蒼穹と宙   作:白燕狭由那

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2015年もあと少しです。
EXODUSの展開に号泣したのは私だけではないはず。


3

 

竜宮島唯一の喫茶店『楽園』

一騎は閉店後の後片付けを行っていた。アルバイトの遠見真矢に店を任せて総士と見舞いに出掛けたのだから、これくらいは自分でやらなければならない。治療を受けて同化現象を克服したとはいえ、また同化現象に倒れてはと真矢も残ろうとしたのだが、一騎は大丈夫だと言って帰した。

 

「さてと、コレ、家に持って帰るか」

 

一騎は鍋に残ったカレーを小さめの鍋に移した。父子二人の所帯にしては若干量が多い気もするが、仮に残ったとしても朝温め直せば良いだけだ。

洗い物を終えてそろそろ出ようと思った時、外に誰かがいるのが見えた。人影は二人。片方は自分がよく知っている、もう片方は今日の出来事で深く印象に残った人物だった。

 

「総士と、トレーズさん……?」

 

何故彼等が此処にいるのか不思議に思ったが、とりあえず小鍋を手にして外に出ることにした。

 

「総士、どうしたんだ?トレーズさんを連れて…」

「一騎、カレーはまだ余っているか?」

「うん、家に持って帰ろうと移したんだけど……ああなるほど」

 

一騎は総士の意を汲み取った。

 

「じゃあ俺の家に行こう。父さんも、帰って来るの少し遅くなるって言ってたし」

「分かった。行きましょう、トレーズさん」

「?ああ……」

 

三人は揃って一騎の家に向かった。

 

 

 

「ちょっと待っててください。すぐに用意するんで」

「一騎、何か手伝うことはあるか?」

「いや、大丈夫だよ。あ、なら皿とか出してくれるか?」

「分かった」

 

真壁家に着くと、一騎は鍋をガス台に置いて冷凍していた米を蒸しはじめた。総士も何処に何があるか把握しているように食器棚から食器を取り出す。

対してトレーズはというと、居間のちゃぶ台の前にぽつねんと座っていた。此処では来客に当たるので、それは問題ない。和式の間取りが珍しく目に映るのか、辺りを見回している。

暫くすると、台所から香辛料の匂いが漂ってきた。一騎と総士が人数分のカレーが盛られた皿を持って来た。

一騎と総士がちゃぶ台の上にカレーを置いて、自分達もちゃぶ台の前に腰を降ろした。

一騎と総士がいただきます、と手を合わせてから食べて始めるのを見て、トレーズも小さくその真似をしてからスプーンを取った。

これまでカレーを(恐らく)食べたことのないトレーズであったが、その味は今まで食したことのある料理よりも優しく温かだった。

 

途中、史彦が帰宅して来て一緒に夕食を楽しむこととなった。

後片付けを手伝っていると、史彦がトレーズに話し掛けてきた。

 

 

「起きてからの調子はどうだ?」

「はい。少しずつ記憶が戻って来ているみたいですが、詳しいことはまだ……」

「大丈夫だ。事は急いたりはしない。ゆっくり思い出すと良い」

「ありがとうございます」

「ところで、君は事務処理とか出来そうか?」

「?はい。と言いますと?」

「総士君から聞いたかもしれないが、アルヴィスは常に人員不足でな。少しでも力になって欲しいんだ」

「そうなのですか。私で良ければやってみましょう」

「分かった。頼んだよ」

「はい」

 

そうして総士とトレーズは真壁家を出た。

 

「君は、彼と随分仲が良いんだね」

「一騎のことですか?島の中ですし、親も付き合いがありましたから」

「そういえば、ご両親は?」

「母は小さい時に亡くなりました。父も、フェストゥムが襲来した時に」

「そうか…」

 

アルヴィスの一室で暮らしているところを考えれば、必然とその考えに行き着くと分かるだろう。

 

