東方紅緑譚   作:萃夢想天

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どうも皆様、土曜日更新すらももはや怪しくなってまいりました
萃夢想天です。くっそあのTV、PS4が出来ねぇでやんの畜生ォ‼

というわけで、前回人里に最高戦力が集結して縁が何やら謎めいた
言動を発したところで終わりましたね。ええ、続き気になりますね!
今回はその続きからです。ついに、ついにあの影の謎が明らかに!


それでは、どうぞ!





第八十五話「緑の道、紅との邂逅」

 

 

 

 

 

 

縁はその後、洞窟の内部とさらに周辺を散策して、さらに複数の子供の亡骸を発見。

それらを無下にすることをせず、鬱葱と生い茂る陰鬱な森の中で、少しでも陽の当たる場所を

選んで手厚く埋葬して弔った。わずかに膨らんだ土の上に、石ノ塔を積み上げて手を合わせる。

黙々と、口を開かずただ黙々と子供たちの弔いをした縁は、最後に簡素な墓前に花を手向けた。

 

その時、自らの足元____________陰に潜んでいるアソビが小さく蠢動したのを察知した縁は、

自身の内部に入り込んでいるアソビの、その正体を断片的なものを繋ぎ合わせて理解に達する。

 

 

『そうか。やはりお前たちは………………死してなお現世に残る、幼子の思念なのだな』

 

 

彼の影に潜むアソビの正体。それは、この世に存在する数多くの「影」にまつわる童遊びが、

無念のうちに死んでしまった幼子の思念により、複雑に融合して実体を得た存在であった。

 

 

 

誰もが知る有名な「影」にまつわる遊び。その中でアソビが最も色濃くその特徴を表している

ものは、『影踏み』と『影送り』と呼ばれる二つの遊びだ。改めてここに詳細を記しておく。

まず『影踏み』であるが、これは本来『影踏み鬼』という名前の遊びで、いわゆる鬼ごっこの

派生遊びであるのだが、発祥、もといその起源は鬼ごっことは違い一切が不明となっている。

一般的に知られている遊び方は、開始の合図で一斉に他者の影を踏む。あるいは一定時間、

他者の影を踏み続けるというもの。しかしこれとは別に、もう一つの大まかな遊び方がある。

それは、鬼役を決めて行う遊び方である。鬼となったもの以外は建物などの日陰に入り込み、

開始の合図とともに一斉に飛び出す。もしくは、日向で一定時間経過の後、鬼が影踏みを開始。

鬼役の子が他者の影を踏んだ時、影を踏まれた子が新たな鬼となり、立場を交代させる。

この影踏みこそ、アソビが他者の影を抜き取る際に使用した力の一つで、影を踏むことで他者の

動きそのものをある程度封じることが出来るのだ。影とはいわば、『触れられない自分自身』で

あるため、自分の動作に必ずついてくる。光源により映し出される自分は、何をどうしても必ず

動作についてくるのだが、このアソビは存在自体が影である為に、その影を操ることも出来る。

 

続けてもう一つの遊びである『影送り』であるが、これは『影踏み』よりも有名だろう。

よく晴れた(雲などがないとなお良い)日に、足下に伸びる自分の影を一定時間(約十秒ほど)

見つめてから空を見上げてみると、そこに先程までは無かった自分の影が映るという遊びである。

これはいわゆる『エンメルトの法則』と呼ばれる、目に映る物体(網膜像)の大きさが同一となる

場合に、その物体との距離に比例して知覚される大きさそのものが変化するとされた法則が

大きく関わってくる。詳しい説明は省くが、実際に晴れた日などに試してみると、上手くいけば

自分の影と同じ形の残像が、空に映し出されることだろう。実際は網膜に焼き付けられた画像を

別の画面を通して見ているだけに過ぎないのだが、それでも科学的かつ論理的な思考や論述が

なされなかった時代の人々にとって、自らの影が空に映る事実とは、神秘と違いはなかったのだ。

 

『影送り』の力もまた、他者の影をアソビが抜き取る際に活用した力の大部分である。

何者かと敵対した際、アソビは幽かな声で十秒を数えていた。これこそ、自分自身(影)を相手の

影へと「送る」ことに必要な時間であった。妖怪や幽霊などは、それらにまつわる伝承や伝説が

行動理由や存在理由になることもあれば、弱点やはたまた長所になることもある存在なのだ。

"十秒数えて別の場所を見ると影が送れる"という伝承が、アソビの力の一つへ昇華されたという

ことになる。それら二つの事実を、この時縁は確かに理解していた。だが同時に、謎が生まれた。

 

