まれ育った僕が初めて感じた、優しい温かさを持つ人、

そんな人たちを僕は、家族であると思っていたい。

 

そうしてしばらく二人で、霧深い湖の湖畔に佇みながら時を無駄に過ごす。

本当ならこんなことをしている余裕なんてないのだけど、意外にも一人になる時間がなかった

ことと、地底生活で見られなかった自然の壮大さが目の保養になったことで、動けずにいた。

しかしそれも、僕自身の自由な時間がある間だけの話で、それがもう尽きようとしている。

東から昇っていた太陽が、南の空の中央にその白い姿を収めている、つまりは真昼時だ。

 

 

「そろそろパチュリー様の昼食のご用意をしなくちゃいけない頃だ」

 

『俺様を喚び出した片割れの魔女か。ゴーレム作りでンな暇ねぇだろ』

 

「その進捗状況を聞きに行く口実さ。ぶっちゃけ、逢いに行くための動機でもある」

 

『そーかよ。随分と機嫌が良さそうじゃねェか、あ?』

 

「まぁね。死ねない理由の再確認、ってところかな?」

 

『ハッ、言ってろ』

 

 

身体を奪う競争相手の魔人に対する皮肉を交えて、漂う濃霧を髪や肌に付着させながら歩き、

目に突き刺さるような赤色をした館に戻り、従者としての職務をいつもより遅めに開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱陶しいほどに眩しい太陽が空高く昇っているのを、"俺"は何とか無視し続ける。

 

今は確か、午後の1時半だったか。コイツの体内に居る俺からすれば、時間なんざあってない

ようなモンだから、重要視はしてねぇ。ただ、コイツの現状を見て暇を潰してたところだ。

 

 

「紅夜さんは私のためにご飯を持ってきてくれたんです。私のために」

 

「一応客人である貴女に食事を提供するのは当たり前よ。それを随分と強調するのね」

 

「私を客人だと認めるならそのように扱ってくれませんか? これから紅夜さんとお昼なんです」

 

「客人の食事の最中に従者が付き添う必要は無いわ。さ、早く行きましょ、紅夜」

 

「ダメです。紅夜さんは私と一緒に居るんです」

 

「それは無理な話ね。紅夜はこれから私とずっと一緒なんだから」

 

コイツの名を呼ぶ二人の女に横からまとわりつかれて、逃げられない状況の中でどうにか

身体を縮こまらせて難を逃れようとしている。なんつーかまぁ、メンドクセェ状況だな。

俺は宿主である紅夜とかいうガキの中から、普段はこの世界を見ている。

人間の体にある五感でものを感じることはできる。この場合は、共有してるの方が正しいか。

とにかく俺は、現在進行形でこのガキが感じているものを同時に知覚しているわけだが、

取り巻きの女どもがウザったらしくてしょうがねェ。本気で殴り飛ばしたくなってくンぞ。

 

黒い髪の女は椅子に座ってコイツを引っ張り、銀の髪の女は立ちながらコイツを引っ張る。

さっきからしきりに何か喚いてやがるが、いったいこの女どもは何がしたいんだと苛立つ。

コイツはメシを届けに来ただけで、すぐに部屋を出るつもりだったようだが、それを黒髪の女が

引き留めたとこまではまだよかった。それを後ろの銀髪の女が見つけて怒鳴り込んできてから、

一気にやかましくなりやがったんだ。どっちがこのガキをどうするかでもめてるみたいだが、

その中に居るだけの俺からしたらうるせェ限りでしかねェ。ハッキリ言って目障りだ。

 

「あ、あの、お二人が迷惑なら僕は他の所へ………」

 

「「絶対ダメ」」

 

「あぁ……ハイ」

 

 

そんな中でコイツがようやく口を開いたかと思えば、いがみ合ってたはずの女二人から同時に

明確な拒否の言葉をぶつけられて、代わりに意気消沈していやがる。情けねぇヤツだな。

諦めの境地に立ったような返事を返してからは、もう女どもの歯止めが効かなくなっちまって、

とうとう殺し合い______ここじゃ『弾幕ごっこ』とかってお遊びらしいが______に発展した。

 

狭っ苦しい部屋ン中が、ナイフやらやたら派手な色の力の塊(弾幕)やらで埋め尽くされていく。

あの女ども、ここが今まで言い争う原因になってたコイツの部屋だってこと、忘れてねェか?

