「やっと帰って来たな、早速準備するか」
「お願いね、師匠!」
「招待してくれて嬉しいのだ!」
「でも…、本当に良かったの?」
祐助の家には小傘の他に、こころと雛も付いて来ていた。
「いいって、鍋はみんなで囲まなきゃ楽しく無いもんな」
「そう…、それじゃあ、お言葉に甘えて…」
一同は、家の中へと上がった。
―――――――――――――――――
祐助が1人台所で調理を進める一方で、残りの3人は今でカードゲームをしてワイワイ寛いでいた。
小「それ! ……やったぁ!私の勝ちね!」
こ「またやられちゃったよぉ…」
雛「貴女強いわね」
すっかり打ち解けた感じの3人は、仲良さそうにゲームを楽しんでいた。
祐「おーい、準備は出来たぞー」
大きな鍋を持って祐助が居間へと入ってきた。
そして、卓袱台に置かれた焜炉に鍋を置くと専用の油に火を付けた。
小「もう出来たの?」
祐「まだだ、グツグツ煮えるまで、もう少し待ちな」
こ「早く食べたいなぁ…」
祐「食べる前に、みんな、こっちに来な」
彼は3人を手招きする。
雛「何をするの?」
祐「これさ!」
祐助が部屋の片隅から出して来たのは、酒の一升瓶であった。
祐「この前買ったんだ、なかなかに高かったんだぜ? みんなで飲もう」
「「わーい!」」
雛「高かったって…、良いの? 私達で飲んだりして?」
祐「こういうのは、みんなで飲んだ方が楽しいだろ? さあさあ、遠慮しなさんな!」
そうして、各自に杯を渡し、1人ずつ、酒を注いでいく
祐「みんな、今日はお疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でしたー!」」」
食卓を囲んだ4人、祐助の一言が乾杯の合図となった。
祐「ぐっ…ぐっ…ぐっ…、 ふぅぅ、この酒は美味いな!」
雛「何だか幸せだわ…」
こ「祐助! 私にもっと注げ!」
祐「慌てんな、もっと味わって飲め」
小「師匠の家に来て良かった♪」
祐「言っておくが、うちは居酒屋じゃないからな」
小「そんな固いこと言わずに、師匠ったら♪」
祐「小傘、まさか…お前もう出来上がってるのか?」
小「ううん♪ まだまだこれからだよ!」
祐「うわぁ、マジか!?」
酒の勢いが増して来たのか、そんな問答がしばらく続けらた。
祐「酒もいいが、そろそろ…」
そう言いながら、鍋の蓋を開ける。
グツグツ……
何とも食欲をそそる匂いが立ち込めていた。
祐「おっ! 良いね良いねぇ! 鶏鍋の出来上がりだ」
「「「おお――!」」」
それを見た3人も、感嘆の声を上げた。
こ「お、美味しそう…」
雛「これは、食欲をそそるわね」
小「早く食べたいよ!」
祐「おい、小傘にこころ、涎が垂れてるぞ」
そう言いながら、小皿と箸を配る祐助。
祐「よし、食べようか!」
「「「「いただきます」」」」
そうして、夕餉が始まった。
雛「うんうん…、何これ…この出汁、とっても美味しいわ!」
祐「そうだろ? 調味料の分量なんかを色々試しながら試行錯誤して作った、俺の自信作だ。 居酒屋のおやっさんにも誉められたんだ」
雛「す、凄いわ…」
感心しながら、箸を進める雛。
こ「凄い美味しいよ、祐助の料理が大好きになっちゃうよ!」
小「そりゃ、私の師匠だもの! 武術も料理もとっても凄いんだよ、ねぇ!」
祐「ちょっと、買い被り過ぎだと思うが…」
こ「よぅし、この鶏肉は私が頂くのだ!」
小「あっ! それ私が狙ってたのに! 返して!」
こ「もう遅い! 私の物なのだ!」
小「あんた、さっきからそればっかり食べててズルいわよ!」
こ「何が悪い? 早い者勝ちなのだよ!」
小「くぅぅ! このバカこころぉぉぉ!」
こ「やるのか? このへっぽこ唐傘妖怪!」
小「こ、こいつぅぅぅぅ!!」
肉の取り合いを挙げ句、掴み合いの喧嘩を始める二人。
祐「こら止めろ! 飯中に喧嘩すんじゃねぇ!」
雛「何だか疲れるわねぇ…」
そうして、ワイワイ大騒ぎしながらの楽しい夕食で、夜が更けていった。
