残酷描写は無し、シリアスとS要素あり!
「わーい! 祐助ぇぇ!」
「これは、ギリギリだな!」
残り結界はあと3つ、一瞬の判断ミスが命取りになる。
持っていた鞄に手を突っ込みながら回避行動を取る。
『バリーンッ!』
「うおっと!」
最後の一枚、全ての結界が破られた瞬間に、フランの視界から消えてやる。
「ちょっと! 何で逃げるの?」
「逃げて当たり前だろ? そんなタックルまともに食らったら、即死だ! ……まぁ、他にも理由はあるがな」
「理由…?」
「直ぐに分かるぜ、その理由ってのはな……」
その時には、フランに向けて『それ』を構えていた。
「俺の勝ちだぁぁぁぁ!!」
カチッ!
パァァァァンッ!!
「へっ……きゃぁぁぁぁ!?」
見事に、罠に掛かった如くフランは網に掛かった!
そう、『天下の宝刀』ネットランチャーを使ったのだ。
「何これ!? ネバネバぁぁ?」
「君は初めてだったな、それはネットランチャーって言ってな、君のような狂暴なヤツの動きを封じる力がある便利アイテムなんだ」
「それって何? 私動けなくなるの?」
「現実に動けないだろ? しかも、その網は収縮自在でな、只単に力ずくだけは外せないし、下手に動くと逆に絡み付いて抜け出す事が出来なくなって悪循環に陥る仕様なんだ」
「うっそ!? そんなの嫌だよぉぉぉ!」
「言っておくがな、それは網の形状をしているから、君お得意の『きゅっとして、ドカーン』は通用しないと思うからな?」
「何それ、信じられない! 何でこんなものを持ってるのよ!?」
「決まってるじゃん、これもまたフランドール・スカーレット対策さ」
「ひどーい! 祐さんに騙されたぁ!」
何に騙されたんだよ。
まあ、フラン対策ってのは半分嘘だけど。
「さあ、脱出出来るもんならやってみな! ゆっくりギャラリーさせて貰うぜ」
「くぅぅぅ! こんなもの! えいっ! え―――いっ!!」
何とか脱出しようとするフラン。
しかし、既に自力での脱出は不可能と見た。
それに加えて、あの特殊な翼の形状が仇となり、恐ろしい程の絡まり具合になっている。
間違い無く、ルーミアと同じ末路を辿るだろうな。
「何なのよコレ! 全然解けなーい!?」
「フッフッフッ…」
悪い事を思い付いたぜ( ̄∀ ̄)
「…あと3分だな」
「あと3分? 一体何の話なの?」
「ああ、その網には酸化の作用があってな、一定の時間が経過すると酸化し出して、どんな妖怪でも骨の髄まで溶かしてしまうって、恐ろしい仕組みなんだ」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
「それでだ、その網が溶け出すまでのタイムリミットはあと3分だ。 早く脱出しないと……死ぬぞ?」
「いいいい嫌! そんなの嫌だよぉぉぉぉ!!」
嘘とは気付かず、顔が青ざめるフラン。
まんまとハマったな(ニヤニヤ
「早くしなよ! 残り2分20秒しかないぞ?」
「ひぇぇぇぇ!」
「頑張れフランちゃんよぉ!」
腕時計を見ながら、それっぽい雰囲気で急かしてやる。
真っ赤な嘘とも気付かず、慌てふためく彼女の姿はウケる。
少し考えれば、難しい事では無いのになぁ、妖怪は精神面がお留守だ。
「…このっ、このぉ! 何よこれ!? 祐助! そんな所で見てないで、手伝ってよぉ!」
「何で俺が手伝わなきゃならないだい? バカじゃねぇの?」
「この、裏切り者ぉぉぉ!」
「知らんがな!」
いいねえ、面白いぜ!
