Doctor Who Who is this girl?   作:ストロマトライト

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今回で竹取物語編は最後です。


姫君の帰還 Part4

放たれたビーム光は、真っ直ぐに若い従者を直撃した。

撃たれた従者が倒れると、その瞬間に矢を引いたままの帝の兵たちの硬直が一斉に途切れる。彼がフィジカ・ストーニングを維持していたのだ。

硬直が解けたことにより、それまで月の使者たちに向けられていた矢が全て放たれた。

「愚かな」

中央の雲に佇む高位の男は動じない。

矢は男に向かって高速で迫るが、その身を貫くことはなかった。それもそのはず。矢は男の手前数センチで止まったのだ。

ドクターに放り込まれるように寝殿へ入った司にも、その光景がはっきり見える。

「すごい……」

「いいから伏せてて!!」

ドクターは、司の上に覆いかぶさった状態だ。それはまるで、彼女が司を押し倒したよう。

非常に近くに、司はドクターを感じる。心臓の鼓動が早まっていった。相手は宇宙人。しかし姿は明らかに年頃の少女なのだ。この状況で高校生男子の司が普通の状態でいられるわけはない。

一方、男の前で静止した無数の矢は突然反転、銀に光るその先端を放った帝の兵自身へと向けた。

すでにフィジカ・ストーニングは解けているため、兵たちは慌てふためく。寝殿の縁に伏せっていた翁も、急いで屋内へ避難してきた。

「頼む、上手く効いてくれ」

ドクターは顔を後ろに向け、ソニックドライバーを外の方へ向ける。が、状況は変わらなかった。矢は依然として兵たちを狙う。

「デッドロックの応用型か……司、目を瞑ってて」

「何で?」

「見ない方がいい」

ドクターがそう言った理由は、すぐに明らかとなった。無数の矢が、雨のように兵たちへ降り注いだのだ。

敵に向け放った自分たちの矢に、次々と貫かれる甲冑の兵たち。帝の兵に扮していた者たちはこれを予想していたのか寸でのところで矢を回避するが、何も知らぬ兵たちは倒れ、中庭に血の海を顕現させる。

ドクターの言葉を無視し、司は一部始終をその目に納めた。

矢が一通り振り終えると、帝の兵に偽装していた一人が改めて使者たちに銃を向けて言った。

「元親衛隊長のロデクスだな。狙いは姫か?」

「そちらの知ったことではない。大いなる革命を阻害する愚者どもが」

「愚者だと!? 皇帝陛下を裏切ったお前たちが何を!」

どうやら、彼らもヒヴォニス=ルナティ・エンパイヤ出身のようだ。同時に、あのリーダー格と思われる初老の男の名も判明した。

「どうなってるの?」

司が聞くと、ドクターも困惑の表情を浮かべていた。

「僕にも分からない。てっきりあの偽装兵が反乱者か何かだと思ったんだけど……」

覆いかぶさっていたドクターが司から離れ、立ち上がる。

「君はここにいて」

「まだ危ないって」

「大丈夫。僕はドクターだ。こういう状況は慣れてる」

 

 

死体と血液に塗れた中庭には、八人の長方形をした銃を持つ兵士。そして上空に姫を取り返しにきた『月の使者』を語る何者か。

「我々は皇帝裁判省直下の部隊だ。ロデクス、お前には反乱計画、実行及び皇族関係者殺害の容疑がかかっている。大人しく同行してもらおうか」

「裁判省? あの星で司法制度がまだ生きているとでもいうのか。皇族の腐敗と政治への介入が、民の飢餓を助長しているあの星に、もはや正義の法など存在せん」

「お話しているところ申し訳ないけど、ちょっといいかい?」

中庭へ、ドクターはゆっくりと歩いていく。

手にはソニックドライバー。剣でもなければ銃でもない。人を傷つけはしないが、宇宙最高の武器になる道具。

まず、ドクターは地上の兵士たちを見て、

「君たちが、ルナティの皇帝正規軍で」

次に、頭上の航空機械に乗る人々を見た。

「君たちは、反乱軍ってことか」

ドクターの隣にいた兵士が頷く。

「そうです、ドクター。我々は皇帝正規軍。彼はエンパイヤで軍の一部を焚きつけクーデターを画策。皇族の一部を暗殺し、内戦を引き起こした男です。彼を確保するため、我々はこの時代の兵に偽装し潜入していました。今回は、どうか我々にご協力を」

