ストライク・ザ・ブラッド〜獅子王機関の舞剣士〜   作:倉崎あるちゅ

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お待たせしました。
天使炎上篇二話目です。ニコ生でストブラ一挙放送見ながら書いてました。

評価ありがとうございました。久しぶりに更新して感想と評価ももらえて嬉しかったです。





 Ⅱ

 

 

 

 

 翌日の放課後。授業が終わると、古城はすぐに教室を出ていった。理由は当然凪沙ちゃんだ。

 昨日の手紙のことを直接訊いていない彼は、凪沙ちゃんを尾行することにしたようだ。俺も面白そうだな、と思い古城と共に行動している。その間に雪菜に見つかってしまい、彼女も一緒に凪沙ちゃんを尾行するようになった。

 そして今、俺たちは屋上の入り口で凪沙ちゃんと、その彼女に手紙を渡した男子生徒──高清水という生徒との会話を盗み聞きしている真っ最中だ。

 

「先輩って、意外にシス……心配性ですよね。ちょっと引きます」

「そこはもうキッパリ言っちゃいなよ雪菜」

「ならなんでお前らここにいんだよ……つか翔矢に言われたくねぇ……!」

「わたしは先輩の監視役ですから」

「俺は開き直ってるし」

 

 そう言われながら、古城は屋上の扉を開けようとドアノブに手をかける。妙に甘ったるく抑えた男子の声が聞こえてきたのはその時だった。

 

「──いいから大人しくしてろよ……ほら、騒ぐなって」

 

 そのにやついたような声を聴いて、古城の顔色が一気に青ざめた。

 

「な、なにをしているんでしょうか……?」

「さぁ……なんだろ」

 

 雪菜の声は震え、俺はなにをやっているのかわからず首を傾げる。

 

「──ダメだよ、そんなに強く抱かないで」

「ああ、ごめん。オレ、こういうのあんまり慣れてなくて……」

「や、くすぐったいってば……!」

「あんまり大きい声出すと、誰かに気づかれるぞ」

「わかってるけど……そんなふうに舐められると……や、痛っ……」

 

 小声で交わされる会話に、古城は冷や汗を垂らし、雪菜は頬を赤く染める。

 え、なに、二人ともなんでそんな反応なの?

 わからずに首をひねっていると、古城がたまらず屋上の扉を蹴り開けた。

 

「離れろお前らぁ!!」

 

 怒り狂う古城に驚いて、凪沙ちゃんと高清水くんは()を抱いたままこちらに振り向いた。

 

「──って、え?」

「あれ、猫だ。雪菜、猫いるよ」

「は、はい……可愛いですね」

 

 高清水くんに抱かれた猫を見て、俺は雪菜に教える。彼女は猫が好きなので、今は必死にそのことを隠そうとしているが、顔がにやけてしまっている。別に俺は知っているし、雪菜のカバンについている『ねこまたん』のキーホルダーは古城がとったものだって言ってたのだから隠さなくてもいいだろうに。

 ミィ、と子猫がかわいらしく鳴く。

 

「古城くん!」

「な、凪沙……お前、なんでここで猫なんか」

「古城くんこそ、中等部の校舎でなにやってるの? 雪菜ちゃんと翔矢くんも巻き込んでさ」

「いや、お前手紙は……告白とかじゃあ……」

 

 猫が毛を逆立てるように、凪沙ちゃんは古城を問い詰める。

 

「手紙? これのこと?」

 

 そう言って凪沙ちゃんは昨日の夕方に渡されていた手紙をポケットから取り出して見せてくれた。

 どうやら、凪沙ちゃんと高清水くんは子猫を引き取り先を探していたようだった。

 

「運動部員の名簿っす。暁さんが俺のほかにも猫を引き取ってくれるやつを探してるって言っていたんで」

 

 じゃあ、俺はこれで、と高清水くんは子猫が入った段ボール箱を抱えて校舎の中に入っていく。

 あれ、先生にバレないといいな。

 彼の姿が見えなくなったところで、告白と勘違いした古城に凪沙ちゃんががみがみと叱責する。勘違いさせた要因は俺と雪菜でもあるのだが、彼女にそれを言うと行動に移した古城が悪いと一蹴されてしまった。

 

「……それで、あの猫、お前が拾ったのか?」

「あたしじゃないよ。夏音ちゃんが保護して、面倒を見てたの」

 

 夏音ちゃん? 誰だろその子。資料にはそんな子見なかったけど。

 獅子王機関の資料も完璧ではない。今回の監視対象である古城の友人関係の範囲しか記載されておらず、凪沙ちゃんの友人関係までは把握しきれていなかった。古城もまた、覚えのない名前を聞いて首を傾げている。

 すると、

 

「あ、はい。私でした。叶瀬(かなせ)夏音(かのん)です」

 

 屋上の入り口から、現れたのは白銀に煌めく銀色の髪を肩まで伸ばした碧眼の少女。その子の姿を見て、俺は眼を見開いた。

 

「ラ・フォリア……?」

 

