彩花/妖怪と魔法の物語   作:khiro

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4話 死ぬまで二度と笑うな

・・・

そして再び羽生家に向かう

 

彩花「ところでこの近くに住んでたにしては今まで会ったことなかったのはなんで?」

 

晋太郎「僕が死んでから引っ越したみたいです。」

 

ピンポン

 

彩花「羽生さんでいらっしゃいますか。」

 

晋太郎母「その声、あなたさっきの人ですね。今度はなんですか?。」

 

祐樹「あの、CL航空の事故で息子さんを亡くされたんですよね?」

 

祐樹「僕もその事故で遺族のものなんです。ちょっと話を聞きたいと思いまして。」

 

晋太郎母「上がって下さい。」

 

乗員乗客522人全員死亡。かつての日本航空123便の520人死亡を抜いて、単独機での世界最悪の航空機事故。

 

祐樹「はじめまして。中沢祐樹です。」

 

彩花「はじめまして。高梨彩花です。」

 

母「お2人ですか。」

 

幽霊はこのお母さんには見えないんだ。

ちなみに隣には晋太郎君のお父さんもいる。

 

祐樹「もしかしたらどっかで会ったことあるかもしれませんね。遺族の会あたりで。」

 

母「さっきの息子が迷子になったって話はなんだったんですか?」

 

祐樹「あ・・・、さっきこの家の息子を名乗る者に会ったのですが、偽っていたようです。嫌ですね、人を騙すのは。」

 

母「そうですか。」

 

母「どなたを亡くされたんですか?」

 

祐樹「姉です。」

 

祐樹「4歳のときに両親が離婚して母に引き取られ、11歳のときに母を亡くして、姉と2人暮らしをしてたのですが。」

 

祐樹「母親代わりの姉もあの事故で亡くして、今は孤児院で暮らしてます。」

 

母「・・・それは大変でしたね。」

 

彩花「私は中沢君の友達で、私の親戚も事故には合わなかったのですが、事故の日に同じ区間の飛行機を利用していて不安になったことがありました。」

 

彩花「今日はたまたま中沢君とここに来ました。」

 

祐樹「事故のあと、どう過ごしてました?」

 

母「桜ヶ丘航空会の方と連絡をとったりしてます。」

 

母「私はまだ中学生の息子を1人で飛行機に乗せてしまいました。」

 

母「息子は1人で飛行機に乗ることに不安だったのに、その上あの事故。息子はどれだけ不安だったことか・・・」

 

母「晋太郎は私が殺したんだって、ずっと自分を責め続けました。」

 

彩花「そんな・・・」

 

彩花「事故にあったのは不運な偶然みたいなもので、自分が殺したなんて考えすぎですよ。」

 

祐樹「犠牲者の遺族のほとんどがそう思ってるよ。」

 

祐樹「俺も思ったね。別に飛行機は無理だったとしても、なんとかお姉ちゃんが死なずに済む方法はあったんじゃないかって。」

 

母「飛行機に異常が発生して10分ほど横揺れや縦揺れをしていたって。」

 

母「事故機のボイスレコーダーとか、飛行ルートとかテレビで見ました。」

 

母「あの日、晋太郎はどれだけ怖い思いをしただろう。どれだけ痛かっただろう。」

 

母「それを思うとますます罪悪感が・・・」

 

母「もう死にたいと思ったこともありました。晋太郎に会いたい。」

 

母「でも死ぬ勇気もない。」

 

祐樹(こないだまでの俺と同じだ)

 

祐樹「お互い辛いと思いますが、頑張りましょう。」

 

祐樹「あの、お父さんのほうは何も喋らないんですか?」

 

母「いえ、旦那は無口なもので・・・」

 

・・・

晋太郎「あの日、異常事態が起きたことが乗客にもわかった。」

 

晋太郎「既に死を覚悟した人も何人かいたと思う。おそらくこの世で一番怖いのは死の恐怖だろうね。」

 

晋太郎「だけど僕はどんな感覚だったか、それだけは思い出せない。」

 

彩花「そうだよね。死の恐怖が一番怖いと思う。」

 

彩花「もしもうすぐ死ぬということになったら、わたしは何を感じるだろうって。」

 

彩花「まあ白血病になったときがそれに近かったけど、それでも死ぬとは思わなかったし。」

 