「あの皇族たちに従って何の得がある? それより私たちの革命が成就した暁には……」

「そんなことはどうでもいい!!」

ドクターが一喝する。

それに圧倒され、正規軍も反乱軍のロデクスも一旦黙ってしまった。寝殿の中から見ていた司も、彼女のその行動に驚かされた。

「それはお前達の戦争だ! この星の人々には全く関係なかった。それなのに、この状況は何だ!? 関係のない多くの人が死んだ! お前達のせいで!」

「歯向かってきたのは彼らの方だろう?」

「黙れ!」

反論しようとするロデクスにも、その隙を与えない。

「何であれ、アンタ達がやったことは間違ってる! シャドー議定書第五十七条は知ってるな? 地球はレベルファイブに指定された保護惑星だ。そこの住民を殺すなんて!」

その言葉。その表情。その挙動。そこから、司はドクターの怒りを見て取った。

「まだ殺すのか!? 関係のない人間を、惑星を巻き込むのか!? 正規軍も反乱軍もない! 僕はお前達の味方はしないぞ!」

手にしたソニックドライバーを、ドクターが周囲へ振りかざす。

すると、兵士達の銃に一斉にロックがかかる音がした。

「ドクター、何をするんです!?」

「言っただろ。僕はどちらの味方もしない。僕が望むのは一つだ」

正規軍、反乱軍、そして司が注視する中、ドクターは言い放った。

「この星から出て行け。今すぐに」

「貴公がそれを言えた義理か」

ロデクスの指摘は、鋭く、容赦なくドクターに突きつけられる。

「いたのだろう、貴公も戦争に。聞いたことがあるのを思い出したよ。タイム・ウォー最後の日、ガリフレイを消し去った十三人の悪魔の話だ。貴公は、その一人ではなかったのではないか」

ドクターはロデクスを真っ直ぐ見据えた。

まるで、彼女自身の『過去』と対峙するかのよう。

「そうだよ。あの日、僕もあれに参加した」

「無辜の民がまだ星にいることを知っていながら?」

「……それしか道がなかったんだ」

ドクターの脳裏に、記憶の断片がよぎる。

名前を捨て、戦争に赴いた老人。集まった三人の自分。破壊をもたらす箱。

この記憶は何かに邪魔をされ、いつも上手く思い出せない。

「でも僕は、後悔していない。必要だったんだ」

「綺麗事を。まあいい。ドクター、今は我々の邪魔さえしなければ貴公を責める気はない。こちらも姫を殺さなければ、もはや後には引けん」

空中の反乱軍兵士が、その腰につけた軍刀を次々に抜く。彼らを乗せた航空機械も、地上へ向かって降り始めた。

「銃火器に頼ったお前達はこんな物持っていないだろう。だが親衛隊は、剣技の訓練を続けてきた」

反乱軍の数人が地上へ足をつける。月明かりに照らされ、その手に持つ刃が怪しく光った。

一方で、正規軍の兵士達の銃はロックされたまま。

「ドクター、これの解除を!」

何とか自力でロックを解除しようとしつつ、正規軍の兵士が叫んだ。

しかしそれより早く、刀を持つ兵士たちが向かってくる。

「ドクターは殺すな。貴重なタイムロードだ。後は全員殺せ」

 

 

司も寝殿から全てを見ていた。

剣を持って降りてくる反乱軍と、自分の銃を必死に叩く正規軍兵士たち。

司はすでに立ち上がっていた。ドクターを助けなければ。

「お待ちなさい」

その言葉が、彼の歩みをすっと止める。

声は司の背後からした。振り向くとそこには、

「かぐや……姫」

「司さんはここで待っていて。私がこの争いを終わらせます」

「危険です! アイツらは貴方を狙ってる!」

「大丈夫。任せて」

 

 

