彩花/妖怪と魔法の物語   作:khiro

3 / 11
3話 迷子の少年

大切な人を残して旅立つ時。あなたは、最後にどんな言葉を贈りますか?

ガンで余命宣告を受けたあるお父さんは、残された時間を妻や子供のために過ごした。

中沢君のお母さんは、最後まで子どもたちのことを見守っていた。

 

しかし、死の瞬間がある日突然訪れたとしたら?

もし明日、自分が死ぬとしたら? もし10分後に、自分が死ぬとしたら?

あなたは、最期の数分、どうしますか?

 

 

・・・

私が中沢君と仲良くなってから1週間ほど経った、5月のゴールデンウィーク。

 

私は1人で公園にいた。散歩に出て、たまたまこの公園に行き着いてしまった。

しかし休日の公園に私しかいないなんて、まるで世界に私1人しかいないみたい。

というのはいくら大げさだとしても、まるでこの公園の所有権が私にあるみたいだった。

 

そのとき

 

祐樹「こんにちは、高梨さん」

 

彩花「中沢君、こんにちは。」

 

「こんなところで会うなんて奇遇だな。何してたの?」

 

彩花「ちょっと散歩。中沢くんは?」

 

「俺も散歩」

 

「高梨さん、ちょっと隣に座っていい?君と話がしたい。」

 

彩花「いいよ。」

 

彩花「それでは、わたしの今日の下着の色は何色でしょう?」

 

祐樹「そんなのわかるか」

 

彩花「答えは黄色でした。あと上下同じ色ね。」

 

彩花「中沢君とぶつかりそうになった日はピンクのワイヤー入りのだったけど、今日はスポーツブラなんだよね。」

 

彩花「女子小学生がつけるようなかぶるタイプのブラ。」

 

彩花「じゃあわたしがブラをつけ始めたのはいつ頃からでしょうか?」

 

「わからん」

 

彩花「わたしの場合、中1の夏ごろからだったな。」

 

彩花「ブラデビューの時期って一番多いのは小学校5年生からみたいだよ。別のデータでは中学1年からってのもあるけど。」

 

彩花「胸の成長が早い子は小学校5年生くらいからつけてた子が多かったけど、わたしの場合ぺったんこだし、胸の成長も遅かったから中学生になってもつけてなかったな。」

 

彩花「わたしも乳首が痛くなってきたから、ブラを買ってもらったのが中1の夏ごろだったかな。さすがに自分からお母さんにお願いするのは恥ずかしかったけど。」

 

彩花「ちなみにブラには、成長中の胸を守るためのブラと、大きくなった胸を支えるためのブラがある。」

 

ガールズばでなびanswer16抜粋。

 

彩花「唯ちゃんはブラつけはじめたのは小4からだったんだよね。」

 

彩花「でも小学校のころはブラつけるのが恥ずかしい女の子が多いみたいだね。成長が早い子は早くつけはじめるけど、まだみんな着けてないからいろいろからかわれるみたい。」

 

彩花「唯ちゃんも初めてブラ着けた日、からかわれて泣いちゃったんだよね。」

 

祐樹「そこまで女子のプライバシーを言われてもコメントに困る」

 

彩花「だから胸が成長し始めるころから着けたほうがいいみたいだけど。」

 

彩花「まあ胸の成長期はブラを着けてないと胸が服にこすれて痛かったんだけど、成長が終わったら胸が小さい子は必要ないかも。」

 

彩花「わたしの場合は今でも成長し続けてるけど。いや成長してると信じたいってとこかな。」

 

彩花「まあわたしは胸が揺れることないし、支える胸もないし。だから普段家にいるときはノーブラだったりする。」

 

祐樹「え?」

 

彩花「冬はともかく、夏は暑いし窮屈だからね。」

 

祐樹「そういう話よく男子の前でできるな」

 

彩花「わたしは変態ですから」

 

彩花「男の子ってこういう話好きなんでしょ?」

 

祐樹「まあ嫌いではない」

 

彩花「やっぱり中沢君も思春期の男の子なんだね。」

 