祐樹「俺もだ。一人ぼっちになって、もう死にたいと思っても、自殺なんかできなかったよ。」

 

晋太郎「未練、わかりました。」

 

彩花「なんなの?」

 

晋太郎「未練があるのは僕ではなく、お父さんとお母さんです。」

 

晋太郎「お父さんとお母さんは自分が息子を殺してしまったとずっと自分を責めている。」

 

晋太郎「お父さんとお母さんの未練が、僕をここに留まらせてるんだと思います。」

 

祐樹「そうか。」

 

彩花「それにしても晋太郎君のお母さんの表情、なんか変だったよな。あまりに無表情っていうか。」

 

彩花「お父さんに至っては一言もしゃべらないし。」

 

彩花「そしてお父さんに、妖怪が取り憑いてることを感じた。」

 

祐樹「え?そうなのか?」

 

彩花「晋太郎君、お父さんとお母さんの様子について知ってる人いる?」

 

晋太郎「父方のおじいちゃんか、母方のおじいちゃんかおばあちゃんなら。」

 

晋太郎「お父さんのお母さん、父方のおばあちゃんは僕が生まれる前に亡くなったそうです。」

 

彩花「そのおじいちゃんとおばあちゃんはどこにいるの?」

 

晋太郎「どちらも隣町に住んでると思います。」

 

晋太郎「でも父方のおじいちゃんは会わないほうがいいと思う。」

 

彩花「なんで?」

 

晋太郎「ものすごく怖い人だから。」

 

彩花「へえ、よく怒られたんだな。」

 

晋太郎「まあ、僕もよく怒られましたけど、それよりお父さんがよくおじいちゃんに怒らてて・・・。」

 

彩花「お父さんが?」

 

晋太郎「おじいちゃん、すぐお父さんを殴るんです。」

 

晋太郎「僕もおじいちゃんに1回くらいぶたれたことありますけど、お父さんは毎日のように殴られて、僕も可哀想でした。」

 

・・・

唯の家

 

彩花「晋太郎君の家を訪れて気づいたんだけど、晋太郎君より、晋太郎君のお父さんが妖怪に関わってると思いました。」

 

彩花「なんていうか無表情で、全く笑わなくて、一言も喋らない。」

 

唯「実際に見てみないとわからないけど、おそらく不幸の神かもね。」

 

唯「その人から笑いと言葉を奪う妖怪、不幸の神。福の神の真逆ってとこ。」

 

彩花「不幸の神か・・・」

 

おそらく、晋太郎君が事故で死んだのが原因。

 

・・・

異常が発生した飛行機の機内で、晋太郎は母に2件のメールを出していた。

 

1件目

『飛行機が事故を起こしたみたい。みんなメールで連絡を取ってる。だから僕も取ることにした。

お母さん、短い間だったけどありがとう。にこお姉ちゃん、こころお姉ちゃん、ここあお姉ちゃんとも今まで仲良くできなかったけど、感謝してる。これからもみんな仲良くして。

いつもは照れくさくて言えなかったけど、今ここで言うね。

僕を産んでくれてありがとう。

 

にこ姉ちゃん、こころ姉ちゃん、ここあ姉ちゃんも幸せに生きて。』

 

2件目

『スチュワーデスさんがリハーサルしてる。あの人たちは諦めてない。』

 

 

「晋太郎、死を覚悟した状態で、こんなメールが書ける12歳がどこいいるのよ・・・」

 

「生きてる間、1度だって感謝の言葉を聞いたことないのに。」

 

父「むしろ、死が迫ってる状態でしかこういう言葉が出なかったのかもな。」

 

・・・

富山県城山の遺族の待機所

 

続々と遺体が運び込まれ、身元が確認される。

姉を亡くした中沢祐樹もその日ここにいた。

 

1985年の日本航空123便墜落事故では身元を確認する方法がほとんどなく、腕や足だけという部分遺体が大多数だった。

今回も体の一部が引きちぎれバラバラになった遺体ばかりだった。

しかし今回はDNA鑑定が進んだため、五体満足な遺体の身元が特定できた。

首や手足が吹っ飛び、胴体だけが残った遺体、焼け焦げた手や脚が散乱し、地獄絵図と化していた。

 

あまりにも無残で変わり果てた姿に遺族は皆その場で泣き崩れた。

 

