「…で、君は何が言いたいのかね?」
「祐助! キレイって言え!」
「言ってどうする?」
「それが、闘いの合図だ………ぐぇぇぇ!?」
すると、間髪入れずに祐助がこころに近付き、両手でこころの頬を引っ張り、指を口に突っ込んだ。
「口が裂けるとキレイになるのか、それなら俺が手伝ってやるよ!」
「あがい…! あきぃぃ、はかぁぁあぅ……(痛い! 痛い! 止めてぇ!)」
「まだ足りないなぁ…ほら、もっと伸びるだろ? 力抜いて楽にしろ!」
「あ゛あ゛あ゛……ぎぃぃぃくぅぅぅはぃぃぃぁじい゛い゛!(止めて! 本当に口裂けちゃうよぉ!)」
「ああ? 何てか? 何言ってるか分からんから、もう一回言えや!」
容赦ない攻めに、こころの面が火男から蝉丸の面に変わる。
「ぎゃぁぁぅぁぇぇぇぃぃぃしぇぇぉぉ……(ごめんなさい! もうしません、許して下さい…)」
無表情の顔から、大粒の涙が流れ始めていた。
「ねぇ、師匠…、もう止めようよ……十分懲りたと思うよ…」
「そうか? コイツはアホだから、何回言っても同じ事繰り返すんだ、付喪神だから仕方無いよな、なぁ!?」
「(私も付喪神なんだけどなぁ…、今は口が裂けても言えない…)」
「うぎ…うぎぇぇぇ……ひでぶぅぅぅ…(痛い! 止めて! 後生だから…)」
ボロボロ泣きながら、許しを乞うこころ。
だが、はっきりと言葉に出来ない為、何時までも祐助に攻められていた。
「ねぇねぇ…、もういいよ、早く買い物に行こう?」
「はぁ…分かったよ、しゃーねーなぁ…」
小傘に促され、ようやくこころを解放した。
「痛ぁぁい……、うぇぇぇぇん……」
無表情で泣き続けるこころ、頬は真っ赤に染まり腫れ上がっていた。
「うわぁぁ…、痛そう…」
「大丈夫だ、問題無い」
「……っ」
「…大丈夫な訳無いだろ! とっても痛かったんだから!」
泣きながら抗議するこころ。
「オメェがバカ言うからそうなったんだろ?」
「お前は鬼だ! 鬼畜だぁ!」
「何? 何なの? 喧嘩する?」
黒い笑みを浮かべながら、警戒棒と御札を取り出しスタンバイ状態に入る。
「いや…あの……これは……、違うの…」
それまでの強気な態度が一変し、急に狼狽え出すこころ。
「おいっ! またお前は騒動でも起こしたんじゃ無いだろうな? まだ懲りてないとか?」
「い、いや……私は何もしてないよ?」
「嘘付け! その口裂け女の真似事も、この前の異変の時に身に付けたんだろうが! このバカタレがぁ!」
「あの、それは……そうじゃなくて……」
「また、前みたいにボコボコにされたいのかな、こころちゃんは?」
「ひぃぇぇぇ…、待って……どうか御慈悲を……」
指の関節を鳴らし出す祐助、こころは冷や汗が止まらない。
「博麗の巫女も容赦無かったかもしれないが、俺の場合は血反吐を吐くまで打ちのめすぜ?」
「ご、ごめんなさい! どうか許して…」
こころが恐怖から土下座して謝っていた。
「どうしよっかなぁ…?」
札をちらつかせながら、考える振りをする祐助。
「許してやってもいいよ」
「本当? ありがとう…」
「ただし…、それっ!」
祐助は、また別の札をこころに貼り付けた。
「な、何をしたの……あ、あれ……何だか力が…?」
「今貼った御札は、君の能力を封印する御札だ。 今の君は人間以下程度の能力だ」
「そ、そんなぁ!?」
「あっ、ちなみにその札を君が剥がそうとしたら、手が吹っ飛ぶ事になるから気を付けろよ」
「はぁ!?」
「博麗札の霊力を利用して俺が作った術式だ、俺にしか剥がせない仕様だ」
「えぇぇぇぇ!?」
「そんな訳だから、今日は1日付き合って貰おうかねぇ! さぁ小傘さん、行こうか」
「は、はい…(怖いよぉ…)」
「な、何でこうなるのぉ!?」
嫌がるこころの手を強引に引っ張りながら、里の中心部へと向かう一行。
――――――――――――――――――
「ええっと…、お次は果物を買いに行こうか」