あたふたするフランを見るのは、実に愉快だ。
「おーい、あと1分13秒だぜ? そろそろ網が熱くなってきただろ?」
「そんなぁ! 嫌だ、死にたくないよぉ!!」
「あっ…、網が溶け始めたな、フランちゃんよ、君も終わりだな、 バイバーイ!」
「嫌だぁ! 祐さん助けて! 熱いよお! 溶けちゃうよぉ」
うわぁ、マジで真に受けてやがる。
……超ウケる(笑)
「俺、煙草吸いたいから行くわ」
「ああ! 待ってよ! 行かないで!」
「退きなフラン! ほな、さいなら!」
「きゃぁ!? お願いだから祐助……うわぁっ!?」
俺に寄り付こうとしたフランを押し退けて、玄関へ向かう振りをしてみる。
後を追おうとした彼女は、ルーミア同様に足を絡めてずっこけた。
「大丈夫だ、骨は拾ってやる」
「それじゃ遅すぎるよ! 骨になる前に助けてよ! お願いだから………うわぁぁぁぁぁん!!」
ついに泣き出したか
それじゃ、仕上げだな。
「しゃーねーなぁ、お前を助ける方法は1つある」
「えっ!? 助かる方法があるの? 何でもするから教えてよぉ!」
「何でもするんだな?」
「うん、する! 約束するからお願い!」
「本当だな?」
「本当だってば!」
「それじゃあ、地面に両手を付いて『近藤祐助様、私が悪うございました。ですから、この網を取り除いて私を助けて下さいませ!』って言え」
「はぁぁぁ!? 何で私がそんな事言わなきゃならないのよ!? ふざけるなぁ!!」
「嫌ならいい、そのまま死ね」
「あっ! 待ってぇ!」
立ち去ろうとする俺を、彼女は必死で止めようとする。
これほど、上手く行くとはなぁ。
「…どうする? 言うか?」
「くぅぅぅ…………分かった!分かったわよ! 言えば良いんでしょう!!」
「分かったならやれ」
「………こ、近藤…祐助様……私は悪い子です……悪さばかりして…申し訳ありませんでした……ですから……この網を取り除いて私を助けて下さい……お願いします!」
「はい、よく出来ましたー!」
「うぅぅぅ…くっそー! もうやだやだやだやだやだやだぁぁぁ!!」
俺に言われるままにそう言ったフランは、悔しさからか羞恥心からか、両手で地面を叩きながら悔し泣きしていた。
うん、いい気分だ。
「こんな所、みんなに見られたら、私もう生きて行けないぃぃぃ!!」
「それは大丈夫だろ? みんな君の事をそんな風には見てないだろうからな」
「それって、どういう意味よ!?」
「あっ、網が溶けてる」
「へっ!? 嫌だぁ! 熱いよぉぉ!?」
「……バァカ!」
「……えっ?」
「そんな訳ねぇだろ? 網をよく見てみな」
「網………あれっ? 溶けてない? 何で?」
「当たり前じゃん、嘘なんだから」
「そ…、そんなぁぁぁぁぁ!!!」
フランの絶叫が館中に木霊し、ガラスが割れた。
――――――――――――――――――
「ほらっ、何時までも怒ってるんだよ、機嫌直せって」
「………フンッ!」
あれから、俺はフランに絡み付いた網を小柄で切り落として解放してやった。
解放された途端、彼女は泣きながら俺の胸にバタバタとパンチしてきた。
力は入れてないんだろうが、吸血鬼のパンチは痛い…。
そして、フランの部屋に行き宥めているのだが、彼女は相当ご機嫌斜めで、そっぽを向かれていた。
「あんなに上手く行くとは思わなかったんだよ、君もしっかり確認せずに真に受けたのが悪かったんだぞ?」
「そんなの分かる訳無いじゃない! あんな風に言われたら、誰だって信じちゃうよ!」
「フッ、世間知らずなんだな」
「もう、酷い! 祐助なんて大嫌い!!」
「そうか、別に嫌いになるのは構わないが…」
此処で一発、鞄から例のブツを取り出す。
「…うん、これは美味いな」
「えっ……?」
「人里で今流行りの最中だ、とっても美味しいのになぁ〜」
「あ…あぁぁぁ…ぁぁぁぅ…… 」
それを見たフランが、物欲しそうな顔で眺め始める。
吸血鬼は、基本的に食い意地を張るから、ちょろいもんだ。
「…何見てるんだよ、気持ち悪い」
「酷い! 私可愛いんだから! 気持ち悪くないもん!」
「あっそ」
「それでね……あ、あの………祐助……」
「うんっ?」
「た……食べ………たい……」
「何てか? もう一回言えや」
「わ、私も、それ食べたいぃぃぃ!!」
「俺の事が嫌いなんだろ? それじゃあ、お前にやるものは無い」
「うぐっ…」
この吸血鬼は、徹底的にイジメた方が面白かったりする。
「さっきは、折角だからってあげようかなって思ったが気が変わった、そんじゃあな」
「あっ、祐さん!?」
部屋を出ようとする俺を、フランが止める。
「何だよ、うるせーな」
「ち、違うの……違うのぉ!」
「何が違うんだ、はっきり言え」
「私、祐さんの事、嫌いじゃない、大好きなのよ!」
「……で?」
「だから…、そのお菓子食べたいなぁ……」
「お願いしますは?」
「――――――――っ!!」
何か言葉にならない悲鳴を上げたように思えたのは、気のせいか?