係員「羽生晋太郎さんのご家族の方」

 

母「はい・・・」

 

晋太郎の両親は車で連れられて遺体安置所に向かった。

 

係員「DNA鑑定の結果、晋太郎君と一致しました。」

 

棺を開けると・・・

 

母「・・・」

 

言葉が出なかった。これが本当に晋太郎なのだろうか。

まだ12歳だった少年が、頭や腕や足が引きちぎれ体がバラバラになり、もはや人間だったとは思えないような変わり果てた姿を晒していた。

生まれてからもっともグロく、もっとも悲しい物を目撃してしまった。

 

父「はい。晋太郎のもので間違いありません。」

 

母「晋太郎・・・」

 

 

・・・

母「あいつ、ついこないだまで注射やジェットコースターも怖がってたほどの怖がりなのよ。」

 

母「最近ようやく注射で泣かなくなったけど・・・。」

 

母「その晋太郎があの飛行機の中でどんだけ怖い思いをしたか。」

 

母「死の恐怖なんて注射やジェットコースターの比じゃないでしょうね。」

 

母「墜落の瞬間、どれだけ痛かったか・・・。」

 

母「まだ中学生なのに、1人ぼっちでどんだけ辛い思いしたか。」

 

母「私だったら、もういい大人の私ですら声を上げて泣いてと思う・・・」

 

母「なのにあの晋太郎が、あんなに怖がりで弱虫だった虎太郎が・・・」

 

母「あの恐怖の中でメールで『産んでくれてありがとう』だなんて・・・。そんな言葉が出てくる小学生がどこの世界にいるんだよ・・・。」

 

母「だいたいそれ子供が死に際に言う台詞か?逆だろ。親の死に際に子供が言う台詞じゃねえか。」

 

母「親にとって死に際にそれを言ってくれたら嬉しいが、子供が死に際にそんなこと言われたら一生後悔するだろ。なんで自分より先に逝かせてしまったんだ・・・。」

 

・・・

羽生晋太郎の葬儀

 

父方祖父「みんなお前が殺したようなもんだ!」

 

父方祖父「妻と2人の孫を返せ!」

 

バシッ

 

母方祖父「ちょっとやめろよ!自分の息子に暴力振るう奴があるか。それでも父親か!」

 

父方祖父「お前は関係ないから引っ込んでろ!」

 

卓、土下座する。

 

父方祖父「もう謝らなくていいから、死ぬまで二度と笑うな!」

 

母方祖父「ちょっと君、それは言いすぎだろ。」

 

父方祖父「そんなことはない。子供を先に死なせた親、しかも子供をこんな無残な姿にした親なんて、もう一生笑う資格なんてないんだよ。」

 

父方祖父「卓、お前は死ぬまで晋太郎の十字架と罪悪感を背負いながら生きてろ!」

 

 

・・・

唯「あやちゃんは死ぬ覚悟はできてる?」

 

唯「死ぬのが怖くちゃ戦えないわよ。」

 

彩花「もちろんです。死ぬ気で戦いますよ。」

 

・・・

彩花「唯ちゃんにはそう言ったけど、本当は死ぬ覚悟、できてないんだ。」

 

彩花「多分、こりゃもう死ぬって瞬間が来たとしても、ギリギリまで生きたいと思うだろうね。」

 

祐樹「それでいいと思うよ。それが当然だろ。」

 

祐樹「むしろ人の命を預かる仕事をしてる人は、死ぬ覚悟とかされちゃ困るな。」

 

祐樹「きっとあのパイロットだって、死ぬ覚悟なんかみじんもしてなかっただろうし、してたら困る。」

 

 

・・・

数日後、わたしたちは晋太郎君に連れられ、彼のお母さんの実家を訪ねることに。

 

祐樹「鈴木さんですか?」

 

祐樹「はじめまして。中沢祐樹というものですが、」

 

鈴木「どんなことですか?」

 

祐樹「孫の晋太郎君が桜ヶ丘航空の墜落事故で亡くなられて、それ以降晋太郎君のご両親の様子が変なようなので。」

 

鈴木「ああ、卓君のお父さんのせいだな。」

 

彩花「卓さんのお父さん、つまり晋太郎君の父方のおじいさんのことですね?」

 

鈴木「そうだ。」

 

