Doctor Who Who is this girl? 作:ストロマトライト
投稿がちょっと遅くなりました。すいません。
煌びやかに装飾された和風の部屋。
そして、ドクターと司の前に鎮座する女性。黒く艶めいた髪に艶やかな着物を羽織ったその姿は、人間離れした美しさを司に感じさせた。
彼女の名はなよ竹のかぐや。後に、かぐや姫の名で知られる姫君だ。
「改めまして。私はなよ竹のかぐや」
かぐやは初々しくお辞儀する。
「ドクター、と言いましたか。随分遠くからいらっしゃったようですね」
「遠くだよ。とても遠くから来た。君と同じで」
「……どういう意味でしょう」
かぐやは表情を崩さず、しかし明らかにドクターの言葉に反応した。
「いや、深い意味はないよ。君が竹から産まれたって聞いたものだから、きっと今のこの家からは離れた竹林から来たんじゃないかと思ってね」
「ええ。あの竹林も今は遠く。時々懐かしくなりますわ」
司には、二人の会話に入り込むスキがなかった。二人とも互いがこの星の者ではないと知った上で、腹の探り合いをしてるようだ。
部屋の両脇で構えている翁の妻、そして使いの女性達も困惑の表情を浮かべている。
「えっと……ドクター、ここじゃ周りの目もあるし姫様も色々と言いにくいんじゃ」
司が耳打ちする。
「言いにくいって?」
「いやだからその、彼女が月から来たこととかさ」
「関心しませんね。人の前で内緒話なんて」
かぐやの一言で、司はすぐに彼女の方を向いた。まるで体を電気が走ったような感じ。
この姫の言葉には、何か不思議な力がある。人心を掌握するような、何かが。
「す、すいません。失礼なことをしてしまって」
「何か言いたいことがあるなら、おっしゃって下さい、司さん。お婆さんや使いの者のことなど気にせず」
かぐやは全く動じていない。
自分にやましいところは何もない。とでも言うようだ。
「なら遠慮なく聞かせてもらうよ」
言うと、ドクターがすくっと立ち上がる。その手にはペンのようなあの道具、ソニックドライバーが握られていた。
「君は何者だ? 少なくとも地球の人間じゃない。この星に何をしに来た?」
「……おっしゃってる意味が、分かりませんわ」
二人の間に緊張が走る。空気が凍るというのは、まさにこのことだ。
「竹から生まれた三センチの少女が、数ヶ月で平均的成人女性と同じ身長になるなんて話を聞いてエイリアンだと思うな、という方が無理だよ。成長ホルモンの異常分泌で説明できると思った?」
「……随分と早口でまくし立てるのね。もう少しゆっくり話せませんの、ドクター」
ドクターの言葉の波も、平然とした顔でかぐやは聞き流す。
「成長の早さは知覚フィルターの幻覚だ。あれを使えば数ヶ月どころか一晩で成人になることだって可能、それでも時間をかけたのはこの時代の人々でも理解できるようにした配慮かな。君を拾った後に翁の切った竹から金が出てきたのは多分ボタニカル・テンポラル・テレポートか。〈チームの森〉が生み出した植物を使用する転送装置でしょ」
理解できない単語のオンパレード。司は一度考えることを止めた。周囲の人々も同じだった。
ここはすでに、ドクターとかぐやの独壇場となっている。
「想像力のあるお方ね。頭もよろしいようですし。さすがは『帝のお使い』ですわ」
「白々しい。もう分かってるんだろ? 僕が『帝の使い』じゃないって。知りたいだろ? 僕が何者か。聞いたらきっと驚くよ」
「仰いたいのなら、どうぞ」
かぐやは若干呆れているようだが、ドクターはそれも気にせず、
「僕はドクター。カスターボロス系に属する惑星ガリフレイのタイムロードだ」
ガリフレイ。そしてタイムロード。
それが彼女の星であり、彼女の種族だと司は頭の中で反芻した。当然、聞いたこともない星だ。中学、高校と理科系科目をそう真面目に受けていたとは言い難いが、それでもカスターボロス系などという銀河は聞いたことはなかった。
「ごめんなさい。難しい言葉が多くてよく分からないわ。でもこれだけは分かります。貴方は私が思っていたよりも遠く、夜空に瞬く星のどこかから来たのね」
「それだけ分かれば十分。さあ、今度は君の番だ」
突然、ドクターが手にしていたソニックドライバーをかぐやに向けた。
先端から、特徴的な音を発しつつ光る淡いオレンジの光。麗しの姫はその光を嫌がり、手で顔を覆った。
「ソニックに知覚フィルターは効かないぞ! どうだ! これで……」
勝ち誇った顔のドクター。しかし、彼女が期待するようなことは起きなかった。
