Doctor Who Who is this girl? 作:ストロマトライト
今回からストーリーが進み始めます。
アメリカ軍厚木基地の公表されていない地下区画、その最深部へとエレベーターはドクターとハワード、警備の兵士を連れていく。
「CIAはどういう経緯でそれを回収したんだい?」
「1947年、ロズウェルに落ちたUFOは1機では無かった。落ちたのは3機、うち1機を我々が回収したんだ。そして機体内部を調査した結果、我々の回収した一機から、ある生命体を発見した。それがワンダラーさ」
「しかしなんで日本に? アメリカに置いといた方が面倒がないだろうに。例えば……エリア51とか」
「エリア51は軍の管轄だ。当時まだ新設の弱小機関だったCIAは合衆国内でワンダラーの利権を他の機関に奪われることを恐れ、まだ占領下の日本にワンダラー研究の拠点を移したんだ。当時厚木はGHQ(連合国軍総司令部)の管轄。軍の下であることに変わりはないが、エイリアン研究に興味を示したマッカッサー元帥の協力もあり、この基地の地下、公表されていないセクションにあれを保存していた」
「エイリアンの研究一つでも、利権争いか……まったく、人間もよくやるよ」
ハワードから約束通りに返却されたソニックドライバーを宙に放っては取るのを繰り返しながら、ドクターはため息交じりに言った。
再生した直後に信頼できる相手、例えば「コンパニオン」が側にいないといつもこうだ。守るべき人類に対しての諦観や、敵対してきた種族への憎悪。そういったものがドクターの思考を占める。
「何も敵は合衆国の機関だけではないさ。カナリーワーフの戦い以降、イギリス政府には対エイリアン戦争を想定した特務機関があり、国連直属のUNITも常に動いている。それぞれの機関がお互いに二重スパイを送り込んでいるというのが現状だ」
カタン、と三人を乗せた箱が唐突に揺れた。
機密保持の観点からエレベーター内に何の表示もなかったため分からなかったが、どうやら目的の場所に着いたようだ。
その証拠に、ドクターの目の前で重い扉が開き、向こう側から光が差し込む。
「ここから少し歩くぞ」
300メートルほどある照明に照らされた通路。10メートルおきに銃を持つ兵士が左右に待機していた。
「物騒だなぁ。僕は銃が嫌いだ」
「皆が君のように力や知性を持っている訳ではないさ。君があの青い箱や光るペンを自衛のために持つのと同じく、私たちは素手の力が弱い代わりに銃器や核で猿とは差別化を図った」
「ペンじゃない。あれはソニックドライ……」
「無駄口叩いているなら置いていくぞ」
無表情のまま、石のように立つ兵士たちをよそに三人は進んで行く。
そしてワンダラーの待つ区画の、重厚な扉が近づいてきた。
「だから、知りませんでしたって! ここが米軍基地だってことも、その……エイリアンとか何とかいうものも!」
厚木基地の地下、何階にあるのかも分からない尋問室で司は座らせられていた。
目の前には、頭を丸めた屈強そうな男。胸のネームプレートには、ライリー・メイスン大尉と書かれている。
「では、あの青いポリスボックスはどこで見つけた? 何故君はあの中に?」
「そんなの、成り行き上ですよ。あのドクターって女の子が中で着替えてくるって言って、それから30分も出てこないから心配で……だってあの箱の中に30分ですよ!」
「それで入ってみたと」
「はい。でもそしたら中はとても広かったんです。あの箱の外見からは想像できないくらい……ドクターは『見かけより中が広いのが僕たちの技術だ』って言ってましたけど」
司はちらりと左腕の時計を見る。時刻は午後6時30分。
思えば、あのターディスとかいうポリスボックスを見つけて、ドクターという少女に出会ってからまだ一時間半しか経っていない。日常なんてものからは、こうも簡単に逸脱してしまえるのだ。
「君は今、いくつだ」
唐突に、ライリー大尉が聞く。
「17歳……ですけど」
「まだハイスクールか。うちのガキと同い年だな」
「お子さんが、いらっしゃるんですか?」
「ああ、別れた妻との間にな。今は向こうに住んでる。帰国した時にはたまに会ってるんだ」
子持ち、それに自分と同い年の子供がいると聞くと司は少し安心できた。