こういう下ネタで始まり・・・

 

祐樹「この間のこと、改めてお礼を言わせてもらおうと思って。」

 

祐樹「小原さんにもお礼を言わないとね。」

 

彩花「お礼だなんて別にいいよ。中沢君が1人で助かっただけ。」

 

彩花「むしろわたしのほうがあなたに恩を感じている。わたしが小4の白血病から生還できたのは、中沢君のお母さんのおかげだから。」

 

彩花「でもお互い恩を感じるのはやめにしよう。これから仲良くやって行きにくくなるでしょ。」

 

祐樹「仲良く、ね。」

 

祐樹「俺は高梨さんと仲良くしていいのかい?」

 

彩花「そりゃもちろん」

 

祐樹「でも俺にとって、高梨さんは憧れの存在だったんだ。」

 

祐樹「俺は荒川君が好きだったから、その荒川君といつも仲良くしている高梨さんに嫉妬して、憎んでたんだ。」

 

祐樹「でも高梨さんは憧れの存在でもあった。」

 

祐樹「可愛くて、優しくて、みんなに人気あるし、俺にとってはアイドルのような、手の届かない高嶺の花のような存在。俺には永遠に友達にもなれないと思ってた。」

 

彩花「そんなこと言われると照れるな」

 

祐樹「そんな高梨さんが今俺と友達なんだと思うと、なんか夢みたいで。」

 

彩花「現実だよ。それにわたしなんて大したことないよ。中沢君が思ってるほど可愛くないし、憧れる存在でもない。」

 

祐樹「だからこれからは仲良くしよう。」

 

祐樹「でも俺はあまり友達を作る人間ではないからな。」

 

祐樹「今まで友達と呼べる存在は荒川君だけだった。女の子の友達は1人もいなかったからな。」

 

祐樹「だからどう接すればいいのかわからなくて。思春期の異性、しかもかつて自分が憧れてた存在、だと思うと・・・」

 

彩花「確かに思春期の男女なんだよね。でも普通に接すればいいと思う。わたしは中沢君のこと、そこまで異性として見てないから。」

 

祐樹「そうか。」

 

祐樹「とはいえ高梨さんが何と言おうと、俺は君にお返しがしたいという思うんだ。」

 

祐樹「それが終わって初めて俺たちは、対等な友達同士になれると思うんだ。」

 

祐樹「そういうわけで高梨さん、何か俺にしてほしいことはないかい?」

 

祐樹「本当になんでもいいぞ。1つだけなんでも願いを叶えてあげる。金銀財宝でも不老不死でも満漢全席でも」

 

彩花「全部あなたには無理だと思うな。」

 

祐樹「やっぱりそう思うか」

 

彩花「じゃあ今日1日わたしといろいろ見て回ってよ。」

 

祐樹「え? そんなことなら。」

 

彩花「近くのクレープ屋さんいかない?」

 

祐樹「行く。クレープ食べたい。」

 

 

クレープ屋

彩花「ここのクレープ美味しいでしょ」

 

祐樹「そうだな。」

 

彩花「これじゃまるでデートみたいだね。」

 

祐樹「もうデートってことでいいんじゃないかな。デートして下さいって言ったようなもんじゃん。」

 

祐樹「デート・・・。かつての憧れの女の子とデート・・・。」

 

祐樹(やべえ、急に緊張してきた。)

 

彩花「私たち恋人同士みたい・・・」

 

彩花「ねえ、友達になるんならこれからはわたしのこと、名前で呼んでよ。」

 

祐樹「名前で?」

 

彩花「そう、彩花って。」

 

彩花「だからわたしも、祐樹君って呼んでいい?」

 

祐樹「いいけど、俺はまだ高梨さんを名前で呼ぶのは緊張するな。」

 

彩花「そうなの?」

 

 

そこに小学生くらいの男の子がいた。1人で泣いているようだった。

迷子かな?お母さんとはぐれちゃったのだろう。

 

彩花「ちょっとここで待ってて」

 

