Doctor Who Who is this girl?   作:ストロマトライト

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こんにちは。ストロマトライトです。
今回から新章突入です。


片恋慕の狂気 Part1

少女は、どこにでもいる女子高校生だった。

学校へ通い、授業を受け、友人と談笑し、放課後は部活に励む。楽しくて、毎日が早く過ぎていく日々。

その日常の中で、彼女は常に気にかかっていることがあった。想い人のことだ。

「……はぁ」

自分の部屋で一人、ため息をつく。

相手は昔から一緒にいて、まるで家族同然の付き合いをしていた。

彼に想いを気づいて欲しいと思う一方で、待ちに回る自分を都合のいい奴だと卑下する自分がいる。

「どうしたら……分かってくれるかな」

ベッドに仰向けになり、左腕を瞼の上に置く。誰も見てはいないが、涙を隠したかった。

奇妙な鈍い音が少女の耳に入ったのは、まさにそんな時である。

「なんだろう」

不思議に思って、少女は部屋の窓を開けて辺りを確認する。だが、特に何か変わったことはない。

いつも通りの、夕暮れの光景が広がっているだけだ。

「おかしいな……」

少女は窓を閉めた。

既にこの時、時空の狭間からやってきた目に見えぬ侵入者が入り込んだとも知らずに。

 

 

音を立ててターディスが着陸したのは、何の変哲もない日本の住宅街にある空き地だ。

ここは現代の日本。司の住む街だった。先日降った雪が、固まってまだ少し辺りに残っている。

「本当に行くのかい?」

「行くよ。もちろん」

司は制服に着替え、学校指定のバッグを手にしていた。今からまさに登校しようとしていたのだ。

「何度も言うけど、これはタイムマシンだよ。司が望めばいつでもこの時間に戻ってこれるし、それにわざわざ戻らなくたってターディスの中には生活に必要なものが全部揃ってるのに」

「そりゃあプールもあればバスルームもあるけどさ。シャワーから緑の水が出るだろ、あれ」

「君がしたいなら透明にできるさ」

そう言って、ドクターはソニックドライバーを出した。

「それに学校だって、ターディスのデータベースを使えば西暦5001世紀の第四人類帝国の高等教育まで受けられるよ。何だったら僕が教えたって……」

「そういうことじゃないんだ」

司はやれやれという顔をした。

このドクターというエイリアン。見た目は人間なのにやはり感覚が人のそれとは大きく違う。

「確かにこのターディスでロボットかぐや姫も白亜紀の恐竜も宇宙の果ての博物館も見たけど、俺は自分の日常を忘れたわけじゃないんだ。いやむしろ、忘れないために今日学校に行くんだよ。」

「そういうものかい?」

「そういうものだよ」

司はターディスのドアノブを握った。この扉が、日常と非日常を繋いでいる。

今、司は日常へ戻ろうとしていた。

「夕方には戻るから。もし暇なら、駅前のショッピングモールとかに行ってみれば?」

「それもいいね。もしくは1944年のイギリスに行って、久々にウィンストンに会うのもいい」

「ウィンストン?」

「ちょっとした友達だよ」

さすが時を駆けるドクター。様々な時代と場所に、友達がいるようだ。

「じゃあ、行ってくるよ」

何だかんだ言いながらも、出る時はドクターも手を振って司を見送った。

扉が閉まる。今この青いポリスボックスには、彼女一人きりだ。

「さて、僕はどうするかな」

所在無げに、ドクターはコンソールを摩った。

 

 

ターディスは司の高校から少し離れた場所に着陸したため、司は少し歩くこととなった。

最初はドクターが『いっそ校庭に着陸すれば早い』などというものだから、止めるのに手間取ったものである。学校のど真ん中にあんなに目立つポリスボックスが突然現れ、しかもそこから制服姿で出ようものなら、司は二度と同じ高校に通えなくなる。

「それにしても」

この世界の時間ではせいぜい一晩分離れていただけ。

それなのに、司は高校までの道の光景が、妙に懐かしく見えた。

「よく考えれば……この時間ではいなくなってたのは10時間くらいだけど、実際の俺は一週間近くの時間を過ごしたんだよな」

柄でもなく、独り言を呟いてしまう。

考えるのが少し怖くなってきた。こうやって、これからも通常以上の時を過ごして行けばどうなるのだろう。一週間なら大きな影響は出ない。では半年なら?

