Doctor Who Who is this girl?   作:ストロマトライト

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こんにちは、ストロマトライトです。
これで一話終了です。次回から本格的に、司とドクターの旅が始まります。


彼女はドクター Part4

唸る銃声。光るマズルフラッシュ。

無数の銃弾が、一人の研究員を飲み込んだワンダラーへと向けて放たれる。

この世の生物のものとは思えぬ叫びが咆哮する。

辺りを包む硝煙の匂いに渋い顔をしながらも、ドクターは哀れな怪物の方を見た。

「殺したか!?」

「……いや、強靭な生命力だ」

そこにまだ、風穴一つ開けずにそれは立っていた。

目のない顔が、一瞬ではあるがドクターの方を見る。瞬間、ドクターの頭に直接、多くの思考が飛び込んできた。

怒り、悲しみ、苦しみ、叫び、解放、検討、脱出、破壊、復讐、惨殺。

「全員離れろ! 皆殺しにされる!」

ドクターが叫ぶより早く、ワンダラーはドクター達の方へ突っ込んできた。しかしその目的は彼らではない。その後ろにあるこのフロア唯一の扉だ。

飛び上がり、呆然とする研究員やハワードの頭上を抜けるとワンダラーはそのまま扉の前に着地。巨大な爪を扉に突き立てたかと思うと、鈍い音とともに、まるで紙のように引き裂いた。

あとに聞こえるのは、通路で警備していた兵士達の絶叫と銃声。ラボにいた全員が、皆殺しを終えたワンダラーがエレベーターを破壊し、そのままシャフトを登っていくまでを、ただ見ているしかない。

「一体何がどうなってる……七十年近く反応のなかったエイリアンが何故今になって……」

皆を代弁するように、ハワードが呟く。

「多分、僕がソニックを当てたからだ。あれが、奴を復活させるのに十分なエネルギーを与えた」

「やはりお前の仕業か!」

ハワードがグロックの銃口をドクターの額に向ける。

「違う! ソニックがあの時出したエネルギーは小さなものだった! あれは最後の一滴だ。ワンダラーは耐えてたんじゃない、お前達がやっていた電気的な拷問から、七十年間ゆっくりと力を溜め込んでたんだ!」

ドクターは、その細い手で向けられた銃の先端を掴み、

「今は、それよりもワンダラーを何とかしないと。あのエレベーターはもうダメだし……他にエレベーターは?」

「もう一つ緊急用のがあるが……奴がどこにいったかすら分からないんだぞ」

「ワンダラーが今考えているのは脱出だ。あのシャフトは地上まで続いてるの?」

「いや、地下20階から25階までのフロアでしか乗れない。だから行けたとして20……」

ハワードの言葉はそこで途切れた。まるで何かに気づいたように。

「どうしたの?」

「20階では、お前と一緒に来た少年が尋問中だ。まずいぞ」

それは、ドクターを即座に行動させるのに十分すぎる言葉だった。

 

 

引き金にかかった指が、震え続ける。

目の前には狂った尋問官。自分の手には弾丸が一発入ったリボルバー。

「大丈夫だ。まだ一発目じゃないか。最初からそんなにブルってちゃ、話になんないぜ」

当たりを引く確率は6分の一。しかし引いてしまえば、待つのは死。

司の心臓の鼓動は、これまでにないほどはっきりとなり始めた。全身のアドレナリンが発散されているのが分かる。

「……ふざけんなよ」

言うと司はリボルバーを尋問官、ライリーに向ける。

「俺が何したって言うんだ! さっきまで普通に帰ろうとしてただけなのに、今じゃロシアンルーレットなんかをやってる! 俺は何もしてないぞ、ただ連れてこられただけだ!」

「おいおい、逆ギレかよ」

ライリーはため息をつく。

「まあいいけどな。仮に今お前が俺に対して引き金を引いた場合、俺を殺せる確率は6分の一。初弾で殺せなきゃ、俺は君から銃を奪い取って、そのまま首の骨を折ることができる」