彩花「何があったんですか?」

 

鈴木「どこから話せばいいかな。」

 

鈴木「俺のおじいさんがくれた初めての駅弁。」

 

鈴木「それは高原野菜とカツの弁当で、俺は4才だった。」

 

鈴木「その味はジューシーな鶏肉で、こんな素晴らしい駅弁をもらえる俺はきっと特別な存在なのだと感じた。」

 

鈴木「今では俺がおじいさん。孫の晋太郎にあげるのはもちろん高原野菜とカツの弁当。」

 

鈴木「なぜなら、彼もまた特別な存在だからだ。」

 

祐樹「それ今回の話に関係あるんですか?」

 

鈴木「まあ俺にとっては欠かせないエピソードだ。」

 

鈴木「卓君のお母さんは卓君が小学生のときに亡くなった。」

 

鈴木「卓君が川で溺れて、両親で助けに行ったのだがそのときお母さんが亡くなった。」

 

鈴木「それ以来卓君のお父さんは、お母さんは卓君が殺したと言ってずっと恨んでいたらしい。」

 

鈴木「仕事で失敗をすれば卓君を殴って八つ当たりをし、いつも卓君の妹ばかりを可愛がっていたと。」

 

鈴木「そして卓君は俺の娘、恵子と結婚した。俺もこの人なら娘を幸せにしてくれると思って大賛成だったね。」

 

鈴木「恵子のおかげで彼はようやく幸せになれただろう。」

 

鈴木「今まであんな酷い父親で大変だっただろうし、これからは俺が卓君の父親になってやりたいと思ったね。」

 

鈴木「そして2人の子供にも恵まれた。」

 

鈴木「しかし2人目の子、晋太郎君の妹さんが難病で小学校3年生のときに亡くなった。」

 

鈴木「このときも卓君の父親は、その子は卓君が殺したんだと言って怒っていた。」

 

鈴木「何言ってんだろうなあの親父は。卓君のせいなわけがない。ただ現代の医学じゃ無理だったんだ。」

 

鈴木「医療の力が足りなかった。」

 

彩花「・・・」

 

私もそうだった。小学校4年生のときに難病。中沢君のお母さんがいなければ、死んでただろう。

 

鈴木「それからわずか2年後、中学1年生の晋太郎君があの事故で亡くなった。」

 

鈴木「そして卓君の父親は卓君を何発も殴った。」

 

鈴木「全部お前が殺したんだ。妻と2人の孫を返せ、って言いながら。」

 

鈴木「思わず俺が止めにいったけどな。お前は関係ないから引っ込んでろって言われたよ。」

 

鈴木「そしてあの親父は卓君になんて言ったと思う?」

 

祐樹「さあ」

 

鈴木「もう謝らなくていい。だけど、死ぬまで二度と笑うな、死ぬまで晋太郎の十字架と罪悪感を背負いながら生きてろ、って。」

 

祐樹「ひ、酷い・・・。」

 

祐樹「それが自分の息子に言うことかよ!」

 

鈴木「それ以来、卓君は笑うどころか、喋ることもしなくなった。」

 

鈴木「恵子まで卓君を思って、全く笑わなくなった。」

 

鈴木「本当に卓君が可哀想で仕方がなかった。」

 

鈴木「まあ卓君の親父のせいでもあるんだが、何より恵子も卓君も晋太郎を自分のせいで死なせてしまったことに罪悪感を抱いて、笑わなくなってしまったんだ。」

 

鈴木「さらに晋太郎が墜落直前に出したメールの遺書もあって」

 

祐樹「遺書?」

 

・・・

『飛行機が事故を起こしたみたい。みんなメールで連絡を取ってる。だから僕も取ることにした。

お母さん、短い間だったけどありがとう。お父さんとこれからも仲良くして。

いつもは照れくさくて言えなかったけど、今ここで言うね。

僕を産んでくれてありがとう。』

 

そういえば30年前の日航機の事故の時もこのような遺書があった。時代が進み、遺書は携帯メールになったのだ。

 

・・・

鈴木「晋太郎はついこないだまで注射やジェットコースターも怖がってたほどの怖がりだったんだ。」

 

鈴木「最近ようやく注射で泣かなくなったけど・・・。」

 