「あーもう! 私もそれ食べたい! お願いします、食べさせて下さい!」
「なんだ、ちゃんと言えたじゃないか、それじゃあご褒美だ」
「も―――!! 祐さんの意地悪! 意地悪ぅぅぅ!!」
俺が差し出した箱を奪い取ると、涙目で貪り出すフラン。
姉とは対照的であるな。
「むぅぅぅ! 美味しい! 美味しいわぁぁ!」
「おい、ゆっくり食えよ、喉に詰まる…」
「…………っ!? グホッ! ぐぇぇぇ!?」
あーあ、だから言わんこっちゃない…。
「おーい大丈夫か? 今お茶飲ませてやるからな」
「ぐぇっ、うげぇ…!(早く、お茶頂戴!)」
仕方ないから、水筒の緑茶を飲ませてやる。
「うぐっ、うぐっ……ぷはぁぁ……危なかった…」
「怒りに任せて目一杯口に詰め込めば、そうなるに決まってるだろ? 少しは冷静になれ、このバカタレが!」
「だってぇぇ…」
「だってもクソもない、フランちゃんは大人だろ? 少しはレミリアを見習って冷静な対応が出来なきゃダメだ」
「だけど、アイツも子供っぽいとこあるよ?」
「そ、それは……」
しっかり見てるんだな、そういう所は。
「…まあ、アイツを見習えってのは言い過ぎたが、せめて咲夜さんみないに物腰が落ち着いた女にならんとな」
「咲夜の真似は難しい…」
「そんな事は無い、君は最近じゃ、狂気が表に出る事も少なくなったし、その気になれば出来る子なんだよ」
「そうかな?」
「そうさ!」
彼女の頭を撫でながら、笑顔で応えてやる。
「現に、さっきあれだけ苛められても、最後まで狂気が出なかっただろ? 以前の君なら、間違い無くブチ切れていただろうが、それも無かった。随分と成長したな」
「あう……」
「ごめんなフラン、あんな悪戯してしまって…」
俺は、そっとフランを抱き締めた。
彼女は抵抗する事無く、静かに受け入れてくれた。
「ううん、祐助がそんな事する筈が無いって思ってた。 やっぱり、ただの悪戯だったんだね! 安心したよ!」
「ありがとな、フランちゃん」
俺とフランは笑顔で見つめ合っていた。
真正面から見られると、ちと恥ずかしい…。
「お詫びとして、今日は遊んでやるからな」
「えっ! 本当?」
「本当だとも、本日はお姉様の御要望で泊まり込みだ」
「わーい、やったー!」
「おいっ!? あんまりキツく抱きつくな!?」
彼女は大喜びで、俺に飛び付いてきた。
吸血鬼の馬鹿力で抱きつかれると、かなりツラい。
「約束だからね、弾幕ごっこしようね!」
「弾幕ごっこは嫌だ」
「ええ〜!? 祐さんとの勝負は面白いのにぃ!」
「こっちは全然楽しく無いんだよ、やる度に死ぬ思いしてるんだぞ?」
「ねぇ、少しだけでいいからやろうよぉ!」
これ以上は断りきれそうもないか、やむを得ない…。
「はぁ、しゃーねーな………それじゃあ、久しぶりにスペルカード攻略という弾幕ごっこをさせて貰いますかね」
「うん、いいよ! 何にする?」
「この前は、クランベリートラップを撃破したよな?」
「うん、見事にやられちゃった…」
「そんじゃ…、今日は禁忌『カゴメカゴメ』を攻略しようか」
「よーし、本気で行くからね!」
やべっ…、その気にさせてしまったかもしれない。
「分かったよ、その前に少し寝な。 今の時間は吸血鬼は寝る時間だろ?」
「別に眠たくないよー」
「ダメだ、後で相手になってやるから、寝なさい」
「むぅぅぅ…、はーい…」
そうやって、彼女をベッドに寝かしつけた。
この場は、何とかやり過ごせたな…。
「また、後でな」
「うん! お休み!」
