蒼穹と宙   作:白燕狭由那

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トレーズ閣下の生存系考えたらこうなりました。


竜宮島


竜宮島の命運を賭けた第二次蒼穹作戦は、終わった。

皆城総士が島に戻り、真壁一騎の視力も回復して、彼等は新たな道を歩み始めていた。

 

 

それから三ヶ月経ったある日、島の浜辺に見慣れぬロボットが打ち上げられた。中には、一人の青年が乗っていた。

 

 

 

それが、つかの間の平和を得た彼等に新たな騒ぎへと導くとは、誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ総士、あの人の様子はどうだ?」

 

島で唯一の喫茶店『楽園』で、雇われマスターを勤めている一騎は客としてやって来た総士に尋ねた。

 

「僕も気になって遠見先生や剣司に聞いてみたんだが、ずっとあのまま意識は戻っていないそうだ」

 

先日、島の浜辺に巨大な機体が打ち上げられているとの住民から通報があった。アルヴィスのメカニック担当等が駆け付けると大きく破損した白と青に塗装された約17メートルの機体が横たわっていた。

新国連の兵器かと思われたが、カノンも見たことが無く、対フェストゥム兵器にしては小さすぎるという見解だった。

大きく傷の付いたコクピットと思われる部分を開いてみると、一人の青年が意識を失った状態で発見された。

一先ず青年をアルヴィスのメディカルルームに運び、機体もファフナーブルクの一画に安置された。

機体を調べてみると明らかにファフナーどころかこの世界の技術ではないものが使われていることが分かった。

それだけでは詳しいことは分からないので、乗っていた本人に聞くしかない。

運び込まれた青年は負傷していたものの命に別状はなかったが、今も意識を取り戻さないまま眠り続けている。

 

「そっか……後でお見舞いでも行ってみようか」

「ああ」

「確か、名前はなんて言ってたっけ?」

「カノンが機体から読み取った情報だと確か………

 

 

 

 

 

トレーズ。トレーズ・クシュリナーダ、だそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

ファフナーブルクの一画、カノンは回収された機体に残されたデータの解析を行っていた。自分が見たことのない技術が使われた兵器。装甲に使われている金属も今まで見たことのないタイプだ。

それ等を調べた後、戦闘データをみる為に端末を機体のコンソールに接続してみた。

ウインドウに映像が映し出され、音声も映像に合わせて流れ出す。それは、島の戦いに関わってきた人間ですら見たことも経験したこともないものだった。

 

 

 

果てしない暗闇、その中で一際輝きを放つ蒼い星――地球と巨大な星のような要塞の間でファフナーとは明らかに異なる人型の兵器が戦っている。

この機体――トールギスⅡは凄まじいスピードを出しながら、一体の機体と対峙していた。緑色の中華風の装甲を纏った機体はトールギスⅡに追い付くように駆っている。

トールギスⅡに乗った青年は相手の機体のパイロットと問答を交わしている。

 

 

『……貴様のために、何人の人間が死んだと思っているんだ!』

 

対峙している機体から聞こえる声は若い。乗っているのは恐らく少年だろう。

トールギスⅡに乗っていた青年が応える。

 

『…聞きたいかね?

 

昨日までの時点では、99万9822人だ』

『何っ!?』

「ッ………」

 

 

その応えにカノンも息を飲む。その人数は、竜宮島の人口を遥かに超えるものなのだから。

その問答の後にも戦いは続き、そして終わりは来た。

トールギスⅡに相手の機体の武器が突き刺さる。それが、幕引の合図だった。

 

 

『…見事だ、五飛…』

『何故だ!?何故、避けなかった!?』

『五飛…我が永遠の友よ…。

そして、…………。君達と戦えた事を…誇りに思う…』

『こんなもの…こんなもの…!俺は絶対に認めんぞ!』

『ミリアルド…また会おう…』

 

 

その終わりを見届けたカノンは思わず拳を握り締めた。

何故、それだけの覚悟を持ちながらこのような終わり方をしたのか。それだけの考えがあれば、もっと良い方向に周りを変えられたはずだ。それなのに、これでは五飛と呼ばれたパイロットもあんまりだ。

