Doctor Who Who is this girl?   作:ストロマトライト

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何故か結構早く投稿できました。竹取物語編も中盤です。


姫君の帰還 Part3

深夜十一時三十分。

昨日と同じように、空には満天の星と、不気味なほどに青く光る丸い月があった。異なるのは、庭に大量の帝の兵が待機していることだ。

寝殿の方では、これだけの兵を集めながらも不安そうな面持ちで使いの者たちが立っていた。

「本当に来るかな。月の使者」

司は空を見上げる。相変わらず何かが現れる気配はない。いたって静かな空だ。

「宵の過ぎ、つまり深夜零時まではあと三十分もある。使者は時間ぴったりに来るのかもよ」

ソニックドライバーを放っては取りながら、ドクターは言った。

この屋敷は今朝から厳戒態勢の様相を呈していた。屋敷中に兵士が立ち、かぐやの周りには特に精鋭の兵士が待機している有様だ。どうやら帝は、どうあってもかぐやを月へ返す気はないらしい。

「すごいなあ。屋根の上にも兵士がいる。スナイパーみたいだ」

司が見ると、確かに屋根の上に兵士が待機していた。微動だにせず、真っ直ぐに空を見ている。

「で、肝心のかぐや姫はどこに?」

「屋敷の一番奥の部屋に、翁とお婆さんと一緒にいるってさ。会いに行ってみようか」

 

 

寝殿の奥、北対(きたのたい)の数枚の戸を開いたところにある他と比べて少し小さい部屋に、麗しの姫はいた。

天井から日よけ用の御簾と呼ばれるすだれを下ろし、まるで隠れるようにかぐやは座っている。

「こんな所にいたんだ。もうすぐお迎えだよ、姫様」

部屋にはかぐやと翁、翁の妻、そして四人の屈強な兵士だけだった。

「迎えなど、帝の兵がなぎ倒してくれる! かぐやは誰にも渡さん!」

翁の方は完全に怒りにかられていた。言葉にも怒気が如実に感じられる。

「あまり声を荒げないで下さい。お爺さん」

それをかぐやがそっと宥めていた。

「私を物置部屋の中に隠して防戦する作戦を立てたとしても、あの月の国の人とは、まともに戦う事はできないでしょう。弓矢で射ることができないのです。このように私を厳重に閉じ込めていても、あの月の国の人がやって来たら、全て戸が開いてしまうでしょう」

「それは頼もしい。一体どんなにすごい兵なんだろうね」

「月の人々は人知を超えた力を持っているもの。私も少し覚えているわ、あの人たちは、相手が動くのを止めることができる術を持っているの」

竹取物語には、集まった兵士を月の使者たちが妖術のようなもので止める描写があった。あれがエイリアンの技術だと言われれば、確かに頷ける。

「ならば、迎えにやって来る天人を、長い爪で目玉を掴んで潰してやる! 相手の髪を掴んで、空から引きずり落としてやる。その尻を出させて、ここにいる朝廷の兵士たちに見せて、恥を掻かせてやろう」

翁の方は完全に使者たちを迎撃する気だ。

とても物語で言われるような穏やかな翁が発するとは思えない口汚い言葉で、先ほどから月の使者たちを罵っている。

「そういえば、聞いたところそなたは特別な力を持った方だとか」

唐突に、翁がドクターを見る。

「別に特別ってほどじゃないけどね」

「とにかく、その力を使って月の天人を返り討ちにできんのか!? 褒美はたくさん取らせよう、帝に言えば国だって……」

「僕はそんなに無礼な奴じゃない。それに僕は『干渉しない』主義なんだ」

ドクターは翁に背を向けてその場を去ろうとする。

翁の言い方もきついものであったが、ドクターの対応も司には少し冷たく見えた。

「ドクター、ちょっとくらい助けてあげてもいいんじゃないかな。何とかして月の使者を説得して、かぐや姫が帰らずにすむようにするとかさ」

「駄目だよ。時を旅する者には、いくつかの決まりがあるんだ」

ドクターは軽くため息をつき、司の方を見る。

「決まりって?」

「歴史というものの中には、いくつかのポイントがあるんだ。僕たちはこれを、固定ポイントと呼んでいるんだけど」

「固定……ポイント?」

「いわゆる『歴史上において決定された事項』というやつ。その事件に僕らタイムトラベラーが介入して、起こるはずだったことを無かったことにしてしまったりしたら、後々の時代に大きな影響が出る」