「だからなあ、俺も心が痛むんだよ。あれはアフガンだったか……パトロール中に対戦車ロケットを持った子供に襲撃を受けた。一発目は気づけずに部下が3人死んだ。俺はそのガキを見つけると、躊躇なく銃の引き金を引いてた」
急に男、メイスン大尉の表情が変わる。
非常に冷たい目。何も見ていないようで、それでいて何もかも見透かすような。
「つまりだ、俺はガキと同い年の奴相手でも容赦しないってことだ。あのハワードってCIAの野郎は君を記憶処理して返せと言ってたが、軍としてはあの青い箱と『ドクター』の情報が欲しい。知ってるんだろう? 教えてくれよ、俺も嫌なんだよ」
メイスン大尉は右手で銃の形を作り、司のこめかみに突きつける。
「子供の頭をブチ抜くのはさぁ。ハハハハハッ!」
高笑いが尋問室に響き渡る。
狂気が滲み出ていた。これが所謂サイコパスというやつなのかと、司は恐怖に足を震わせながら感じる。
しかし、この場で弱気な態度を見せるのはまずい。あくまで気丈でいなければ。
「知らないことは、話せませんよ。気に入らないなら僕を殺せばいい」
「へぇ……面白いなぁ、君。それじゃあ、ちょっとゲームでもやるか」
メイスン大尉はどこからかリボルバー拳銃を取り出し、テーブルの上に置いた。
「この中には弾丸が一発。つまりロシアン・ルーレットだ。ちなみに、この部屋は今監視もされてない。君が仮に死んでも、君が抵抗して俺から銃を奪おうとしたから撃ったと言える。俺が死んだら……そん時は自分で考えろ」
置かれたリボルバー拳銃のグリップは、司の方を向いていた。
「せっかくそっちに向いてんだ。君からやってみろよ」
核シェルター並の厚さと思われる扉がゆっくりと静かに開いていく。
ワンダラーを収容するその部屋はあまりに明るく、それはドクターが目の痛みを感じるほどであった。
「眩しすぎる。もっと証明の光量を落として欲しいな」
するとハワードがサングラスを取り出して、
「これを付けろ。私もここに来る時は付けてる」
「似合わなそうだからやめとくよ。ところで、何でこんなに眩しくしてるんだい?」
「科学者連中の言うことはよく分からんが、強い光がワンダラーの活動を弱めるんだそうだ」
白い照明に白衣の研究者たち、白いテーブルに機器類。その中でドクターとハワードが異色の服を着ているため、まるで純白の服についてしまったシミだ。
「肝心のワンダラーは?」
「ほら、あれだ。あの中にいる」
ハワードの指差す方向には円筒型の培養器のようなものがあり、その下からは触手にも似た無数のケーブル類が各機材へと伸びていた。
使われているガラスにはVIP車両などに見られる中が見えないようになっているスモークガラスが使われている。ワンダラーはどうやらあの漆黒の向こうに鎮座していると見えた。
「スモークを上げさせろ。ワンダラーを見せてくれ」
「その必要はないよ」
ハワードが言うが早いか、ドクターが持っていたソニックドライバーを培養器に向ける。ドライバーの先端からはオレンジ色の淡い光が放たれ、スモークが自動的に上がる。
勝ち誇った顔をドクターが見せる。
「余計なことはするな」
「この方が早いのにー」
ふくれ面のドクターの目の前に現れたのは、液体に満たされた容器の中に佇む、ボロの服のような何かだった。
魔法使いが着ているような黒いローブ。その袖から腕と思われる部分が出ている。手には三本の指があり、真ん中の一本が他の指より長く鋭く伸びていた。顔があるべきところは暗く、どうなっているか分からない。
手と足を曲げ、体育座りでもしているかのようにそれはいる。
「これが……ワンダラー?」
「そうだ。まるで浮浪者みたいだろ。だから……」
「放浪者であり徘徊者、そして不思議な者。だからワンダラーと呼ぶのです」
突然、二人の目の前にひゅっと白衣の男が現れた。
「どうも。厚木ベースラボの主席研究員、バックス・ドートリッヒです。お会いできて光栄です、ドクター」
バックスと名乗る研究員が右手を差し出す。ドクターが手を出すと、彼はその手をブンブンと振った。
「こちらこそ。研究者くん。僕は有名人みたいだね、どうやら」
