本来は第伍話ですが、冒頭に挿入予定だった話を独立させて、間話として投稿しました。参考しにしたのはウルトラマンネクサスepisode2のリコと孤門が動物園で再会する、あのシーンです。
それでは、どうぞ。
五月中旬の幌筵島南部泊地波止場、一五〇〇。この時刻は特に用事がなければ間宮の甘味処に行っている者が多く、穏やかな波音とカモメなど鳥類の鳴き声のみが響く静かな空間だ。そこに一人の少女がいた。他の鎮守府に転属していった吹雪の友人、睦月である。彼女は他の遠征仲間が甘味処に急ぐのを尻目に、埠頭の先で体育座りをしていた。まるで、誰かを待つように。
十日ほど前。改になったという吹雪から久し振りの連絡があった。睦月にとってこの上なく嬉しかったが、同時に一つの心残りを再び思い出させた。吹雪が幌筵島南部泊地を去ったあの日。本来は送別会が予定されており、睦月を含め彼女の遠征仲間だった面々は彼女の最後の遠征終了後の開催を目指して準備を進めていた。だが、遠征の帰還途中に雷巡チ級らの襲撃を受け、損傷したということで、そのまま転属先に行ってしまったのだ。準備を進めていた面々は失望を隠せなかった。特に睦月は遠征含め彼女と過ごした時間が長く、いつの間にか周りも認める親友の間柄になっていたので尚更だった。その為、久々の通話の間に、"いつかきちんと会って、御別れをいいたい"という想いが頭の中に過った。そして『出来るだけ早く南部泊地に来てね』と言って通話を切ってから十日が経過。連絡もなく、睦月も"忙しいのに無理なお願いをした"と諦めの色が漂っていた。
睦月「…もうそうそろ那珂さん達と合流しようかな。」
彼女が立ち上がろうとしたその時。携帯端末から着信音が鳴り響く。一瞬驚いて端末を手に取ると、画面には吹雪改からの着信を示す表示が。睦月はほぼ反射的に画面をスライドし、端末を耳元に持っていく。
吹雪改『もしもし?睦月ちゃん?』
睦月「ふ、吹雪ちゃん!?吹雪ちゃんなの!?」
吹雪改『うん。ごめんね。中々連絡がとれなくて。』
睦月「ううん。吹雪ちゃんも忙しかったと思うし…。あ、ところであの話は…。」
吹雪改『え、えっと。それが…。』
睦月「…やっぱり無理かな?ご、ごめんね。変なこと言って。もう忘…。」
吹雪改『ううん。そうじゃないの。もう…睦月ちゃんのすぐ近くに来てるの。』
睦月「ええ!?何処?何処?」
睦月が前方の海や左右を見渡すが、吹雪の姿は一向に見当たらない。
睦月「も、もう、吹雪ちゃん。一体何処にいるの?」
吹雪改『ふふっ。すぐう・し・ろ♪。』
慌てて睦月が後ろを振り返ると、右手で通話をする吹雪改の姿があった。彼女は睦月が自分を視認したのに気づくと、笑顔で左手を大きく振る。
睦月「…ふ、吹雪ちゃん!!」
睦月は状況を飲み込むための静止の直後、駆け出して勢いよく吹雪改の胸に飛び込んだ。そして彼女の温もりを感じると、涙を溢れんばかりに流し始めた。
睦月「吹雪ちゃん…会いたかったよ…。わたし…わたし…!」
吹雪改も最初こそ驚いたが、すぐに睦月を抱擁し、頭を撫でる。彼女が泣き止むのを待っている間にも、吹雪改の目からは一筋の滴が頬を伝って流れていた。
睦月「それにしても、ビックリしたよ~。まさか吹雪ちゃんがこっちに来てるなんて。」
睦月が泣き止んだ後、二人は揃って埠頭の先に座り込んだ。
睦月「休暇が取れたんだったらそうと事前に言ってくれればいいのに。」
吹雪改「ごめんごめん。久し振りの再会になるから、ちょっと驚かせたくて。」
睦月はそれを聞いてプイッと横を向いたが、すぐに顔を戻し、笑顔を吹雪改に向ける。
睦月「驚いた。うふふっ。」
吹雪改「あははっ。」
暫く彼女達の久々のガールズトークが続いた。途中遠征仲間が帰ってきたが、旗艦の那珂が「艦隊のアイドルは感動の再会を邪魔するような野暮なことはしないよ」と仲間が待ってくれることとなったのだ。
そして二十分経過したところで睦月はスカートのポケットから何かを取りだし、両手で包み込む。そのまま目前に両手を上げ、念を送るようなポーズをとった。
吹雪改「睦月ちゃん、何してるの?」
睦月は吹雪改の問いにすぐには答えなかった。
睦月「…よしっ!吹雪ちゃん、はい。」
そう言って睦月は手の中の物を吹雪改の左手に握らせる。彼女が左手を開くと、小さなキーホルダーがあった。吹雪と思われるフィギュアが睦月と思われるフィギュアを背負っており、二人は笑顔を浮かべている。
吹雪改「わあ…可愛い…!これ、何処で…。」
睦月「…私が作ったの。吹雪ちゃんが他の鎮守府に行っても、私たちの絆は消えることはないから、私が背中にいると思って頑張って…そんな願いを込めたの。…本当はあの日に渡したかったんだけれど、ごめんね。遅くなって。」
吹雪改「ううん。ありがとう。大切にするね。」
睦月「よかった。御仕事、頑張ってね。」
吹雪改「うん!」
二人の表情は別れの前触れとは思えないほど、爽やかなものであった。
二人はその後、改めて別れの挨拶をした。睦月達の遠征部隊は間もなく水平線の彼方に消え、見届けてから吹雪改も南部泊地を後にした。そして北部泊地に帰還してからすぐの出撃命令で、彼女は睦月からもらった御守り代わりのキーホルダーを握り締め、出撃した。
-第伍話「異界ノ地-meta field-」へ続く
今回は短めでしたが、如何だったでしょうか?
次の話もなるべく早くあげたいと思いますので、
お待ちください。