「うん………山椒に椎茸……」
「お、重いよぉ……少しだけ持ってよぉ…」
メモを見ながら、次の店へ向かう祐助。
後ろから付いて行く小傘は、歩きながら童歌『無花果人参』の練習を繰り返している。
こころは、荷物持ちにされ、こき使われている。
「次行くから、キビキビ歩け!」
「ええ〜!? まだ行くの?」
「勿論、あと3、4件は回るぞ」
「うっそ!? まだそんなに回るの? もう帰ろうよぉ…」
「荷物持ちは大変だねぇ、頑張ってねぇ!」
「こらぁ! 遊んでないで貴女も手伝えぇぇ!」
「遊んでないもん、これは特訓だから」
「特訓? どう見たって遊びにしか見えないんだけど?」
「そんな事は無い、それは立派な特訓だ」
「えっ!? てことは、これは貴方が仕込んだの?」
「ピンポーン! 大正解!」
「くぅぅぅ! おのれぇぇぇ! 覚えてろよぉぉぉ!!」
こころの絶叫が虚しく里中に響いた。
――――――――――――――――――
「よし、目的は達成したし、お昼にするか!」
買い物を終えた一行は、とある蕎麦屋へと入った。
「こころちゃん、お疲れさん」
「うぅぅぅ…、疲れたよ…」
「お疲れちゃん! 重かったよねぇ!」
「お前は、何もしてないだろう!?」
涼しい表情の祐助と小傘、こころ一人だけが汗だくになっていた。
「そう怒るな、蕎麦を食わせてやるから。 ざるそば三人前お願いしますよ」
「はいよー!」
祐助の注文を受け、店主が蕎麦を打ち始める。
「お蕎麦、美味しいね!」
「うむ、確かにこの蕎麦は美味しいな、気に入ったぞ!」
「分かったから、静かに食え」
ズルズルと音を立てながら、ざるそばに舌鼓を打つ三人。
「ふう………おや?」
祐助が窓際から外を見ていると、ある『彼女』の姿を目撃した。
「――――っ!?」
(何だかエラく焦ってるなぁ、どうしたんだろう?)
その様子を見て、気になった祐助が立ち上がった。
「二人共、食いながら待っててくれ、野暮用が出来た」
「へっ? 何処行くの?」
「私は、お金は持ってないよ?」
「知り合いに挨拶をして来るだけだ、直ぐに戻る」
そう言い残し、彼は店を出た。
「今日はこれしか無いのだ、何とかして欲しい!」
「ダメです、今日は小銭が不足してるんですから、そんな大きな金を出されても釣りは出せないんです!」
「其処を何とかしてくれ! 今日安いうちに買っておかなきゃいけないんだ」
「釣りはありませんよ?」
「それはダメだ、紫様からお台所を預かっている以上、金銭は細かく管理しなきゃ駄目なんだ」
「幾ら賢者様の式神様でも、ダメなものはダメです、うちも商売なんですから!」
「そこを何とか…」
「…うるせぇ狐だなぁ」
「なっ!? …お前、祐助?」
「しっかも、買ってる物が見事な位に油揚げだけじゃないか、紫さんが泣いて喜びそうだ」
「い、いや…これは…、その…」
「おじさん、ナンボですか?」
「ええっと…、全部でこんだけだけど……良いのかい? 祐さんが立て替える形にして?」
「良いんですよ、この狐とは腐れ縁なんでね」
「く、腐れ縁…」
祐助が腐れ縁と言っている相手は八雲藍である。
彼女が何かを言っているのを無視して、祐助が代わりに代金を払った。
「毎度ありがとうございます!」
「…ほらよ、藍さん」
「あ…、ありがとう……何と礼を言えば良いのか…」
「礼なんていい、この分はツケにしておくからな」
「な、何!? ツケだと!?」
「当たり前だ、俺はそこまでお人好しじゃねぇ! ナメたらえかんぜよ!」
「お前、誰に口を聞いているんだぁ!?」
「何だ? 紫さんに告げ口しても良いのかい?」
「くっ!? そ、それは…」
その一言に、藍は歯軋りをして俯いてしまった。
「そんじゃ、俺は行くからよ、紫さんによろしくな!」
「ま、待て…! おのれぇ…屈辱だ…」
どちらの立場が上か分からなくなる光景であった。
「…何だか、凄いモノを見ちゃった様な…」