「それでも、自分のこめかみに向かって引き金を引くよかマシだね」

司は立ち上がり、銃口をライリーに突きつけた。

「……ちゃんと拘束具くらい付けとくべきだったな。ガキだからと油断した」

「後悔先に立たず、だな」

「だが、君は一つ考えたほうがいい」

この状況でも、ライリーは笑っていた。

「君は俺がそのリボルバーに弾丸を入れたとこを見たか? 俺が弾丸を入れて無かったらどうする? 」

銃口が一度離れる。

確かにそうだ。司はこれに弾丸が入るところを見ていない。騙されている可能性も十二分にある。

「よく考えろ。死に急ぐにはまだ……」

言葉が途切れる。理由は簡単。部屋の外で響いた轟音と、その後に続いて響いたこの世のものと思えぬ何かの唸り声。

「何だ?」

ライリーが立ち上がる。司の持つリボルバーは未だ彼に向いていた。

「ちょっと待ってろ。様子を見てくる」

彼がドアの横にある生体認証パネルに手を当て、部屋のドアが開く。

それと、ほぼ同時に事は起こった。

ドアを開けたライリーに突然乗りかかった謎の物体。

「おい、何だこいつ! 離せ、離……」

ライリーの悲鳴は、途端に聞こえなくなった。絶命したのだ。

彼に乗りかかったのは、どうやら生命体のようだ。全体的には黒くボロ切れのような全身。巨大な二本の手は、まだライリーの体を引き裂いている。

その怪物が、司の方を見た。いや、正確に言えば怪物の頭部に目はない。だが司にはそれが自分を「見ている」ように感じられた。

怪物はその白い歯を光らせる。

気がつくと、司はいつの間にかリボルバーを怪物に向けていた。が、先ほどのライリーの言葉が頭の中で反芻された。

『君は弾丸を入れたところを見たか?』

しかし、今はこれしかない。

「出てくれよ、頼むぞ」

司は引き金を引く。思った以上の衝撃が司の腕を伝った。その音と硝煙の匂いで、弾丸が出た事が分かる。

しかし、怪物には全く効いてなかった。

なるほどここまでか、と司は悟る。思えば随分と短い人生だった。さして特別なこともなく、かといって不幸なこともない。一つ心残りはあるが、あれはどうしようもないことだ。

ここで死んでしまったところで、別にどうということは

「いた! ワンダラーだ!」

聞いたことのある声が、部屋の外から聞こえる。確かあの少女、ドクターの声だ。

「奴だ、撃て!」

もう一つの声は、さっき拡声器を持っていた男のものだ。男が叫ぶと同時に、フルオートの銃声が響いた。

怪物に無数の弾丸が当たる。さして効いてはいないようだが、怪物はその場から退散した。

ドアの前に横たわるライリーの死体を一瞥し、少女−−−ドクターが部屋に入ってくる。

「良かった! 君、生きてたか!」

言うと、ドクターは力強く司のことを抱きしめる。

「ごめん、僕のせいでこんなことに……本当に無事で良かった」

「い、痛いです。俺は大丈夫ですから」

ドクターは司を離す。そして、はっと気がついたように、

「そういえば、まだ君の名前を聞いてなかったよ。君の名前は?」

「司……です。文月 司」

「司ね。日本語なら『司る』か。いい名前だ」

「あー、自己紹介中すまんが、事態は深刻になってるぞ」

後ろから、あの拡声器の男が現れる。

「貴方は……」

「CIA捜査官のハワード・ディックマンだ。よろしく」

「ど、どうも」

「挨拶はそこそこにしよう。恐らくワンダラーは第三シャフトから地上に出るはずだ。それか……『時間切れ』になるが早いか」

「時間切れって?」

ハワードの言葉に、ドクターが反応する。

「こういう状況になった場合は、アラートが発令される。既に日本国内にあるCIAの極秘基地《ブラックサイト》から、この基地を地下ごと焼きつくせるミサイルを積んだ無人機が発進してるはずだ」

「それって、どのくらいで来るんです?」

少し震えた声で司は聞いた。

「多く見積もって30分。最低でも15分」

時は、刻々と進み始めていた。

 

 

「ドクター、君は奴が何者か知らないのか? 」

「待ってくれ、今考えている。このソニックの反応はどこかで見た気が……」

地上につながる別のエレベーターで、ハワード、司、ドクターが対応策を考えていた。

「ドクター、会った事あるんですか? あの怪物と」

「会った気もするけど、この顔でじゃないかも」

ドクターはソニックドライバーを見つめる。

「どこでだろう……スカロ、ラキシコリコアラパトリアス、トレンザロワ、いや違うな」

エレベーターは登り続ける。

「そうだ、思い出した! グルトヴァだ!」

「グルトヴァ?」

とても聞き慣れぬ名に、ハワードと司双方が眉をひそめる。

「スクルカチという惑星で飼われてるペットだよ。テレパシーで飼い主と会話もできる」

「あれがペットだと!? じゃああれを飼ってるエイリアンはもっとおっかないのか?」

「いや、あの獰猛さ。あれは軍用に育てられたタイプだ。おそらく1947年に墜落した三機は軍用機。ワンダラーはあの宇宙船のパイロットじゃなくて、パイロットのペットだったんだ」