かぐや姫は先ほどまでと同じ、美しい人間の姿で座っている。
「……ドクター、これって」
司が声をかけるが、ドクターは無言でソニックドライバーを見つめ続けた。
「おかしい。壊れてるのかな。知覚フィルターを外せないなんて」
「貴方、一体かぐやに何をするのですか!?」
声を荒げたのは翁の妻である老婆だ。周囲の使いの者たちも警戒心を露わにしてドクターの方を見る。
それを見て、困ったようにドクターは司の方を向いた。
「司、どうしてこの人たちは怖い顔してるんだろう?」
「そりゃあ、かぐや姫に変なことするからだ」
「変なことって……僕はただソニックで確認したかっただけで……」
そんな言い訳は老婆たちに通じていない。加えて、かぐやが二人を帝の使いではないと見抜いた時から彼女たちが抱いていた、どうも怪しい客だという疑念も頂点に達していた。
「失礼ですが、あなた方にはお引き取り願います! 皆さん、お二人をお連れして!」
それまで黙っていた使いの女性たちが一斉にドクターを取り囲み、彼女の腕を強く掴んだ。座っていた司も使いの者に二人がかりで無理やり立たされる。
「何するんだ!? 離して!」
抵抗するドクター。司は何もしようとせず、ただされるがままにしていた。
「お婆さん、貴方だって分かってるはずだ! こんなに早く育つ子供がいるはずないって!」
「お黙り下さい! かぐやは私たちの娘です!」
「……お止めなさい」
静かに。それでありながら強く、かぐやが言う。
騒ぎが収まるには、その一言で十分すぎた。ドクターと司の二人を追い出そうとした使いの女性たちが瞬時に静止する。
「皆さん、ドクターと司さんを離してあげて。お客人に無礼ですわ」
「でもかぐや、この方達は貴方を……」
「いいの。ありがとう、お婆さん。この方達は少し勘違いしていただけです。少し眩しかったけれど、私は大丈夫」
二人を掴んでいた使いの手が離れる。
意外にも強く握られていたのか、司の腕には赤い跡がついていた。
「ごめんなさいね。皆さん悪気があったわけではないのです。ただ、私を心配してくれただけで」
「いえ、こちらこそすいませんでした。無礼なことを」
司が頭を下げる。
「ほら、ドクターも謝りなよ」
「……申し訳ない」
少し不満そうに、ドクターは謝罪する。膨大な知識を蓄えた宇宙の旅人が、これでは外見通りの年頃の少女のようである。
それを見て、かぐやが微笑んだ。彼女に会って初めて見る笑顔だ。
「気にしないで下さい。遠いところを来てお疲れでしょう? 今日は是非ここにお泊まり下さい。部屋を用意させますから」
「すごいな……星が綺麗だ」
時は午後9時。平安時代の寝殿造りではバルコニーにあたる釣殿と呼ばれる場所で、ドクターと司は空を見上げていた。
電気の存在しないこの時代の夜空は、司の時代では考えられないほどに美しい。輝く星々が、釣殿の前にある大きな池まるでスクリーンのように映る。
「これが産業革命前の夜空さ。空気が澄んでいるから、星もはっきり見える」
「ドクターは、今まで何回も見てきたのか? こんな綺麗な空を」
「数え切れないくらいね。でも、いつでも美しかったわけじゃない。恐ろしい光景も見てきた」
風が吹き、ドクターの髪が揺れる。
その一瞬。彼女の表情は悲しげに見えた。
「そういえば、お昼にかぐや姫に言ってたガリフレイって……」
「僕の星だよ。地球から2万9,000光年離れた、赤く美しい星。僕たちタイムロードの故郷さ」
「どんな星なの?」
「地球より大きいけど、環境は地球とよく似てるんだ。草原も海もあって、星の中心には丸い球体に包まれたガリフレイ最大の都市がそびえてる。時と空間を司るタイムロードは、そこで繁栄を続けていたんだ」
「へぇ……もしかしたら、この星の中にあるのかもね。ガリフレイ」
司は何気なくそう言った。しかし、ドクターから返答はない。
「……ドクター?」
「あの空に、もうガリフレイはないよ」
「ないっ……て?」
どういう意味なのか問おうとする司だったが、その前に彼はあるものに気づいた。
中門から釣殿へ続く長い廊下を、一つの人影が二人の方へ歩いてくる。月明かりがその姿を照らした。昼間とは違い、寝巻き代わりの白小袖に身を包んだかぐや姫その人だ。
「ご一緒してもよろしいかしら」
「いいよ。何人で見ても星は減らないから」
かぐやはそっと、ドクターの隣へと座る。月の光が彼女の黒髪の美しさをさらに引き立たせた。
どこか遠くを見る目で、彼女は夜空を見上げる。
「今宵は特に星が綺麗ね。貴方たちを歓迎しているのかも」
