第参話は長くなりそうだったので、先に仕上がっている前半を前編として上げます。後半も徐々に書き上げていこうと思いますので、お待ちください。
吹雪達は途中魚雷の形のポットに迎えられ、それに乗って幌筵島北部泊地の室内の波止場に到着した。川内達に少しの事情聴取をされた後、大破状態の吹雪は浴場(入渠ドック)に向かった。
吹雪「ふう……。」
湯煙の中、彼女は壁の端末用ブラケットに端末をセットし、湯船の中に身体を沈める。端末の画面は現在の時刻二三〇〇、残り入渠時間30分程を表示し、湯の成分は彼女が負った傷を少しずつ癒していく。
吹雪「深雪、叢雲、初雪、多摩さん…。ぐすっ…。みんな、ごめんなさい…。」
身体の傷は入渠で治るが、心の傷はそう簡単には癒えない。加えて先程までの化物や深海棲艦との極度な緊張状態から一気に解放されたのもあるだろう。誰もいないと思われた浴室で一人、彼女はすすり泣き始めた。
???「…大丈夫?」
急に隣りから聞こえてきた男の声に、彼女は驚いて咄嗟に立ち上がる。湯煙の中を凝視していると、隣の浴槽には黒髪の青年が浸かっていた。青年は浴槽の縁においてあった眼鏡のレンズの曇りを拭き取って掛け、吹雪の方に向き直る。
???「驚かせてしまったかな?というか、ここは提督と艦娘用の浴場って入り口に書いてあったはずだけど…。」
吹雪「す、すいません、注意散漫で見てなくて…。わ、私は今日幌筵島北部泊地に転属となった、特型駆逐艦吹雪です!」
ビシッとした吹雪の敬礼に、青年も湯に浸かりながら敬礼を返す。
???「よろしく。僕はここの提督の、竹林瑞城(たけばやしみずき)少将だよ。…ところで、もう座っていいよ?というか座って?」
瑞城少将が赤面して俯くのを見て、初対面の男性に一糸纏わぬ姿を見せていたと気づいた吹雪もまた赤面し、慌ててしゃがみこむ。
暫く沈黙が続くなか、それを破ったのは瑞城少将だった。
瑞城少将「ところで、君は出会っちゃったんだよね?」
吹雪「…?えーっと、触手の化物のことですか?」
瑞城少将「そうそう。川内達は最初その化物を追ってたんだよ。…着いたときには手遅れになっちゃったけど。」
吹雪「…………。」
瑞城少将「傷口を抉るような真似をしてすまない。しかし、ならば彼らの恐ろしさが身に染みて分かったと思う。」
吹雪「え…、あ、はい…。」
瑞城少将「吹雪は、スペースビーストって聞いたことがある?」
吹雪「す、すぺーすびーすと?」
瑞城少将「君が会ったような化物を、僕らはそう呼んでいるんだ。宇宙から来たとされている謎の生命体。それらを秘密裏に抹殺するのが、僕らの使命なんだ。」
吹雪「へ、へえ、そうなんですか…。」
瑞城少将「この鎮守府はね、その為に作られたようなものなんだ。通常の鎮守府と違って、主な施設は全て地下。地上にあるのは西洋式のお墓に偽装した地上への出口一本のみ。そこにも厳重なセキュリティが張り巡らされてて、一般人は近づけない。艦娘や僕を含め、500人近くがここで働いてる。それで、君の着任先はその中でも最も重要な役割の、対ビースト迎撃艦隊SADNだ。これから一ヶ月は特別訓練をやって行くことになるんだけれど…。どうしたの?ぼんやりして。」
吹雪「あの…。私が選ばれた理由って、何なんでしょうか…。私は決して凄い性能のいいとか、大きな活躍をした艦という訳じゃありませんし…。それどころか初陣でとんでもないことを…。」
瑞城少将「理由はいずれ話すとして、これだけは理解して。人間の未来を守ること、それが僕らの仕事なんだ。まあ、引き返したいのなら止めはしないけどね。今なら間に合うよ?」
吹雪「いいえ。初雪達のためにも、ここで退くわけにはいきません!」
