インフィニット・ストラトス ~神に抗った少年と少女の物語~ 作:ぬっく~
「ええとね……一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」
「そうなのか? 分かっているつもりだったんだが……」
シャルルが転校して来てから五日が経って、今日は土曜日だ。IS学園では土曜日の午前は理論学習、午後は完全に自由時間になっている。とは言え土曜日はアリーナが完全開放なので殆どの生徒が実習に使う。それは一夏も同じで、今日もこうしてシャルルに軽く手合せをしてもらった後、IS戦闘に関するレクチャーを受けていた。
「知識として知っているって感じかな? さっき僕と戦った時も間合いが詰められなかったよね」
「うっ、確かに……。『
「白式は近接格闘オンリーだから、射撃武器の特性を理解しないと勝てないよ。特に
「直線的か……うーん……」
「あ……だからって加速中に軌道を変えない方がいいよ。空気抵抗や圧力の関係で負荷がかかると怪我しかねないしね」
「なる程……。にしてもシャルルの説明は分かりやすいな! ……今までこう」
一夏はシャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話の度に頷く。
何せシャルルの説明は分かりやすい。非常に分かりやすいのだ。
『こう、ずばーっとやってから、がきんっ! という感じだ』
『何となく分かるでしょ? 感覚よ、カ・ン・カ・ク』
『防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』
一夏に今まで教えてくれた自称コーチたちのありがたいお言葉がこれだ。
色んな意味で行き詰まっていた(そして息詰まっていた)一夏の前に現れた救いの主ことシャルル・デュノア。その感動はとてもではないが言葉では言い表せない。男同士気を遣わなくていいのも最高だった。
「今まではこうなんだ? 一夏」
「あんなに親切に教えてやったのに何よ!」
「何が不満だったと言うのかしら?」
自称一夏の専属コーチ×3が後ろでぶつくさ言っている。
さっきも言ったように土曜の午後はアリーナが全開放されているので、ここ第三アリーナでも多くの生徒が所狭しと訓練に励んでいる。しかし、学園で二名しかいない男子が両方いるせいか、第三アリーナは使用希望者が続出。かなり過密な状況だった。
「とりあえず射撃訓練をするのがいいと思うんだけど……『白式』って
「ああ……
「多分だけどそれってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」
「ワンオフ・アビリティー……『
「そう……ISと操縦者が最高の相性状態にある時、自然発生する能力のことだよ」
こう言う説明がすらすら出て来る辺り、シャルルが如何に優秀かが良く分かる。
「相性に依存する能力だから発動しないケースが多いけどね。それを補う為にアビリティー以外の特殊能力を複数の人間が扱えるようにしたのが第三世代のISなんだ」
「へぇ……」
「白式は第一形態なのにアビリティーがあるっていうだけで物凄い異常事態だよ。前列が全くないからね。しかも、その能力って織斑先生の……初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じだよね?」
どうもそう言うことらしい。千冬姉さんと同じなのは武器だけではなく、その仕様までもが同じらしい。何とも因縁めいている。
「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」
「ううん。姉弟だからってだけじゃ理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的に出来るものじゃないんだよ」
「そっか。でもまあ、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」
「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。はい、これ」
そう言って一夏に渡してきたのは、さっきまでシャルルが使っていた五五口径アサルトライフル《ヴェント》だった。
「え? 他のやつの装備って使えないんじゃないのか?」
「普通はね。でも所有者が
「お、おう」
一夏に至っては、初めての銃器は妙な重さを感じてあた。実際にはISのエネルギーフィールドがあるので重たくは無いはずなのだが、初体験の武器なので精神的にそう感じたんだろう。
「か、構えはこうでいいのか?」
「えっと……脇を締めて。それと左腕はこっち。わかる?」
ひょいと一夏の後ろに回ったシャルルは身長差があるものの、ISの特性で浮いていることから自由な動きで一夏の身体を上手く誘導する。
「火薬銃だから瞬間的大きな反動が来るけど、ほとんどはISが自動で相殺するから心配しなくてもいいよ。センサー・リンクは出来てる?」
「銃器を使うときのやつだよな? さっきから探しているんだけど見当たらない」
高速状態での射撃なので、そこは当然ハイパーセンサーとの連携が必要になる。ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送るために武器とハイパーセンサーを接続するのだが、白式にそのメニューが見つからないようだ。
「うーん、格闘専用の機体でも普通は入っているんだけど……」
「欠陥機らしいからな。これ」
「100%格闘オンリーなんだね。しゃあ、しょうがないから目測でやるしかないね」
千冬姉さんと同じ機体と言っている時点で私は白式にセンサー・リンクが無いことは予想がついていた。
「じゃあ、行くぞ」
「うん。とりあえず撃つだけでも大分違うと思うよ」
感覚と言うのはやってみなければ絶対にわからないもの。一夏は一度深呼吸をしてから、ぐっと引き金に力を込めた。
バンッ!!