夜空の星すべてを見ているように見えて、しかし彼女の目はある一点しか向いていなかった。
淡い青の光を放つ、月だ。
「……私はね」
言うと同時に、彼女の目から、一筋の涙が落ちるのを司は見た。
「多分ドクターの言うように、この地の者ではないの。私は、あそこから来たのだと思うわ」
かぐやが真っ直ぐに月を指差す。
「はっきりとした記憶はないの。今でも私はお爺さんとお婆さんの娘だと本気で思ってる。でも最近、私の頭の中で別の記憶が語りかけるのよ。私は月の民で、何かの理由でここに送られたって」
「……その記憶が表れはじめたのはいつ?」
「月を見始めた頃よ。それから段々とその記憶が、まるで絵を見るみたいに頭の中に出てきたの」
それを聞き、ドクターはソニックドライバーを取り出した。それをかぐや姫の前で軽く振る。
「今からこれを君の頭にこれを当てる。痛くないよ。いい?」
「ええ」
オレンジの光をかぐやの頭に少し当てる。すぐにドライバー内に結果が出た。
「やはりね。君の記憶は少しいじられてる。月の民としての記憶が、君の脳の奥に隠されていたんだ。多分この星で暮らしやすいように」
「そう。やはりそういうことだったのね」
かぐやはさして驚きもせず、淡々と答えた。
「前から不思議なことはあったわ。五人の貴公子たちが私に求婚してきた時、私は彼らに絶対持ってくることができないものを頼んだの。仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の珠、燕が産んだ子安貝。でもね、私はこの内の一つも知らない。なのにこの五つの名前がすっと出てきた。おかしいでしょ」
物語の中で五人の求婚を断るために無理な要求をした話だ。司はかぐやが知った上で言っていたのだと思っていたが、まさか知らずに言っていたとは。
千年も前の話となれば、事実と大きく変わってくるものである。
「火鼠の皮衣はクロネード星のプロミネラットの皮。龍の首の珠はガルハドロの氷山に住む老龍、その首についている7色の玉だ。仏の御石の鉢はアプラン教の開祖が生涯離さなかったという鉢。ざっとこんなところかな」
ドクターがすらすらと、それぞれの秘宝の正体を明かしていく。
「どれもこれも宇宙の伝説だ。貴公子たちは不幸だね、宇宙船を持っていたって見つけられるか分からない。おまけに老龍はシャドー議会の保護指定対象。傷つければサイの警察官に死ぬまで追われる」
「ええ。まったく……彼らには気の毒なことをしてしまいました」
かぐやは彼らを哀れんでいるようであり、それでいて他人事のようでもある。
簡単に言ってしまえば、興味がないというような。
どこかの草むらで鈴虫が鳴く。三人の座る釣殿の廊下に、その音色が木霊した。
「……最近、また新しい記憶が囁いてる。今までの中で一番、悲しい囁き」
沈んだ面持ちで、かぐやが言う。
「どんな記憶だい?」
「迎えが来るの。月からね。私は帰らなければならないって」
司にもドクターにも、それが何を意味するのか分かった。
竹取物語のラスト。使者に連れられ、月の姫君は帰還する。
朝九時。部屋に日の光が差し込み、司は目を覚ました。
「やあ、おはよう。千年前でもよく眠れたかい?」
目の前には、司の顔を覗き込む少女、ドクター。どうやら、司より早く起きていたようだ。
「うん。特にうるさくもなく、普通に寝れた」
と、司は中庭の方から何やら音がすることに気づいた。
人が大勢集まっているようであり、至るところから声がする。
「一体何が?」
聞くと、ドクターは中庭の方を向き、
「昨日の夜の話、翁が聞いたらしくてね。帝に相談して、かき集められるだけの兵士を集めたんだってさ」
司が起き上がり廊下に出る。中庭には、鎧と弓に身を包んだ多くの兵士たちが並んでいた。
家の門の方からは、まだまだ兵士が入ってきている。
「こんなに兵士を集めて何を……」
「姫を守るんだよ。月の使者から」
「月の使者って……まさか本当にエイリアンが?」
「それは、夜になったらのお楽しみ。物語通りなら、宵の過ぎ、深夜12時過ぎに来るはずだから」
物語は、確実に終焉へと向かっていた。
お読みいただきありがとうございます。ストロマトライトです。
S9もクリスマス・スペシャルまで終わりましたね。風の噂ではS.モファットがDWから降りるとか。うーん悲しい。
そろそろ本編に出てくるようなエイリアンも出したいと思いますが、何にしようか考えてる次第です。
それでは、今回はこの辺で。