翌日、夜明けと共に目が覚めた。
俺は、さっと顔を洗い着替えを済ませる。
隣の部屋を静かに覗くと、小傘がまだ寝息を立てていた。
「ちょっと、出掛けて来るからな」
そう呟き、家を出た。
今日もランニングから始めよう。
まだ、人気の無い里の中をシャドーボクシングをしながら走った。
清々しい朝の風、こうして見れば実に平和である。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
昨日出来なかった分まで走ろうかな。
とても気分が良い、身体も軽く感じる。
今日は、里一周一時間以内で回れるかな?
腕時計を確認し、アタックを開始した。
「ハァ…ハァ…ハァ……、時間は………57分か、少しは短縮出来たかな?」
それを確認し、笑顔がこぼれた。
そこからは、ゆっくり自宅へ戻るつもりだった。
朝風呂に朝食の支度もしなきゃな…。
「祐さん、おはようございます」
「うん…?」
声のした方向を見ると、其処には木村平九郎の姿があった。
何となく、負のオーラを纏っているようにも見える。
その理由に心当たりがある俺は、軽く冷や汗を掻いた。
「平九郎か、おはようさん。今朝は早いねぇ」
「今日は早番でしてね、ところで祐さん…」
「…何だ?」
「よくも、この前は授業中に笑わせてくれましたね、俺は恥をかいたんですよ?」
「べ、別にいいじゃないか、何も問題無い」
「問題無い訳が無いでしょ!? あんなの勘弁して下さいよ! 生徒達に散々弄られたんですよ!?」
「いやぁ、悪いねぇ(ニヤニヤ」
「全然詫びになってませんよ!」
「まあそう怒るなって…、今度おやっさん所で奢るからさ」
「そんな手には乗りませんよ!」
「おやっさん所が飽きたんなら、ミスティアさんの屋台で八つ目鰻でも食べるか?」
「や、八つ目鰻……」
フッ、貰った(ニヤリ
コイツは八つ目鰻が大好物で、1人で4、5人前を普通に平らげてしまうほどの熱狂振りなのだ。
「…マジで奢ってくれるんですか?」
「あたぼーよ! 慶冶と三人で行こうぜ」
「はい! 喜んで!」
こうして、平九郎は鼻歌混じりに寺子屋へと行ってしまった。
先程までの不機嫌モードは、何処へやら…。
分かりやすいヤツだ。
俺も、一旦帰ろう。
――――――――――――――――――
「よし、朝飯の準備はOKと」
自宅に戻ってからは軽く汗を洗い流し、手早く朝食の準備をこなした。
「まだ小傘は寝てるのか?」
様子を見に部屋へ行くと、やはり小傘はまだ寝ていた。
「昨日の影響かな? だが、そろそろ起こさなきゃな」
まだ、気持ち良さそうに寝ている小傘を起こすのは気が引けたが、味噌汁が冷えてしまってはよろしくない。
「小傘さん、起きな。朝だぞ」
「ううん……もう朝…?」
「ああ、もうすぐ8時になるぞ? 朝飯も出来てる」
「えっ…? もうそんな時間なの?」
「そうだ、布団は片付けてやるから顔洗ってきな」
「うん……」
彼女は欠伸をしながら立ち上がり、怪我した足を庇いながら洗面所へと向かった。
「さてと…」
それを確認すると、素早く布団を片付けてしまう。
「「いただきます」」
今日も、二人で食卓を囲む。
静かに朝食が進んだ。
「…小傘さん、脚は大丈夫か?」
「うん、骨はもう大丈夫みたい、まだ少し痛いけど…」
「早いなぁ、昨日の今日だぞ?」
「それが妖怪の特権みたいなものだからね!」
「さいですか…」
羨ましい、こんな時だけは妖怪の体が羨ましい。
朝飯を終わらせ、片付けを済ませる。
「ふう……あっ、そういえば、今日の新聞を読んでなかったな」
その事に気が付き、家の前の郵便受けを確認しに外へ出る。
「花果子念報……はたてさん、ありがとな」
1人でお礼の言葉を呟き、家へと入る。
幻想郷の情報確認や退治依頼、今日の安売り情報など、生活に直結する部分を隈無くチェック。
「よし、今日は此処と此処へ買い物しに行くか」
「…ねえ、何読んでるの?」
縁側に座っていた小傘が、俺の横に近寄ってきた。