 

『______________何故お前は、お前たちは私の影を奪わなかった?』

 

 

彼が口にした言葉こそ、彼がアソビについて理解したことで新たに浮かび上がった謎であった。

アソビは死んでしまった幼子の思念の融合体なのであれば、なるほど確かに同じ人間ではなく

自分たちを生前に殺して喰らった妖怪を狙ったことも辻褄が合う。けれど、それだけでは縁を

狙わなかった理由にはならない。彼には神通力や霊力の他にも、妖力が宿っているのだから。

 

自分の影を奪うことをせず、中に隠れ潜むような真似をした理由があるのか否か。その答えを

縁はゆっくりとした歩調で歩きながら思考回路を回し続け、ふと立ち止まって周囲を見回す。

 

 

『ここは、十六夜 紅夜を幻想郷へ招き入れた、あの場所の付近だな……………まさか』

 

 

今自分がいる場所に見覚えがあり、記憶の戸棚を引き出して正答を思い返した縁はそこで、

ある結論に辿り着いた。彼の聡明な思考回路は正常に、一つの答えを自らに提唱していた。

 

縁が外の世界に居たC7110、十六夜 紅夜となる前の少年を幻想郷へ招き入れた場所こそ、

今自分の足元でうねるアソビが封印されていた祠のすぐ近くだったようだ。その為、付近で

妖怪に襲われて死んだ子供たちの幽かな思念が封印をすり抜けて、内に封じられていたアソビと

混ざり合っていき、目覚めたと同時に縁を狙って後を追いかけていたのだろう。

 

それは、縁の持つ能力である『全てを結げる程度の能力』こそが、最大の鍵となる。

あの時に彼は、幻想郷にきて右も左も分からなかった当時の紅夜に対して、警戒心と敵意を

収めてもらうべく自らの名前と能力を明かしていた。アソビは、それを聞いていたのだろう。

"全てを結げる"能力さえあれば、人間のもう一つの魂とも呼べる影を、自分たち自身を、

本来あるべき場所へ戻すことが出来るかもしれないと考え、思念はアソビを動かしたのだ。

 

『僕を見つけて』

 

『私を見つけて』

 

『俺はどこなの』

 

『かえりたいよ』

 

『かえりたいよ』

 

『かえりたい』

 

『かえして』

 

 

幼く不安げな、それでいて酷くドロドロした何かをまとった怨嗟の声が体内で渦巻くのを

感じながら、縁はそれら全てに応えることはできないと思いながら、目的の達成を悟った。

それと同時に、残るは今回の騒動の責任を取るだけだという、使命感と覚悟を再確認する。

 

『もっと早く私が………………いや、これでいいのだろう』

 

 

歩きながらそう呟いた縁は、既に距離が開いてしまった後ろを向き、幾つか並んだ石ノ塔を

胡乱気に見つめた。声が鳴りやむことは無く、それでも彼は手立てがないことに悔しがる。

もう少し早く、あるいは最初から彼らと共にあることが出来たならば自分は。そう考えた

縁はそこで思考を停めて、これからしなければならないことに目を向ける。最後の大一番へ

向けた、八雲 縁としての最後の行動を成し遂げねばならない。そして彼は、前を見据える。

 

 

『あと少しの辛抱だ。あと少しで苦しむことはなくなる…………解放の時は来る』

 

 

まるで誰かに言い聞かせるように言葉を紡いだ縁は、再び空間を結げて森から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ! にとりはともかく、これがあのチルノだってのかよ! ありえないぜ‼」

 

 

その頃、人里の上空で突如幕が上がった戦闘にて、箒に跨る魔理沙が大声で愚痴を吐いていた。

自分に向けて飛来する尋常ではない弾幕をギリギリで避ける彼女に、同じく苦境の早苗が応える。

 

「魔理沙さん、そっちもう少しちゃんと抑えててくださいよ! 私なんか元からお強い神奈子様と

一対一でやり合ってるんですからね‼ それに比べたら魔理沙さんなんて屁の河童でしょうが‼」

河童(にとり)だけにってか! 今はそんな冗談言ってられる場合じゃないっつーの‼ あぶ、危なっ!