迫る反乱軍に、もはや鈍器としての役割しか果たせぬ銃で正規軍が迎え撃つ。

振り下ろされた刀が銃と触れて鈍い音を発した。

「まっ、まっ、待って! 今ロックを外すから!」

ソニックドライバーを向けるドクターであったが、既に正規兵の数人は斬られていた。

反乱軍は寝殿へと駆け込む。

「ドクター、早く!!」

「分かってる!」

「行け、姫を殺せ」

辺りにこだまする三者三様の怒号。

竹取物語の舞台だった翁の屋敷は、一瞬にしてエイリアンの代理戦場と化した。

そんな中、寝殿の縁に突然一人の人影が現れる。

その人物は、多くを語らずただ一言。

「全員、止まりなさい」

一言で十分だった。

反乱軍も正規軍も、そしてドクターも全ての動きを止めた。

フィジカ・ストーニングとはまた違う。体が動かないのではなく、自発的に動こうと思わなくなる。

「かぐや姫……」

その姿を見て、ドクターが呟いた。

豪奢な着物と艶やかな黒髪。見紛うことのないかぐや姫だ。

「姫様、危険です! 下がって!」

正規軍の兵士が叫ぶ。

それに対し、かぐやは首を横に振った。

「大丈夫よ。皆、動けないでしょう?」

かぐやが寝殿に向かってきていた一人の反乱軍兵士を見た。刀を持ったまま、何故か戦意を失い立ち止まっている自分の姿に、その兵士はただ困惑している。

「かぐや……これは一体どうやって?」

ドクターもまた困惑の表情を浮かべる。

「それが、かぐやの力だからです」

ドクターの問いへの答えは、かぐやではなく頭上から発せられた。

全員が空の上を見る。何もなかったはずの空中に、生えてくるように巨大な物体が出現した。

形状は深海魚を連想させるが、圧倒されるのはその大きさである。少なくとも4、5キロメートルほどありそうだ。

「あれは……」

絶望の表情を浮かべるのは、ロデクスである。

「皇帝軍機動艦隊旗艦……イストリヤ級!?」

イストリヤと呼ばれた宇宙船から、数機の小型機が発進し、屋敷の中庭へと飛んで来る。

「あれって、もしかして」

「はい。皇帝正規軍の旗艦です。良かった、間に合ったみたいだ」

ロデクスと対照的に、安堵の表情を見せて正規軍兵士が答えた。

小型機からは銃を持った兵士たちが次々庭へ降下、ロデクス率いる反乱軍兵士を取り囲んだ。

そして、小型機のうち一機が中庭へ着陸する。機体のキャノピーが開き、一人の老人が現れた。

「どうやらかぐやはこの星で、目的を達したようですね」

出てきた老人を見るなり、正規軍の兵士が皆同時に膝をつく。

「こっ、皇帝陛下。このようなところまでお越しになるとは」

「そのように畏まらずとも結構。そちらにいる少年も、どうぞこちらへ」

呼ばれて司も、恐る恐る外へと向かった。

「このような場に時の旅人が二人もいらっしゃるなんて思いもしませんでした。そちら、お名前は?」

聞かれて、ドクターは深く頭を下げた。

「お会いできて光栄です、皇帝陛下。僕はドクター、彼は文月 司。ところで陛下、かぐや姫の目的とは?」

「ドクター、そんないきなりじゃ失礼だよ」

諌める司に、皇帝は静かに笑う。

「構いませんよ。かぐや、おいで」

帝に呼ばれて、かぐや姫が皇帝の側まで寄ってきた。

「かぐや。皇帝権限817322だ」

「817322を受諾しました。情報を開示します」

言うと、かぐやは両手を差し出す。彼女の手のひらに、ホログラムの球体が出現した。

「私は、皇帝直属研究機関ガイウス=ドルトルクス記念研究所所属、平和維持及び生物感情安定化試験型ヒューマノイド。通常呼称は『カグヤ』です」

あまりにも急にかぐやの正体が明かされ、ドクターも司も呆気に取られる。

「かぐや姫って……ロボットだったの!?」

「ただのロボットじゃないよ」

ドクターは司の言葉に付け加えた。

「翁とお婆さんは、急速だけどかぐやの成長を見ていたんだ。ということは彼女は、自律成長可能型ヒューマノイドってことになる」

「これはこれは。よくご存知で」

「赤子の姿から成人するまで、年月に合わせて内部部品が増産されていき、あたかも成長したように見えるヒューマノイド。噂には聞いてたけど、実際に見るのは初めてだよ」

かぐやの手のひらの球体が、数種の色に変化していく。

それぞれの色に単語が表示された。怒り。悲しみ。喜び。不安。驚き。興奮。

「エモーション・スタビライザー完成のための情報収集は完了しました。太陽系第三惑星の支配的生物、ヒトの感情はヒヴォニス=ルナティ・エンパイヤの人類と酷似していたため、収集に非常に適した環境だったと言えます」