―――――――――――――――――
賑やかな夕食タイムも終わり、鍋の中身はすっかり空っぽになっていた。
食べ尽くし飲み尽くした小傘とこころは、その場で腹を出して寝ていた。
祐助と雛は、お互いに酌をしながら語り合っていた。
「今日はありがとね、祐さん」
「なぁに、雛さんこそ腹一杯食ったか? あの二人に遠慮してたんじゃ無いのか?」
「そんな事は無いわ、残りのだし汁で作ったおじやは、とっても美味しかったわ」
「そうか、満足してくれたんなら良いんだが…」
そう言って、杯の酒を飲み干した。
「………」
「…どうした、雛さん?」
「…あっ、何でも無いわ、どうぞ」
「おうっ」
雛が祐助の杯に再び酒を注いだ。
そして、彼女は徐に口を開いた。
「実はね、今の祐さんは変わったなぁって思ってたの」
「俺が?」
「ええ、随分と丸くなったなぁって…」
「そりゃ、人間歳を取れば多少は性格も丸くはなるさ。 寧ろ昔の俺が尖り過ぎてたんだろうな」
祐助は笑いながら酒を飲み干すと、煙管を取り出し葉を詰め火を付けた。
「だって、今じゃ妖怪からも好かれてるじゃない」
「まぁ、ぶっちゃけ面倒ではあるが…」
「昔の祐さんなら、絶対有り得なかったと思うわ」
「そうだな…、特にあの『血の1年』の時期だったら、あの2人も抹殺の対象だっただろう…」
「私ね…、実は見てたのよ…」
「ええっ…!?」
「あの時の貴方、毎日の様に血に塗れてたわよね」
「………っ」
「貴方とは仲良くしてたつもりだったけど、あの時の貴方には恐怖を感じたわ。 人間とは思えない程の殺気と威圧感。近付けば私とて殺しかねない殺伐とした雰囲気…、あの時の貴方は『貴方』では無い何者かだったわ。私は悔しかったわ、厄神として何も出来なかった自分が、ひたすらに殺戮を繰り返す貴方に手を差し伸べられなかった事を…」
「雛さん…」
そこまで離すと、雛は俯いてしまう。
祐助は、煙草を吹かし一息入れると、酒の入った瓶をもって酌をする
「…ほら、雛さん」
「あっ、はい…」
雛は杯を持ち酌を受けた。
「雛さん、今あんたとこうして会話が出来るのも、あの時あんたが下手に手を出さなかったからだよ」
「祐さん…」
「…なあ雛さん、俺は妖怪退治と称して多くの妖怪を手に掛けて来た。それも100や200では効かないと思う。そしてあの1年…、それこそ無差別に大量殺戮をした。 今考えれば、彼処までする必要があったのか?と自問自答してるし、激しく後悔もしている」
「でも、それは貴方の周りで起きた不幸がきっかけであって、貴方ばかりを責める事は出来ないわよ」
「だがな雛さん、俺は無抵抗で無害な妖怪、生まれたての妖怪ですら手に掛けたんだ、正に鬼畜の極みだった」
「そういう事になったのは私にも責任があるの、ちゃんと私が厄を取り払っていれば、貴方の妻子は…」
「止めてくれ…、あの時の事は辛い思い出しか無いんだ、思い出すだけで胸が張り裂けそうになる…」
「………っ」
2人の間に重苦しい空気が流れる。
だが、先に口を開いたのは祐助だった。
「だからな、懺悔という訳では無いが、今は比較的無害な妖怪や友好的な妖怪に関しては、何もせず極力仲良く接して行こうって決めてるんだ。 そりゃ、妖怪退治を生業にしている以上、どうしても手に掛けなきゃならない場面もあるが、極力は必要最低限に抑えているつもりだ」
そこまで話すと、彼の表情が少しだけ明るくなった様に見えた。
「そのおかげか、最近じゃ妖怪側の知り合いも多くなったし、それなりに顔も利くようになった。それに、何より打ち解けてみて思ったんだ」
「…何を思ったの?」
「妖怪は人間の敵である事に変わりは無い。 だが必要以上に敵視する必要は無いってね。 特に紳士的に接してくれる上級妖怪なら、仲良くした方が得策なのさ」
「あ……」
「勿論、此は俺の持論だから、みんながみんな同じ様に接したら危険かもしれないが、俺はそれで上手くやってるよ。多くの縁を築いた事で、向こうから良くしてくれる場合もあるしな」