「しかし回収された当時、船内から発見されたのはワンダラー一体だけだぞ?」

「……それって、さっきの化け物がパイロットを食ったんじゃないですかね」

恐る恐る司が言うと、

「多分そうだ。ハワード、当時船内から食料かそれに準ずるものは見つかったかい?」

「いや、有機物は奴だけだ。あとは全て機械類」

「スクルカチの三機の軍用機は、正常な進路から外れて彷徨ってたんだろう。食料はパイロットのもので精一杯。グルトヴァは空腹の状態が続き、ついに……」

「もういい。聞きたくない」

ハワードが手で静止する仕草をした。

「それで、奴の弱点は?」

「確かグルトヴァはキズワベ科の植物でできた実を食べられないんだ。一個で致死量」

「なんですか、そのキズワベって?」

「スクルカチに生えてる植物だ。夏になると藍色の実をつける。結構おいしいよ」

「そんなどこにあるか分からん星の植物の実を、今すぐ用意できるわけないだろ!」

声を荒げてしまうハワード。

無理もない。こうしている間にも、基地を丸ごと火の海に変えてしまうミサイルを搭載した無人機が向かっている。

そんな彼に対し、ドクターはなだめるように、

「最後まで聞いてって。キズワベのその成分は、地球の硫化アリルとよく似てるんだ」

「硫化アリル?」

「有機硫黄化合物の一種だよ。例えばネギとかニンニクとか、あと玉ねぎにも入ってる」

「キズワベよりは遥かに楽に調達出来るが……しかし時間が」

頭を抱えるハワードを見て、司は思い出す。

彼女と、ドクターと会う前に自分が何をしていたか。母に頼まれた買い物。

買ったのは、母が買い忘れていたという『玉ねぎ』。

「俺……」

「どうしたの、司?」

「持ってます。玉ねぎ」

 

 

CIA所属の無人機、RQ-1プレデターは順調に厚木基地への進路を進んでいた。

両翼下には二つの改良型ヘルファイアミサイル。これ二発で、厚木基地とその周辺も丸焼けとなるはずだ。

徐々に無人機が高度を下げる。捕食者の名の通り、指定された獲物は逃がさない。

 

 

地上へ向かっていたエレベーターは、急遽ハワードがボタンを押したことで止まった。

停止したフロアは第2ラボ。ここに、ドクターから押収した青いポリスボックス、ターディスが保管されている。

エレベーターのドアが開くと同時に、三人の眼の前にお目当ての大きな箱が表れる。

「急げ!」

「分かってる!」

ドクターが先行し、ターディスのドアを開けた。司がそれに続く。

通学バッグは先ほどと同じ通り、入ってすぐのところに置いてあった。司が中を少し探すと、袋に入った玉ねぎ一個が出てくる。

「ありました! でもこんなので、本当に効くんですか?」

「これだけあれば十分、作ってくれた農家に感謝だ! 早く行こう!」

ハワードが待つエレベーターに駆け込む二人。そして再び、地上へと登り始めた。

 

 