エモーション・スタビライザー。

それで、ドクターはピンときた。

「そうか。そうかそういうことか!」

「えっ、どういうこと?」

まだ理由の分からぬ司を見て、皇帝は滔々と語り始めた。

「エモーション・スタビライザーは高ぶった生物の感情を音声などの聴覚情報を通して抑える、非殺傷性兵器。フィジカ・ストーニングのように強制するのではなく、その音、その声を聞くことで自発的に戦闘を止めさせ、動きを止めることができます。激化する内戦を終わらせるため、私たちはこれの開発を進めました。その過程で技術的な問題はクリアしていったのですが、別の問題が生じたのです」

「感情、それも平和と共存に必要な感情の収集ができなかった。そうだろ?」

ドクターの言葉に、皇帝は頷く。

だが、司には未だによく理解できなかった。

「何でできないんだ? ルナティ=エンパイヤの人たちは地球の人間と似てるって……」

「平時ならば、そうしたでしょう。ですが我が星は既に内戦状態。平和的な感情を持った人などどこにもいません。私を含め、皆が敵を殺し尽くすことしか考えていなかった」

皇帝は平静を装ってはいるが、その目の奥には深い闇のようなものが密かに垣間見える。

「だからこそ、私たちは似た知的生命体を探して、この星を見つけたのです。ですが反乱軍の一部がかぐやを皇族の生き残りと間違え、この星に襲撃したと聞きどうなることかと気を揉んでいましたが、無事にかぐやはエモーション・スタビライザーを完成させていたようです」

ようやく、司もかぐやと話していて感じた奇妙な感覚の理由が判明した。

彼女の声を聞くと体に走る、弱い電気の感覚。人身を掌握するような、それでいて包み込むような温かさ。

かぐやがこの時代の人々に人気があったのも、おそらくこれが原因だったのだ。

「《カグヤ》とはヒヴォニス=ルナティの言葉で安寧を表します。彼女は文字通り、我が星に安寧をもたらしてくれるはず」

「それは、あなた方次第だ。しかし必要なのは、平和を望む心だからね」

ちょうどその時、寝殿の中で見ていた翁と、北対にいた翁の妻が中庭の方へ出てきた。

皇帝はそれを見て深く礼をした。

「お二人がかぐやを育ててくれたですね。心から感謝いたします。これで、我が星にも再び平和が訪れるはずです」

皇帝を前にひれ伏す二人だったが、二人は泣きながら懇願し続ける。

「お願いです。かぐやを連れて行かないでください。かぐやは私たちが大切に育てた娘です。どうか……」

「お爺さん、お婆さん」

二人に答えたのは、皇帝ではなくかぐやだった。

「私もこの国で生まれた人なら、あなた達の元に残りたいです。でも、私は月の人。それに星で、私はやらなければならないことがあるの。この親不孝をお許しください」

皇帝と同じ小型機に乗っていた従者が、箱のようなものを持ってくる。皇帝が手を乗せると箱が開き、中には一つの羽衣と粉の入った瓶が入っていた。

それを見て、かぐやが手で皇帝を制した。

「知っています。それを着るとここでのメモリーが消去されてしまうのでしょう? 残るのは収集した感情データだけ」

そして、かぐやは翁とその妻二人の方を見る。彼女の表情は、泣きながらもこれまでに見たことないような笑顔を浮かべていた。

「お二人とも、本当にありがとう。ここでのことは、絶対に忘れません」

無理だと分かっていながら、感情を覚えたヒューマノイドが口にした一つの優しい嘘。

周囲の兵士たちも、何人かがその光景に涙する。司も、何かこみ上がるものを感じた。

「さあ、かぐや」

皇帝がかぐやに羽衣を着せようとする。瞬間、ドクターは皇帝に見えないよう羽衣にソニックドライバーを向けた。

「ドクター、何を?」

「静かに」

かぐやが羽衣を着せられ、感情が消えたようにその瞳が暗くなる。

次に皇帝は箱から瓶を取り出して、伏している翁とその妻の方へ歩いて行った。

「これはせめてものお礼です。私たち皇族に伝わる秘宝、不死の薬の一部です。どうか、お受け取り下さい」

だが二人は、ただ泣くだけで受け取ろうとしない。代わりに、生き残っていた帝の兵の中将がそれを受け取った。

 