 

 

一応データは取った。カノンは思う。このことを一騎達が知ったらどう思うだろう?きっと、憤慨して咎めると思う。彼等は優しいから。

大人達には報告として伝えておこうと、カノンは端末を持ってその場を後にした。

 

 

 

アルヴィスの中にあるメディカルルームの一画。

そこに一人の青年が眠り続けていた。腕に点滴を打たれ、口元には呼吸器が取り付けられ、傍らにある機械からは脈の拍数が規則正しい音を発している。

名をトレーズ・クシュリナーダ。彼の世界では自らを世界の敵にして平和を築かんとした人物だが、そのことはアルヴィスの人間は知らない。

 

「今日も進展は無いみたいね……」

 

その一人、遠見千鶴は彼のカルテを見ながら呟いた。トレーズが此処に運ばれてからもう一週間は経つ。怪我も最初は酷いものであったが、アルヴィスの整った設備でそれも全て癒えている。それでも意識が戻らないのは、肉体的なものではないとすれば、精神的なものだろうか。

 

「遠見先生、ちょっと」

 

部屋に入って来たのは第一期ファフナーパイロットの一人で、今は千鶴の元で医療について学んでいる近藤剣司だ。恋人の要咲良の介護経験から医学に興味を持ち、ファフナーの搭乗に限度が来た時の任務として医者になろうと学んでいる。

 

「真壁司令が先生を呼んで来いって言ってたんで。何か会議をやるみたいですよ」

「あら、そう。分かったわ」

「あ、剣司、遠見先生」

 

二人が声のした方向を見ると一騎と総士が花束を持って歩いて来た。

 

「一騎、総士!どうしたんだ?それ」

「お見舞いだよ。気になってね」

「そうなの…。剣司君、後お願いできるかしら?」

「はい、大丈夫です」

「それじゃあ、お願いね」

 

千鶴は剣司に任せて、司令部に向かった。

 

「遠見先生どうしたんだ?」

「何か会議するとかで司令に呼ばれたんだ」

「そうなのか。何か知っているか、総士?」

「いや、僕は何も聞いていないが」

「そういうのは大人に任せておけって。それより、あの人を見舞いに来たんだろ?花を活けるなら花瓶出すぜ」

「ああ、悪いな」

 

剣司は棚から花瓶を出して水を汲み、花束を解いた一騎がそれを受けとって花を活けて、ベッドの横にあるサイドテーブルに花瓶を置いた。

一騎に付いて来て特にすることもなく持て余していた総士は、机の上に置かれた医学書を手に取って開いてみた。剣司が読み込んでいるからか、所々後が付いている。

 

「あ、それ剣司が勉強しているやつか?」

「ああ、まだ分かんねえことも多いけどな」

「そうか。でも、努力することは悪くないぞ」

 

総士は医学書を閉じて、剣司に手渡した。

 

「遠見先生から色々教えてもらっているからその内代わりになれたら良いなって思っているんだ」

「そっか、なら俺達もお世話になるかもな」

「その時は、よろしく頼む」

「ああ」

 

そんな会話を交わしていた、その時。

 

 

 

「う……」

 

 

 

「「「!!」」」

 

一騎達は一斉に声のした方向を見た。今此処にいるのは自分達三人と、あの謎の機体のパイロットで一騎達が見舞いに来た理由の人物。則ち、彼が目覚めたのだ。

 

「僕は遠見先生を呼んで来る!彼を頼む!」

 

総士はメディカルルームを飛び出して行った。

剣司は万が一の時に千鶴から教わっていた確認をしようと、トレーズの両手を手に取って軽く握った。

 

「俺の言っていることが分かりますか?分かったら手を握ってください」

 

うっすら目を開いたトレーズはぼんやりする視線を向けながら、弱々しく剣司の手を握り返した。

 

「ここ、は……」

「島のメディカルルームです。貴方は浜辺で意識を失っていて、此処に運ばれたんです」

 

トレーズの無意識な呟きに、一騎が応える。

続いて剣司が問い掛ける。

 