瑞城少将「うん、いい心構えだね。今日はもう遅いから自室に戻って寝なさい。案内するから。明日は基本的な訓練から始めるよ。」
まもなく吹雪の入渠時間終了を示すアラームが端末から鳴る。二人はそれぞれタオルを巻いて湯から上がった。
日付が変わって時刻〇〇三〇、同鎮守府作戦会議室。薄暗い蛍光灯の下に、SADNのメンバーがテーブルを囲んでいた。
時雨改二「第三遠征艦隊の六人のうち、五人が犠牲か…。一人は救出出来たけど、よい成果とは言えないね。」
瑞鶴改「到着したときにはもう手遅れだった。全て終わった後だったのよ。」
足柄改「しかも肝心のターゲットが消滅したんでしょ?後に残ったのは、ボロボロの生存者一名と、鉄屑だけだったって言うじゃない。」
川内改二「その生存者が状況を証言してるんだけど。」
時雨改二「例の新入隊員の話?」
川内改二「うん。彼女は突如現れた銀色の巨人に、命を救われたって…。」
瑞鶴改「単なる思い違いよ。たとえ別のビーストが居たんだとしても、人間を助けるはずがない。私達がよく知っていることでしょ?」
翌日から吹雪の特別訓練をこなす日々は続いた。遠征専門の日々を送っていた彼女にとって、基本的な訓練でさえ辛いものがあった。暫くすると足柄改教官の戦闘訓練も加わり、ハードさは加速していく。それでも彼女は、粘り強くメニューをこなしていき、途中、第一段階改造も済ませた。
吹雪改「はあ…、はあ…。もうダメ…。もう…限界…。」
自室に戻った吹雪改は、そのままベットの上に勢いよく倒れこみ、顔の汗をタオルでぬぐう。その時吹雪改の視界に、彼女の親友;睦月との記念写真が映った。
吹雪改「睦月ちゃん…、ちゃんと…お別れも…しないままだった…。また…会いたいなあ…。」
呼吸がやっと落ち着いてきたとき、部屋のスピーカーから突然警報が響いた。驚いた吹雪改はベットから跳ね起き、外に出ると、昨日吹雪を保護した川内改二とぶつかった。
川内改二「ごめんごめん。ケガはなかった?じゃあ、今急いでるから!」
そう言って川内改二は廊下の曲がり角の向こうに消えていった。吹雪改も後を追うと、プレートにSADN作戦指令室と書かれていた部屋が目に留まった。彼女が中を覗くと、川内改二や瑞鶴改を始め、精鋭のような面々が集まっていた。程無くして瑞城少将も入室した。
大淀改「ポイントC3でビースト振動派確認!」
瑞城少将「よし!SADN第一艦隊、第二艦隊、出撃せよ!」
一同「了解!」
一斉の敬礼の後、艦娘たちは向こう側に設置されたカタパルトに乗り、急上昇していった。吹雪は思わず駆け寄り、無限に上に続くようなカタパルトの吹き抜けを眺めていた。
吹雪「すごい…。」
瑞城少将「数日後には、君もああやって出撃することになるんだよ。」
吹雪「あ、て、提督。」
瑞城少将「君の特別訓練は全て終了したよ。これで君も立派なSADNメンバーだ。はい、これ。」
そう言って彼が吹雪の右手に握らせたのは、川内改二達も身に付けていた、SADNのバッジだった。円形のバッジの中央には"夜"という文字があり、縁にはShips for Attack & Defense in the NightとSADNの正式名称が掘られている。
吹雪改「え、それじゃあ…。」
瑞城少将「だけど、本当に大変なのはここからだよ。訓練の標的と違って、ビーストは本気で君を喰い殺そうとするからね。」
彼の言葉に少々の恐怖を覚える吹雪改だったが、一方で彼女は久し振りに戦力として登用されることに、それ以上の喜びを感じていた。
ー第参話「夜の狼達-SADN-」(後編)に続くー
本当はこのあとSADNの活躍も書きたいですが、
書く時間の都合上ここまでとします。
後編も気長にお待ちください。