トレーズと総士はアルヴィスに戻ると、それぞれの部屋に戻る。

 

 

「それじゃあ、おやすみなさい。トレーズさん」

「うん、おやすみ」

 

部屋に入る総士を見送り、トレーズも部屋に入った。

衣服を着替えて、ベッドに入る。

明かりを消し、眠りに就こうと閉じた瞼に浮かぶのはこの島の風景とは異なる、だが親しみを感じる洋風の景色。

それらを目に焼き付けながら、トレーズは眠りに就いた。

 

 

それから暫く、トレーズは史彦から紹介してもらった事務処理の業務に精を出していた。

最初の内は軽いレクチャーを受けたが、今では一通りの処理をこなせるようになっていて、要やオルガ達の分を手伝うこともあった。

それの合間にブルクを訪れて、修復中のトールギスⅡを見に行くこともあったので、カノン達メカニックの面々とも話すようになった。

業務がない時は剣術鍛練などをしていたが、それをたまたま目にした御門零央に師事されて教える様にもなった。

 

そう日々を過ごしていたある日、カノン達からトールギスⅡの修復が完了したことが伝えられた。トレーズはすぐにブルクに向かった。

 

トールギスⅡは少しづつ思い出される記憶とは細部が異なるが、大まかな外見はかつての姿のままだった。

早速トレーズはトールギスⅡのコクピットに乗り込み、システムのチェックを行った。

常日頃ファフナーの整備を行っている腕の良いメカニック達が修復をしたこともあり、最高の仕上がりだった。

このままトールギスⅡを動かそうと思い、カノンにそのことを伝えると、カノンは驚いてせめて気密服に着替えるよう言った。

無理もない。機動兵器などのマシンを操縦する時は必ずGの負荷がかかる。その負担を減らす為に、外部の影響を遮断する気密服を着用するのだ。

実際、溝口から教えを受けている遠見真矢も航空隊の戦闘機に乗る時は気密服を着用するし、トレーズの友人であった人物はトールギスⅡのオリジナルである“トールギス”に初めて搭乗した際、そのGに耐え切れずダメージを受けたのだ。

だがやはりというか、トレーズ・クシュリナーダ。ワンオフ機であるガンダムの前では紙装甲なリーオーで異常な耐久性を持って戦ってみせた、トールギスと同スペックのトールギスⅡにパイロットスーツ無しで宇宙空間を駆ったなどの実にエレガントな足跡を残していたのだ。

気密服無しで動かそうとしたのも、そうした名残であるが、カノンに強く言われたのでトレーズは航空隊から気密服を借りて着用することにしたのだった。

 

 

 

気密服を着用し、専用のメットを被り、トールギスⅡのコクピットの座席に腰掛けたトレーズは深く息を吐いた。

トールギスⅡを動かすのは記憶を失ってから初めてだ。少しづつ記憶の断片は戻りつつあるが、自分がどのような立場で何をしていたかなどは今だに戻っていない。

だからこそ、このトールギスⅡを動かし、その感覚で記憶を呼び覚ます。

トールギスⅡは外見からして指揮官機であると言うこと、そのスペックがピーキー過ぎて並の人間では扱いこなせないこと。

そのトールギスⅡに乗って見つかった自分はそうした部隊を率いていたのだろう。

 

『大丈夫ですか、トレーズさん』

「ああ。トールギスⅡ、いつでも行ける」

 

カノンからの通信にトレーズは答えた。

トールギスⅡの発進準備は整った。後は、トレーズが火を入れるだけ。

眼前のモニターに前方の光景が映し出される。前もってトールギスⅡは外に出されていたので、慶樹島に設けられている演習場の景色がモニターに広がった。

 

 

「トールギスⅡ、発進する!!」

 

トレーズはその言葉と共に、トールギスⅡの操縦桿を動かした。

 

 

 

(すごい………)

 

