「ん……朝なの…?」
雛が目を覚ますと、既に外は明るくなり、鳥のさえずりがうるさく感じられた。
「「ぐー…ぐー…」」
その隣では、小傘とこころがまだ寝息を立てていた。
「お寝坊さんねぇ…」
その様子を見てクスッと笑う雛。
そして、起き上がり衣服を着る。
「祐さん、おはよう…」
「おっ、起きたかい、おはよう」
居間に行くと既に祐助は起きており、朝食の準備を進めていた。
「早いのね…」
「何言ってるんだ、時計見てみな」
「えっ? ………は、8時!?」
雛は、壁に掛かっている時計を見てびっくりした。
「良く寝てたみたいだが、アイツ等に邪魔されなかったか?」
「それは大丈夫、全く平気だったわ」
「それなら、いいんだが」
「そ、それより祐さん…」
「あぁ、ブーツだろ? 出来てるぜ」
彼は、奥の方から雛のブーツを持ってきた。
「ちゃんと、仕上がってるからな」
「あ、ありがとう!」
それを見た雛の表情に笑みが零れた。
だが、彼女はある事に気付く。
「あれっ…? 何だか艶が凄いんだけど…」
「ん? ああ、昨晩紐を通しながら見てたら、結構汚れが目立っていたんでな、試しに靴用のワックスで磨き込んだら、かなりピカピカになったで」
「へっ…!?」
「ほらよ、長く使ってくれよ」
「あ、ありがとう…、ありがとう…!」
異様なまでにピカピカになったブーツを手渡され嬉しい反面、疑問も感じていた。
(これだけ、綺麗にするのにどれだけ時間が掛かったのかしら…?)
「ねえ祐さん、ちゃんと寝たの?」
「ああ、二時間は寝たかな?」
「に、二時間!?」
「なぁに、今日の夜はゆっくり寝るから大丈夫さ!」
「そう言われても…、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって、それよりも、もう飯が出来るから、其れを置いてきたら2人を起こしてくれないか?」
「わ、分かったわ…」
そう言って台所へと戻る祐助、雛は少し心配そうにその様子を見ていた。
―――――――――――――――――
4人揃っての朝食。
祐助と雛は普通に食べていたが、小傘とこころは眠たそうに食していた。
「2人は寝起きが悪いんだな」
「何だか寝足り無いよう…」
「もっと寝てたいよう…」
「あれだけ寝て、まだ寝足り無いってか? 体が鈍るぞ」
「大丈夫、私達妖怪だから!」
「だから、寝ていい?」
「…往復ビンタして良いか?」
「「それだけは御勘弁を!」」
わざとらしく頭を下げる2人に、祐助は呆れ顔で見ており、雛は笑っていた。
朝食を終えると、雛は妖怪の山に帰る為、外へと出た。
「一晩、本当にお世話になりました」
そう言ってお辞儀をする雛。
「また、遊びに来なよ」
「みんなで、またお酒飲もうね!」
「また遊んでよね!」
「ええ、みんなありがとう。 それじゃあね」
3人に笑顔で手を振りながら、雛は飛び立って行った。
3人もまた、彼女の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「行っちゃったね…」
「彼女にも、住む家があるからな」
「祐助は行った事あるの?」
「何回かあるが、余り頻繁には行かない方がいい。 厄災が降りかかるかもしれないからな…」
「「……っ?」」
彼は、何処か遠い目で語った。
小傘とこころは、意味が分からず祐助の方を見つめていた。
「さて…、2人共家で適当に遊んでてくれ。 俺は用事があるから出掛けて来る」
「何処に行くの、師匠?」
「仕事の話だ、そんなに時間は掛からないと思う」
「仕事かぁ…、それじゃあ仕方ないね」
「物分かりが良くて助かる、帰ってきたらまた鍛錬しような、小傘さん」
「うんっ!」
祐助は、元気良く返事をする小傘の頭を撫でた。
「それまで、小傘さんの相手を頼むよ、こころちゃん」
「うん、祐助の言うことはちゃんと聞くよ!」
「よしよし…」
小傘と同じ用に、こころの頭を撫でる祐助。
「それじゃ、行って来る」
「「行ってらっしゃーい」」
2人に見送られ、その場を後にした。
(本当は、行きたくは無いんだがな…)
2人に気付かれない様に、彼は溜め息をついた。