二人が女がするようなモンじゃねぇ顔して戦ってる中で、コイツは盛大に深い溜息を漏らした。

そして後のことはもう知らんって具合に、自分の能力で音も無く部屋から出て廊下を歩き、

外に干してある洗濯物やらを取り込みに向かった。後片付けが面倒そうだと呟きながら。

 

 

『………………………』

 

 

俺にはコイツのことが理解できねェ。メンドクセェなら、さっきそう言やよかったろうが。

後片付けが面倒ってんなら、初めっから止めさせるなり、テメェらで片付けしとけとでも言って

おきゃあよかっただろうが。なんでコイツはそれをしなかった。なんでコイツは嬉しそうなんだ。

 

自分に迷惑を及ぼすような奴を、どうして家族だなんて言える? それが家族なのか?

銀髪の女はそうだと言ってたが、黒髪の女のことは言ってなかったな。アレはどうなンだ?

家族なのか、家族じゃねェのか。俺には違いがまるで分からんし、そもそも考える気がねェ。

 

迷惑を被るのは自分だ。なのに、そんな面倒をかけてくる奴が、家族ってモンなのか?

 

 

『……………俺には分かンねェな』

 

「何か言った?」

『なんでもねェよ』

 

 

それが家族ってモンなら、俺には理解できそうもねェな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目障りだった空の上にある太陽も墜ちていき、ちょうどいい具合に暗い夕暮れになった。

宿主であるコイツは、何もかもが真っ赤なここの掃除を今終えて、脱いでいた上着を再び羽織り、

その足で地下牢へと続く通路へ向かう。この先には、コイツは主と定めた吸血鬼のガキがいる。

俺は地下に閉じ込められてるっつー、フランだったか。ソイツの境遇を聞いて気に入っていた。

抑えられない力の衝動によって何もかもをぶっ壊せる能力、使えたらどンだけいい気分だろうか。

気に入らねェモンは全部粉々に壊してやれる、そんな力を生まれつき持ってるなんざ羨ましいぜ。

この話をすると宿主のコイツがキレるから口にはしねェが、俺はフランの力に心底共感を得た。

 

魔人として生まれた俺には、そもそも最初から親だの何だのと、そんなしがらみは無かった。

あるのは溢れ出る魔力を使って強くなるって欲求と、全てを滅茶苦茶にしてやりてーっつー欲望。

要は、俺が俺だって認識を始めた時点で、俺は目に映る全部をぶち壊してェ情動に駆られてた。

自由気ままに好き放題やる毎日も悪くはなかったが、目をつけられて魔界神にヘマして捕まり、

何重にも封印を施された場所に幽閉されちまった。あのクソババア、絶対に殺してやっかンな。

んで、そうして大体300年くらいか。何かに引っ張られる感覚を味わった直後、目を覚ましたら

このガキの中に詰め込まれてたって感じだな。そうして俺はコイツを宿主として今生きてる。

 

 

『…………オイ、クソガキ』

 

「なんだい?」

 

『………何でもねェ』

 

「変な奴だな」

 

 

俺がこの【幻想郷】とかいう世界に来ちまった経緯は、コイツには話してない。話す気もねェ。

あくまで一時的な仮住まいの宿でしかねェんだし、俺のことを話す意味なんざねェはずだ。

そう考えてたンだが、なんか違う気がしてきた。イヤ、なんも間違ってねェはずなんだがよ。

変なとこで考えるのを止めたせいか、コイツに何も考えないままで話しかけちまったじゃねェか。

不意に話題を打ち切ったせいでガキに舐められた気がしたが、この際そこは無視していく。

 

その後は、起きたフランとコイツが少しじゃれ合って、立派な淑女とやらになるための勉強会が

始まり、俺が飽きちまって(精神内で)眠ろうかと思った頃にそれが終わり、メシの時間になった。

 