鈴木「その晋太郎があの飛行機の中でどんだけ怖い思いをしたか。死の恐怖なんて注射やジェットコースターの比じゃないだろ。」

 

鈴木「死刑執行直前の死刑囚の気持ち、いやそれ以上の恐怖を味わったようなもんだ。墜落の瞬間、どれだけ痛かったか・・・。しかもまだ中学生なのに、1人ぼっちでどんだけ辛い思いしたか。」

 

鈴木「もういい年したおじいさんの俺ですら、声を上げて泣き出してしまいたくなるかもしれん。」

 

鈴木「なのにあの晋太郎が、あんなに怖がりで弱虫だった晋太郎が・・・」

 

鈴木「あの恐怖の中でメールで『産んでくれてありがとう』だなんて・・・。そんな言葉が出てくる小学生がどこの世界にいるんだよ・・・。」

 

鈴木「だいたいそれ子供が死に際に言う台詞か?逆だろ。親の死に際に子供が言う台詞じゃねえか。」

 

鈴木「親にとって死に際にそれを言ってくれたら嬉しいが、子供が死に際にそんなこと言われたら一生後悔するだろ。なんで自分より先に逝かせてしまったんだ・・・。」

 

鈴木「そして卓も、恵子さんも、晋太郎を自分より先に逝かせてしまった自分を酷く責めて、もう一生死ぬまで笑わないと心に決めたんだ。」

 

妖怪不幸の神は、息子を自分より先に死なせてしまった卓さんと恵子さんを、死ぬまで二度と笑えない呪いをかけたのである。

 

 

・・・

晋太郎「中沢さん」

 

晋太郎「実は僕は中沢さんにお礼を言いたくて」

 

晋太郎「あの飛行機の隣の席に座っていたのが中沢さんのお姉さんでした。」

 

祐樹「そうだったのか。そういえば・・・」

 

祐樹「俺も思い出した。座席表を見せてもらったとき、姉の隣の席に別の中学生がいたことを見た。確か名前は、羽生晋太郎。」

 

祐樹「でもなんでわかった?俺がその人の弟だって。」

 

晋太郎「幽霊ですから。遺伝とかで。」

 

晋太郎「あの日、僕は一人ぼっちで死の恐怖を味わうことになったけど、お姉さんが僕の手を握って励ましてくれてたんです。」

 

晋太郎「あの人は大丈夫、なんとかなるって言っていました。」

 

晋太郎「でも僕は知っていました。彼女ももう死を覚悟していた。恐怖のどん底にいるように見えた。」

 

晋太郎「それでも一人の僕が怖くないようにと・・・」

 

晋太郎「本当にありがとうございました。」

 

祐樹「そうだったんだ。俺もお姉ちゃんの最期の思いが聞けてよかった。ありがとう。」

 

晋太郎「こういう言い方は悪いかもしれないけど、僕は中沢さんと最期のときを過ごせてよかったんだろうな、と思います。」

 

祐樹「そうか。」

 

晋太郎「僕自身の未練はこれでなくなりました。あとはお父さんの未練を解決すれば、無事成仏できると思います。」

 

祐樹「うん、お父さんを助けられたらいいね。」

 

晋太郎「お父さんは、おじいちゃんから、お父さんにとってのお父さんから本当の愛を受けることなく育った。あまりにも酷いと思います。」

 

晋太郎「僕にとって、お父さんとお母さんは誇りです。僕はこのお父さんとお母さんの子供に生まれてよかった。誰にだってそう自慢できます。」

 

晋太郎「僕は素晴らしい父親を持てた。だから、酷い父親しか持てなかったお父さんが、放っておけなかったんでしょう。」

 

祐樹「お前なかなかいいこと言うな。」

 

彩花「わたしもだよ。わたしのお父さんとお母さんもいい人だから。お父さんからの本当の愛を受けられなかった卓さんのこと、なんとか助けてあげたい。」

 

 

これで、晋太郎君の未練、そして成仏させる方法は判明した。

 

彩花「晋太郎君のお父さんが、死ぬまで二度と笑わなくなってしまったこと。これが晋太郎君が成仏できない理由で間違いない。」

 

彩花「晋太郎君のお父さんに、笑ってもらう。」

 

 

そして今度は唯ちゃんも連れて、三度、羽生家へ

 

祐樹「こんにちは、中沢です。お邪魔します。」

 