祐樹「いいけど、どこかに行くの?」

 

彩花「あの小学生、迷子みたいだから助けてあげようと思って。」

 

祐樹「そうだな。高梨さんが行くなら問題ない。」

 

祐樹「俺が行ったら通報されるけどな。相手が女の子だったら尚。」

 

中沢君のときもそうだったけど、私は昔から泣いてる子を見かけると放っておけない。

 

 

「うえーん」

 

彩花「どうしたの?迷子になっちゃった?」

 

「うん、迷子です。」

 

「ぐすっ」

 

彩花「泣かないで。お姉ちゃんがお母さんのとこまで連れてってあげるよ。」

 

「ありがとう。ぐすっ」

 

 

祐樹「でもこれってバラエティ番組の調査じゃないのか? 泣いてる子供を置いて、何人が声をかけてくるか実験する調査。」

 

彩花「え?そうなの?」

 

日テレの世界番付というテレビ番組で確かにそういう調査があった。どの国が世界一優しい国か調査する企画。

中沢君はそう思ったみたいだけどやはり違った。この子は本当に迷子だ。

 

「僕のこと見えるんですか?」

 

彩花「え?」

 

「あなたは僕が見えるんですか?」

 

彩花「うん、見えるよ。」

 

「よかった。」

 

「僕を自分の家に連れてってほしいんです。」

 

彩花「お母さん、どこにいるかわからないの?」

 

「多分家にいます。」

 

彩花「そう。」

 

子供を置いて家に帰る母親がいるだろうか?

 

彩花「お家はどこなの?」

 

「わかりません」

 

犬のおまわりさんか?

 

彩花「じゃあわたしはあなたのお家わからないから、交番に聞いてみるね。」

 

「交番、ですか・・・。」

 

「わかりました。よろしくお願いします。」

 

彩花「そういえば名前聞いてなかったね。」

 

彩花「わたしは高梨彩花。このお兄ちゃんは中沢祐樹。 君の名前を教えてくれるかな?」

 

「羽生晋太郎です。中学1年生です。」

 

「晋太郎君っていうんだ。よろしくね。」

 

祐樹「しかし中学生にもなって迷子かよ。」

 

晋太郎「仕方ありません。中学生だってまだ子供なんですし。」

 

彩花「まあそうだけど、中学生になったらちょっぴり大人だよね。」

 

祐樹「電車に乗るときは大人料金だしな。」

 

彩花「女の子がブラをつけ始めるのもそのくらいからだしね。」

 

晋太郎「ブラ・・・そういえばクラスメートのあの子もそろそろつけてるのかな・・・」

 

祐樹「高梨さん、思春期の男子の前でそういう話はちょっと・・・」

 

祐樹「あまりそういう女の子のプライベートな話はやめといたほうがいいんじゃないか?」

 

祐樹「羽生君が変な方向に行ってしまう可能性がある。」

 

彩花「そうだね。」

 

 

そうこうしてるうちに交番についた

 

彩花「あの、この近くに羽生さんって家はありますか?」

 

羽生さんという家は複数あったけど、そこからは晋太郎君が覚えてる範囲で特定。

おまわりさんは丁寧に教えてくれた。そしてその家に向かうことになった。

 

晋太郎「この家です。」

 

祐樹「ここ、隣町だね。久しぶりに来た。」

 

ピンポン

 

彩花「羽生さん、お宅の息子さんが迷子になったので家まで送ってきました。」

 

母「うちに息子はいませんよ。」

 

彩花「え?」

 

彩花「いえ、確かにここの家のお子さんだって言ってるんですよ。苗字も同じですし。」

 

母「うちに子供はいません。なんのいたずらですか?帰って下さい。」

 

ポチッ

 

祐樹「この家で本当にあってるんだよな?」

 

晋太郎「うん。でも、やっぱりお母さん僕のこと忘れちゃったのかな。」

 

祐樹「交番に連れて行く!」

 

彩花「え?なんで?」

 

祐樹「自分の息子を忘れるなんて、それでも親か!最低だ!警察に言って無理矢理にでも引き取ってもらう。」

 