「何って、新聞だよ」
「新聞かぁ………花果子念報?」
「知ってるだろ? 姫海棠はたてって天狗が発行してる新聞だ」
「ううん、知らない…。 文々。新聞なら知ってるけど」
「やっぱりそうなるか…、以前は定期購読をしてたんだがな、トラブルがあってからは定期購読は切ってやったんだ。代わりに花果子念報を定期購読してるんだ」
「へぇぇ、そうなんだ…」
「読むか?」
「うん、読んでみる」
ちょうど読みたい記事は見終わったし、そのまま小傘に新聞を渡した。
「さて…、ちょいと道具の手入れでもするかな」
以前の怪我の影響で、全く仕事道具に手を付けていない事に気が付いた。
あんまり放っておくと、錆が出るからな。
部屋の奥から、仕事道具の入った鞄を引っ張り出し、中身を確認っと。
「拳銃……特に問題無し、弾もそっくりそのままだな。警戒棒………動作確認よしっと、短刀………うわっ、まだ血が付いてるじゃないか、滅茶苦茶匂う……」
妖怪の血は、時間が経つとなかなかに悪臭を放つ。
それを半月も放置すれば尚更だ。
「てことは、針もヤバいかな…?」
嫌な予感を感じ、鞄の底になっていた針を確認した。
「…やっぱり、錆びてやがる……」
これまた、異様な匂いを放っていた。
たまらず、窓を開けて換気をする。
「拭き取った筈だったんだがな、まだ残ってやがったか…。こりゃ、待った無しだ、早いとこ手入れしましょうか」
短刀と針を先ずは軽く水洗い。
それから、研石で錆びた部分をやする。
これを、数回繰り返す。
妖怪の血はなかなか厄介で、こびり付くとかなり頑固である。
焦げ付いたフライパンより手強い。
だが、短刀と針は大事な仕事道具だ、手抜きは出来ない。
洗いを数回繰り返して、ようやく匂いが収まり切れ味が戻ってきた。
全く骨が折れるぜ、ちゃんと手入れはしなきゃダメだねぇ。
「ふう…、新聞読んだよー」
小傘が新聞を読み終えたらしい、何か参考になる記事はあったのだろうか?
「そうか、其処に置いておいてくれ」
「うん! それより……さっきから何してるの?」
「仕事道具の手入れさ、半月程前に大怪我負ってから、治療とリハビリに専念しててな、こっちは手付かずだったんだ」
「へえぇぇ………って、何で短刀と針なの? しかも、短刀にはお札…!?」
小傘の表情が青くなってきた、恐らくこの博麗札が原因なんだろうが。
「どれも大事な仕事道具さ、相手によって使い分けている。まぁ、短刀や針の出番はそれ程無いがな」
「短刀に針に使う仕事って…」
「どっちも、一撃で相手を昇天させる程の殺傷能力を持ってる。ちなみにこの針は、博麗の巫女が持っている物と、ほぼ同等品だ」
それを聞いた彼女の顔が更に青ざめていた。
「それじゃ…、貴方の仕事って…」
「…お察しの通りだ、俺は博麗の巫女とは御同業だ」
「ひぇぇぇぇぇ!?」
物凄い勢いで後退りする小傘。
そんなにビビる事無いじゃんか…。
よっぽど、霊夢が怖いと見えた。
「驚いたか? そんなつもりで言った訳では無いんだが…、ごめんな」
「あ、貴方…妖怪退治をする人間……私を退治するの? だから、此処に連れて来たの?」
「そんな訳ねぇだろ」
「えっ…?」
「退治するんだったら、わざわざ飯を食わせたり、泊めたりすると思うか?」
「そ、それはそうだけど……違うの…?」
「その様子だと、よっぽど博麗の巫女が怖いと見えるな。 心配するな、俺はアイツほど無慈悲に誰構わず退治する事はしないって」
「…本当なの?」
朱鷺子と同じ事を聞いてくるな、コイツは。
「本当だって安心しな、ただし…」
「ただし…?」
「相手が刃向かって来ようなら、俺も容赦はしない。 その妖怪は即死する事になる」
「ひぃぃぃ…」
軽く脅かしてみたが、予想以上のリアクション。
やりすぎてしまったかな?
「…だが、君はそんな事は無いよな?」
「う、うん…、絶対…絶対に刃向かったりはしないよ…」
「よろしい、なら…ゆっくりしていってね!!!」
「………っ」
…あれっ? 何か寒い事言ったかな俺?