母「あなたたち、何のようですか?いくら同じ桜ヶ丘航空の事故の遺族とはいえ、短期間に3度も来るような用事あるのでしょうか?」

 

祐樹「実は、羽生さんに会わせたい人がいるんです。」

 

母「私に?」

 

祐樹「はい、晋太郎君のお母さんと、お父さんに。」

 

私の魔力と、唯ちゃんの魔力で、幽霊の晋太郎君をお父さんとお母さんにも見えるようにする。

 

母「晋太郎・・・、晋太郎なの?」

 

晋太郎「うん、僕、今幽霊なんだ。」

 

母「幽霊?」

 

彩花「晋太郎君、お父さんとお母さんが、自分を責めて晋太郎君は自分が殺したんだと思っていることを心配して、成仏できないんです。」

 

母「当たり前じゃない。あの飛行機に乗せたのは私なんだから。」

 

母「そして自分が転勤さえしなければと、父も自分を責めるのは当然なのよ。」

 

晋太郎「そんなわけない。お父さんやお母さんは何も悪くないんだよ。」

 

母「じゃあ誰を責めればいいのよ。桜ヶ丘航空も、国土交通省も、過失があったとはいえないって国は言ってるの。賠償金すら大してもらえてない。」

 

母「じゃあもう自分を責めるしかないじゃない。」

 

母「結局私は、一番大切なものを失っていじけてるだけなのかもね。」

 

晋太郎「そんなに自分が殺したんだと思ってるなら、せめて僕の願いを聞いてくれないかな?」

 

「うん。晋太郎の願いなら。」

 

晋太郎「笑って。」

 

母「え?」

 

晋太郎「おじいちゃんが、お父さんに死ぬまで二度と笑うななんていうから、お父さんは本当に笑わなくなっちゃった。お母さんもお父さんを気にして笑わなくなった。」

 

晋太郎「でも僕、そんなの嫌だよ。」

 

母「だって最期の瞬間に、私たちは晋太郎に何もしてあげられなかった・・・。」

 

母「晋太郎は生きていれば今は中学生、それから高校に入り、大学に入り、そして就職して、誰かと結婚して幸せになるはずだったのに・・・」

 

母「何より私もお父さんも、晋太郎より先に死ぬはずだったのに、晋太郎を先に死なせてしまった。」

 

母「子供を先に死なせた親なんて、もう笑う資格なんてないのよ・・・」

 

母「しかもあんな姿で。私たちは自分の息子を人間だったとは思えないような、あんな無残で変わり果てた姿にしてしまった」

 

母「自分の息子をあんな無残な姿にしてしまった親なんて、もう一生笑う資格なんてないの」

 

晋太郎「僕が嫌なんだ。僕が死んだことや、おじいちゃんに言われたことを気にして、お父さんとお母さんが一生死ぬまで笑わないなんて。」

 

 

依然何も喋ろうとしないお父さん。

 

晋太郎「お父さん、いつもおじいちゃんに怒られて、ぶたれていたけど、そんな人でもお父さんにとっては大切な親父だって言ってたよね?」

 

晋太郎「僕も同じだよ。僕もお父さんのことを誇りに思ってる。お父さんの子供に生まれてよかった。」

 

晋太郎「誰にだって胸を張って自慢できる。」

 

晋太郎「だから笑って。笑っていいんだよ。」

 

晋太郎「死ぬまで二度と笑うななんて言われたこと、もう忘れて。」

 

そのとき・・・

 

「これは妖怪・・・」

 

唯「不幸の神が現れたのね。」

 

唯「羽生君のお父さんとお母さんが笑うことは、たとえ羽生君が許しても、不幸の神が許さない。」

 

唯「だから不幸の神の退治しなければならない。」

 

こうして私と唯ちゃんは魔法少女に変身。

 

彩花「さあわたしたちの見せ場だよ」

 

唯「一気に決めるわよ。」

 

いつもの武器、私は弓矢で、唯ちゃんは銃で妖怪を倒した。

 

 

あとは晋太郎君のお父さんとお母さんが願いを叶えるだけ。

 

晋太郎「僕を死なせちゃったことに罪悪感を感じて、もう死ぬまで笑わない、しゃべりもしないなんて思ってるのかもしれないけど、そんなこと僕は望んでないんだよ。」

 