管制室でトールギスⅡの軌道を見ていたカノンはそう思った。

トールギスⅡの機動性もさることながら、それを操り熟すトレーズも並外れた腕を持っている。

本人はそのまま動かそうとしていたが、その理由も何となしに分かった気がする。今回は安全の為に気密服を着てもらったが、次からは限定的に気密服無しで動かしてみても良いかもしれない。

カノンはそう思いながら、トールギスⅡの機動データを確認していき、トレーズに帰還を呼び掛けようとした時、彼から来た通信にその場にいたメンバーと共に警戒を走らせた。

 

海上に、人影らしき物が漂流していると。

 

 

 

トレーズがそれを見つけたのは偶然だった。

トールギスⅡのスピードを徐々に上げて行き、空に飛翔していたトレーズは様々な動作をとりながら機体を駆った。ふと島の方に視線をやると、その全貌が眼に映り込んだ。

島民達が暮らす竜宮島、非常時の迎撃システムがある向島、航空機や艦船のための設備がある剛瑠島、ファフナーブルクがある慶樹島。それらが、ファフナー運用巨大潜水要塞艦アルヴィスの姿であるのだ。

島全体を時間を掛けて一周していたトレーズは、コクピットのモニターが何かを捉えたのに気付いた。確認しようとモニターの解析度を上げてみると、島から少し離れた海上に何かが漂流している。海の蒼とは違う、濃い緑を基調にしたパイロットスーツを身につけた人間であることに気付いたトレーズはすぐにカノンに連絡を入れた。そして、トールギスⅡを漂流している人間の所まで速度を調整しながら近付けて掬い上げた。

緑のパイロットスーツに身を包んだその人物はヘルメットを被っていて表情は窺えないが、身体つきからして男性だろうと推測する。どのくらい漂流していたかは分からないが、かなり衰弱しているだろう。掬い上げた人物をトールギスⅡの手で覆いながら、トレーズは慶樹島まで戻って行った。

 

 

慶樹島で待機していた医療班に救助した人物を任せてトレーズはトールギスⅡを降り、アルヴィスの制服に着替えてからカノンの元に向かった。

 

「やっぱりトレーズさんはすごいです。あんなに高機動を出せるなんて」

 

カノンは少し興奮気味に言った。

 

「今度から動かす時は限定的に気密服無しでやってみましょう。勿論、データを確認した上になるでしょうが」

「うむ、そうだな。ありがとう、カノン」

「はい!」

 

トレーズはカノンと別れてICUに向かった。

 

 

ICUの中央には人が一人入れるカプセルが置かれていた。

カプセルの中は液体で満たされており、その中に一人の男性が入っていた。

栗色の少し長めの髪をしたその男性は、トレーズが発見し掬い上げた人物である。閉じられた右目には負傷した形跡があり、漂流して身体の機能が低下しているということもあってICU行きになったのだ。

 

(身につけていたスーツはGの衝撃を軽減する仕様、さらに宇宙空間での行動が可能のタイプだった。明らかにこの世界ものではない)

 

ロックオン・ストラトス――場合によっては偽名と考えられる名前が確認されている男性を見下ろしながら、トレーズは報告書を読んでいた。

フェストゥムが宇宙から侵攻してから約30年が経過しているこの世界、軌道上にもフェストゥムが確認されている故に宇宙での活動は不可能となっている。宇宙進出の機器の開発は行われていないのが現実。

例外があるとしたら、現状ただ一つ。

こことは違う世界からやって来た、ということだ。

 

トレーズは記憶をなくしていたとはいえ、自分が別の世界から来たということを理解している。トールギスも宇宙での機動性を重視した設計であることを考えると、自分がいた世界は宇宙進出は当たり前だったのだろう。彼も、そうした世界の人間なのかもしれない。

 

彼が目を覚ましたら、一度話してみよう。

そう考えてトレーズはICUを出て行った。

 

 




続きは就活終わったら書く!(多分)
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