 いや、違う、彼女じゃない。似ているがぱっと見で似ているというだけだ。

 俺の呟きはごく小さいものだったので古城たちには聞かれていないようだった。

 

「全部、私のせいですね。ごめんなさい、でした」

 

 銀色の髪を揺らして、叶瀬夏音と名乗る少女は深々と頭を下げる。

 横目で古城を見ると、彼はその姿を見てみとれていた。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

 下校することになり、俺と古城は先に下駄箱で靴を履き替え、中等部の昇降口で雪菜たちと合流した。

 

「そっか、叶瀬さんは去年凪沙と同じクラスだったのか」

「はい、いつも助けてもらってました。私は男子にも避けられているので、今回も凪沙ちゃんがいなかったら引き取り相手を探すのにもっと時間がかかったと思います」

「そんなことないよ! みんな夏音ちゃんのことが好きすぎて、声かけられないだけだから。〝中等部の聖女〟って呼ばれるくらいだから」

「はぁ……」

 

 聖女、か。確かに清楚だし似合っているかも。

 

「確かに、話しかけづらいというのはわかりますね。綺麗すぎて」

 

 雪菜がにこやかに言うと、凪沙ちゃんがジト目になった。

 

「あんたが言うなあんたが」

「雪菜……ちゃんと自覚してね」

「ホントだよ」

 

 たまらず凪沙ちゃんと俺が口に出す。

 雪菜だって叶瀬さんと同じくらい綺麗なんだからもう少し自覚してもらいたい。

 

「二人とも、それぞれのクラスの男子には、接触距離に応じてルールがあるんだから。あと、暁古城を呪う会も絶賛活動中だからね!」

「なんで俺が呪われなきゃいけないんだよ……! それ言ったら翔矢だって!」

「翔矢くんはファンクラブできてるよ」

「え!? なんでファンクラブ!?」

 

 凪沙ちゃんに問い詰めようとするが彼女は高清水くんに改めて謝罪すると言って去ってしまった。

 なんで俺のファンクラブなんてものが存在するんだよ。意味わかんないよ。

 そこから叶瀬さんの手伝いをするために、彼女に案内してもうことになった。その道中、古城が叶瀬さんの髪の毛について地毛かどうか質問していた。

 

「はい、実の父親が外国人でした。私は日本で育ったので、あまり記憶はないんですけど」

 

 ……外国、か。その国については心当たりがあるが、根拠はないし言わない方がいいか。言ってどうこうできるわけでもない。

 叶瀬さんが向かったのは駅ではなく学園の裏手にある丘の上だった。木々に覆われたそれほど大きくもない公園の奥。廃墟となった灰色の壊れた建物が見えてくる。

 

「教会、だね」

「はい、私が小さい頃お世話になっていた修道院でした」

 

 でも、見たことのないレリーフだ。二匹の蛇が巻き付いた〝伝令使の杖〟。西欧教会でもないとなると、他の地域の教会か?

 

「先輩、翔矢さん! 猫です! 猫ですよ!」

「あぁ、それは見ればわかるが」

「雪菜は猫好きだからさ」

「あー、そういう」

 

 雪菜のテンションに呆気にとられる古城だったが、俺が小声で補足すると彼は納得してくれた。

 

「ふわあ、可愛い……よしよし、よしよし」

「あ、この子オッドアイだ。可愛いな」

「はい、凛々しくて綺麗な子ですね」

 

 古城と叶瀬さんが会話をしている最中、俺と雪菜は猫を抱いてあの子も可愛い、この子も可愛いとはしゃぐ。ふと、俺は話している二人を見た。

 

「叶瀬さんは、きっといいシスターになれると思うよ」

 

 その言葉を口にし、叶瀬さんは驚いたように古城を見上げて、一瞬だけ、哀しげな翳りを見せる。

 

「ありがとうございます。その言葉だけで私には、十分……でした」

 

 そう言って微笑む彼女に、俺は言いようのない嫌な予感がした。直感、とは違うかもしれないが、そんな気がした。

 

 

 

 

 β

 

 

 

 

 絃神島人工島(ギガフロート)の中枢、キーストーンゲート内にある人工島管理公社保安部に俺は南宮さんに連れられてやってきた。地下十六階に設けられたそこになにがあるのか、無理矢理呼ばれて連れられてきた俺にはわからない。

 薄暗い通路を渡っていくと、奥に人が建っているのがわかった。

 

「──ヘーイ那月ちゃん! それに翔矢も!」

 

 こっちこっち! と手を振るのは第四真祖の真の監視者である矢瀬基樹だ。俺は基樹に手を振り返すが、隣にいる彩海学園英語教師、兼国家攻魔官である〝空隙の魔女〟、南宮さんはちっ、と不機嫌そうに舌打ちをする。

 

「暁古城といい、お前といい、担任教師をちゃん付けで呼ぶなといつも言っているだろう」

 

 少しは舞剣士を見習え、と彼女は腕を組む。

 

「それで、要件は?」

「こっちっす」

 