――――――――――――――――――
道具の手入れを済ませ、次は何をしようかねぇ…。
「ねえ師匠、そろそろ何かしたいよ」
師匠か、悪くないな。
「そうだな、まだ怪我が完治してないから、無理なトレーニングはやれないし……そうだ!」
ある事を思い付き、部屋の奥へと行き、ある物を押し入れから取り出してきた。
「はい、これだ」
「これって…、手鞠?」
「そうだ、これでリズム感を養うんだ」
「リズム感…?」
「弾幕ごっこも武術も、一定のペースが大事だ。 自分のペースを保つにはリズム感も大切なんだ。 弾幕ごっこが出来る君なら、言ってる事は分かるだろ?」
「な、何となく…、相手のペースに惑わされたら調子狂っちゃうよね」
「基本は単純なんだが、以外と肝心な事でもあるんだぞ? ボクシングでもそうだ」
「ボクシング…?」
「まぁ、その話は置いといて…、まず手本をお見せしましょう」
「どうするの?」
「所謂、童歌に合わせて上に投げて受け止めるを繰り返すんだ。 『無花果人参』って童歌は知ってるか?」
「ごめん…、分からない……」
「よし分かった。 見てな、こうするんだ」
分かりやすい様に、ゆっくりテンポでやってみるか。
「無花果(いちじく)、人参(にんじん)
山椒(さんしょ)に、椎茸(しいたけ)
牛蒡(ごぼう)に、無患子(むくろじゅ)
七草(ななくさ)、初茸(はつたけ)
胡瓜(きゅうり)に、冬瓜(とうがん)」
一通りの実演を披露すると、小傘はとても興味深そうに見ていた。
「どうだ? これなら座りながら出来るし、無理せずにやれるだろ?」
「へえ、面白いね! やってみたい!」
「ほらよ」
彼女に手鞠を渡してやると、早速始めるようだ。
「わぁぁ…、早速やってみるね!」
「おお、最初はゆっくりやればいいからな、歌を覚えるのも大事だ」
「はーい、それじゃ………
無花果…人参……何だっけ?」
「山椒」
「そうだった……山椒に…椎茸…牛蒡に………えっと……」
「無患子」
「無患子…七草…初茸…胡瓜に………ううん、忘れたぁ!」
「…冬瓜だ」
「そうだ、冬瓜だった! 難しいなぁ…」
そんなに歌詞は長くは無いんだがなぁ。
「やっぱり、2ついっぺんにやるから難しく感じるのかもしれない。 まずは歌を覚えていきな」
「うん、分かった!」
「よし、俺は今から買い物に行ってくるからな、留守番してる間に覚えな」
「えぇぇ!? 嫌だ! 私も行くぅ!」
「ええ〜!? 夜飯のおかずを買ってくるだけだ、そんなに時間は掛からないって」
「嫌だ!私も師匠と一緒に付いて行く!」
「此処に居れば心配無いって、怪我は完治してないんだから、大人しくしてな」
「嫌だよぉ! お願い……1人に…しないで……寂しいよぉ……」
小傘は俺の着物の裾を掴み、今にも泣き出しそうな顔で上目遣いで見つめていた。
クソ…、女の武器使いやがって。
「はぁ………分かったよ、そんなに言うんなら好きにしな」
「し、師匠…、ありがとう…」
「はいはい、それじゃあ出掛けるから準備しな」
「はーい!」
俺も甘いなぁ…、妖怪が相手なんだから少しは厳しい態度を取っても良いんだが、目の前のこの子を見るとそんな気になれん。
「これを使え、少しは楽になる」
「うん、そうする!」
彼女に杖を渡してやる、この前までは俺が使っていたが、もう不要だしな。
そして、二人揃って家を出た所までは良かった。
それは、突然来た…。
「見つけたぞ! 近藤祐助!」
「げぇ! お前、秦こころ!?」
「貴方に聞きたい事がある!」
「…何だよ?」
「アタシ、キレイ?」
「出たぁぁぁ…」
コイツ、シバくか…。
この作品には、童歌や手鞠歌と言った要素が多数含まれます。
童歌って味わいがありますよね。
オリキャラ紹介3
名前:木村平九郎
性別:男
年齢:30代前半
職業:寺子屋教師
主人公とは先輩後輩の仲であり、幼なじみでもある。
酒井慶冶とは、同い年の親友であり、また幼なじみである。
上白沢慧音と同じく寺子屋の教師で、教鞭を振るっている。
少し内気な性格で、弄られたり批判されると直ぐにショックを受けるタイプ。
幼い頃から祐助達と付き合っており、色々と引っ張り回され巻き添えを食らうことも多々あった。
武術と喧嘩は、それ程強くなかったが、彼等との付き合いで強引に鍛えられ、普通の人間相手なら負けない位強い。
剣道が得意で、木刀を持たせたら無敵化する。
もちろん、それでも祐助には勝てないらしい…。
未婚者、ついでに彼女居た歴も無し。
彼もまた、裏の顔は祐助や慶冶と同じ…。
オリキャラに関しては、この3人が中心になります。
三バカトリオって言うのがふさわしいw
それに、複数のオリキャラが関わってくる形です。
もちろん、原作キャラも多数関わって来ますよ。
では、また次回に!