庭の兵士たちが、乗ってきた小型機に乗り込み次々と旗艦イストリヤへと戻っていく。

皇帝も従者の兵士に促され、かぐやと共に乗り込もうとした。

「そうでした。ドクター」

乗り込む前に、皇帝がドクターの方へ振り向いた。

「頭上の旗艦から聞いておりました。貴方は時の王、タイムロードなのですね」

「王なんて大げさな。タイムロードはただの一民族だ」

途端に、皇帝の表情が変わる。温和な顔は硬い表情に。その目は冷たいものに。

「私たちは忘れません。あなた方があの戦争でしたことを。呪いの種族、タイムロード」

皇帝とかぐやを乗せた小型機が、空の上に佇ずまう巨大な母船へと帰っていく。最後の一機を収容すると、旗艦イストリヤはワープしたらしく跡形もなく消えた。

ただ泣くだけの翁とその妻。それ以上に、司には静かに母船へ向かう小型機を見つめているドクターが気になった。

呪いの種族。

そうまで言われるほどに、ドクターは、タイムロードは、一体何をしたのだろうか。

 

 

その日の朝。

ドクターと司は翁と妻に別れを告げ、青いタイムマシンのポリスボックス、ターディスの待つ蔵へと戻った。

蔵までの帰り道、『ターディスはたまに機嫌を損ねていなくなるから心配だ』とドクターが言うので若干心配になった司だったが、ターディスは忠犬よろしく、あの蔵の中で待ってくれていた。

「どうだった? 初の時間旅行は」

いくつかの装置をいじりながら、ドクターが司に聞いた。

彼女の頭には、キャスケットが戻っている。やはりこれは、司の頭より彼女の頭にあった方がよく合っていた。

「楽しかったよ。こんなすごい体験したの初めてだ。ところでドクター」

「何?」

「かぐやの羽衣に、ソニックで何の細工をしたんだ?」

「ああ。あれね」

ドクターがソニックを取り出し、宙へ放って取るいつもの仕草をした。

「羽衣のメモリー・ワイパーをちょっといじったんだ。ルナティに着いたら、地球での記憶が戻るように」

「それじゃあ……」

「向こうに着いたら、全て思い出すよ。かぐやは賢い娘だから、きっと隠すことができるさ」

ドクターがレバーを引く。同時に、ターディスが特徴的な低い発進音を響かせた。

それは、どこか予想もつかない旅へ向かう音。

だがその前に、司は彼女に聞きたいことがあった。

「……ドクター」

「次の質問かい? ワトソン君」

少しおどけるドクターだったが、彼女にも司の声のトーンが一つ前の質問とは違っていることは分かっていた。

「君に、というかタイムロードに何があったんだ? タイム・ウォーとか、呪いの種族とか」

引こうとした次のレバーを持ったまま、ドクターは静止した。

やはりまずい質問だったかと、司は後悔する。

「あ、あの……答えたくないならいいんだ! ごめん」

「戦争が、あったんだ」

レバーから手を離し、彼女がまっすぐ司を見る。

「種族の存亡をかけた戦争。僕もそこで戦った。ドクターの名前を捨てて。そして、僕は終止符をもたらした」

「……どうやって?」

「争う二種族、その全てを滅ぼして」

発進音が止む。ターディス内に静寂が訪れた。

このターディスもいたのだろうか。戦争の場に。ドクターが全てを滅ぼす、その時に。

「さっ、この話は終わり! 次は、どこへ行きたい?」

気を取り直すドクターだったが、動揺を隠せていないのは明らかだ。

だが司も、彼女に調子を合わせた。

「そうだなー。次は……」

彼女の秘密も。タイムロードの戦争も。ドクターが何をしたのかも。

旅を続けていくうちに、分かるかもしれない。司もその時まで、全てを知るのは待つことにした。




こんにちは。ストロマトライトです。
この回で竹取物語編が終了となります。お楽しみ頂けたでしょうか。
今回はDay of the Doctorの内容を回想として出してみました。あれはドクター共闘の話でしたが、いつか機会があったらこの小説でドクターvsドクターをやりたいですね。
それと、最初に登場させる原作エイリアンは嘆きの天使に決定しました。次次回登場の予定です

Twitterの方でもいつも感想や反応を頂けて感謝です。
それでは。
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