 案内された場所はガラス越しに病室のような部屋が見える部屋だった。最新の医療機器に囲まれたベッドの上には大怪我を負ったのか、全身に包帯を巻いた十代と思われる少女が眠っていた。

 少女の手首や首には拘束具ががっちりとされており、並みの魔族でもはずれはしないことはぱっと見ただけでもわかる。

 

「こいつが昨夜確保されたという五人目の魔族か。こいつが戦っていたもうひとりの魔族がいたと聞いたが?」

「そっちの正体は未だに不明。追跡も難航中っすね」

 

 南宮さんに手伝わされていたのはこの案件であり、街の騒動は目の前で眠っている少女を含めた魔族が起こしていたものだった。

 ただ、厳密には魔族ではなく通常の人間が魔術的肉体改造を施されているそうだ。おそらく、この事件は同じような個体が争っているのだと俺は推測する。

 

「ただの人間が、空を飛び回ってビルをなぎ倒すと言うのか? 笑えるな」

「南宮さん、笑えないですよ」

「ホントっすよ。全然笑えねぇ」

 

 冗談じゃない。魔族や魔女でもない人間がそんなことをする時が来た時は世界が滅ぶ。確かに過適応者(ハイパーアダプター)があるが、それは極わずかであり誰しも持っているわけではない。

 

「ちなみにその子、負傷による内臓の欠損がいくつかあって」

 

 それを聞いて、俺は眼に霊力を流して霊視する。

 

「なに、内臓? どこだ」

「えっと、横隔膜と腎臓の周辺ですね」

「さすが獅子王機関のエース。いわゆる、腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)のあたりっすね」

「喰われたのか……」

 

 南宮さんが吐き捨てるように呟く。

 俺はなにか手掛かりがないか、もっと深く少女を霊視をしていると無邪気な、それでいて皮肉を混じらせた声が聞こえてきた。

 

「フム、奪われたのは内臓そのものというより、霊的中枢……霊体そのものというわけか」

「ヴァトラー……! お前、なんでここに」

 

 人工島管理公社が所有する建物に、なぜいるのか。外交官としての権限がこいつにあるのは知っているがここに来る理由なんてあるのか?

 やぁ、翔矢、とウィンクを飛ばしてくるが俺は近寄るなと意味を込めてベッ、と舌を出した。南宮さんも不機嫌そうに鼻を鳴らして金髪の貴族をにらみつける。

 

「余所者の吸血鬼(コウモリ)がなんの用だ」

「ノーコメント。なにしろ外交機密だからね」

「〝戦王領域〟の貴族が外交機密だと? この一件、貴様らの真祖がらみか」

「それはどうだろうネ。あるいは、()()()()とも無関係じゃないかもしれない」

「なに……?」

 

 ん? あの御方? 誰だその人は。

 ヴァトラーの発言で、南宮さんは殺気をもらす。基樹もヴァトラーと南宮さんを交互に見て冷や汗を垂らしていた。

 

「蛇遣い、貴様なにを知っている?」

「アルディギアの〝ランヴァルド〟。聖環騎士団の飛行船が昨日から消息を絶っているそうだよ」

「それは本当だろうな、ヴァトラー!」

 

 あの御方、というのに疑問を抱いていたが、ヴァトラーからの情報に、俺は彼の襟を引っ掴んだ。

 

「お、おい翔矢」

 

 基樹が俺を抑えようとするが無視する。

 

「本当のことなんだろうな、今の」

「あぁ、確かな情報だよ」

 

 思わず周囲に魔力が漏れ出すほど、俺はヴァトラーを睨みつける。さすが吸血鬼の貴族と言うべきか、彼は意に返さず平然としている。

 乱暴に彼の襟を離して、距離をとる。直後に南宮さんからレース付きの扇子の制裁をもらったが甘んじて受けた。

 

「そういえば、君はアルディギアの王女とは親しかったね」

 

 思い出したように吸血鬼は軽薄に笑う。

 紗矢華が言っていたトラブルはこのことだったのだ。だからアルディギアの王女は紗矢華と合流できなかった。あの王女や騎士団からはいろんな大切なことを学ばせてもらった。例え任務がなくとも心配はする。

 

「さて、情報の見返りというわけではないが、ひとつ頼みがある」

「話だけは聞いてやる。なんだ?」

 

 素っ気なく返事をする南宮さんに、ヴァトラーは一瞬本物の殺意で紅く染まった瞳で見る。

 

「この事件に第四真祖を巻き込むな」

「暁古城を? どういうことだ?」

「古城では()()に勝てないからさ。愛しの第四真祖にはまだ死なれては困るんだ」

 

 そう言って、ヴァトラーは俺の方に眼を向けた。

 

「できればこの事件は翔矢、君が片を付けてほしいものだ」

「俺にだと? なぜ?」

「それは対面したらわかることサ」

 

 言うだけ言って、彼は部屋から出て行った。

 対面したらわかる……なにがあるっていうんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 






30日のニコ生ストブラ、仕事なので途中からしか見れないのが辛い……。

感想、評価お待ちしております。

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