ふざけたこと言ってる暇があんなら、一秒でも早く神奈子倒してアタシの加勢をしろ‼」

 

「無茶言わないで下さいよ‼ 魔理沙さんの相手は河童と妖精でも、私は戦神が相手なんですよ!?

一秒でも早く倒すどころか、一秒でも長く倒されないことに集中しなきゃ負ける相手なんです!」

 

「無駄口叩いても負けてねぇなら、うぉ! っと、何とでもなるぜ! だぁぁ何故当たらん‼」

 

「だーかーらぁぁぁあ!? か、かすった! 今かすった! そっちが速く倒して助けて下さいよ!」

 

「二人とも集中しろ‼」

 

 

必死に攻撃を躱しながらも口撃を止めない味方二人に、『響』の少女と相対している藍は鋭い声で

忠告を飛ばすものの、当の本人たちは聞こえているのかいないのか判別に困る状態であった。

加えて他者に檄を飛ばしている余裕が彼女自身にあるわけもなく、ほんのわずかに気が緩めば、

如何に大妖怪と弱小妖怪の差があろうとも、手痛い一撃を受けるということを本能で察知する。

荒波のように押し寄せる攻撃をかいくぐる藍は、その最中であっても主人たる紫への手助けを

試みようとするが、自分と相対している『響』の少女と、紫が戦っている『酔』がそれを阻む。

九尾の妖狐と呼ばれ畏れられていた自分をも従える、妖怪の賢者と謳われしスキマ妖怪の紫が、

一進一退の攻防を強いられるほどの強敵が、今まさに自分たちと敵対している事実が恐ろしい。

 

紫がスキマから目も眩むほどの弾幕を放てば、『酔』の少女は両手に握った橙色に発光する弾幕を

力いっぱいに投擲して、花火が夜空に開花するような音を響かせて何もかもを相殺させてしまう。

ならばと万物を貫通せん勢いでレーザー型弾幕を射出すると、左手で固定した右腕を突き出して、

紫の目の前で黒い小さな渦を生み出し迫りくる攻撃全てを飲み込ませてしまった。重力渦(ブラックホール)だ。

 

「くっ……‼」

 

『………………』

 

 

どれほどの物量で攻めても、どれだけの質で放っても、一切合切何もかもが雲散霧消させられる。

敵に回すとこれほどまでに恐ろしいものかと歯噛みする紫だったが、耐え切れずに声を荒げた。

 

 

「答えなさい! 萃香、貴女は私を………誰かを裏切るような事をしない事など分かっているわ‼

だからこそ私の問いに答えなさい‼ 今貴女は、何を以て、誰の為に、誰に矛を向けているの!?」

 

 

それは、紫が彼女をよく知るからこそ、伊吹 萃香という鬼をよく知るからこその言葉だった。

鬼と呼ばれる種族は元来、情に厚く義理にも固い性格で、一度契りを交わしたならば必ず守り、

共に定めた約束は絶対に裏切る事をしない、そんな誇り高き者たちであるはずなのだ。

しかし今の彼女にはそれが当てはまらない。旧友であり、共に死線を乗り越えた戦友でもあった

萃香が、どうして自分を裏切るような真似をするのかが、紫には全く分からなかった。

 

そう、この時の紫は縁に対する執着のあまり、目が曇っていた。

故に気付くことが出来なかった。思い出すことが出来なかったのだ。

 

伊吹 萃香という鬼が、「裏切ることなどありえない」という最も簡単な事実を。

 

 

『________________ああ、分かってるさ』

 

 

だからこそ、それまで沈黙を保っていた彼女から言葉が発せられた瞬間、紫は驚愕した。

続けざまに撃ちこもうとしていた攻撃を急きょ中断して、静寂を破る彼女の発言に反応する。

 

「萃香、貴女やはり………………分かっているのなら、何故私と戦うの! 何故縁を‼」

 

『……………やれやれ、あの八雲 紫がここまでとは。いよいよ重症だねぇこりゃ』

 

「何の話を」

 

『鬼は信頼の生き物だ、まずは順に答えようか。お前と戦う理由っつったねぇ。

それについてはあたしが詫びることはこれっぽっちもありゃしないよ。分かるだろう?』

 

「………どういうこと?」

 

『おいおい、ソレ本気で言ってるのかい? 重症どころか致命傷じゃないか!』

 