例えば、この時間では二、三時間しか経っていないのに、その間司がドクターの旅に10年ほど付き合ったらどうなるのか。

その場合、外見的変化は周囲から見ても明らかになるはず。

そうなったら、この世界ではもう生きていけないのだろうか。

考えれば考えるほど、司は目の前の世界を遠く感じていく。

「このままドクターと旅をしていたら……俺は」

暗い考えが、次第に深くなる。だが、その思考は不意に止まった。

「よお、文月じゃん。久しぶりだな」

後ろから何者かが肩を叩き、自分の名を呼んだからだ。

振り向くと、そこには司と同じ高校の制服を着た人物がいた。

「おお、成瀬か!」

司はその少年を見て少々驚く。

声をかけてきたのは、成瀬 和人(なるせ かずと)。司とは同じ中学の出身であり、現在は違うが高校でも一年生の時は同じクラスだった友人だ。

「最近会ってなかったよな、全然。どうしたんだよ、こんな所で」

「どうしたって?」

「だってこの道、文月の家から反対方向だぞ? いつも使ってないだろ」

言われて、司も気づいた。確かにターディスが降りた場所は司の家とは逆だ。

「ああいや、その……たまには別の道で行こうと思って」

「変な奴だなー。思いっきり遠回りの道だろ」

「ちょっと考え事がしたかったんだよ。お前こそ、この時間だと部活の朝練には間に合わないぞ」

「今日は朝練休みだよ。で、なんだよ考え事っていうのは」

和人は小学校からずっとサッカー少年。読書と下手な料理が趣味の超インドア人間である司とは、一見馬が合わなそうである。

だが中学校入学を機に日本へ戻り、まだ日本の環境に慣れなかった1年時の司に初めて声をかけてくれたのは和人だった。

スポーツが出来て社交的な和人は司をクラスに溶け込ませ、代わりに司は成績不振だった和人に勉強を教える。

ギブアンドテイクの利害で結ばれていた関係は、いつしか本物の友情となっていた。高校も、司は一般入試、和人はスポーツ推薦という形で同じ高校に入ることとなった。

「別にそんな大したもんじゃない。このままどんどん年取っちまうのかなぁ、ってだけ」

「何爺さんみたいなこと言ってんだよ。お前大丈夫か? 料理作ってて失敗作でも食ったのか?」

「そうじゃない。それに失敗ってなんだよ。俺だって最近は上手くなってるぞ」

こうやって笑いながら友人と話すだけで、今の司は何故か安心できた。

自分をこの世界で覚えていてくれる人がいる。自分はこの日常に帰ってこられる。

それだけで、司は少し嬉しかった。

 

 

和人と話しながら歩いているうちに、二人の高校の校門が見えてきた。

私立山両学院高校。創立50周年を昨年迎え、偏差値は60に足をかけたほど。進学率はそこそこだが、校風の自由さと女子の制服の可愛さが地域では一番ということで、それなりの人気を誇る高校だ。