手を振って見送られ、俺はようやく部屋を出れた。
「はぁ…、吸血鬼の相手は疲れるなぁ…」
やっぱり、人間相手の方が気楽でいいや。
さて、今度こそ煙草吸ってこよっと。
――――――――――――――――――
「………それでね、また魔理沙がマスタースパークで館の壁を破壊しちゃって、後片付けが大変だったのよ」
「アイツ、またそんな事をやったんか……しょうがねぇなぁ!」
「アイツは、何回言っても何か盗んで行くんだから、お嬢様もお冠よ」
「ははは…、君達の苦労が目に見えるわ…」
あれから、夕方前の約束の時間に咲夜さんの部屋に行くと、丁度部屋の前で鉢合わせした。
何という、グッドタイミング。
それからは、彼女と世間話をしたり、日常の愚痴を聞かされたりと、会話に花が咲いた。
俺と二人きりでいる時の咲夜さんは、何時ものメイド長の雰囲気とは違い、少女っぽい雰囲気で、砕けた話し方をし、脚を組んでリラックスした感じゆったり座っていた。
レミィの前や、来客がいる時にはまず見ることが出来ない、素の彼女が見れている。
「メイド長の仕事も大変だな。 只でさえ館の管理が大変な上に、君はこの先もずっとあのお嬢様に尽くして行くんだろ?」
「当然じゃない、私の理解者はお嬢様だけよ…」
「俺も、一応それなりに理解してるつもりだが?」
「祐さんは別よ、私が本音で話が出来る数少ない人だから」
「何だ、俺はストレス発散の的かよ…、でも少しは頼りにしてくれてるってか?」
「もちろんよ、お嬢様やパチュリー様相手にこんな内々な話は出来ないし、美鈴では話にもならないし」
「そ、そうか…」
メイちゃんの扱い、酷くないか?
「でもね、時々だけど、私も分からなくなる事があるの」
「分からなくなる?」
「その…、館の取り仕切り方でお嬢様は満足しているのかとか、仕事の進め方、館内の整理整頓、料理の味や来客の接待とか…」
「レミリアさんは、何か言ってたのか?」
「いいえ、余り大胆なお茶を淹れると突っ込まれる事あるけど、それ以外は何も……でも、時々冷たい位素っ気ない態度を取ることがあって、何かやらかしたんじゃないかって、不安になるのよ」
「……少し、考え過ぎじゃないのか? 咲夜さん」
「そうかな…?」
「そうさ、彼女はあんまり我慢をするような性格じゃないだろ? 不満があるなら、真っ先に君に言う筈だ」
「…………っ」
「俺は、君やレミィ達と付き合い出して、さほど長い時間は経っては無いが、良いところも悪いところも見て来たつもりだ、君はよくやってると思うな。だからさ、あんまり根を詰めすぎも良くないぞ?」
「でも……時々、寂しさを感じるの…、仕事に打ち込んでいる時は何も思わないのだけど、一段落して1人になった時に、無性に……」
「言いたい事は分かるよ、此処に人間は君しか居ないからな、後は吸血鬼だったり、魔法使いだったり悪魔だったりと…、そんな中で君は本当によくやってるよ、誰にでも勤まる仕事じゃないぜ」
「本当に大丈夫なのかしら…? 絶対に大丈夫だって自信が無くなる事が多々あって…」
彼女は俯いたまま、体が小刻みに震えているように見えた。
「心配しなさんなって、瀟洒なメイドだって所詮は人の子、ミスをする事だってある。 レミィはそんな細かい事を気にするヤツじゃないさ」
「で、でも、私は……」
「咲夜」
「えっ…?」