「やっぱり、祐助は凄い人間なのだ! 私の目に狂いは無い!」
「何だかなぁ…」
こころが自慢気に話すのを見て、小傘は溜め息をついた。
――――――――――――――――――
食事を終えた一行は、祐助の家に向かって歩いていた。
「…どうだ? 少しは楽になったか?」
「うん、さっきよりは軽くなったかな?」
今度は三人で分担して荷物を持っていた。
「私は杖付きの状態だから、あんまり持てなくて、ごめんね…」
「気にするな、無理したら治らないからな」
「ありがとう、師匠…」
「な、何なのこの差は? エゴ贔屓過ぎるよぉ!」
「君は怪我をしてないだろ?」
「うぅぅ…」
そんなやり取りをしていると、ある無人販売所に差し掛かる。
「おっ!珍しい顔が居るな」
そこには、赤いリボンに緑髪、ゴスロリ調の服装をした少女が、人形の整理をしていた。
「おーい、雛さん」
「うん? ……あっ、祐さん!」
祐助を確認した雛が、嬉しそうに近寄ってきた。
「今日は、また雛人形を置きに来たのかい?」
「ええ、新しいのを作って来たのよ、それから流された雛人形も回収して手直しをしたから、また販売するの」
「そうか、売れ行きの方はどうだ?」
「まあまあかしらね…、少しは売れてるわ」
「それは良かった、俺も販売所の整理を手伝おう」
「えっ!? そんな悪いわよ…」
「良いって事よ、それに無人の時は良く掃除をしてるしな」
「まさか…、何時も綺麗にしてくれてるのは貴方だったの?」
「…問題あったか?」
「問題なんてとんでもない! 寧ろ助かってるわ」
「それなら良いんだが…、始めますか……二人とも手を貸してくれ」
「「はーい」」
「祐さん、ありがとう…」
販売所の整理を始めた祐助を見て、雛は小声で感謝を伝えた。
「…もういいんじゃね?」
「そうだね、人形も綺麗に鎮座したし、後はみんなが買ってくれればいいね!」
「此処でお面を売れば、少しは売れるかな?」
「共同販売したいなら、雛さんに言え」
「みんな、本当にありがとう、助かったわ」
「困った時はお互い様さ。それより雛さん、俺の厄を取り除いてくれないか? 最近、溜まってるっぽいんだ」
「そうね、少し溜まってるわね……それじゃ…」
すると、雛は祐助に向かい手を向けた。
「……はい、これでお終い。 貴方から厄は消えたわ。 これから良い事が起これば良いわね」
「ありがとう、雛さん」
祐助は、雛の手を取って感謝を伝えた。
「あっ……あんまり私に触れたら、また厄が戻っちゃうわ…」
「それは大丈夫だろ? あんたは厄神様なんだから」
「あっ…」
「何時も人間に厄が行かないようにしてくれて…そして、幸せを願ってくれて、ありがとう」
笑顔で言う祐助だが、彼女の表情は違った。
「うぐ……ぐす……ぐす…」
「あ、あれ…? 何で泣く訳?」
「だって…、みんな私の事…無視するのに……貴方だけ、優しい言葉を掛けてくれて…ぐす…こんなに嬉しい事は無いわ…」
「俺は、女を泣かせるのが趣味じゃ無いんだけどなぁ…」
「師匠が、優し過ぎるからだよ! 隅に置けないなぁ♪」
「恥じることは無い! 祐助のその心の優しさ、感動したぞ!」
「止めろ! こっ恥ずかしい事言うんじゃねぇ!」
「ひっく……うわぁぁぁん…」
妙に祐助を弄る小傘とこころ、シクシク泣き続ける雛。
「ああもう! 何なんだよ、このシチュエーションは!?」
彼は、頭を抱えて大声を上げていた。
そんな様子を、里の人間達がジロジロと見ており、人だかりが出来ていた。
「妖怪退治を生業にしてるのに、妖怪に好かれる様じゃ、シャレにならないな……これじゃあ、霊夢とさして何も変わらないじゃないかよ……はぁ…」
三体の、人外の少女を眺めながら、祐助は憂鬱になっていた。
日常を描くのも、なかなか難しいものがありますね。
そんな中でも、物語は動いて行きます。
主人公は基本、顔が広いです。