―――――――――――――――――
家から歩くこと約20分。
彼は、ある場所へと到着した。
それは立派な門構えの屋敷であった。
門の前に掲げられたら看板には、
[一刀流兼武術指南 近藤桐次郎道場]
と、大きく書かれていた。
屋敷と道場が併設されており、中からは、多くの門人の掛け声が響いていた。
『せいっ!』
『はあっ!』
『えいっ! やぁぁっ!』
「みんな、やってるねぇ」
そう呟きながら、祐助は門を潜る。
「あっ、若先生!」
「よう!」
彼の姿を見た門下生が声を掛けて来た。
「今日は稽古を付けに来たのですか?」
「そうしたいのは山々だが、俺はまだ病み上がりなんでね」
「あっ……そうでしたね…、申し訳ありません」
「謝る事は無いさ、それより、親父は居るかい?」
「先生ですか? 只今呼んで来ますので少々お待ちを」
門下生は、走って道場の中へと消えて行った。
それから少しして、その門下生が戻って来た。
「先生が、客間にお通ししろとの事なので、どうぞお上がり下さい」
「そうか、なら遠慮無く上がらせて貰おう」
門下生の後を追い、祐助は屋敷の奥へと入って行った。
客間で待つこと10分程、祐助はお茶を飲みながら待っていると、其処へ1人の男が入ってきた。
「悪かったな、わざわざ呼び出したりして」
「全くよ、こっちは病み上がりなんだぞ?」
「すまん、最近は門下生が増えて道場が忙しくてなぁ」
「…らしいな、随分と賑わってるじゃないか」
「みんな、お前に憧れて入門して来るんだ」
「俺に? 一体どういう事なんだ?」
「お前が、1人で格上の妖怪を相手にして退治する所を見てな、自分もあんな風に強くなりたいってヤツらが入門してくるんだ」
「いい事じゃないか、妖怪に負けない強い人間を育めるし、これなら道場の遣り繰りも心配無さそうだ」
「だが、多過ぎるのも考えものだ。お前もたまには稽古を付けに来てくれ」
「まぁ…、気が向いたらな…」
「全く…」
「…それで、今日は何の用件で呼び出したんだ、親父? ……いや、元締」
そう言った瞬間、祐助の表情がそれまでとは打って変わって、真剣なものになった。
それを見た男、近藤桐次郎も真剣な表情で語り出す。
「…お前も、ひと月前の里の人間の拐かし未遂事件は覚えているな?」
それは、里の女性が妖怪に連れ去られそうになるという事件だった。
その時は、慧音や自警団が近くに居合わせた事もあり、すぐに妖怪は取り押さえられ事なきを得た。
「ああ、新聞で見た。 あれは俺の知り合いの美咲さんが拐かされそうになったんだってな?」
「そうだ、だがあくまでも未遂で終わったんだ」
「犯人は捕まったんだろ? 妖怪になりたてのヤツだと聞いたが…」
「だがな…、此には続きがあってな」
「続き…?」
「実は 別に主犯が居てな、その妖怪は使い捨ての下っ端に過ぎなかったんだ」
「…主犯は何人居るんだ?」
「ワシの配下が調べた限り、6人はいる。 それなりに力の強い妖怪だ」
「…要するに、その妖怪を懲らしめれば良いのか?」
「最後まで話を聞け。これにはまだ続きがあってな……実は…」
桐次郎が其処まで言うと、何故か言いにくそうにしていた。
「…何だよ? どうしたってんだ?」
「美咲っておなごは…、先日殺された」
「な…、何だと!?」
それを聞いた祐助は驚愕した。
「丁度、夕暮れの買い物帰りだったらしい、一瞬の隙に奴らが拐かしたんだ。そして、辱めを受け殺されたのだ」
「……っ!」
「それだけじゃない、彼女のお腹には赤子がいたんだ」
「そ、それじゃ…」
「彼女が変わり果てた姿で発見された時、赤子は腹からえぐり出され、滅茶苦茶にされていたそうな…」
「な…何て惨い事を…!!」
「そして、かなりのショックを受けた旦那は、その日のうちに自害された…」
「……っ! 美咲さんが、そんな事になっていたなんて…、何てこった……どうして、もっと早く言ってくれなかったんだ!?」
「お前は妖怪に大怪我を負わせられて療養中の時だったんだ、あの時のお前の身体ではどうしよも出来なかっただろ!」
「くっ……!」
祐助は何も言い返せず、歯噛みし怒りに震えていた。