「レミィはな、以前こう言っていたんだ。『あの子の仕事ぶりはなかなかのものよ、あんな出来た人間とはこの先何百年経とうと、まず出会え無いでしょうね。 だから、咲夜との出会いはきっと私にとっては運命だったのよ、吸血鬼の狗だと蔑まれても、あの子は私に尽くしてくれる、何も言わずに私について来てくれてる。 そんな従者がいてくれて私は運が良いし幸せ者よ、きっと…』と、そんな事を漏らしたんだ。君がどれだけの期間彼女に尽くして来たかは俺は知らないが、少なくともレミィはちゃんと君の事を見ているんし期待もしているんだ、心配する事など何も無い」
「………っ!」
そこで、彼女の両手を握ってやる。
今の彼女の心理を考えれば、こうしてやれば多少は気持ちが落ち着くだろう。
「だから、これからも今まで通り、堂々と仕事をこなせばいいんだよ」
「お嬢様が、そんな事を……」
「もし、お嬢様に言えないような悩みや心配事があるなら俺が聞いてやる、俺に出来る事など僅かなものだが、それで解決出来るものなら、幾らでも協力してやろうじゃないか」
「ゆ、祐さん……」
「なぁ、咲夜」
「………っ!」
そう言ったら、彼女の表情が少しだけ緩くなった。
少々、キザな事を言ってしまっただろうか?
「……少しは、落ち着いたか?」
「うん…、祐さん…ありがとう…」
彼女は、顔を赤らめて礼を言った。
素直な所もあるじゃないか。
「咲夜の頑張りは俺も見てるんだから、誰にも文句なんて言わせんよ」
「は…はい……」
「それでいい」
握っていた手を離し、座り直す。
「ちなみに…、さっきの話はレミィには内緒だからな? 咲夜には言うなって念を押された話だったからな」
「言うなって言われて、喋っちゃったじゃない?」
「つい、口が滑っちまったよ」
「フフフフ……」
「ハハハハ……」
彼女にも笑顔が戻り、和やかな雰囲気になった。
やっぱり、咲夜には笑顔が良く似合う。
「約束しますわ、絶対にお嬢様には言わないから」
「頼むぜ」
「うん!」
「……それにしても、随分話し込んだな?」
チラッと腕時計を見ると、1時間は話していただろうか?
「あらっ、もうこんな時間になったのね、そろそろお台所へ行かなくちゃ!」
「そうか、これからまた大変だな…」
「ううん、祐さんとお話出来て、十分に気晴らしになったし、楽しかったわ、ありがと」
「喜んで貰えたなら、それでいいんだがな」
「また、話し相手になってくれる?」
「ああ、いいとも!」
その返事に、笑顔が零れる咲夜。
……不覚にも、萌えてしまった。
「では、私は仕事に戻りますから」
「仕事に戻る前に、部屋にだけ案内してくれないか? 荷物も置きたいし、汗も掻いたからシャワーも浴びたい」
「あっ! 申し訳ありません! まだ案内してませんでしたね…」
「なに、気にするな。 夕食までにはまだ時間あるだろ?」
「ええ、しばらくは掛かりますわ」
「その間に、色々済ませるさ」
「畏まりました」
そうして、咲夜さんの後を追って来客用の部屋へと向かった。
――――――――――――――――――
「……ふぅ、いい湯加減だった、さっぱりしたぜ」
シャワーを浴び、汗を洗い流し、ベッドの上に寝転がる俺氏。
部屋にシャワールームが併設されてるとか、マジ羨ましい。
幻想郷は基本的に、外の世界で言う『インフラ』は整備されていないのだが、此処は外の世界のように快適に過ごせる。
パチュリーさんの魔法のおかげで、何の不足も無い。
うちも、無縁塚で拾ってきた電化製品を河童に魔改造してもらったり、河童の技術を活用して(無理矢理やらせた)現代的な生活が出来る環境を整えたが、これには及ばない。
それから、このベッド。
とってもフカフカで寝心地最高!