フランの血の繋がった家族で、俺を喚び出した片割れの吸血鬼のレミリアとかいうドチビが

既に偉そうに座ってやがる食卓に到着し、コイツは主人であるフランのために椅子を引いてた。

 

 

「ありがとう、紅夜!」

 

「いえ、従者として当然のことです」

「でも、ありがとう!」

 

「お嬢様…………感激の極みにございます」

 

「ちょっとフラン! 私を無視しないで早く座りなさい!」

 

「あらお姉様、いたの」

 

「フラン…………」

 

 

少なくとも身長以外は似てる場所がねェ二人を見て、これが本当の家族なのかと疑問を浮かべる。

外見は似る時もあれば似ない時もあるとコイツは言ってたが、ここまで違うモンなのか?

翼っぽい羽根も全然違ェし、髪の色も全然似てねェ。まだこのガキの慕ってる銀髪の女の方が

家族らしい気がしてきたが、俺には家族がどういうものなのかの区別がつかねェから割り切れた。

レミリアが俯いて肩を震わせてるが、フランはそれを無視してる。コレで本当に家族なのか?

つくづく疑わしいやり取りを見てから数分、あの魔女も来て一堂に会した連中は食事を始めた。

と言っても、コイツとあの銀髪の女はメシを食ってねェ。コレも俺には理解できねェことだ。

メシが食いてェなら食えばいいのに、コイツらは「従者の務め」とか何とか言って手を付けねェ。

なのにドチビや魔女、フランが何か言えばすぐにその要求に応えようとして、コイツらが動く。

まるで理解できねェ。なんでコイツらは、自分のためでもないのにそこまでしてやるんだ?

 

 

「ごちそーさまでした!」

 

「………フラン、帰ってきてから食事の度に言ってるけど、それは何なの?」

 

「これね、霊夢が教えてくれたの! ご飯を食べる時と食べ終わった時は、料理を作ってくれた

人に感謝しますってことを言わなきゃいけないんだって! だから紅夜と咲夜に言ったの!」

 

「「ありがとうございます」」

「感謝って、私たちは支配する側なんだから当然………」

 

「そう………なら、私も。ご馳走様、美味しかったわ」

 

「パチェまで⁉」

 

 

何やらメシの場が騒がしくなり始めたが、コイツの中に居る俺からしたらやかましいだけだ。

にしても、本当に理解できねェことが多過ぎる。人間ってヤツは、こんなにメンドクセェのか?

それとも、人間以外が幅を利かせてやがるこの赤い館だけの事なのか? どっちにしろ分からん。

 

それが当たり前であるように、何でもないことのように、このガキは他人の命令に従うだけ。

自分一人で動くなら命令なんかされねェから気楽でいいが、こうも毎日だと鬱陶しくなるだろう。

なのにコイツらにはソレが無い。吸血鬼やら魔女やらに命令されて、当然の如くそれを聞き入れ

実行する。魔人である俺にはサッパリ理解できン行動だ。むしろ、理解したくもねェけどな。

 

従うなんざクソくらえだ。

 

他人の命令を、何故聞いてやらなきゃならねェんだ。

 

俺は絶対に従わねェ。魔人の俺様が、誰かに支配されてたまるか。

 

『…………………………』

 

 

コレも家族ってモンがそうさせてるのか? もしそうなら、家族は上下関係まであンのか?

 

『……………俺には分かんねェな』

 

「……何か言った?」

 

『何でもねェよ』

 

 

それが家族ってモンなら、俺には理解できそうもねェな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は墜ちた。代わりに浮かんだ月が照らす夜の闇を見つめて、俺は独り考える。

 

俺の宿主はもう眠りについていて、静かでちょうどいい。このガキの警戒心は俺も手を焼く。

まさか精神状態の俺に対してまで気を張るとは、予想以上の強さに流石の俺も驚かされたが、

ソレぐらいでなきゃ俺様の器には務まらねェ。そう考えれば、コイツの強さは一級品だ。

 

『………………』

 

 