周囲でも、司たちと同じように山両の制服を着た学生が同じ方向へ歩いていくのが分かる。

二人は今、司が先日作った料理の話で盛り上がっていた。

「で、食べたんだよ。そしたら塩っ辛いの何のって」

「文月お前、また調味料の量間違えたな」

「いやいや。今回ばかりは俺のミスじゃなくて……あれ?」

校門を通ってすぐのところで、司は前を歩く人影に気づいた。

「あの子、多分宮田じゃないのか?」

司は和人をこずいて聞く。和人もその姿を見て頷いた。

「確かに。花梨だな、ありゃ。おーい、花梨!」

和人が名前を呼ぶ。すると、その人影はすぐに振り返った。黒髪をおさげにまとめ、赤いマフラーを巻いた少し背の低い少女。

宮田 花梨(みやた かりん)。和人とは家が近く、随分小さい頃からお互いよく知っているいわゆる『幼馴染』だ。和人を共通の友人として、司も彼女とは中学からの友人だ。

花梨は司たちに気づき、まだ滑りやすい道を慎重に歩いて二人の元へやってきた。

「和人、それに文月君も。おはよう」

花梨のほおは少し赤らんでいた。この寒さのせいだろうと、司は見当をつける。

「二人が一緒に来てるって珍しいね。文月君は和人と家、反対なのに」

「それがさ、文月の奴自分が歳取ってくことを考えるために遠回りしてたんだと」

和人の言葉に、花梨は不思議そうに頭を傾げる。

「文月君、また失敗した料理もったいないからって全部食べて何か当たったの?」

花梨の心配した表情に、司は慌てて訂正を入れた。

「いやいやいや! 別に俺は大丈夫。というか何で二人ともその結論に達するんだよ!」

「だって……文月君、前にも冷蔵庫にある腐った野菜で野菜炒め作ってお腹壊してたし」

「とにかく文月は料理好きのくせに料理運がないからな」

抗議したいものの、自分が料理、というより食事運がないのは司自身よく知っている。中学の修学旅行でも牡蠣に当たり、日頃もたまに賞味期限切れのものを食べてしまう。

不注意と言われればそれまでだが、ここまでいくと運もある程度影響していると思わざるを得ない。

「とりあえず、体に気をつけてね。じゃあ私、ちょっと急ぎの用があるから」

言うなり、花梨は校内へと向かっていった。

去るのは若干急ぎ足だったようで、途中少し転びそうになっていた。

それを後ろから見つつ、司は和人に言う。

「宮田、何か少しいつもと違わないか?」

「そうか? 別に普通だろ。いつもの花梨だよ」

「いや何というか……ちょっとよそよそしいというか。そいえば、最近はお前、宮田と一緒に来てないんだな」

中学時代は、二人とも部活の朝練があるということで一緒に登校していたのを司は思い出す。サッカー部の成瀬に女子テニス部の宮田。悪くないカップルだと、周囲の者が冷やかしていたこともあった。

「ああ、まあその」

聞かれて、和人がバツの悪そうな顔をする。

「いつまでも俺と登下校してると、また中学の時みたいに変な噂されるかもしれないし。花梨もそういうの迷惑だろうから、別々に登校しようぜ、ってこないだアイツに言ったんだよ」

「それで宮田はなんて?」

「『そうだね』って言ってそのまま。子供の時みたいにいつも一緒、ってわけにはいかないからな。もし花梨を好きな奴がいても、俺がいたら言いづらいってこともあるだろうしさ」

そう言って笑う和人。それは寂しそうでもあったが、司はあえて触れないことにした。

 

 

幾度か滑りそうになり、やっとのことで下駄箱へたどり着いた花梨は息を切らしていた。

ここ最近ずっとそうだ。和人を前にすると、動悸が早くなる。

少女漫画が言うところの『胸がつまりそうな思い』というのを、花梨はまさに実感していた。

思えば、今日は体調が悪い気がする。体が普段より熱く、血流が何となく早いような感覚。

しかし花梨はこれを無視した。なんのことはない。久々に和人に直接会ったから、驚いているだけだと。

「別に……気にしなくていいのに」

子供の時みたいに噂になるのは嫌だろうから、と和人から別々に登下校することを提案されたのが二週間ほど前。そんなの気にしないと言ったが、強く反論することもできず結局そうなってしまった。

どうして突然あんなこと言い出したのだろう。

和人との仲も随分長い。噂が云々、のことは花梨も真実ではないと分かっていた。

では、何が原因だろう。

靴を履き替え、教室へ向かう間も花梨は考える。

『分かってルくせニ』

声がした。聞き覚えのある声。

『認めたクないだケでしョ』

時折ぶれる声。どこから聞こえるかも分からない。しかしそれは間違いなく花梨自身の声なのだ。

昨日からずっとそう。和人について考えると、必ずこの声が聞こえてくる。

『和人に好キな人ができタんだよ。アナタはもう邪魔ナの。だから別々ニって言ってるンだ』

耳を塞いだって無駄。声は止まらない。

花梨は教室へと急いだ。その目から、一筋の涙を落として。

 

 