ドクターの口調は真剣そのものだった。いつもの少し軽く、浮いたような彼女とは違う。

まるで、その言葉をドクターが彼女自身に言い聞かせているように。

「でも、千年前のおとぎ話だよ? それを少し変えたからって、後の時代に何の影響があるって……」

「何の影響だって? 大有りだ! 前にも僕と旅していた女の子が事故で死んだ自分の父を助けて、その瞬間に時空の化け物が現れたんだ! あんなのは二度とゴメンだよ」

ドクターは足早に部屋を出ようとした。

「ちょっと待ってくれ! 今はそなたが頼みなのだ! どうかかぐやを、我々の元から連れて行かせないでくれ!」

翁の声は怒気から懇願へと変わっていた。その目尻には涙も見える。

しかしドクターは止まらない。だが、

「……ドクター」

顔をうつむかせたまま発したかぐやの一言に、ドクターが歩みを止める。

「私が月の国の人たちに連れて行かれてしまうことは、もう決まっていることです。でも、もし私が月に行く時になって、不穏なことが起きた時は……皆を守ってください」

それを聞き、しばらくは立ち止まっていたものの、ドクターは再び歩きだした。

司もひとまずかぐやに一礼し、彼女を追いかける。

「本当に何もせずに見てるのか?」

「そう。何もせず、穏やかに、見てる」

「こないだは何万光年も離れた所から発せられたエイリアンのメッセージを頼りに来たくせに」

「あのエイリアンを助けることは固定ポイントじゃなかった。ここは後の歴史にも物語として記述され残されている固定ポイントなんだ。何と言われようと、どうすることもできないよ」

ドクターが被っていたキャスケットを脱ぎ、司の頭にぽんと被せる。

その意味は、司には全く分からなかった。

 

 

