痛快! 男達の幻想郷   作:豊之丞

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仇は、取った…


それぞれの思い

「この度は、本当にご愁傷様で……」

 

「うぐっ……ひっく……」

 

「わざわざ来て貰って悪かったね」

 

俺が来たのは、美咲さんの実家である。

両親は農業を営んでおり、畑を荒らす妖怪を退治する依頼を何度か受けており、昔からの馴染みである。

 

家の中へ招かれ、位牌が置かれた仏壇の前で手を合わせた。

 

両親はまだ、悲しみが癒えていないのだろう、父親は言葉少なく俯いており、母親は啜り泣いていた。

 

「こうなっている事を早くに知っていれば、もっと早くに来ていたんですが…」

 

「そんな事は無いさ、こうして君が来てくれた事を、娘も草葉の陰から喜んでくれてるさ」

 

「自分がもっと早く察知していれば…!」

 

美咲さんの位牌を前に、俺はまた歯がゆい思いに駆られた。

 

「終わってしまった事は仕方ありませんが、娘が可哀想で…」

 

「………っ」

 

ただ泣き続ける母親に、俺は何て声を掛ければ良いのか…。

沈黙が、その場を支配した。

 

「…本当に、美咲さんはお気の毒な事に……しかし、その下手人である妖怪達が、何者かに成敗されたのが、せめてもの救いです」

 

「ああ、今朝聞いたよ。 随分と凄い有り様だったらしいな」

 

「まさに、天誅とでも言うのでしょうか…」

 

「でも…、娘の仇が取れた所で、美咲は帰っては来ませんわ……うぅぅ……ぐす…」

 

重苦しい雰囲気に、差し出されたお茶を一気に飲み干した。

 

「おばさん、あんまり気を落とさないで下さい。 それが原因でおばさんまで体調を崩したら、みんな心配しますからね?」

 

今、俺はこんな気の利かない事しか言えないのか。

 

「あ、ありがとう…、祐助君…」

 

「おじさんも、くれぐれも御自愛下さい。 また、畑を荒らされたら直ぐに知らせて下さいよ、直ぐに妖怪退治に伺いますから」

 

「ああ、ありがとう」

 

「…ところで、美咲さんのお墓は?」

 

「美咲の墓は、命蓮寺の共同墓地に立てたよ」

 

「そうですか、では其方にも行かせて貰います」

 

お暇するため立ち上がると、父親が声を掛けてきた。

 

「もう、行くのかい?」

 

「はい、自分も今日は謹慎明けなんで、挨拶廻りをしているんです」

 

「そうか、それなら仕方ない。 君もくれぐれも気を付けて仕事をしてくれよ、君まで美咲みたいな事なったら、俺は…」

 

「はい、ありがとうございます。 気を引き締めて勤めます」

 

「よし、表まで送ろう。 ……ほらっ、お前も来いよ」

 

「え、えぇ…」

 

そうして、二人は表まで送ってくれた。

 

 

………っ!

 

そうだ、忘れるところだった。

 

「おばさん、これ……お返しします」

 

「これって………美咲と子供のお守り!?」

 

「な、何故、君が此を!?」

 

「確かに、返しておきましたよ」

 

あの時、あの首領が懐に隠し持っていたお守りを見付けて、すぐに取り返しておいたのだ。

 

これを見付けた時は、改めて怒りが湧き上がったっけ。

 

「返すって、祐助君……まさか…」

 

「それでは、これで失礼します」

 

「貴方…、貴方がまさか……美咲の…」

 

「さあ? 何の話ですかね?」

 

多くを語らず、俺は静かに笑顔を振りまきながらその場を後にした。

両親は驚いた表情をしていたが、それ以上は何も言わなかった。

 

仕掛けの仕事は、他人には知られちゃいけない、見られてもいけない。

 

誰に感謝される訳でも無く、何時も危険と隣合わせ。

 

金で妖怪に手を掛け、時には無慈悲な殺生だってしなきゃならない。

そんな稼業をしてる以上、お天道様の下を、まともに歩ける身分じゃない。

 

だが、俺はそれでもこの仕事を続ける。

 

それが幻想郷の……いや、人間の為になると信じて。

 

少しでも妖怪に怯えずにすみ、

 

より良く、より暮らしやすい世になると信じて。

 

博麗の巫女だけでは手に余るなら、俺が処理してやる。

 

 

 

 

命蓮寺の共同墓地へ着き、美咲さんの墓の前に立っていた。

真新しい墓標だったので、すぐ分かる。

 

用意しておいた桶から水を掬い、墓に掛け流す。

そして、花を添えて手を合わせた。

 