「ヴァストラとジェニーは? いない? そう」

ターディス内にある古めかしい電話機で、ドクターは暇つぶしも兼ねて電話していた。

ただし、電話の相手はヴィクトリア時代のイギリスで探偵業を営む爬虫類エイリアンとその妻の元で召使として働く、ジャガイモ頭のエイリアンだ。

「閣下! 声がまるで戦いを知らぬ少年のようですぞ?」

「また『再生』したんだ。それにストラックス、これは少年じゃなくて少女! また間違えてるぞ」

「失礼しました閣下。それにしても閣下が少年になるとは……」

「だーかーらー、少女だっての。相変わらずソンターラン族に性別の概念を教えるのは楽じゃないな」

ドクターは触ってもターディスの操作に影響しないレバーを引く。

それに反応したのか、ターディス内に音が響いた。

「とにかく、僕の姿がまた変わったから次に会った時に驚かないでくれってこと。ヴァストラたちにもよろしく。それじゃ」

ドクターは受話器を置いた。

「さて、何をしようか」

時刻はまだ昼の十二時三十分。

司が戻って来るのは確か夕方。ターディス内のプールでひと泳ぎするのもいいが、久々に本棚を整理するのもいい。

そして、本棚という単語が浮かんだ時点で、ドクターの次の行動は決まった。

「そうだ! 本屋に行こう!」

思いつくや否や、ドクターはターディスを飛び出した。

 

 

四時間目終了のチャイムが鳴る。同時にそれは、昼休みの開始を告げるチャイムだ。

生徒たちも次々と教室を出て行く。

食堂へ向かう者。購買へ向かう者。はたまた別のクラスに向かう者。さっきまで静かだった校舎は、一瞬で賑やかになった。

「文月、食堂行こうぜ。早く行かないと席が無くなる」

「おう」

クラスの友人に呼ばれ、司は数学の教科書を手早く片付ける。

「そういえば、ドクターもちゃんと昼飯食ってるかな……」

彼女と旅をして一週間。時たま食事は司が作ったりもしていたが、たいていはターディスにある得体の知れないクッキングマシンが勝手に用意してくれていた。

色や見た目が悪いものもあるが、味は結構良かった。

「ま、あれで適当に済ましてるか」

司は足早に友人が待つ教室前のドアまで向かう。

せめて学校にいる時くらいはドクターやターディスのことを考えずに過ごそうと思っていた司であったが、なかなかそうはいかない。

授業中も頭の隅にあるのは、見かけより中が広いポリスボックスと不思議な異星人の少女のこと。

ドクターは言っていた。かつて司と同じように、彼女と旅した人々がいたことを。そして、その人々と必ずしもいい別れ方をしたわけではないことを。

その人たちも、自分と同じように悩んだんだろうか。普通では考えられないような未知の旅と、何気ない日常との乖離に。

「おい司、どうしたんだよ。食堂そっちじゃないぞ」

友人に言われはっと気づくと、確かに食堂へ行くのとは反対の廊下を歩いていた。

「悪い悪い。考え事してた」

慌てて方向を180度変え、正しいルートへ戻る。

こんな調子ではやっていけない。やはり一度ドクターのことを考えるのは止めよう。

などと司が考えていると、彼のすぐ側を一人の見覚えある女子が通った。

「あれ、宮田……?」

その姿は間違いなく花梨その人だった。ただ様子がおかしい。どことなく足元がおぼつかず、ふらふらとしている。

思えば今朝会った時も、顔が少し赤くなっていた。寒さのせいかと思っていたが、本当は熱でもあるのではないだろうか。

心配になって声をかけようとする司だったが、

「司、何してんだよ! 置いてくぞ!」

友人に急かされ、仕方なく司はそのまま食堂へ行くことにした。

彼女も子供じゃない。何かあれば、自分で何とかするだろう。

 

 