時刻は午後十一時五十九分。

宵まで残り一分となった。だが、依然どんな動きも見受けられない。

「この分だと、今日は来ないんじゃないかな」

「どうだろうね。でも、書かれている時刻まではあと一分ある」

庭で待機する兵士たちにも疲労の表情が見え始めていた。無理もない。彼らがここで待ち続けて十数時間は経っているのだから。

このままだと、何も起こらない方が兵士たちの不満を爆発させ後々まずいことになりそうだ。

「あっ、そうそう」

ふと、司は先ほどドクターに被せられていたキャスケットがまだ自分の頭の上にあったことを思い出した。

「ドクター、これをまだ……」

その刹那。

光が、それも暴力的な光が、その場を包む。

夜の庭に突如現れた明かりに、司やドクター、そして兵士たちも目を覆った。

「何だ!?」

周囲では怒号と叫び声が響き渡る。

司が僅かに目を開けると、まだ光が視界に焼きつき白くぼやけていたものの、空中にそれが見えた。

恐らく地上から百メートルほどのところ。雲のような物体が浮いている。物体の上には、数体の人影。

「まさか……あれが」

「来たね。かぐや姫の迎えが」

司の視界が段々とクリアになっていく。空に浮かんでいるのは三つの雲。そしてそれぞれの雲には五人ずつが乗っていた。

乗っている者はグレイ型のようなエイリアンではなく、完全な人間の形をしていた。身なりもこの時代に合わせたものなのか、貴族の着物を羽織っている。

「来たぞ! 月の使者だ、狙え!」

兵士たちは一斉に矢で彼らを狙う。弓いっぱいに引かれた無数の矢の先端が、銀の輝きを放ちながら使者たちの方へ向いていた。

「打て!」

兵士のリーダーが叫ぶと、彼らは矢を引く手を放ち使者を攻撃しようとした。しかし、何故か弓を引いたまま、兵士たちは微動だにしない。

攻撃しないのではない。出来ないのだ。

「ドクター、どういうこと? 周り皆が石みたいに動かない!」

「フィジカ・ストーニングだよ」

ドクターはソニックドライバーを兵士たちに向ける。

「体内の細胞に働きかけて、生物の動きを凍らせる技術さ。これは特に強力なやつだね。ソニックでも解除するのに時間がかかる」

「じゃあ、俺たちはなんで……」

動けているんだ、と司が続けるより早く、雲の上から声がした。

「いかにも。そこの二人。我らの術の下でありながら、何故自由に動けているのか」

声の主は三つの中で真ん中の雲、そこに鎮座する初老の男性から発せられたものだ。他の者より服装が豪奢なところを見ると、どうやら彼が使者の中で最も高位の者らしい。

「不思議だろ、分からないだろ? どうして僕たちだけが君らの術にかからないのか」

動かぬ兵士をかき分けて、ドクターが雲の方へと歩いていく。

雲の前まで行くと、彼女は両手を広げて高らかに月の使者へ宣言した。

「何故なら、僕はドクターだからだ。後ろの少年は文月 司。彼が動けているのは、彼が被っている僕のキャスケットのおかげだ。あれにフィジカ・ストーニングの影響を受けない工夫をしておいたんだ」

司は頭上のキャスケットに触れる。ドクターが彼にこれを被せたのは、それが理由だったのだ。

「ではその方、いかにしてそのような技術を得たか。手に持つその道具も、この時代の物ではあるまい」

「ああ、これかい? これはソニック・スクリュードライバー。これさえ使えば鍵のかかった扉も開けられるし、ケーキの中身も解析できる。できないことは木製の扉を開けること。ガリフレイには木の扉なんてあんまりなかったから」

『ガリフレイ』というその言葉に、月の使者はソニックドライバー以上の興味を示した。

「ガリフレイ……? では、貴公はタイムロードの民か?」

「そう。僕はガリフレイのタイムロード。前は最後の生き残りって名乗ってたけど、僕以外のタイムロードも僅かに生きてるからそれを言うのはやめたよ」

ドクターの発言を聞くや否や、月の使者たちがざわめき始める。

彼らが彼女を見る目が、まるで絶滅種を見つけたようなものに変わっていた。

「そうか。まさかタイムロードがまだ生きていたとは。タイム・ウォーでスカロのダーレクによって駆逐されたと聞いていたが。貴公、ドクターと言ったな。いかにしてあの大戦争を生き残った?」

「僕は最前線にいた。僕が終わらせたんだ。タイムロードも、ダーレクも、僕が滅ぼした」

使者たちのざわめきが一層大きくなった。

「哀れな者よ。戦争を終わらせるため、自分の民を滅ぼしたのか」

再び現れたガリフレイ、そしてタイムロードという単語。加えて今度は、タイム・ウォーとスカロ、ダーレクという新たな言葉が飛び出す。

それ以上に、司にはドクターの『僕が滅ぼした』という発言が気になった。

思えば昨夜、彼女は星空を見上げて言っていた。あの空に、もうガリフレイはないと。

あれは、ドクターが滅ぼしたからだったのか。それとも、間接的に星の滅亡へ関わったのか。

「ひとまず、今はそれについて言及するのはここまでだ。我々は、『姫』に用がある」

初老の男性の横で待機している若い従者が、宙に向かって手を動かす。何か透明なディスプレイを操作しているようだ。

彼の操作が一通り済むと、寝殿から北対まで続く全ての扉が一気に開いていった。

「造麻呂、出てこい」

名前を呼ばれ、恐る恐る翁が出てきた。

さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、すっかり萎縮してしまっている。寝殿の縁へ着くなり、うつ伏せに伏せてしまう。

「この愚か者が。少しばかり功徳を作ったからわずかな間だけ姫を任せ、貴公に黄金を授けただけというのに。かぐや姫は罪を犯したので、このように身分の低い者のところにいらっしゃったのだ。罪の期限は終わり、このように迎えにきた次第だ」

翁は周囲にはばからず、涙を流し嗚咽を漏らす。

「かぐや姫を育てて二十年ほどになります。それをわずかということは、きっとあなた方が探しているのは別のかぐやでしょう。ここのかぐやは、病気を患っていて、とても出てくることは出来ません」

