ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜   作:倉崎あるちゅ

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半年ぶりですね。皆さんこんにちは。



 XⅣ

 俺達三人は暁が作り上げた直径三百メートルほどのクレーターから這い上がった。

 頭上には久しぶりに目にする燦々と降り注ぐ太陽の光。びしゃびしゃに濡れた服や体に吹き付ける夏の海風。俺達はやっと地上に出られたのだ。

 

「……貴方は本当にめちゃくちゃね」

「俺でもこんなことしないよ?」

 

 増設人工島(サブフロート)表面を覆っていた鋼板製の地面が同心円状に陥没し、崩れた鉄骨が落ちて土煙や電線を切ったのか火災も起きている。

 その中央で、緋色の双角獣が雄叫びを上げていた。

 眷獣を呼び出した本人に呆れが混じる目で見てやると、暁は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「確かに地上には出られたけど、だからってこんな馬鹿でかいクレーターを作ることはないじゃない」

「いくら初めて呼び出す眷獣だからって、ここまではちょっと……」

 

 紗矢華の〝煌華麟〟と俺の使い魔の力がなければ今頃三人とも生き埋めだったに違いない。

 

「文句は俺じゃなくて眷獣(あいつ)に言ってくれよ。俺は通路を塞いでる瓦礫を退かしてくれればそれでよかったんだよ」

 

 疲労したように暁が気怠げに反論する。

 

「今度、南宮さんに眷獣の扱い方を教わることをおすすめするよ、暁」

「そうしとく……」

「貴方は本当に危険だものね」

「ぐっ……それを言われるとつらい」

 

 無駄口を叩き合いながら、俺達は上陸してきた手負いのナラクヴェーラを睨みつける。俺達が最初に交戦した個体だ。

 

「紗矢華、暁。あの個体、さっきと動きが違くない?」

「そういえば……」

「ってことは、制御コマンドが完成したのか!?」

 

 暁が呻いた直後、ナラクヴェーラが陥没した鋼板製の地表を盾にして身を隠しつつ、複腕から不規則に真紅の閃光を放ってきた。

 即座に紗矢華が〝煌華麟〟を構えて前に出てレーザーを斬り捨てる。〝擬似空間断裂〟による障壁だ。

 

疾く在れ(きやがれ)! 九番目の眷獣〝双角(アルナスル)()深緋(ミニウム)〟──!」

「喰え、〝暴食(グラ)()大罪(ベルゼブブ)〟──!」

 

 俺と暁がそれぞれ左と右の腕を掲げて魔力を放出する。

 緋色の魔力を放つ双角獣(バイコーン)滅紫(けしむらさき)色の魔力の鎖に繋がれた三つ首の猛犬が顕現した。

 〝暴食(グラ)()大罪(ベルゼブブ)〟。大型拳銃などの武器化が可能な使い魔で、それぞれ頭の数だけ能力がある。

 使い魔の能力で双角獣を見ると、陽炎のように揺らめくあの眷獣は肉体そのものが凄まじい振動の塊らしい。

 頭部に突き出た二本の角がまるで音叉のように共鳴して、凶悪な高周波振動を撒き散らす。ナラクヴェーラが高周波振動によって押し潰され、その巨体を支える脚が何本もへし折れた。

 

「喰らい尽くせ!」

 

 その隙を見逃さず、俺はすぐに使い魔に命令を下す。

 三つ首の猛犬は眷獣と大差ない巨体に似合わず、素早い動きでナラクヴェーラに突貫し、その獰猛な牙を晒した。

 高周波振動が止んだ直後、三つ首の猛犬がナラクヴェーラの複腕、脚、本体のそれぞれ三箇所を喰らった。

 

「お、おい、あれ中に人とかいないよな?」

「仮にいたとしてもやらなきゃ俺達が死ぬ。それに、絃神島の住民達にも被害が出るよ」

「そうだけどよ」

 

 苦い顔をする暁には酷だが、殺らなきゃ殺られる、というのを理解してもらいたい。

 

「ま、獣人なら生命力もあるしあれじゃ死なないよ。コックピットは外してるから」

 

 俺のその言葉で暁はほっ、と胸を撫で下ろすが、すぐに前にいる紗矢華が叫んだ。

 

「翔矢、暁古城! あっちの五機をやって! 操縦者が乗り込む前に!」

「お、おう」

「了解。〝暴食(グラ)()大罪(ベルゼブブ)〟!」

 