「撃ち続けろ! TOWミサイル用意!」

地上はすでに、地獄の様相を呈していた。散らかった兵士たちの死体。無数の薬莢。そして、何発弾丸を喰らおうと倒れぬ化け物。

上空を旋回するアパッチ攻撃ヘリコプターが、チェーンガンの嵐をグルトヴァに浴びせる。だが、効き目はなかった。

転がったジープから出た火が、夜の滑走路を照らす。

「いた! グルトヴァだ!」

地上にたどり着き、戦場と化した滑走路へと急ぐ三人。司が指差した方向に、その化け物はいた。

「よし。司、思いっきりその玉ねぎを奴に向けて投げて!」

「はい?」

一瞬、司にはドクターが何をいってるのか理解できなかった。

「投げて! 早く!」

「えっ……いやでも」

「いいから早く!」

訳も分からず、司は取り敢えず力をこめて本来文月家の夕食に使われるはずだった玉ねぎを投げる。

放物線を描く玉ねぎ。それに向けて、ドクターがソニックドライバーを当てる。

そして、玉ねぎはグルトヴァの頭上で四散した。

降り注ぐ細かな玉ねぎの破片。グルトヴァは、それに絶叫する。この怪物にとって、無数の玉ねぎの破片は銃弾より遥かに恐ろしいものであった。

悶えながら叫ぶグルトヴァ。しかし1分ほどすると、化け物は動かなくなった。

ハワード、ドクター、そして司も、その様子をじっと見ていた。

「すごい……」

「ソニックで玉ねぎの中の硫化アリルを増幅させて、ついでに爆発するようにしたんだ。効いたみたいだ」

ドクターが持っていたソニックドライバーを軽く振る。

「ひとまず……終わったな」

ハワードはほっと息をつき、上空を見た。

低空侵入に入っていた無人機が、飛び去っていく。

グルトヴァの周りでは、兵士たちが銃を向けながら本当に死んだのか確認し始めていた。

「……すまない」

ドクターは小さく呟く。だが司にもハワードにも、聞こえてはいなかった。

 

 

ドクターのポリスボックスは地下のラボから、地上の滑走路へと戻された。

「もう来るんじゃないぞ、『迫り来る嵐』さん」

右手を差し出して、ハワードは言った。

「そっちもね。むやみやたらにエイリアンを捕獲しないこと」

ドクターも手を差し出し、二人は軽く握手する。

「恐らくこれだけ派手にやったんだ。イギリス王室やUNITもすぐ嗅ぎつけてくる」

「分かってるよ。面倒なのが来ないうちに、僕は退散する」

ドクターは、司の方を見た。

「ごめんね、司。僕のせいで、色々と迷惑をかけてしまった」

「いえ、いいんです。ちょっと……楽しかったし」

その言葉に、ドクターが少し微笑んだ。

「そのポリスボックスで、またどこかに行くんですか?」

「そうだよ。僕のターディスはいつでも、どこへでも行ける。whenever、whereverってこと」

いつでも。

本当にいつでも行けるなら。あの日にも、大切な人が消えてしまった日にも、行けるのなら。

「良かったら……一緒に来る?」

瞬間、ドクターのその一言は、司の頭にはっきりと響いた。

「一緒に?」

「そう。僕は旅に仲間を連れて行くんだけどね、今ちょうど一人旅だったんだ。だから、もし君がよければ、どうかな?」

ドクターが、その華奢で細い手を差し出す。

その手は予想もできない、興奮するような旅への切符だ。

「ターディスを使えば、どんな時代でも、どんな場所でも行ける。太陽系のその先へも、フランス革命を見に行くこともできる。君はどこへ行きたい?」

「申し出は嬉しいです……けど知らせずに言ったら家族に心配かけますし」

それを聞くと、ドクターは笑って、

「これはターディス、タイムマシンだよ? 君が望めば、君が僕と会ったあの時間の、あの場所に戻ることだってできる。何なら、君の家の前にだってね」

司は、今までの日常を思い出す。

何事もなく、平穏な日常。好きだったが、少し退屈だと、心のどこかで思っていた日常。

「行ってこいよ、少年。青春は人生一度だけだぞ」

司の肩を叩いて、ハワードが言った。

「……はい!」

ゆっくりと、司は手を伸ばす。そして、目の前の少女の手を取った。

「よろしく、司」

「よろしく、ドクター」

 

青いポリスボックスが、奇妙な音を立てはじめた。

屋根のランプが光り、二人を乗せたターディスは徐々にその姿を消し、やがて完全に消失する。

一部始終見届けてから、ハワードはその場から立ち去った。

「楽しめよ、少年」

ふと空を見る。無数の星。その中のどれかに、二人はもういるのかもしれない。

 

 




ストロマトライトです。
これにて一話終了。いかがでしたでしょうか。ドクターがコンパニオンを誘うシーンは、どのシーズンのも好きです。ローズを誘う時が一番好きかな。
イギリスではもうすぐs9終了ですね。今回のラスボスは一体誰なんでしょう? ダーレクかサイバーマンか、はたまたサイレンスか……。

次回の舞台は平安時代の日本です。「竹取物語」に関わってきますよ。

それでは!
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