そこまで話すと、彼は煙管内の灰をパンッ、パンッっと落とした。
「あの時の事を許してもらったとは思ってはいない。だが、困っている妖怪が居たら手を差し伸べる様にしている、せめてもの罪滅ぼしの為に…」
「そう…、祐さんはやっぱり変わったわ…」
「確かに、そういう意味では変わったかもな…」
彼は笑ってはいたが、何処か寂しそうであった。
「さてと…」
不意に立ち上がり、寝ている2人の元に行った。
「おい、起きろ、此処で寝てたら風邪を引くぞ?」
「「うううん……」」
祐助の声に反応するも、起きる様子が無い小傘とこころ。
「しゃーねーなぁ…」
すると、祐助は奥の部屋に行き布団の用意をする。
そして、小傘とこころを順番に抱き抱えて同じ布団に寝かし毛布を掛けた。
「「スゥ…スゥ…」」
「寝顔だけ見てると可愛いもんだが…、2人共弾幕ごっこが出来る強者だからなぁ…」
2人の寝顔を見ながら苦笑いをする祐助。
そこへ、雛が祐助の隣に座った。
「優しいのね、祐さんは」
「意味の無い親心ってヤツかな?」
「そんな事無いわ、この2人の表情を見て、とても穏やかじゃないの。 貴方の事を信頼してる証拠だわ」
「そうかな?」
「そうよ、でなきゃ此処で寝込んだりなんかしないわ」
「それは、そうだが…」
「まぁ、いいわ…」
そこまで言うと、雛は立ち上がった。
「私、もう帰るね」
「何だい、今日はもう遅いから泊まってくれても良いんだぜ?」
「そうはいかないわ、夕食やお酒まで頂いておいて、これ以上は世話掛けれないわ」
「そんなに気を使う事は無いんだが……まぁ、無理に引き止めはしないよ」
「ありがとう、祐さん」
「表まで送ろう」
2人は玄関へと向かう。
彼女がブーツを履いている時、祐助は河童製手元ライトで照らしていたのだが、ある事に気が付く。
「おい雛さん、そのブーツの紐、切れてるじゃないか」
「えっ? ……本当だ、全然気付かなかったわ…」
「ちょっと見せてみ」
祐助は近寄り、ライトを使って紐の状況を確認する。
「うわぁ…、数ヶ所切れてるな。 しかも、両足共切れてるし」
「そ、そんなに!?」
「まさか…、あんた自分の靴の状況も気付かなかったのか?」
「………っ(汗)」
「鈍感だなぁ…」
「それは余りに酷いわよ!?」
祐助のキツいダメ出しに、若干涙目の雛。
「仕方無いなぁ、直してやるから脱ぎな」
「へっ…?」
「確か、赤い紐ならあった筈だからな」
「そんな、悪いわよ…」
「構わんよ、今直さないと後々に影響あるだろ?」
「で、でも…」
「代わりに、下駄でも履いとくか?」
「この格好で下駄は…無いわ…」
「だろ? まぁ、とにかく今日は泊まりな、アイツ等と同じ部屋で良いな?」
「うん、大丈夫…」
「布団だけ引いてやるから、先に寝なよ」
「祐さん…、何から何までありがとう…」
「良いさ、雛さんには世話になってるからな」
そう言って、彼は部屋へと戻り雛の布団を用意した。
「…もう良いぞ、ブーツの方は今夜中に仕上げてやるから、お休み」
「祐さん、本当にありがとう…」
雛が寝床に入ったのを確認すると、祐助は静かに襖を閉めた。
「さぁて、手際良く付け替えるか」
雛のブーツを手に持ち、自室へ向かおうとする。
すると
『コンッ』
表から何か音が聞こえた
「何だ…」
玄関の戸を開け周囲を見ると、柱に紙の巻き付いた小柄を見付ける。
「これってもしや…」
小柄を引き抜き、紙を広げるとこう書いてあった。
[明日、道場にて待つ 蔓]
その手紙を見た祐助の表情が曇る。
「雛さんにあんな話をした直後にこれかよ…、また面倒な依頼が舞い込んで来たな…」
手紙の内容の真相とは…
次回より、少しだけストーリーが動きます。
多人数での絡みは難しいです。
特に、こころの描写がくせ者だったりします。
主人公の過去に何があったのか?
いずれ、その辺りも描写していきます。
はっきり言って、重いです…。