山両学院高校の屋上は、生徒の立ち入りが自由となっている。

景色も悪くないため、昼食時にここへ来る生徒も少なくない。ただし、今は2月の中旬。こんな寒空の下で昼休みを過ごそうなどという生徒はそういない。

ただ一人。宮田 花梨を除いて。

「嫌……もうつらいよ……こんな感じ……」

置いてあるベンチで一人横になり、花梨はただ泣いていた。

いつもはここで友人たちと話しながら昼食を取るのが好きな花梨だが、今日ばかりは自分一人しかいないことが好都合だった。こんなところ、人には見られたくはない。

確かにこの屋上には彼女一人。ただ、花梨にはもう一人いるのが感じられた。

『嫌でしョ、こんナ感覚。あなタが彼に伝エないト、ずっトこのマまだよ?」

花梨の横になっているベンチのすぐ側に少女が立っている。その姿は、紛れもなく花梨自身だ。

昨日からずっと聞こえている声。それは自分の声に間違いない。

しかし姿形を持ってもう一人の自分が現れたのは、花梨がここ、屋上に来てからだった。

「あなた、誰なの? 私に似てるけど、あなたは私じゃない」

『いいエ。私はあなタ。あナたの本当の気持チを表してルの。あなたノ代わり二』

「私は……そんなこと思ってない」

『嘘。あなタは思っテる。心のズっと奥底で。好きデ好きでたマらなくテ』

「やめて! それ以上言わないでよ!」

耳を塞ぎ、身を縮ませる花梨。だが、もう一人の自分は口を閉じない。

『思ったコとあるでシょう? 私ト彼以外、みんな消エた世界に行キたいって。そんナ世界になレばいいっテ』

「ない! そんなこと、思ったことなんて絶対に……」

絶対に。

否定はできなかった。

『ほらネ』

思えば高校に入ったあたりから、彼との、成瀬 和人との関係は変わってしまった。

中学時代は友達として接していることができたはずなのに。高校になってから、男女というものが友達、友達以上という段階を踏んだら次は、ということを分かりはじめてから。

お互いに小さい時から友達という関係だった故、その先が考えられなくて。少し怖くもあって。

『でモ、その先ヲあなタは望んデる。なの二彼もそうダとは思えなイから、言い出セない』

「だって……」

彼には彼の思いがある。彼の想い人がいるはず。

幼馴染と言ったって、それ以上の何者でもない自分がそれ邪魔するようなことはできない。

「もう、分かんない……どうしたらいいか」

『簡単ダよ』

もう一人の花梨は耳元で囁く。優しく、そして邪悪に。

『あなタが望めバいいノ。あナたと彼しかいなイ世界を」

自分と彼しかいない世界。邪魔する者は誰もいない世界。心の一番奥で夢想した世界。

「望んだら、そんな世界になるの?」

『私ガ叶えてあゲる。さア願って。そんナ世界を』

もう一人の花梨が、その手を花梨の手の上に重ねる。その手は実体がないはずなのに、恐ろしいほどに温かい。

目の前の自分は何者なのか。自分なのに、自分じゃない。

「あなたは……誰?」

『私はアなた。あなたノ願いを叶えてアげられル、あなタ』

 

花梨は目を瞑った。そして願う。

それだけで十分だった。周りの光景が、世界が、まるで皮が剥がれていくように変わっていく。

花梨自身にも感じられた。校舎の壁や床が、その色を変えていった。生徒たちは次々に消えていく。窓という窓をツタのようなものが覆い、校舎全体を包むように見えない膜が張る。

全ては、ただ彼女が望むままに。

 

 

近くの本屋を周り、数冊の本を買って戻ってきたドクター。

そんな彼女を待っていたのは、奇妙な音して、中心の円筒内で激しくエンジンを前後させるターディスだった。

「おいおいどうした!? 落ち着け落ち着け!」

ドクターは急いでコンソールへ駆け寄り、ターディスを安定させようとする。

この状態を、彼女は知っていた。ターディスが特に機嫌を悪くした時のものだ。

「どうしたんだよ? こんなに機嫌悪いなんて久々じゃないか」

可動式のスクリーンを目の前に持ってきて、ドクターは状況を確認しようとする。

そこに映されたのは、どこかこの近くで発生した空間のあまりに巨大な乱れ。

「これは……」

ドクターも稀に見る乱れだった。この世界でおよそ起こりそうのない大きさである。ターディスはこの乱れを嫌がっていたのだ。

これには何か外的なものが関わっているのは間違いない。

同時に、ドクターは夕方までの暇つぶしを見つけ目を輝かせた。

「よし。行ってみよう!」

乱れの中心に座標を合わせ、レバーを引く。

だがターディスは移動しようとせず、渋るように音を立てて揺れる。

「頼むよ! こんなことは通常ありえないんだ。誰かが助けを求めているかも」

ドクターはもう一度レバーを引いた。音はいつもより鈍かったが、ターディスは動き出した。

歪む空間の中へ、ポリスボックスとドクターは飛ぶ。




ストロマトライトです。
今回から舞台は現代に戻ります。前回コンパニオンの司をあまり出せてなかった気がするので、今回は彼と彼の高校をメインにしていきたいと思います。
今回ドクターとの電話で出てきたヴァストラ、ジェニー、ストラックスは本編で登場する探偵コンビです。私も彼らは気に入ってるのでいつかメインで出したいですね。
では今回はこの辺で。片思いヤンデレ娘とドクターたちの戦いは、また次回のお楽しみです。
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