「美咲さん…」

 

生前の彼女の姿が走馬灯の様に脳裏に蘇り、胸にこみ上げるものがあった。

 

気が利く可愛らしい女性であったなぁ。

 

彼女は料理上手で、うちにもよくお裾分けしに来てくれてたっけ。

昔は、一時期ではあったが身の回りの世話をしてくれた事もあり、可愛がってやったもんだ。

 

また、子供の頃は身体が弱くて、虐められていた事もよくあった。

何かと、俺が手助けしてやった事も、今ではいい思い出だ。

 

そんな彼女が、婚礼を挙げると知った時は、実の娘の様に嬉しかった。

 

そして、新しい命を授かっていた事を…。

 

たが、その彼女は今、墓の下で眠っている。

産まれて来る我が子を見る事無く…。

 

無念だっただろう

 

苦しかっただろう

 

痛かっただろう

 

悔しかっただろう

 

「仇は……取ってやったからな…」

 

知らず知らずに、俺は涙を流していた。

 

 

『おじちゃん! おじちゃん!』

 

俺の姿を見た彼女が、そう呼びながら駆け寄って来る姿が、昨日の様に思い起こされる。

 

「旦那と子供と、向こうでも家族で仲良く過ごしなよ」

 

いかん…、せっかく彼女達の為の報告をしに来たのに、こんなに湿っぽくなっちまった。

 

涙を拭い立ち上がると、その場を後にした。

 

彼女は、天国に行けたのだろうか?

 

地獄に行くなんて、有り得ないよな?

 

もし、あんな非業の死を遂げ、地獄に行こうものなら…、

 

俺は、映姫さんを本気で恨むぞ。

彼女に、何を言っても結果は覆らないとしてもだ。

 

俺は、地獄でも何処でも行ってやる。

 

だが、彼女は……

 

死後の世界が必ずあるのならば…

 

家族水入らずで、居させて欲しい…

 

もし、生まれ変わるなら

 

来世こそ、幸せになって欲しい

 

 

「寂しく……なったな……」

 

 

俺は、もう墓標を振り返る事はしなかった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「ただいま」

 

俺が、家に帰ったのは昼過ぎがりであった。

 

「あっ、お帰りなさい師匠!」

 

小傘が元気良く出迎えてくれた。

 

「待たせたな小傘、お土産だ、食べなよ」

 

「わーい、ありがとう!」

 

俺が渡した包みを持って大はしゃぎで部屋へ戻っていく小傘。

 

可愛いもんだ。

 

 

 

その後は、2人で縁側でお菓子を食べ、お茶を飲んでいた。

 

「…ところで師匠、今日は何の話だったの?」

 

「ええっとな…、実は今日を持って俺の謹慎が解けたって話だったんだ」

 

「本当なの?」

 

「本当だ、謹慎になった理由は以前話したよな? 約1ヶ月の謹慎がようやく解けたんだ」

 

「そっか…、良かったね、師匠」

 

「ありがとな」

 

何故か、小傘の表情が引っ掛かった。

嬉しそうにしたと思ったら、何か考え込んでいる様な仕草が。

 

「…どうした?」

 

「…へっ!?」

 

「何か、悩み事でもあるのか?」

 

「えっと……その……あ…」

 

「言ってみな、聞いてやるから」

 

「うん…」

 

そうして、小傘は徐に口を開いた。

 

「私、師匠の家にお世話になって、一週間近く経つよね?」

 

「ああ、それで?」

 

「命蓮寺のみんな、心配してるかなって思って…」

 

「…たが、君は命蓮寺の信者では無いのだろ?」

 

「そうだけど…、彼処にはよく顔を出してたし、住職にもお世話になってたから…」

 

「…心配してる、かもと?」

 

「うん……」

 

言われてみればそうだ、毎日の様に顔を出していた筈の彼女が、突然一週間も姿を見せなければ、誰でも心配するだろう。

恐らく、聖白蓮はそういう人物だから、尚更であろう。

 

「心配なら、帰ってやれ」

 

「えっ!? 師匠…?」

 

「小傘、君にも帰るべき場所があるんだ、俺に気を使わず行ってやれ」

 

「で、でも…」

 

「信者じゃないとはいえ、君は命蓮寺に世話になってるんだ。これ以上、無用な心配をさせてはいけない」

 

「う……うん…」

 

彼女は、悲しそうに俯いていた。

 

この子は、生真面目な面があるから、深く考え過ぎているのかもしれない。

 

俺は、小傘を拒絶するつもりは無い。

 