 紗矢華が指さす方向には、まだ操縦者が乗り込んでいない休眠状態のナラクヴェーラ。

 俺と暁はそれぞれ自身の使い魔、眷獣を走らせるが突然その巨体を横殴りにする大きな爆発が襲った。

 

「ちっ……!」

「な、なんだ!?」

 

 俺の〝暴食(グラ)()大罪(ベルゼブブ)〟と暁の眷獣を止めたのは円盤状のミサイルのようだ。発射された場所を見ると、〝オシアナス・グレイヴ〟の甲板に、女王アリのような体躯を持つ神々の兵器がそこに立っていた。

 胴体には装甲が割れて迫り出している。どうやらそこにミサイルを格納する機構があるみたいだ。

 

「暁っ! 眷獣を一旦消して!」

 

 暁にそう指示を出し、俺も使い魔を消して、再度左手を前にかざす。

 

「弾け、〝強欲(アワリティア)()大罪(マモン)〟!」

 

 朱色の魔力の結界が俺達を包み込み、女王から放たられる灼熱の爆炎から守る。あらゆる攻撃を防ぐこの結界はミサイル如きに負けない。

 絃神島本体に被害を出さないように結界も大きくし、極力被害は俺達が立っている増設人工島(サブフロート)だけに留める。

 

「翔矢、大丈夫?」

「大丈夫だよ、これくらい」

 

 結界を大きくするだけ俺の魔力消費が多くなっていく。しかし、それを補うための乙女の鮮血だ。まだそれを使うことはないが、危険になれば使うだけ。

 にしても、ここまで盛大にミサイルを撃ってくるなんて……。テロリストは自分達の考えが優先だもんね。本当に嫌になる。

 動き出した女王ナラクヴェーラが、悠然と増設人工島(サブフロート)に上陸してきた。それに付き従うように五機のナラクヴェーラも動き出している。

 女王の、ナラクヴェーラの動きを統率する姿は兵器そのものだ。

 

「師匠から教わったな……兵器ってのは作戦遂行のために連携して戦うものだって」

 

 一体だけでも俺と暁の使い魔、眷獣を使っても堕とせない。それが女王含めて七機。俺の使い魔を全部使えば留めることはできるが、獅子王機関の三聖によって制限されているためそれが不可能になっている。

 ──どうする。

 

「ふゥん……これが本来のナラクヴェーラの力、か」

 

 そんな時、俺達の背後から軽薄な声が聞こえた。

 振り返ってみると、炎の縄でぐるぐる巻きにされたヴァトラーの姿がある。

 

「やぁ、翔矢に古城。安心してくれ、ただの見物サ」

「手出しはさせませんからご安心を、皆様」

 

 ヴァトラーの傍らにはオルートが立ち、炎の縄を握っている。彼の言う通り、見物しに来ただけのようだ。

 

「見世物じゃねぇぞ、ヴァトラー!! どいつもこいつも好き勝手やりやがって……! こっちはいい加減頭来てんだよ!」

 

 あまりの理不尽なテロ行為に、暁の堪忍袋の緒が切れたようだ。

 俺もちょっと、無関係な人達に被害が出そうになってることにイラついてたところだ。

 

「相手が戦王領域のテロリストだろうがなんだろうが関係ねぇ。──ここから先は、第四真祖()戦争(ケンカ)だ!」

 

 禍々しい覇気をまとわせ、暁は女王ナラクヴェーラを睨む。俺は彼の言葉に頷いて左腰のホルダーから赤い液体が入った小瓶を取り出す。

 その俺の隣に、紗矢華が〝煌華麟〟を構えて立った。

 

 そして、

 

「──いいえ先輩。わたし達の、です」

 

 銀色の槍──〝雪霞狼〟を携えた少女、姫柊雪菜が暁の隣に降り立った。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

「ひ、姫柊?」

「雪菜!?」

 

 びくっ、と肩を震わせて、暁は隣を見て名前を呼び、紗矢華は突然現れて驚いた。そんな雪菜はナラクヴェーラを見据えたまま返事をする。

 

「はい。なんですか?」

「どうしてここに?」

 

 藍羽さんと凪沙さんと一緒に〝オシアナス・グレイヴ〟にいるはずの雪菜が隣にいて、暁は動揺しながら彼女に質問した。

 