「一応確認とかしたいので、名前言えますか?」

「――わたし、は……」

 

 

 

 

 

アルヴィス会議室。

 

カノンから提出された戦闘データと映像データを見た彼等は一同言葉を失った。

あの機体は自分達のように襲って来る敵を撃退する物ではなく、人と人が争う為の兵器であった。

その世界観も大きく異なっていた。

自分達の世界はフェストゥムの侵攻により人類が暮らす環境は限られているが、あちら側は人類は宇宙まで生活圏を進出している。そして人間と人間が互いに憎み、殺し合う争いを行っていた。しかも様々な世界が入り交じっており、更なる混沌を生み出していた。

 

 

「成る程な……どうりでコンセプトとかが違うわけだ」

 

溝口が座っていた椅子の背凭れに寄り掛かって腕を組む。

 

「人間同士が争う世界だなんて……嫌なもんだねぇ」

 

西尾行美も考え込むように目を閉じる。

 

「カノン、データはそれだけなの?」

 

容子はカノンに問い掛けた。

 

「中枢部分が完全に直っていなくて、抽出できたのはそれだけです。何しろ、技術自体が見たことのないものなので…」

「分かったわ。それはしょうがないわ」

「となると、鍵となるのはあのパイロットか……遠見先生、彼の様子は?」

「来る前に診ましたが、依然意識は戻っていないです」

「そうか……」

 

史彦はため息をついた。

 

そこに、会議室の扉をノックする音がした。

 

「誰だ?」

「総士です。遠見先生、例のパイロットが気が付きました!」

「!!」

 

千鶴は扉の前にいた総士に構うことなく飛び出していった。それを茫然と見守っていた総士だったが、ふと会議室を見やって中にいた人物に目を丸くした。

 

「カノン?どうして此処に?」

「実は……」

 

カノンから差し出されたものに、総士は他の大人達同様眉をひそめた。

 

 

 

メディカルルームに着いた千鶴が見たものは、一騎に支えられて起き上がっているトレーズと、彼と視線を合わせて話す剣司だった。一騎と剣司の表情は余り良くない。

 

「一騎君、剣司君……何かあったの?」

 

千鶴の問い掛けに、剣司が重々しく答えた。

 

「……遠見先生。トレーズさん、自分の名前以外、覚えていないみたいなんです」

「え……」

「一般的に言ったら、“記憶喪失”って言えばいいんでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

改めて検査行ったが、状況は変わらなかった。

生活に必要な知識などは知っていたが、出身や人間関係等は思い出せないようだった。

ただ、そのさり気ない仕草などからおそらく上流階級の育ちだろうという見解が出た。会議に出ていた面々はそれに納得する。実際、発見された時格調高い軍服を身に付けていて、記録では彼は前線を指揮していたのだから、高い地位にいたのだろう。

「総士、トレーズさんの記憶なんとかならないかな?」

 

一騎は総士に尋ねてみた。総士は小さく首を横に振った。

 

「僕に聞かれても困る。記憶は彼自身の問題だしな」

「でも、何かきっかけがあって記憶が戻るって言うじゃないか。あの機体を見せれば、もしかしたら記憶が戻るんじゃ……」

「僕も最初そう思ったんだがな……」

「総士?」

 

言葉を濁す総士に一騎は首を傾げた。

 

「一騎、総士君。ちょっと来てくれ」

 

史彦に呼ばれて、二人は会議室に向かった。

 

 

 

 

会議室には先程まで会議に参加していた大人達とカノン、一騎と総士と剣司が揃っていた。

後から参加した三人はカノンがトールギスⅡから取ったデータを改めて見せられて言葉を失った。対フェストゥムの兵器であるファフナーに対し、データに出てきたのは機動兵器同士で戦い、殺し合うものであった。

一騎は総士が千鶴を呼びに行ったのを思い出し、その際目にしたのだろうと思い、同時に総士がトールギスⅡを見せるのを渋った理由を察した。

 

「皆に聞きたいのは、彼の処遇についてだ。記憶を取り戻すよう働き掛けるか、今の状態を維持させるか、どうする?」

 

