Doctor Who Who is this girl? 作:ストロマトライト
Doctor Who、日本では知ってる人は知っている作品ですが、認知度はそんなに高くないかな……。
SF好きの方やフーヴィアンの方々にも読んでいただければ幸いです。
光も闇も呑み込む巨大な時空の渦の中。
その渦の中で今まさに、ある青いポリスボックスが物凄い回転をしながら進んでいく。
時たま発生する時空雷に当たりながらも、その青い箱は止まることを知らず進み続けていた。
いや。「進んでいる」よりは「流されている」の方が正しいか。
「まずいまずいまずいぞ! あらゆる機能が低下し始めてる! 」
ポリスボックスの中では、一人の人物が火花を吹き出す周囲の機械類と格闘中であった。
「タイムワープに入った途端これだ。どうやら少し面倒な渦に突っ込んだらしい」
奇妙な音を発するドライバーのようなものを周囲の機器に向けながら、その人物は誰に言うわけでもなく叫ぶ。
「計器類は全部ダメか。一体ターディスはどこへ向かってるんだ?」
ポリスボックスは、もはやその人物の制御下にない。ただ流されるまま、渦の中を転げていく。
どこにたどり着くのかは、検討がつかなかった。
「何とか安定させないと……そうだ、これなら!」
手近にあったチューブを引き抜いて、ドライバーの光を当てた。
するとどうだろう。ボックス内部に独特の轟音が響き、モニターに到着するであろう年代と緯度、経度が表示される。
〈AD1947 Feb 16 Latitude: 35.45217787 Longitude:139.43637193〉
そして次第に回転は止み、動きは安定し始める。
「よし! 今日はついてる! 行ける、行けるぞ!」
少年、文月 司(ふみつき つかさ)を取り巻く日常は概ねありきたりなものと言える。
11歳までは父親の仕事の都合もあってアメリカにいた。その後日本に戻り、中学を卒業して高校へ。最初の頃は慣れないことも多かった日本での生活に、今はすっかり慣れきっている。
関東に数年ぶりに雪が降って二日が経った今日という日も、外にまだ雪が残っていること以外はいつもの日常が彼を取り巻いていた。
「えっ、Readingの宿題って35ページまでじゃないのか!?」
「違うよ。36までだ」
「まずい、昼休みあと5分しかない! 悪い司、ノート見せてくれ!」
呆れ顔で司はノートを友人に手渡す。
これが彼の日常。全国の高校2年生とほとんど変わるところはない。命の危険を感じることもなく、主だった悩みと言えば近づきつつある大学受験と進学校ゆえの宿題の多さくらいのものである。
「ほら時間ないぞー。あと3分くらいか。あの先生は時間通りに来るからなー」
「お前は鬼か!? クソッ、絶対書き写してやる!」
友人が必死でペンを動かすのを横目に、司は授業の準備をし始めた。
これが日常である。多少退屈ではあるが、司に不満はなかった。日常上等。平穏な生活万歳。座右の銘は「普通が一番」。漫画やアニメの主人公のように、非日常を経験したいと思ったことなど彼には一度もなかった。
「ほらあと30秒。急げ急げ」
「いや間に合うね! 間に合わせ……」
死に物狂いになる友人。だが無慈悲にも授業開始のチャイムは鳴る。
「休み時間終わったぞ。全員席に着けー」
そして時間きっかりに、教師も教室に入ってきた。
「はい時間切れ。というわけでノート返せ」
追い討ちをかけるように、司は友人から自分のノートを取り上げる。
「ちょっ……あと少し! あと少しだけ!」
「残念でした」
こんな生活が、もう随分長く続いている。だがこれでいいと、司は思っていた。この画一化された毎日を送っていくうちに、嫌な記憶も辛い記憶も埋もれていくはずだから。
司がいつも通りの日常を送っていたのと同じ時、日本の閑静な住宅街に独特のエンジン音が響いた。
それまで何もなかったはずの建物と建物の間に、突然青いポリスボックスが出現する。
「色々あったけど一見落着。とりあえずここが1947......」
ポリスボックスから一人の「少女」が現れ、辺りを見回した。
「1947年じゃあ……なさそうだ。やっぱりさっきの雷で少し狂ったかな? っと、それよりも……」
少女は再びボックスの中に戻っていく。
「でさー、文月はもう志望校とか決めてんの?」
「そうだなあ、理数は全然出来ないから私立だと思うけど。なるべく都内の」
日が落ち始めた夕暮れ時、司は友人と帰路についていた。
最近はクラス内でも友人間でも専らこの話題でもちきりだ。あと数ヶ月もすれば最高学年、高校3年生である。受験や大学の話がよく出るようになるのは自然な流れといったところか。
「でもいいよなぁ、文月。お前12歳までアメリカいたんだろ。文系で英語得意っていうのは強みだよな」
「別に特別得意ってわけじゃない。俺より出来る奴はいっぱいいるし。それに俺は英語出来ても古典がなぁ……」
「古典はフィーリングだよフィーリング! 所詮は日本語だ」
「ほーお。で、そういうお前は前回の古典何点だった?」