………ヤバい、一気に眠気が……
今日1日、色々あったからなぁ……
…………………………
………………………
……………………
…………………
…………助…
祐……助…
「ゆ――すけぇぇぇ!!」
「…はえっ!?」
「もう、何時まで寝てるの? もうご飯出来たよ!」
「はぁ……フラン…? ……飯……」
寝ぼけている所為で、頭が回らない…。
眠気眼で、今の状況を考える。
目の前にフランが居る、そして飯……
そっか、何時の間にか寝ちまってたんか。
「……スマン、すっかり寝込んでしまっていたようだ」
「もう、しょうがないなぁ…」
「申し訳ありません、祐さん」
「咲夜さん…?」
「夕食の準備が出来たから呼びに来ましたら、妹様と鉢合わせしてしまいまして…、お休みの所を強引な起こし方になってしまいました…」
「そういう事だったのか…、いやぁ俺も悪かったよ、全然気付かなかった」
「早く行こうよ! お姉様も待ってるよ!」
「妹様、強引に引っ張ってはいけません」
「構わんよ、行こうかフランちゃん」
「うん!」
そうして、フランに引っ張られ、3人で食堂へと向かった。
食堂に着くと、既にレミリアさんが座っていた。
「あらっ、やっと起きてきたの?」
「いやぁ、すまない。 すっかり寝ていた、待ったか?」
「ああ、凄い待ってたぞ? 怒鳴り込んでやろうかと思っていた所だ」
「そうか、それは悪かった…」
「ウッフフフフ……冗談よ、私もさっき来た所だから」
「うっ………全く、質が悪いぜ…」
「お姉様は、今日はずっとあんな感じなのよ、祐さんが来たから、ウキウキしてるっていうか」
「こらっ、フラン! 余計な事は言わないの!」
「本当の事じゃない?」
「だから…!」
「よせよ2人とも、もういいから」
「「むぅぅぅぅ…」」
姉妹で、火花散らしてんじゃねーよ。
仲が良いのか悪いのか、よく分からん。
「さあさあ飯にしようや、咲夜さんお願いするよ」
「はい、畏まりました」
咲夜さんが動き出すと、それにつられて妖精メイドも動き出す。
そして、料理が次々と目の前に置かれていく。
見るからに、美味そうな数々である。
「うおっ、美味そう! これが食いたくて紅魔館に来たようなもんだ!」
思わず声が出てしまう。
「何よそれ、まるで夕食だけ食べに来たように聞こえるわよ?」
「間違ってはいないよ、だってよぉ、こんな上手い晩飯、滅多に食えないだ、今日は最高だな!」
「当然じゃない、咲夜が作ったのよ」
「咲夜さん、ありがとう」
「いえ、何でもありませんわ」
思わず、咲夜さんに頭を下げるが、仕事モードの彼女は素っ気ない返事であった。
しかし、彼女の作る料理は絶品だ。
これまで、永遠亭や命蓮寺、神霊廟や守矢神社、白玉楼や八雲家、神様の住居や、果ては地霊殿まで、色んな所で夕食をご馳走になって来たが、未だに紅魔館以上の美味しい夕食を俺は知らない。
最も、俺の好みの問題かもしれないが。
「それじゃ、いただきます…」
一応、周りの様子を伺いながら食事を始める。
既にレミリアさんとフランちゃんは食事を始めていた。
レミリアさんはともかく、フランちゃんも食事の時は上品な食べ方をする、そこら辺は流石である。
そして、彼女達が飲むものはワインであるが、勿論ただのワインでは無い。
人間の血入りの、吸血鬼専用のものである。
あれを見る度に、気分が萎えてしまう。
出来るだけ、気にしないようにはしているが…。
「……うんっ、美味いわこれ…」
一口、口に入れた瞬間に広がるこの味!