「知らなかった…、新聞にも載ってなかったし…」
「余りにも凄惨な事件だったんでな、表沙汰にはなって無いんだ」
「悲劇だ…、さぞ無念であっただろうな…」
「気の毒に…、親御さん達は嘆き悲しんでいたよ」
「…博麗の巫女には伝えたのか?」
「ああ、巫女や自警団の人達が血眼になって下手人を探したが、結局見つからなかった」
「…だが、見付けたんだよな?」
「つい昨日だ、無名の丘にある大きな廃屋にヤツらが居るのを、配下の者が見付けたんだ」
「……っ」
「お前に頼みたいのは、懲らしめるなんて生易しいものじゃない。 ヤツらを仕掛けて貰いたい」
「…その仕掛け、引き受けよう…」
彼は、そうはっきりと答えた。
「そう言ってくれると思った。 これは半金だ」
そう言って桐次郎は祐助の目の前に50円(外の世界で50万円)を差し出した。
「……確かに、受け取っておく」
「それと、これは奴らの根城の大まかな地図だ」
それを確認した祐助は、金と地図を懐へと閉まった。
「無茶はするなよ、相手は6人も居るんだし、お前は病み上がりの身だ、誰か助けても良いんだぞ?」
「まぁ…、先ずは様子を見てみるさ」
「…直ぐにやるのか?」
「居場所は分かってるんだ、2、3日で吉報を持って来る」
そう言って祐助は立ち上がり部屋を出ようとすると、後ろから桐次郎が声を掛けた。
「出来れば、病み上がりのお前にこんな依頼はしたくは無かったのだが…」
「そんな事、今更言うか? それに…俺をこういう風に仕込んだのは、何処の誰だっけな?」
「………っ」
それだけを言い残し、彼は部屋を出て、そのまま道場を後にした。
家に戻った時には、既に昼近くになっていた。
「ただいま」
「あっ、お帰り師匠!」
「…あれっ?こころは?」
部屋には小傘しか居らず、こころの事を尋ねる。
「こころは、神霊廟の人達に引っ張られて行ったよ?」
「マジかよ…、大丈夫かな…?」
何故か、こころの身を案じてしまう祐助であった。
―――――――――――――――――
その日の真夜中、祐助は居間で横になり、目を瞑っていた。
ボォーン…ボォーン…
柱時計が、夜中12時の鐘を鳴らす。
「…さてと」
目を開けた祐助が立ち上がり、着替えを始めた。
上着もズボンも全て黒で統一した「黒装束」を纏い、その上から薄手の黒コートを羽織る。
着替えを済ませた彼は、小傘がいる部屋へ入った。
「スゥ…スゥ…」
静かに寝息を立てる小傘の布団を直し、頭を撫でた。
「良い子にしてなよ…」
そう呟き、部屋を出る。
そして居間の戸棚を開け、大量の博麗札をポケットへと仕舞う。
そして、今度は台所へと向かう。
其処には、警戒棒、針、短刀と、何時もの仕事道具が揃えてあった。
「久しぶりの、お勤めだ…」
彼は、用意してあった一升瓶の酒を開け、順番に道具に掛け流した。
「……っ」
それが終わると、道具の水滴を払い、警戒棒と針を懐に仕舞い、短刀は腰のベルトに挟む。
そして、湯呑みを取り、その中に酒を注ぐ。
「グッ…グッ…グッ……はぁ…」
湯呑みの酒を一気に飲み干す。
その瞬間に、目つきが鋭くなる。
「さぁ…、繰り出すぜ…」
彼は静かに家を出た。
すっかり人気の無くなった里を歩く。
「幻想郷の禁忌を破った愚か者には、死の制裁を…!」
1人、敵の本拠地、無名の丘へと向かう。
少し欠けた月の明かりだけが、彼を照らしていた。
彼の、更なる裏の顔が明らかになる。
いよいよ、東方の世界とは違う展開になってくる…予定。
ちなみに、主人公が持つ短刀ですが、匕首では無く、忍びの者や御庭番が持っている位の長さの物と同じとイメージして貰えればいいです。
見た目は、居合い刀のそれです。
オリキャラ簡易紹介
名前:近藤桐次郎
性別:男
年齢:もうすぐ還暦
職業:道場主(師範)
近藤祐助の父親
今は、里の端で道場を開いていおり、門下生もそれなりに多い。
また、里唯一の剣術と武術の道場でもある。
他人にも自分にも厳しい性格だが、時として他人を気遣ったり、細かな所まで面倒を見る等、人望は厚い。
道場では師範を勤めるが、裏では『元締』と呼ばれ、幻想郷の裏社会(特に人間の里)の一部を担っている。