晋太郎「いや、そこまでしなくていいです。仕方ないですから。」

 

祐樹「だがそれでは晋太郎君が可哀想だ。」

 

彩花「家を間違えたんじゃないの?苗字が同じだけかもしれないし。お巡りさんも羽生って家はいっぱいあるって。」

 

祐樹「あれは範囲が広かったからだ。この子はちゃんとこの家だって言ったんだ。この辺りで間違いないと。」

 

祐樹「佐藤や鈴木のようなありふれた苗字ならともかく、羽生って狭い区域に複数あるとは思えないし。」

 

彩花「そうだけど・・・」

 

彩花「あっ、この子・・・」

 

祐樹「どうした?」

 

彩花「この子人間じゃない・・・。妖怪だ。」

 

祐樹「なんだって?」

 

彩花「わたしの妖怪センサーが反応した。」

 

祐樹「そうなのか?」

 

晋太郎「わかってしまいましたか。」

 

晋太郎「実は僕、幽霊なんです。」

 

彩花「幽霊?」

 

晋太郎「お兄ちゃん、お姉ちゃん、僕、あなたたちにお願いがあって来ました。」

 

彩花「お…おねがい??」

 

晋太郎「僕を成仏させてほしいんです。」

 

彩花「成仏?」

 

彩花「それはわたしの力では難しいかな。」

 

彩花「唯ちゃんの家に行こう。」

 

晋太郎「唯ちゃんって?」

 

彩花「わたしの友達で、幼馴染の小原唯。あの人は妖怪に詳しいから。」

 

 

彩花「ねえ、成仏させるにはどうすればいいの?」

 

晋太郎「多分、僕に未練があるんだと思います。」

 

晋太郎「お父さんとお母さんに会えば未練が解決すると思ったんですけど。」

 

彩花「未練ね・・・」

 

 

・・・

そういえば過去に俺も迷子になってるところを高梨さんに助けてもらったことがある。

小学校4年生のとき、たまたまこの街に戻っていた時のこと。

 

祐樹「うえーん」

 

彩花「どうしたの?」

 

泣いていた俺に声をかけたのは高梨さん。姉と弟と一緒だったようだ。

 

祐樹「お母さんとはぐれて、迷子になっちゃって。」

 

祐樹「でも僕は男だから泣かないよ。」

 

彩花「そう、偉いね。」

 

まあ泣いてたんだけどね。

 

祐樹「君も僕と同じくらいの年なのに両親いなくて大丈夫なのかい?」

 

彩花「お姉ちゃんがいるから大丈夫。」

 

祐樹「高梨彩花さんだったよね?」

 

彩花「え?わたしの名前なんで知ってるの?」

 

祐樹「俺は小2まで同じクラスだった中沢祐樹だ。」

 

彩花「そういえばちょっと覚えてるかも。」

 

俺は当時この人のせいで荒川君と仲良く出来ない恋敵だと思っていたから、余計印象に残ってた。

 

彩花「あの人がお母さんだね。」

 

祐樹「うん」

 

祐樹母「ありがとうございました。」

 

いつだって高梨さんは、泣いてる人を放っておけない優しい人だった。

 

・・・

ピンポン

 

彩花「唯ちゃん、こんにちは。」

 

唯「こんにちは。上がって。」

 

彩花「お邪魔します。」

 

唯「いらっしゃい。あやちゃん、今日はまた別の男の子を連れてきたのね。しかも小学生くらいの。」

 

彩花「わたし、別に変な性癖なんてないから。ショタコンなんかじゃない・・・。」

 

唯「わかってる。多分妖怪関係の相談ね。」

 

彩花「この子は中学1年生の羽生晋太郎君。」

 

唯「そう、中学生だったの。」

 

唯「初めまして、小原唯です。」

 

晋太郎「初めまして、羽生晋太郎です。」

 

唯「今回妖怪に取り憑かれたのは羽生君ってことでいいのよね?」

 