「南宮先生の空間制御の魔術で送ってもらいました。それより、新しい眷獣を掌握したんですね、先輩」

 

 先程の双角獣を見たのだろう、雪菜が抑揚のない冷たい声でそう言う。

 

「雪菜ー、紗矢華の血は吸ってないからねー」

「え? で、ではどうして」

「これだよ」

 

 驚く彼女に、手に持っていた赤い液体が入った小瓶を見せびらかす。陽光に照らされ、キラリと紅く煌めく。

 

「乙女の鮮血……! で、ですが翔矢さん! それだと貴方が!」

「まぁ、仕方ないよ。でもそれしかないから」

 

 鬼気迫る表情で詰め寄ってくるが俺はそれを手で制して落ち着かせる。しかし、次は暁がオロオロと動揺して俺に情けない顔を見せてきた。

 

「ど、どういうことだ黒崎? あれ、やっぱ結構まずかったんじゃ……」

「気にしなくていいよ。あれ以外方法がないし」

 

 もうとっくに腹は括っている。この後がどうなろうと、生きていなければ関係がないんだから。

 

「それよりも、あいつらをなんとかしよう」

「あ、あぁ」

「は、はい」

 

 俺達を取り囲むように展開する古代兵器を睨んで言う。

 

「先輩、クリストフ・ガルドシュはあの女王ナラクヴェーラの中です」

「女王……指揮官機ってことか」

「やっぱり、ね」

 

 あの女王アリみたいな胴体の個体が出てきたあたりから統率が取れていたしそうだと思っていた。

 そう考えていると再び円盤状のミサイルを一斉砲撃を放ってくる。それを見た俺は砲撃を防ごうと朱色の魔力の結界を発生させる。

 大きな朱色の障壁がミサイルの前に出現し、俺達に傷一つ付けることすら叶わない。

 

「翔矢!」

「ッ!」

 

 紗矢華の叫びを聴いて魔力を一層強めた。

 瞬間、ミサイルとは別の角度から攻撃が襲いかかってきた。五機の小型ナラクヴェーラからの〝火を噴く槍〟だ。それを乱射し続け、俺の魔力を削り切る算段なのだろう。

 ミサイル、レーザーという攻撃の余波で〝オシアナス・グレイヴ〟は炎上し、俺達がいる増設人工島(サブフロート)が軋み上げる。

 流石にまずいか……!

 

「あぁクソッ、めちゃくちゃしやがって!」

 

 いくら魔力の結界を作っているとはいえ、音を遮断するほどの絶対防御はない。暁は耳を塞いで呻いた。

 

「ちっ、このままじゃジリ貧だな」

 

 小瓶の蓋を開けて乙女の鮮血を飲み干して魔力を回復させる。

 小瓶の残りはあと二本ほど。大瓶を何本か持ってきているが、それは単純に儀式専用のため魔力を回復させるには不十分だ。

 

「暁、小型だけでもいいから一旦止めて」

「おう! ──疾く在れ(きやがれ)、〝獅子(レグルス)()黄金(アウルム)〟!」

 

 威勢よく返事を返し、暁は右腕を高らかに掲げてもう一体の眷獣を呼び出した。

 雷光の獅子は稲妻を撒き散らしながら小型ナラクヴェーラ五機に飛びかかり、一瞬で小型ナラクヴェーラを叩き潰す。

 

「暁古城、女王には新しい方で攻撃して! あんな電気の塊相手に海水にぶつけちゃダメよ!」

「そうだよな……〝獅子(レグルス)()黄金(アウルム)〟じゃ爆発してもおかしくねぇ」

 

 紗矢華の忠告に彼は素直に頷き、双角獣の方に切り替えて女王を攻撃する。

 強烈な高周波の振動が女王を襲い、動きを止めた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 新しい眷獣を掌握して、それを同時召喚するのはやはり辛いのだろう。暁が肩で息をしている。

 慣れない二体同時召喚は神経をすり減らす。俺も初めて使い魔を二体同時召喚をした時は死ぬかと思ったほどだ。

 攻撃は止んだ。しかし、俺は結界の手を緩めない。何故なら魔力感知で古代兵器達は動きを止めていないのだ。

 雷光の獅子によって破壊された五機の小型ナラクヴェーラが再び起動し、真紅の閃光をいくつも放射される。

 着弾した瞬間に爆炎を巻き起こし、俺達の視界を奪う。

 