「真面目に答えなさい‼」

 

『あたしはいつでも真剣だよ』

 

 

焦りに表情を歪ませる紫とは対照的に、言葉の端から伝わる感情が徐々に冷めていく萃香。

二人はともに攻撃の手を停めて、周囲で続けられている攻撃の余波を無視しながらも、

お互いが口にする言葉を一言一句聞き逃さないように神経を尖らせる。

 

『酔』と書かれた布を手で押し上げ、そこへ持ち前の伊吹瓢を突っ込んで中の酒を呷り呑む

萃香は、ぷはぁー、と一心地つけてから上空に浮かぶ紫を見上げて一つ目の問いに答えた。

 

 

『忘れたとは言わせないよ。紫がアイツに博麗神社で何かやらせていた日の夜のことさ』

 

「……………あの晩酌のこと? 覚えているわよ」

 

『いんや、忘れてるね。あの時、あたしに何を頼んだのか…………ちゃんと覚えてるかい?』

 

「頼んだ………? 私が貴女に頼んだことなんて何も……………‼」

 

 

萃香からの問いかけに対し、紫は今から約二か月ほど前の記憶を遡り、自らの発言を思い出す。

幾千の月日を生きている不老不死の身であれども、決して記憶が薄れるようなことは無く、

また自分自身も珍しく本心を打ち明けていたこともあってか、当時の己の発言を鮮明に紐解く。

 

 

『とにかく、これからもあの子は成長させる必要があるわ。幻想郷の色々な文化や歴史、

妖怪や人間などの多種多様な者達と触れ合うことになるから』

 

『ヤバそうだったら割って入れって? 自慢の式にやらせたらいいじゃんか』

 

『出来たら貴女に頼んでないわ』

 

『だね………………まぁ昔の(よしみ)だし、いいよ。しばらくは付き合ったげる』

 

 

肝心な部分の記憶をつまびらかにした紫は、自分自身の失態と醜態に顔をしかめて俯く。

かの大妖怪が何ということだろうか。いくら大事にしていた者に異変が起きているからと言えど、

旧友と交わした約束を忘れることなどあっていいはずがない。まして相手は鬼だというのに。

情けなさのあまりに唇を噛み切りそうになるのを堪え、紫は下に向けた顔を上げて確認をした。

 

 

「そう、そうだったの。萃香、貴女は今までずっと、約束を守ってくれていたのね?」

 

「ああそうさ! 鬼のあたしが約束を破る? 嘘を吐くだぁ? あるわけないだろそんなこと‼」

 

紫の言葉に反応した萃香は、それまで顔を隠していた『酔』の布を、自らの手で引き剥がす。

状況が呑み込めない魔理沙や早苗、藍はいきなりの出来事に目を見張らせるが、当の本人たちは

それらをまとめて無視する。これで彼女への疑いは晴れたが、紫にはまだ疑問が残っていた。

 

 

「だったら、どうしてそれを先に言わなかったの‼ それ以前に縁が、あの子がああなってしまう

前にどうにかすることは出来なかったの!? それにあの約束だと、私と敵対する理由は無いはず‼」

 

「ん~~、まぁその通りなんだけどさ。そればっかりはあたしの落ち度というか何というか」

 

「何よそれ。ハッキリ言ってもらうわよ」

 

「いやぁ、その、紫が言ってたじゃんか。ほら、『妖怪や人間などの多種多様な者達と』って。

あの薄っ気味悪い影もそれの枠組みに入るんだろうと思って見逃したら、あんなことに…………」

 

「私が悪いと言いたいのかしら?」

 

「強いて言えば言い方が悪いっちゃ悪いけど、今度ばかりは反省してる。済まなかったね。

けどさ、約束は約束だからさ。あたしが破るわけにも反故にするわけにもいかなかったんだよ」

 

一応反省はしていると語った萃香だったが、酒を呷る片手間に謝罪をされても意は汲めない。

むしろ一気に懐疑的な思考が逆戻りしてきた紫は、深まった疑念を追求すべく萃香に詰め寄る。

 

 

「あらそう。だったら教えてほしいものだわ、どうして私と敵対したのかってこと」

 

「そりゃ当然、約束だからだろう」

 

「この私と敵対してでもあの子を守れとは言ってないわ‼」

 