彩花「はい。羽生君は幽霊なんです。どうやらなにか未練があって成仏できないでいるみたいなんです。」

 

彩花「唯ちゃんの力で、それを解決できないかと思って。」

 

唯「あたしも力を貸すけど、最終的にはあやちゃんが解決することになるでしょうね。」

 

彩花「わたしですか?」

 

唯「中沢君の夢枕鹿はどうやって解決したかは覚えてるわよね?」

 

彩花「はい。」

 

唯「それも中沢君、正しくは中沢君のお母さんに未練があった。その未練を解決したのはあやちゃんだったでしょ。」

 

唯「中沢君のお母さんは祐樹君が小学校4年生のとき、白血病の女の子のドナーになってその子の命を救った。」

 

唯「中沢君のお母さんは死に際に、その女の子を救えたことが自分の自慢で、その子が生きててくれたらこの世に生きた意味を残せる、って言ったんだよね。」

 

唯「まあまさかあやちゃん自身だったとはね。」

 

唯「中沢君はあやちゃんと出会えて、あやちゃんが生きてたことで、お母さんの未練がなくなって、中沢君の抱えていた問題は解決した。」

 

唯「はっきり言ってあたしは何もしてなかったのね。全部あやちゃんのおかげ。」

 

彩花「でもそれってある意味偶然だし、もし中沢君のお母さんが助けた女の子がわたしじゃなかったら、中沢君は今でも。」

 

唯「それでもさんなら中沢君を励まして悩みを解決することができたんじゃないかとあたしは思うのよね。」

 

彩花「そうかな。」

 

唯「その前の葛西君のインディアン、荒川君が好きで荒川君と仲良しのあやちゃんを襲った妖怪、あれもあやちゃんが引導を渡したことで解決した。」

 

唯「高木さんの転生蜘蛛も、前世で好きな人と結ばれなかった未練で取り憑かれた。あれもあやちゃんおおかげで高木さんと葛西君がめでたく恋人になれたから解決した。」

 

唯「全部あやちゃんが解決してきたのよ。」

 

彩花「そう言われてみれば」

 

唯「だから今回もあやちゃんならできる」

 

 

中沢君のときに続いて、別室で羽生君に質問する。

 

彩花「生きてるときの記憶はどれくらいある? できれば死因とか。」

 

晋太郎「僕はお父さん、お母さん、そして1歳下の妹との4人家族でした。」

 

晋太郎「妹は小学校4年生、僕が小学校5年生のときある難病で亡くなりました。」

 

晋太郎「それからは両親と3人暮らし。」

 

晋太郎「僕はあの日九州に行ってました。」

 

彩花「そうなの?」

 

晋太郎「お父さんとお母さんは共働きでした。」

 

晋太郎「九州に単身赴任しているお父さんに届け物があって、お父さんのところに行くことになったんです。」

 

晋太郎「夏休みだったからお父さんに会いに行こうと思って。」

 

晋太郎「最初はお母さんと2人で行くことになってたんだけど、お母さんに急な用事が入って、僕が1人で行くことになったんです。」

 

彩花「1人で? それは大変だったね。」

 

晋太郎「不安はありました。」

 

・・・

回想

 

母「お母さん、その日用事ができて行けなくなっちゃったの。」

 

晋太郎「そうなんだ。楽しみにしてたけど残念だね。また今度・・・」

 

母「それが大事なものをどうしてもお父さんに届けなきゃいけないの。晋太郎1人で行ってきてくれない?」

 

晋太郎「え・・・。そんなの嫌だ。1人で遠くになんかいけないよ。」

 

母「お母さんも不安だけど、晋太郎のこと信じてるから。」

 

母「晋太郎はもう中学生でしょ。」

 

晋太郎「・・・」

 

母「大丈夫よ。飛行機には1人で乗ることになるけど、空港にお父さんに迎えにきてもらうから。」

 

母「あとからお母さんも行くから」

 

 

出発の日、羽田空港

 

アナウンス「皆様、桜ヶ丘航空334便、ただいまからご搭乗を開始します。」

 