晋太郎「病気で死んだ妹も、子供のころお父さんを助けて死んだっていうおばあちゃんも、お父さんとお母さんがずっと笑わないなんてこと望んでないよ。」

 

晋太郎「ねえ、笑って」

 

彩花「晋太郎君もこう言ってるんです。晋太郎君のためにも、笑って下さい。」

 

母「・・・」

 

そしてお父さんとお母さんは、にっこりと微笑んだ。

私たちにとっては初めて見る晋太郎君のお父さんとお母さんの笑顔。そしてお父さんの声。

 

卓「俺は晋太郎に何と言って謝ればいいかわからない。でも晋太郎は、お父さんのことを許してくれるのか」

 

晋太郎「許すも何も、僕はお父さんもお母さんも恨んだことなんかないよ。」

 

晋太郎「むしろ感謝してる。僕はお父さんとお母さんの子に生まれてよかった。お父さんとお母さんのことが好きだよ。」

 

卓「ありがとう。」

 

そのとき、空から晋太郎君に光があたった。

 

晋太郎「そろそろお別れです。彩花さんと祐樹さんのおかげで無事成仏できそうです。」

 

彩花「晋太郎君・・・」

 

祐樹「そうか・・・」

 

母「晋太郎、お父さんとお母さんの子供に生まれてきてくれてありがとう。」

 

晋太郎「こちらこそ、ありがとう。」

 

晋太郎「本当はやり残したことがまだまだいっぱいあった。」

 

晋太郎「Jリーガーにもなりたかったし、日本代表にもなりたかった。」

 

晋太郎「お父さんとお母さんにかわいいお嫁さんや、孫の顔も見せてあげたかった。」

 

晋太郎「お父さんとお母さんより先に行くことになっちゃって、本当にごめん。」

 

晋太郎「でも、お父さんとお母さんの子供に生まれて本当によかった。」

 

晋太郎「いつもは照れくさくて言えなかったけど・・・」

 

晋太郎「産んでくれてありがとう。」

 

晋太郎「これからも2人、幸せに暮らしてね。」

 

晋太郎「それから、祐樹さんと彩花さんも、幸せになってね。」

 

こうして晋太郎君は成仏し、天国に旅立っていった。

 

彩花「いい話だな・・・」グス

 

祐樹「高梨さん、こういう話に弱いんだね。」

 

彩花「うん・・・。」グス

 

 

夕方

 

母「今日はありがとうございました。それではまた・・・。」

 

母「気が向いたらまた遊びに来てね」

 

祐樹「お疲れ様。高梨さん、今回もなかなかかっこ良かったよ。」

 

彩花「そうかな。今回はどちらかといえば祐樹君のほうが頑張ってよね。」

 

祐樹「俺は何もしてないさ。結局一番活躍したのは羽生君だけど、羽生君を助けた高梨さんだもんね。」

 

祐樹「やっぱり高梨さんは、泣いてる人、困ってる人をほうっておけない優しい人なんだな。」

 

祐樹「俺は高梨さんに出会えなかったら、これからもずっと1人で寂しく泣いていただろう。」

 

祐樹「高梨さんに出会えて本当によかった」

 

彩花「ねえ、いつになったらわたしのこと名前で呼んでくれるの?」

 

祐樹「え、あ、じゃあ・・・」

 

祐樹「彩花ちゃん・・・」

 

彩花「ちゃん付けなの?」

 

祐樹「今はちゃん付けで勘弁して」

 

彩花「まあ、いいや。」

 

彩花「じゃあまた明日ね、祐樹君。」

 

 

翌日、またいつもの日常が始まる。しかし・・・

 

晋太郎「彩花さん、おはようございます。」

 

彩花「晋太郎君?・・・なんでここに?成仏したんじゃないの?」

 

晋太郎「なんていうか、成仏はしましたけど、僕、無事に幽霊から妖怪に出世しました。」

 

晋太郎「あの、しばらくはこの辺りをうろうろしていると思いますから、見かけたら声をかけてくださいね。」

 

彩花「そう、それはよかったね。」

 

晋太郎「なんなら、妖怪メダルでいつでも呼び出して下さい。」

 

彩花「いや、それは違うアニメだから。ていうか・・・」

 

成仏したんじゃないんだ。わたしの涙返してよ!

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