「……39点」
「つまりフィーリングじゃ解けないってことだろ」
いつもと同じ帰宅の光景。会話も対して変わらない。
恐らくこのまま、自分は高3になり、受験戦争に揉まれ、どこかしらの大学に行き、社会人になり、歳をとり、上手くすれば家族にでも看取られながら死ぬのだろうと、漠然とながら司は考えていた。
つまらないありきたりな人生だと思う者もいるだろう。だが、この世界にはその程度の幸福な生活さえ送れない人間が掃いて捨てるほどいること考えれば、全く贅沢なことだ。
今日もこのまま、いつもと変わらない1日が終わろうとしている。
「じゃあな文月。また明日」
「おう。明日な」
大通りの交差点に差し掛かり、司は友人と別れた。
「そうだ、買い物頼まれてたんだっけ」
思い出したようにポケットからスマートフォンを取り出し、母からのメッセージを確認する。
玉ねぎを買い忘れたから買ってきてほしい、とのことだ。
「スーパーに行くんだったら……こっちか」
真っ直ぐ家へ帰るのとは異なる方向に足を進める司。
この一歩は、彼の運命を大きく変えようとしていた。
「ない、ない、ない、ない……どこいったんだ?」
ポリスボックスの中で、少女はある物を探していた。
「鏡がないと顔が見えないじゃないか! 僕は今どんな姿なんだ? なるべく若ければいいんだけど」
すると唐突に、少女は自分の顔をペタペタと触りだす。
「うん、皺はあんまりなさそうだ。これは期待できるぞ。とりあえず鏡だよ鏡……」
スーパーで買い物を済ませて司は帰路に着いた。
ロゴの入ったビニール袋には玉ねぎが一個。これをぶら下げて歩くのは少々間抜けかと思い、バッグの中に入れる。
時刻は5時18分。
まだ時間が少しあるから本屋にでも寄って行きたいところだが、さすがに頼まれた玉ねぎを持っているのではそれも気が引けた。
「今日はもう真っ直ぐ帰るか」
夕陽はほぼ完全に沈んでいた。周囲もすっかり暗くなっている。どこかで烏の鳴き声が聞こえる。辺りに人は全くいない。
変わらない風景。
同じ日常。
でもその風景は、これまでの司の人生で最も思い出したくない日と恐ろしいほどよく似ていた。
「違う気のせい、気のせいなんだ。気にするな俺」
とは言いつつも、自然と早足になってることに司自身気づいていた。
視界の端に周囲の建物が映っては過ぎていく。いつも見ている風景のはずなのに、妙に今日は「あの日」に似ている。
少しでも早く家へ帰りたい。風景が迫ってくるような感覚に襲われながら司は歩みを進めた。
赤信号の車の通らない信号を突っ切り、小さな公園を抜けて、白いアパートの前を通ればすぐに、
「……ん?」
司の歩みは、そこで止まった。
途端に、つい先ほどまで彼を襲っていた感覚も消える。
理由は簡単。建物と建物の間に、すっぽりと青い「箱」がおさまっているからだ。
「何だこれ? 一昨日はこんなもんなかったはずなのに」
箱には〈Police Box〉の文字。他の文字も英語であるところを見ると、どうやら日本のものではない。
「誰か捨てたのか? でも誰がこんな物……」
そっと右手を伸ばし、司は箱に触れた。少しザラザラとした感触。恐らくは木製だ。
「ポリスボックスってことは警察関係の物か。いや、だとしたらこんなところに捨てるわけないだろうし」
その時、司はボックスに取手が付いているのを見つけた。よくよく見ると、今彼が前にしている面は扉になっている。
その証拠に取手の横にはPULL TO OPENの文字。
司はもう一度手を伸ばして、ゆっくりと取手を掴む。
そして思い切り扉を開けた。
「……っと、どうして僕が開けようとしたら勝手に開いたんだ? ああそうか、君が開けたのか」
司が扉を開くと、中から人が出てきた。
「えっ、な、なんで人が!?」
「なんでって、これは僕のターディスだからさ。いや正確には盗んだものだけど」
「盗んだ? これを? どうして?」
「そんなことは今どうでもいいんだ。それより鏡だよ鏡! そうだ、君鏡は持ってない?」
謎の人物は唐突に、司に鏡を要求してきた。
「鏡……スマホの手鏡機能でもいいなら」
「ああそれでいい! 貸してくれないか? 早く!」
スマートフォンを取り出して手鏡をタッチし、司はゆっくりと手渡した。
ボックスから出てきた人物はそれをひったくるように取り、
「ありがとう! どれどれ......新しい顔は」
画面を見て、硬直した。
目を大きく見開き、「彼女」は微動だにしない。
「......何か、ありました?」
恐る恐る司が聞く。
すると、彼女は左手で頰に触れて言った。
「なんてこった。女になってる!! 僕が女になってるぞ!?」
ストロマトライトです。いかがでしたでしょうか。
私自身、Doctor Whoは小学生時代からファンでした。個人的には10代目ドクターが一番好き。皆様は何代目のドクターが好きでしょうか?
今後は日本を舞台にした回も書きたいと思っています。今考えているのはエイリアンネタとしてかぐや姫とか。
更新はゆっくりとしていくつもりです。