係員「係員の山本です。羽生さんでいらっしゃいますか?」

 

母「はい。」

 

母「晋太郎、1人だけど係員のお姉さんもいるし、向こうについたらお父さんも待ってるから大丈夫だよ。」

 

晋太郎「うん。」

 

母「飛行機の中では静かにしとくんだよ。」

 

晋太郎「わかった。」

 

係員「じゃあ行きましょうか。」

 

母「今日はよろしくお願いします。」

 

晋太郎「行ってきます。」

 

母「行ってらっしゃい。」

 

母は、晋太郎が不安そうな顔をしているのを見た。まだ中学1年生、1人で飛行機に乗るのは不安だっただろう。

しかしそれが母が見る、最後の晋太郎の顔だった。

 

母の不安は当たっていた。その30分後、虎太郎の身に重大な危機が迫っていた。

 

・・・

機内

 

ドカーン

 

晋太郎「何の音?」

 

何かが爆発した音がした

 

自動放送「酸素マスクをつけてください。ベルトをしめてください。電子機器はお使いにならないでください。只今緊急降下中です。」

 

乗務員「皆さん、シートベルトと酸素マスクをして下さい。」

 

 

機長「スコーク77」

 

機長「こちら桜ヶ丘航空334便。機体の後方が破損した模様です。」

 

機長「羽田に引き返すことを希望します。」

 

司令官「了解」

 

 

乗務員A「皆さん落ち着いて下さい。」

 

乗務員B「不時着に備えてリハーサルしよう。」

 

乗務員C「わかりました。」

 

晋太郎はそのとき、母にあるメールを送っていた。

 

・・・

晋太郎を見送った母は、テレビを見ていた。

そのときだった。それは突然のニューステロップだった。

 

『ピコーン ピコーン ピコーン』

『FNN ニュース速報』

 

『桜ヶ丘334便がレーダーから消える。』

『国土交通省によると、桜ヶ丘航空機から「緊急事態が起きた」と伝えてきた。』

『桜ヶ丘航空機には乗客596人が乗っており、現在国土交通省が調査中。』

 

母「え?」

 

母「桜ヶ丘航空334便・・・。」

 

『番組の途中ですが、ここでニュースをお伝えします。』

 

『今日18時30分ごろ、桜ヶ丘航空334便がレーダーから消え、墜落した可能性が強まっております。』

 

事故の一報を聞いた母は頭が真っ白になり、何が何だかわからなくなった。

 

『それでは乗員乗客608人の名簿を読み上げさせていただきます。』

 

『敬称は略させていただきますが、お1人ずつご紹介いたします。』

 

その中に、晋太郎の名前はあった。

 

『ハニュウ・キョウタロウ(13)』

 

『お名前の右の数字は年齢でございます。』

 

・・・

父と母は、遺体安置所で見るも無残な健の遺体を見ることになった。

母は号泣した。

 

・・・

晋太郎「僕はその事故で死にました。」

 

彩花「そうだったんだ・・・。」

 

祐樹「・・・」

 

祐樹「その事故で、俺は姉を亡くしたんだ。」

 

晋太郎「知ってました。」

 

祐樹「え?」

 

晋太郎「まあ幽霊ですから。」

 

彩花「そういえば事故の日、わたしの親戚にも飛行機に乗った人がいたの。」

 

祐樹「そうなのか?」

 

彩花「お母さんの兄、叔父が出張に行ってたんだよね。事故の一報を聞いたときは不安だった。」

 

彩花「乗っていたのが別の便で無事だったと知ってお母さん、安心してた。」

 

彩花「あの事故のとき、乗客はいったいどんな想いをしてたんだろうって、ときどき思うの。」

 

晋太郎「事故の日の記憶は、僕にもあまりないんです。」

 

晋太郎「でも墜落の直前、まるでジェットコースターのように落ちていくのは今でも覚えています。」

 

彩花「じゃあ未練ってのはなんなの?」

 

晋太郎「どうなんでしょう?」

 

晋太郎「お母さんに会えばわかるかな、と思うのですが。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。