「クソ、これじゃ見えねぇ!」

「っ、翔矢さん! 奥から六機目のナラクヴェーラが!」

 

 爆炎によって視界が確保できず、暁が手をこまねいていると雪菜が微かに爆炎の向こう側を見て焦りの表情をうかべた。

 

「自己修復……!? あんな状態からでも復活できるのか!?」

「術式を破壊しない限り無駄なようね……。最初の一体、暁古城の眷獣と翔矢の使い魔の攻撃痕が消えてるもの」

「それに加えて、壊れた装甲の材質を変化させて振動と衝撃への抵抗力を増加させたね。俺達の攻撃を解析して対策を練っているんだ」

 

 紗矢華の剣舞と俺の〝喰らう〟性質の魔力が防がれた時と同じだ。

 しかもナラクヴェーラ同士のネットワークを経由して、他の機体にも伝わるようだ。対応が明らかに早い。

 

「〝獅子(レグルス)()黄金(アウルム)〟の攻撃に耐えたのも学習してたからか……! どうやって倒せばいい!?」

 

 焦燥に駆られる暁の気持ちもわからなくもない。俺自身、切り札を使えば事が済むから冷静を保っていられるが、そろそろまずいと思う。

 そんな俺達を見上げて、雪菜が華やかに笑った。

 

「いいえ、先輩。大丈夫、勝てますよ」

 

 そう言って彼女はポケットから薄桃色のスマホを取り出した。その液晶画面にはぬいぐるみのような姿をしたキャラクターが浮かんでいる。

 

「そうですよね、モグワイさん」

『おう。浅葱嬢ちゃんが、逆襲の段取りをきっちり済ませておいてくれたからな』

「浅葱が……?」

 

 藍羽さんが? 〝電子の女帝〟っていうのはそこまで凄いのか。

 

『ナラクヴェーラの自己修復機能を悪用して、連中を自滅させる──一種のコンピューター・ウィルスだな。名付けて〝おわりの言葉〟ってところか』

 

 ククク、と笑って、モグワイと呼ばれた人工知能がそう言う。

 

「それで、俺達はどうしたらいいの雪菜?」

「ナラクヴェーラは音声コントロールです。女王ナラクヴェーラの中に入って、藍羽先輩が作った音声ファイルを流せれば、全ての機体が停止するはずです」

 

 なるほど。つまり、問題は中に入ることか。それなら話は早い。

 

「ナラクヴェーラの動きは私達が止めるわ、雪菜」

「流石紗矢華。俺と同じことを考えてるなんてね」

「何年幼馴染やってると思ってるのよ」

「それもそうだ」

 

 くすり、と互いの目を見て笑い合う。

 暁は訝しむように俺達を見るが、それを無視して俺達は行動に移す。

 

「わかってるわね、暁古城。チャンスは一度よ。失敗したら灰にするから」

 

 紗矢華はそう言いながら左手で〝煌華麟〟を握り、それを突き出した。

 その白銀の刀身が突然前後に割れる。鍔に当たる部分を支点にし、割れた刀身の半分が百八十度回転。銀色の弦が張られて、〝煌華麟〟は真の姿を現す。

 リカーブ・ボウと呼ばれる洋弓がこの武神具の本来の姿だ。

 

「その時は容赦なくお前の名前を出して俺の罪を肩代わりしてくれよ」

 

 魔力の結界を消して、左腰のホルダーから大きな瓶を取り出す。

 脚に魔力を込めて地を蹴り、俺は宙に舞った。

 大瓶の蓋を開けて俺の周囲に乙女の鮮血を振り撒く。バチ、バチ、と薄緑色の魔力が鮮血に沿って可視化するほど濃く放出される。

 

「さぁ、──罪を償え」

 

 その言葉に反応し、薄緑色の魔力がスパークした。

 光が俺を包み込み、数秒後その光は消え、俺は()()()()()()()()()()()

 

 

 

「──〝嫉妬(インウィディア)(・ザ・)魔王(レヴィアタン)〟ッ!!」

 

 

 




すげーいいところで切ってしまい申し訳ありません。
この調子だと1万字行きそうだったので切らせてもらいます。調子がいいのでちゃんと近日中に更新しますのでご安心ください。

感想、評価お待ちしております。


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