そんな宿主はというと、ベッドとかいう人間が寝るのに使う場所に収まっている。

ただし、コイツ一人じゃなく、銀髪の女も一緒にだ。二人仲良く手まで繋いでいやがる。

昨日から様子がおかしかったらしいこの女を捕まえて、一晩中話を聞いた挙句にコイツと女は

和解を果たして、晴れて元の姉と弟、つまり家族の関係に戻ることができたらしい。

詳細やら経緯やらは俺にも分からんが、女の方は相当思い詰めてたようで、真夜中辺りから

日が昇っちまうまで語り尽くしてからようやく寝込んでいた。

 

弟という立場に居るコイツは、姉という立場の銀髪の女をどうも崇めているように感じる。

崇めてるっつーか、言葉を借りれば尊敬ってヤツにあたるのか。俺が知らなかった感情だ。

姉である女がどこまで自分のことを考えてくれてたのかを知って、コイツらは約束を作った。

その一つが、これからはこうして寝る時まで一緒というヤツだ。こうして二人で寝ることの

どこがいいのか俺には本当に分からん。

 

『…………………』

 

 

ふと、俺は気付いた。

 

やたらとコイツらや他の奴との関係性が気になった理由。それが何となく分かった気がした。

 

 

『……………何も、ねェのか』

 

 

俺には繋がりってヤツが一つもない。家族も、姉も、弟も、血の繋がりも、他人でさえも。

コイツの身体を共有しているから把握できてはいるが、実際にその場に居るのは俺じゃなく、

宿主であるこのガキの方だ。そこにいるのに、俺じゃない。コイツがいて初めて、俺がいる。

 

まるで付属品みてェな考え方で吐き気すら覚えたが、身体の方は眠りこけてて動きゃしねェ。

独りだけで、ただそこにいる。そこにいるのに、そこにいるわけじゃない。

今の状況がどういう偶然のもとに成り立ってるかは知らねェが、随分とおかしな話だな。

ただ、ここまでこのガキと一緒に過ごして、俺は初めて【家族】って言葉を知った。

その意味まではまだ理解できてねェし、今んところは理解しようとも思っちゃいない。

見せ続けられてるだけなんだ。

 

俺が持ってない、家族ってモンを。

 

 

『………あァ、そーかよ』

 

 

欲しい、なんて考えてるわけじゃねェはずだ。

 

でも、今の俺は独りだ。いや、俺はずっと独りのままなんだ。

 

 

『…………何でもいい』

 

 

一つでもいい。俺が俺であることを、証明できる何かが必要だ。

 

足りねェんだ、このままじゃ。俺はまだ、誰とも繋がってねェんだから。

 

 

『俺は俺だ』

 

 

言葉でなら何とでも言える。考えることならいくらでもできる。

だが、それを証明するものがねェ。人がいねェ。物がねェ。

 

何も、ねェんだ。

 

 

『_________だったら、力づくで』

 

 

魔人として生まれた俺は、力はある。

 

魔人として生きてた俺は、知恵はある。

 

魔人として喚ばれた俺は、術を持つ。

 

 

『俺は敗けねェぞ…………全部、俺様が手に入れンだ!』

 

 

この器はもちろん、俺が今まで壊したかったもの全てを。

 

力も、知恵も、術も。

 

そして__________繋がりも。

 

 

『俺は…………俺だ‼』

 

 

誰も知らない中で独り、俺は俺であることを誓った。

 

 

 









いかがだったでしょうか?

今回は少し首肯を変えて、魔人サイドで物語を進めてみました!
え、ストーリーは進んでない? ンな細かい事はいいんですよ(東風谷風
しかし書きにくかったのは事実です。紅夜の礼儀正し目な文章の方が、
というより少し固い文章の方が個人的に描きやすい気がします、ハイ。

それと、友人からの評価&添削がたびたび行われるんですが、
随分とまぁ辛口で…………しかも誤字脱字が思ってたより多いんです。
時間が取れたらその辺は随時修正していきますので、ご容赦をば。

読者の皆様も、お手数でなければ誤字脱字報告は歓迎しておりますので。


それでは次回、東方紅緑譚


第六十九話「紅き夜、魔人死臨」


ご意見ご感想、ならびに批評も随時受け付けております!

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