「そりゃあ有名ですよ! いやあ、まさか生きてるうちに本物のドクターが見れるなんて。さっきあの青いポリスボックスが運ばれてくるのを見たら、もうワクワクしてどうしたらいいか……っと、失礼」
バックスは意味ありげに咳払いした。
「こいつは現在も活動状態にあります。微弱な電気信号が体内を巡っていて、どうやら仮死状態にあるらしいです。それにこのラボの強い灯、これが奴に影響するらしくて。そのまま晒すと仮死からホントに死んでしまいますから、ガラスにスモークをかけているんです。……すいません一緒に写真お撮りしても?」
「もちろん。ほら、ハワードに撮ってもらおう」
「ああ、ハワードさん申し訳ありません。撮っていただけます?」
渡されたスマートフォンを見て、渋い顔しながらもカメラのアイコンをタップした。
画面上で二つの顔認証が光って撮影準備が整う。
「ほら撮るぞ。三、二、一」
その後スマートフォンを返されるや否や、早速バックスが撮影した写真を確認する。
「ありがとうございます! 一生の宝物にしますよ! あ、あの……もしよろしければ押収されたあのポリスボックスとドクターと私で……」
さすがに業を煮やしたハワードがバックスをギロリと睨んだ。
そんな二人をよそに、ドクターは一人培養器へと一歩一歩歩みを進める。
すぐ目の前までたどり着くと、服の胸ポケットからソニックドライバーを取り出して培養器へと向けた。先端から淡い光と特徴的な音が発せられる。ドクターはそれを30秒ほど続けていた。
「おい、一体何やってる」
ハワードの声に耳も貸さず光を当て終えたドライバーをしばらく見つめると、ドクターはぽつりと呟いた。
「バックス。この培養器を開けてくれ。今すぐに」
辺りにいた誰もが、彼女の言ったことを理解できなかった。
この怪物の檻を今ここで開けろとは。
「……すいませんが、それはできません。危険すぎます。仮死状態とはいえ、解放すれば何が起こるか」
「君がやらないなら、別にいい」
再びソニックドライバーの光を向けるドクター。
異変はすぐに起きた。周囲のコンピューター類が、培養器のロックが外されたことを〈CAUTION〉の赤い文字とともに警告し始めたからだ。
容器内で液体が排水される音が、それと同時に響く。
「おい何をやってる! 今すぐやめろ!」
ハワードが所持していたグロック17ハンドガンを取り出し、ドクターの後頭部へと突きつける。
研究員のバックスも、いやそれ以外の研究者たちまでがハンドガンを取り出し、ドクターへ向けていた。今やフロア中の銃口が、ある一点に向いている状態である。
一旦ソニックを容器から離し、ドクターは素直に両手を挙げた。
「何のつもりだ。そいつを開けたりすれば、ワンダラーが解放される。どれだけの被害が出るか、見当もつかないんだぞ!」
「じゃあ、お前たちは『彼』に何をした!? いくつもの時と銀河を超えたその先にいた僕のところに悲痛な助けを求めるほどに、お前たちは一体何をしたんだ!!」
ハワードに、そしてその場にいる全員に向けてドクターが怒鳴った。
側から見ればそれは大人たちに刃向かう少女の叫び。しかし実際には数千の時を生き、幾多の宇宙を旅し、無数の戦争をくぐり抜けた一人の言葉だ。
「今ソニックで調べて分かった。彼はここに入れられてから無数の拷問を受けたんだ。仮死状態になったのはそうすることで痛みから逃れるため」
銃口にも怯まずに、ドクターは続ける。
「この狭い檻の中で助けも呼べずに、彼は耐え続けた。分かるか、彼の苦しみが!!」
「し、仕方なかったんです。我々もワンダラーが脅威なのかそうでないのか知るために……」
「黙れ! 君たち人間はいつもそうだ。自分たちの興味のためだけに多くの他の生物を殺して、利益とする。いつも僕は思うんだ。何で人間を毎回助けてしまうのか。お前たちなんて、宇宙史上最低最悪の殺人集団だ! ……ダーレクを除いて」
フロア一体が騒然となる。ドクターも、ハワードも、バックスそしてその他の研究員も微動だにしない。
その瞬間に時が止まって絵画になってしまったかのように、だ。
「言いたいことは以上か。お嬢さん」
ハワードが怒りを殺して言っているのは誰の目にも明らかだった。
「この状況で君に勝ち目はない。あくまで檻を開けようと言うのなら、ここで射殺する。ドクターに弾丸が通用することは知っているぞ」