「うおっ!?」
物凄い火薬の炸裂音に一夏は驚く。
「どう?」
「お、おう。なんた、アレだな。取り敢えず『速い』って言う感想だ」
弾丸の速度はかなり速いというのはもちろんわかっていたが、自分で撃つとそれがより顕著にわかる。
それに加えて身体に来る反動は、殆どが相殺されているとはいえ、刀とは全く違う手応えに、初めての体験というもあって心臓がバクバクと鳴っていた。
「そう。……
「その隙に間合いを開けられてるってことか……なる程なあ。たまに一方的な展開に持って行かれるのはそういうことだったのか」
その通りね。格闘メインの箒さんはともかく、鈴やセシリアさんと戦うと一方的な展開になる理由を一夏は理解できたようね。
「そういう事さ。マガジン使い切っていいから続けて」
「ああ」
一夏は続けて二発三発と空撃ちをする。手から全身へと伝わる衝撃を感じながら、逆にどう間合いを詰めるかを考えていた。
「そう言えば一つ気になっていたんだけど、シャルルのISってラファール・リヴァイヴなんだよな?」
山田先生が使っていたIS『ラファール・リヴァイヴ』(通称リヴァイヴ)はネイビーカラーに四枚の
背中に背負った一対の推進翼中央部分から二つの翼に分かれるようになっていて、より機動性と加速性が高くなっている。さらにはアーマー部分も山田先生のものより小さくシェイプアップされている上に、マルチウェポンラックとして大きなリアスカートがついている。そこにも小型の推進翼がついていて、主に姿勢制御に使っているようだった。
そして何より違うのが肩部分のアーマーで、本来ついている四枚の物理シールドが全て取り外されている。その代わりに左腕にシールドと一体化した腕部装甲が付けられていて、逆に右腕は射撃の邪魔にならない為なのかすっきりとしたスキンアーマーだけになっている。
「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式名称は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。
「倍!?」
「
「ちょっとした火薬庫みたいだな……」
その様子を見ていた私たちはそのことで疑問に思っていた。
「二十……大した数ですわね」
セシリアたちも気付いていたようで、説明する。
「多くの装備を積もうとも、同時に使える数は限度がありますし。呼び出し時間のリスクを考えると扱いも容易ではないはず……」
「あの転校生。何か特殊な技能でも持ってんのかしらね」
私たちはシャルルに目を向ける。
「ねぇ……ちょっと見てよあれ……!」
「何だ? 騒がしいな」
騒ぎの元に顔を向けるとそこにはあいつがいた。
「ドイツの第三世代型だわ……」
「まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」
そこにいたのはもう一人の転校生、ドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
転校初日以来、クラスの誰ともつるもうとしない、どころか会話さえしない孤独の女子。
「あいつ……」
「おい……」
ISの
「! ……なんだよ」
気が進まないが無視する訳にもいかない。一夏は取り敢えず返事すると、言葉を続けながらラウラがふわりと飛翔してきた。
「貴様も専用機持ちだそうな。ならば話は早い……私と戦え」
「……嫌だ。理由がねえよ」
「貴様になくても私にはある。……貴様がいなければ教官が」
ああ……そういう事ね。
あらかた予想はしていたが、どうやらアレのことをラウラは許せないのね。
「大会二連覇の偉業をなしえただろうことは用意に想像できる。だから私は……私は……貴様の存在を認めない」
千冬姉さんの教え子と言う以上に、その強さに惚れ込んでいる。だから千冬姉さんの経歴に傷を付けてしまった一夏が憎い、と……。だけど、それは……。
「また今度な……。トーナメントだってあるだろう」
「逃げる気か……ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!!」
言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。
「!!」
ゴギンッ!
「……全く。面倒事は程々にして頂戴……」
「貴様……」
横合いから割り込んできた春名が大剣で実弾を弾く。
「我々に恩を返さない裏切り者が!」
「裏切り者とは失礼ね。それに恩なんて売った覚えもないし。どうせ、貴方達の目的は私と言う存在が欲しいんでしょ?」
お互いに涼しい顔をした睨み合いが続く。
「
『そこの生徒! 何をしている!?』
春名が詠唱をしようとした瞬間、突如アリーナにスピーカーからの声が響く。騒ぎを聞きつけてやって来た担当の教師だろう。
「ふん……運がいいな。今日は引こう」
横やりを二度も入れられて興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへと去っていく。
「一夏、大丈夫だった?」
「あ、ああ。助かったよ。春名」
つい数秒前までラウラと対峙していた鋭い眼差しはもうない。いつもの春名へと戻り一夏の顔を覗き込んできた。