「そんな顔するな、君を追い出すとか、そんなつもりは無いんだからさ」

 

「ほ…本当なの?」

 

「言っただろ? 君は俺の大事な弟子だ。 特訓だってまだ始まったばかりなのに、これで終わりじゃ話にならんだろ?」

 

「それじゃ…」

 

「ああ、君が都合がいい時に何時でも来い。 もっとビシバシしごいてやるからよ!」

 

「し、師匠…」

 

俺の話を聞いて、小傘はまたも涙目になっていた。

綺麗なオッドアイが、充血するのは見てられん。

 

「ありがとう、師匠!」

 

案の定、泣きながら飛びついてきた。

 

しゃーねーな…。

 

「また泣きやがって、本当に泣き虫だな、小傘は」

 

「だって…、だって嬉しいんだもん!」

 

「嬉しい?」

 

「私を助けてくれた時だって、ちゃんと手当てしてくれたし、美味しいご飯も食べさせてくれたし…、此処まで面倒見てくれた師匠には、とっても感謝してるのよ」

 

「そうか、そう言ってくれると嬉しいな」

 

「だからね、今度は私が恩返しをする番! 困った事があったら何でも言ってね、出来るだけ何とかするから!」

 

小傘の言う何とかは、何処までが許容範囲なのだろうか?

 

「ありがとよ、だがな、君が俺にする恩返しは、強くなって、あのバカ共を見返してやる事だ。 まだまだ先は長いぞ?」

 

「うん! 私、頑張るよ!」

 

「ハハハ、良い子だ」

 

抱き付く小傘の頭を、優しく撫でてやった。

 

彼女は妖怪だ、本来なら退治すべき存在なのに…、

何時しか、実の娘に接するような気持ちになっていた。

 

何というか、複雑な心境だ。

 

「よし、それじゃあ、今夜は宴会だな!」

 

「えっ、宴会?」

 

「そうだ、俺の謹慎明けの祝いと、君の快気祝いを兼ねてな!」

 

「でも、2人っきりじゃ…」

 

「心配無用、俺のダチを連れて来るから、きっと盛り上がるぞ?」

 

ダチと言うのは、もちろん慶治と平九郎の事である。

出来れば、ヒデも呼びたいが、今日は仕事だった筈だ。

 

「でも、私が居ても大丈夫かな…?」

 

「大丈夫さ、俺が上手く言うからよ」

 

平九郎は、恐らく慧音さんから事の次第を聞いている筈だ。

慶治も、ちゃんと話をすれば、下手に警戒する事は無いだろう。

 

「それじゃ、私も何か手伝わせて」

 

「よし、それじゃ野菜とか食材を切って貰おうかな?」

 

「うん! 任せてよ!」

 

「俺は、その間に買い出しと、彼奴等に声を掛けて来るからよ」

 

「はーい、分かったよ!」

 

そうして、小傘にやるべき事の指示を出し、後の事は彼女に任せた。

 

俺は、買い出しの為に、里へと向かった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「――――そういう事なんだ、今夜は俺の家で宴会しようぜ」

 

「祐さん、またそんな厄介事に首を突っ込んでたんですか?」

 

「その小言は後で聞いてやるから必ず来いよ、慶治!」

 

「…分かりました、嫁に一言伝えておきますよ」

 

「何なら、家族で来たって構わないぜ? 宴会は大人数の方が楽しいからな!」

 

「他に誰か来るんですか?」

 

「平九郎は誘うつもりだ、慧音さんも呼びたいが……今日は満月なんだよな…」

 

「ああ…、なるほど…」

 

「とにかく、日が暮れたら来てくれ、それまでに準備しておくから」

 

「分かりましたよ」

 

慶治はOKと、次は平九郎だな。

 

 

 

 

 

「――――そういう事だから、今夜は家に来てくれよ」

 

「謹慎明けで、早速ですか?」

 

「固い事言うなって、必ず来いよ、序でに手土産の一つでも持って来てくれると嬉しいな♪」

 

「…分かりました、何か持って行きます」

 

「大変結構! ところで……慧音さん、気は立ってるか?」

 

「ええ、今日はアレですからね…、随分と荒れてますよ」

 

「やっぱりか…、もうすぐ角が生え出すな」

 

「その前に、避難しますよ」

 

「まぁ、また後でな」

 

「はい」

 

平九郎を誘い寺子屋を後にした。

 

後は、酒やつまみといった買い出しをしてっと。

奮発して、高い酒と八つ目鰻でも買うか。

 

今夜は騒がしい夜になりそうだ!

 




宴会という名の、送別会です。

色々、掘り下げていく物語は好きです^^
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