「やりたきゃやればいい。ただしもう準備は整った。僕があと一回ソニックを当てればワンダラーが解放される。誰にも止められないよ」
「そいつを解放して君に何の利益がある? 君の……コンパニオンにでもするのか?」
「僕はあくまで、助けを求める者を助けたいだけさ。いつもそうしてきたんだ。マネキン兵士にサイの宇宙警察、脂肪型エイリアンに蛇みたいな宇宙囚人、そんな奴らから僕はいつも助けてきた。そして今回も僕は……」
ドクターの言葉は、そこで途切れた。
理由は簡単。彼女の後ろにある容器のガラスが、衝撃音と共にピキッとヒビが走ったからだ。
ヒビの中心点には、ワンダラーの大きな手がべったり張り付いていた。
「ワンダラーが……動いた?」
バックスが驚愕とともに呟く。銃口は一度、ドクターから容器へと移る。
コンピューター類は、再び危険を知らせた。《WANDERER ACTIVATED》の赤い文字。その間にもワンダラーのもう一方の手も容器のガラスを破ろうとする。
最初のヒビを中心として、勢い良くヒビが広がっていった。
「仮死状態だったはず……ドクター、お前一体何をした?」
「僕にも分からない。僕はただこの容器に細工しただけで……どうなってるんだ?」
ドクター含め全員が一旦培養器から後ずさった。フロアの照明が明るい白から警告を発する赤に変わる。
そして、事態はそれとほぼ同時に起こった。ヒビは限界まで達し、ついに割れたのだ。
「全員警戒しろ! ワンダラーが解放された!」
皆が銃口を、ドクターはソニックドライバーを、動くボロ切れの化け物へと向ける。
先ほどまで暗く隠れていた頭部が露わになる。ぬめりとした表皮に目のない深海魚のような顔。口には切れ味の良い肉食獣を思わせる歯が生えそろっていた。
「ハワードさん、どうしますか? 撃ちますか!?」
「まだ待て。貴重な検体だ」
ワンダラーは微動だにしない。ガラスが割れたことを除けば、状況はあまり変わらなかった。
確認のため、研究員の一人が近づく。
「ま、まだ危険じゃないですかね。仮死状態ではありますけど……」
バックスがコンピューターのモニターを見ながら警告した。
だが研究員は歩みを止めなかった。一歩、また一歩とワンダラーに近づいていく。
地獄から這い出てきたようなエイリアンは、口からシューという呼吸音を出し始める。目はないはずが、まるで近づいてくる研究員が見えているかのようだった。おそらくは別の感覚器官が発達しているのではないだろうか。
「まずい、そいつから離れて! 活動状態に入った!」
「離れてください! 今仮死状態から活動状態に!」
ソニックドライバーを向けたドクター、モニターを見るバックスが同時に叫ぶ。
が、時はすでに遅し。ワンダラーはその口を大きく開け、研究員に頭から飛びかかった。
「全員離れろ、離れるんだ!」
辺りに飛び散る鮮血。絶望的な研究員の叫び。ワンダラーが研究員を飲み込むと、それも聞こえなくなる。
「発砲を許可する! 殺せ!」
ハワードの一言で、ワンダラーを囲んでいた銃口が一斉に火を噴いた。
目の前に置かれたリボルバーに、司の手が震えた。
正面にはサイコパス尋問官。ニタニタと笑ながら、こちらを見ている。
「ほら、やってみろよ。まだ6発中1発だ。『アタリ』を引く確率は低いぜ?」
ゆっくりと、司はリボルバーに手を伸ばす。持ってみると、思った以上にずっしりとした重さを感じる。
「重いだろ。命を奪う物は、そうでなきゃな」
目を瞑って、司は銃口をこめかみに向ける。
「そうこなくちゃ。ほら、引き金を引きな」
冷や汗が額から滴る。手の震えが増す。銃口もカタカタと震えるのが、司にはこめかみを通じて伝わった。
ストロマトライトです。
イギリスでDoctor Whoのs9が始まってはや一ヶ月と少し。s9ももう折り返しです。
この話も次のパートで一話は終わり、2話に入ろうと思っています。2話は日本の話を検討中。ダーレクや嘆きの天使、サイバーマンなども今後出して行きたいと思っています。
そうそう、DW用のTwitter趣味アカウントを作りました。「ストロマトライト」で検索して嘆きの天使アイコンがでたらそれです。
では、今回はこのへんで。