或る短かな後日談   作:石竹

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幕間 一

 嘗ての要塞、地下都市も。今となっては鉄屑の山。

 嘗て、嘗ての人の世も。今となっては死人の泉。

 

 暗い暗い地下から赤い空へと伸びた瓦礫の搭。遥か昔、最終戦争、その火に呑まれて滅ぶまでは、多くの生きた人間が暮らした。爆撃から逃れる必要の無い今となっては……人間達の戦争が終わり、人間達の時代が終わり。残された死人だけが戦い続ける今となっては。地下に築かれた都市も、私達を創造したネクロマンサー、母様の居城。無数の人々、その亡骸の上に立つ墓標。住まう主でさえ、何処に何があるか。その全てまでは把握していないだろう程に巨大な。

 私に宛がわれた部屋も。もう。あの方は。何処に在るのかさえ、憶えていないのではないか、なんて。いや。もしかすると。

 

 私のことさえ、もう。必要なんて。

 

 首を振る。母様に造って頂いた長い髪が、私の挙動に合わせて揺れる。

 そんな筈は、ないと。確かに母様は――あんなにも優しかった、母様は。何処か、壊れたように。いや、きっと。本当に、壊れてしまったのだろう、と。

 この世界は。終わった世界。文明は滅び。生きた人間など、最早。一人として残っていないかもしれない。そんな世界で。母様は、人の心を持ったまま、生き続けてきたのだから、と。

 

 あの子曰く、ネクロマンサーに捨てられた。私の膝の上で眠る、幼さを残した少女、相応しくない大角を備えた。彼女の髪を梳くように、そっと、頭を撫ぜ続ける。

 

 腕を失くした。失くしたところで、私達はアンデッド。新たな腕を取り付けるのは容易なこと。人形遊びの主役達のように、私達も。どれだけ壊され、どれだけ壊れ――心を失くしてしまったとしても。悪意で練られた操り糸を手繰る。その指先が、その指先の持ち主が。飽きるまでは、何度でも。無理やりにでも踊らねばならない。そして、踊っても良いと。造物主の手の中で、その捩れに捩れた。歪みに歪んだ愛情で、弄ばれることを善しとした。

 私達はサヴァント。私達は、造物主様に。母様に。強い自我と、高度な知能を与えられた寵愛の子。創造主様の手の中で、捨てられるまで。壊れながらも踊り続けることを選んだ手駒達。

 

 昔々は。心優しく。いや、今も、変わらずに。只々、狂ってしまっただけ。崩れ果てた心、僅かに残された、心、共に残った大切なもの。壊れて落ちていく母様の心と共に、私達への愛情は闇の底へと落ちていった。それだけのこと。例え、私達など既に、その瞳の中には映りこむことさえないのだとしても。主の意志は絶対で。絶対だと、分かっているのに。いるというのに。

 

 この、躊躇いも、逡巡も。全て、今更。私は既に、反旗を翻した後で。あのまま、あのまま。大切な大切なそれと共に有り続けることが出来たならば。そう思って、私は。

 

「……私は――」

 

 腕の中の小さな体。同じ主によって命を与えられた。彼女の頭を、只、撫ぜながら。

 

 どうするべきか。私に。何が、出来るのか。

 

 自分に問い。自分に問い。問いかけた私へと返す答えは。

 

 

 見付からない、ままで。

 

 

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