「…………でも、『割って入れ』ってことは、アイツに加勢しろって事で合ってるよな?」

 

「それは………」

 

 

言葉で切り崩そうと画策していた紫だったが、逆に思わぬ切り返しを受けて言葉に詰まって

しまった。間違ってはいないということが分かっているため、紫は萃香を強く責められず、

逆に萃香も紫が強気に言いくるめられないと理解していた。余裕の表れとして、彼女が再び

愛用の伊吹瓢を呷って酒を嚥下しようとしたその時、彼女らのすぐ近くの空間が裂け始める。

それは徐々に大きく広がっていき、ものの二秒足らずで彼が通れるくらいになってしまった。

 

そして二人の予想通りに、その奥からのそりとした動作で、八雲 縁が姿を現す。

 

 

『………………戻られたのですね、伊吹 萃香』

 

「おう。今からあたしは"こっち"側だよ。"そっち"側に居る必要はもう、無いんだろ?」

 

『話が早くて助かります。貴女にはとても助けられた』

 

「そんなこと気にしなくていいよ。さて、そんでどうする気だい?」

 

『無論、このまま計画通りに事を進めます』

 

「…………そうかい」

 

 

つい先程姿を消した時とは、また少しだけまとう雰囲気が変わったように感じられる彼を

見つめる萃香と紫は、何やら意を決したような言葉を発した彼に警戒心を露にする。

対して周囲の状況を俯瞰的に、客観的に見つめている縁はそこでようやく"あるもの"の

存在に気付いた。より正確に言えば、ソレが接近してきていることに、気付くことが出来た。

 

彼が布越しの視界に確認したもの、それは、色鮮やかにたなびく『紅い霧』であった。

 

 

『アレは、まさか‼』

 

「そのまさかだよ」

 

 

思わず口から出た言葉と、それに対する返事を聴覚が知覚した瞬間、縁は剣を抜き放った。

ただ声のした方へと無心で振るった六色の刃は、空を斬ることなく金属音を派手に響かせる。

バチッ、と火花を飛び散らせたことで見えた相手の相貌は、互いに決して忘れるはずがなく、

むしろ事ここに至って言うのならば、片や探し求めていた相手、片や計画の邪魔者のそれへと

変化していた。鍔迫り合いで太刀とジャックナイフが競り合う最中、その少年は言葉を発する。

 

「やぁ、久し振りだね。実に何か月ぶりかな、八雲 縁」

 

『…………ああ、久しいな。実に数か月ぶりだ、十六夜 紅夜』

 

 

血よりもさらに鮮やかに濃い紅霧を漂わせる少年、白銀の髪に漆黒の燕尾服を着こなしている

その少年、十六夜 紅夜は両手にズラリと握り並ばせたジャックナイフで縁の刀を押していた。

紅夜から送られた挨拶に、縁は意外にも気さくに返し、彼と同じように六色を押し込んだ。

 

ガリギリと不協和音を奏でる得物を挟んで、二人の会話は続けられる。

 

 

「君には聞きたいことが山ほどあるけど、今はそれどころじゃなさそうだね」

 

『………その通りだ、十六夜 紅夜。私もこの場で、多くを語る気は毛頭無い』

 

 

縁が紅夜の言葉を返したと同時に、両者は手にしている得物を振り切って距離を取った。

刃こぼれの激しい太刀を両手で構え、切れ味鋭いナイフを幾重にも重ね、二人はそのままの

体勢で互いの隙となりえる部分を注意深く探ってみるも、そのような部分を発見できなかった。

 

しばらく睨み合っていた二人だったが、おもむろに縁が六色の切っ先を下げて手を振りかざす。

妙な動作に警戒心を引き上げる紅夜に、縁は剣を右手に握ったまま両手を広げ、堂々と語る。

 

 

『此度の【異変】、その原因であり根源でもあるこの私を見事討ち取り、異変解決者として

名を挙げて見せろ‼ お前はその為にこの幻想郷へ来たと知れ、十六夜 紅夜ぁ‼』

 

 

 







いかがだったでしょうか?

いやぁ、最近になって縁編を書くのが楽しくて楽しくて!
やはり作者自身がストーリーを読み返すのも大事だなぁって思いました‼
序盤の時の伏線とか、もう作者が忘れている始末ですからねぇ。


それでは次回、東方紅緑譚


第八十六話「緑の道、託す今と託された過去」


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