史彦は会議室の面々に問い掛けた。

記憶を取り戻したならトールギスⅡについても聞き出せるかもしれない。だが、フェストゥムからも世界からも隠れている竜宮島を彼はどう思うだろうか。うまくごまかしても潜在的に気付くかもしれない。

記憶を取り戻さず今の状態のまま維持するなら、島で生活するのに必要な職業指導をすれば良いだろう。だが、自分について何も分からないという状態に納得はしないだろう。

その場にいる面々は一同黙り込んでしまった。

 

「あの……」

 

そんな中、剣司は手を挙げた。

 

「どうした?」

「俺は、トレーズさんの記憶を取り戻すのに協力したいと思います」

「理由は?」

「仮にトレーズさんが戦争を起こした人だったとしても、その事実を受け入れて償って欲しいと考えているからです」

 

かつての自分の経験を踏まえて、剣司は説明した。例えどんなに辛い事であろうと、目を背けてはいけない。全てを受け入れ、次へ進む為の糧とする。それがあの時剣司が心に刻んだものであった。

それを聞いた一騎と総士は納得すると共に、剣司がそう言うかと思った。思えば咲良の同化と衛の死、そして剣司の母親の死を乗り越えて剣司は強くなった。

他の大人達も、その意見に同意なのか小さく微笑んでいた。

 

「成る程、他に意見がなければ彼をサポートするということで良いな?」

 

その言葉に全員が頷いた。

 

 

メディカルルームで、トレーズは所在なげにベッドに腰掛けていた。

 

目を覚ましたら見知らぬ場所で、その直後に話しかけた少年達も自分のことを案じているのは分かったが、肝心の自分のことが分からなかった。自分の名前――トレーズということは覚えていたが、それ以外のこと―――出身、家族、職業、それら全ての記憶が無くなっていたのだ。

後からやって来た女医が詳しい検査を行ったが、変わりはなかった。聞くところによると、自分は重傷を負っていたのを島の浜辺で発見されて運び込まれたらしい。離島にしては此処の医療設備はしっかりしていて、怪我も大半治癒されたのだが、元が重傷だったので目覚めるまで一週間かかったそうだ。

今自分を診察した女医やあの少年達は何処かに呼ばれたらしく、メディカルルームにはトレーズ一人だけである。少年達の一人で、色素の薄い長い髪の左目に傷を負った少年が自分が退屈しないように幾つか本を置いて行ったので、トレーズはそれで時間を潰していたがそれらを読破してしまったので、どうすればいいかを思案していた。

ふと、部屋の扉をノックする音がしてトレーズが答えると、女医――千鶴が入って来た。

千鶴はトレーズの前に椅子を持って来て座って、トレーズと向き合った。

 

「トレーズさん。さっき島の主要な人達と話し合ったんだけど、貴方の記憶を思い出すのをサポートしようってことになったの」

「私の記憶を、思い出させる?」

「ええ。自分について分からないのも困るだろうし」

 

確かにそれは一理ある。自分自身を理解できないということは正直生きて行く上で困る。自分について説明するには、やはり記憶を取り戻さなければならない。

 

「分かりました。お願いします」

「ええ。それで、実は貴方を見つけた時に一緒に在ったものがあるのだけど、もしかしたら貴方の記憶に結び付くかもしれないから見て欲しいの。良いかしら?」

 

この言いぶりからすると、それは何処かに保管しているようだ。記憶を失う前の自分に関わるものなら見た方が良いかもしれない。同意するように頷くと、千鶴は持って来ていた紙袋から何かを取り出してトレーズに渡した。

それは衣服というより、制服だった。紺を基調に白と青紫のラインが入っており、赤いスカーフが付いていた。袖の二の腕部分に『Alvis』のロゴの入ったマークがある。

 

「着替え終わるまで外に出ていますね」

 

そう言うと、千鶴は一旦部屋の外に出て行った。

残されたトレーズは一先ず着替える事にした。

 

 

無意識に浮かんだ記憶の断片を掴みながら。




Z3における歴史はZRルートですが、ここはあえて黒の騎士団ルートでの描写を採用。
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