使者の男が眉をひそめる。

「しばらく姫を任されただけで、親のつもりか。貴公の富も我々が授けたものだというのに。挙句こんなに兵を揃えて。追い返せるとでも思ったか。つくづく愚かな民よ」

「重々分かっております。お望みであれば、貴方がたが私に下さった富は全て返しましょう。ですから、せめてかぐや姫だけは……」

「黙れ、下賤の者。さあ、かぐや姫。穢れたところに、そう長くいる必要はございますまい」

ここまで言われていると、司にも翁が気の毒に見えた。

月の使者の言い分はあまりにも一方的だ。勝手にかぐやを送っておいて、愛着が十分ついた上で返せとは。

「ちょっと、言い過ぎじゃないかアンタ」

気づくと、司は使者の男に向かって言い放っていた。考えるより先に口が動いていた。

「確かにかぐや姫はアンタ達の姫様かもしれないけど、育てたのはこの人だろ? 任されたって言うけど、逆に言えば勝手に任せたのはアンタ達じゃないか」

まずいとは思いつつも、言わずにいられなかった。

司にも分かるのだ。大切な者を、突然、一方的に奪われる悲しみが。

「何だ貴公は。確か……文月と言ったか」

「そうだ。俺は文月 司。千年後から来た地球人で、ドクターの……」

ドクターの、何なのだろう。

友達、とは少し違う。仲間、という感じでもない。恋人、は当然異なる。

「司は僕のコンパニオンだよ」

悩む司を代弁し、ドクターがはっきりと答えた。

「僕も司の言葉で気が変わった。君たちは少し傲慢だな。ヒヴォニス=ルナティ・エンパイヤの帝国親衛隊諸君」

ドクターがソニックドライバーを彼らの雲に向け、音と共にオレンジ色の光を発する。

雲は晴れて彼らの乗る航空機械が露わとなった。服装も貴族の着物ではなく、より近代的な、軍の制服を思わせる物を着ている。全てホログラムだったのだ。

「ドクター、この人たちを知ってるのか?」

「彼らは月、といっても地球のじゃなくてガウノ星雲系にあるヒヴォニス星の月の住人だ。この庭、何に似てるかと思ったら、ルナティの皇族宮殿そっくりだよ」

「……よく知っているな。流石はタイムロード」

「前に観光で行った時、皇太子の友人を偽って入ったんだ。いい所だったからよく覚えてる」

「ならば、貴公はいい時期に行ったものだ。今では戦火で宮殿も焼け落ちた。かつての面影は残っていない」

ドクターと使者が会話している中、司はふと、フィジカ・ストーニングによって拘束されている兵の一人を見る。心なしか、その兵の指がピクリと動いたように見えた。

それだけではない。全体を俯瞰すると、他にも数人、僅かながら動いている者がいる。

「戦火だって? ヒヴォニス=ルナティで戦争なんて聞いたこともないよ」

「起こったのはごく最近だ。しかし全てが破壊されるのは一瞬。お互いがお互いにフィジカ・ストーニングを使い、兵士が止まったところに衛星兵器を撃ち合った」

司の見ていた兵の姿が、徐々に変わっていった。来ていた甲冑は使者たちと同じ軍服に、弓矢は長方形のような銃の形に。

その銃口は、雲の上の使者たちに向けられている。

「ドクター!!」

司が叫ぶのと同時に、他の動きを見せていた帝の兵もその姿を変化させた。

呼ばれて振り向いたことで、ドクターも状況を理解する。

「司、早く建物の中へ!」

全速力でドクターが司の方へ向かってくる。彼に近づくや否やその手を握り、半ば転がりこむように寝殿の中に入り込んだ。

「ドクター、あれじゃ使者の人が……」

「いいから伏せて!」

銃のチャージ音が響き、レーザー光が銃口から発せられた。

 




ストロマトライトです。前回の投稿から十日くらいで投稿できました。自分でもびっくりです。
Twitterの方では本小説を宣伝して頂いたりしているようで、感謝の極みです。誰かに読んでいただいていることが分かるのが、私のモチベーションにもなってます。
今回はタイム・ウォーやダーレクという単語を出していきました。ダーレクもどこかで出したいです。特に赤が特徴の最高ダーレクとか。

では、今回はこの辺で。次の投稿もなるべく早くするよう善処します
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