涙出そうになる位、美味しい。
紅魔館の住人と仲良くなって良かったと思える瞬間である。
「あらっ、パチェ?」
「うんっ?」
不意に聞こえたレミリアさんの声に顔を上げると、昼間卒倒した筈のパチュリーさんが丁度席に座った所であった。
「咲夜、私にもお願い」
「畏まりました」
「珍しいわね、貴女が夕食を食べに来るなんて」
「今日は特別よ、気が向いたっていうか…」
「パチュリーさんよ…」
「あっ……」
俺の呼び掛けに彼女がこちらを向くが、何処か気まずそうな感じだった。
「もう大丈夫なのか?」
「え、えぇ……大分良くなったわ……」
「ふーん……なぁ、リトルに聞いたんだが、あのマジックポーションは失敗作なんだってな?」
「ギクッ…」
「失敗作って、何の話なの?」
「パチュリー、また変な薬作ったの?」
「2人とも、少し黙っててくれ」
「「…………っ」」
多少、睨みを利かせたら、2人は静かになった。
「俺に突っ込まれて熱くなっていたからって、確かめずに間違って失敗作を飲んだのか?」
「あ、あの……それは……ちょっとした手違いよ……」
「あれから、どれだけ俺達が苦労したと思ってるんだい?」
「えっと……そんなに苦労したの…?」
『ドォーン!』
「ふざけんなテメェ!! この馬鹿たれが!!!!」
「ひぃっ!?」
余りにも白々しい態度に腹が立ち、思いっ切り机を叩き付け怒鳴りつけてやった。
「テメェがよく確認もせずに失敗作を飲んだせいで、どれだけ心配したと思ってんだ!? あの直後のお前は、冗談抜きで死にかけたんだぞ? それをリトルが必死で蘇生したんだ、一時間以上付きっきりでだ! もし処置が上手くいってなかったら、貴様は本当に死んでたんだぞ! 少しは自覚してんのか!? 自分のミスが原因で大事な従者を悲しませる事するんじゃねぇぞ! 分かってんのか、この馬鹿たれがぁぁぁぁ!!!」
「ご…ご……ごめんなさい……」
力一杯罵倒雑言を並べてやると、彼女は俯きながら掠れそうな小声で詫びを口にした。
「「「………………っ」」」
その様子を見ていたレミリアさん、フランちゃん、咲夜さんは、唖然として見ていた。
ていうか、ちょっと引き気味だった。
僅かな時間だったが、沈黙がその場を支配した。
「……別に、俺に謝らなくてもいいから、リトルを労ってやれ」
「え、えぇ……本当にごめんなさい……」
「…俺も、大きい声出して悪かった」
「………っ」
「リトルはどうした?」
「私が起きた時には横で眠ってたから、ベッドに寝かしておいたわ」
「そっか、ならいいんだが………食べなよ」
「ええ……」
俺がそう言うと、彼女は出された料理を静かに食べ始めた。
「皆さんお疲れ様でーす! 私も夜ご飯食べさせて………って、あれ…?」
そこへ、タイミング悪くメイちゃんがやって来た。
場の空気を読んだのか、さっきの元気よさが一瞬で消えた。
「あ…あの……何か、あったんですか…?」
「……いや、何でもない。 終わった事だ、君は気にする事は無い」
「は、はぁ……」
恐る恐る訊ねて来たから、何でも無いとだけ伝える。
メイちゃんには直接関係無いって事は確かだからな。
「ほら、そこで立ってないで、俺の横 座りなよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
また、何時もの元気に戻った彼女が俺の隣に座る。
「咲夜さん、メイちゃんの分も頼みますわ」
「はい、畏まりました」
「咲夜さん、お願いしますね!」
「仕方ないわね…」
そう言いながら、彼女は準備をしに奥へと消えて行った。
「美鈴…」
「はい、何ですかお嬢様?」
「誰が祐助の隣に座って良いと許可した?」
「へっ…?」
「彼は良くても、私は許して無いわよ?」
「えっ、それって…」
「美鈴、私も許してないんだから〜!」
「い、妹様まで!?」
吸血鬼姉妹の殺意に満ちた視線が、美鈴に注がれる。
メイちゃん、冷や汗が止まらない様子。
「何か、別の意味で気まずくなってきたな…」
「放っておきなさいな、今に始まった話じゃないんだから」
「パチュリーさん、冷てぇなぁ…」
食事をしながら、無表情で言うパチェ。
本当にこれでいいのだろうか?
全く、何なんだよ此処の連中は…。
その後は俺が間に入り、何とか我が儘姉妹を宥めてやった。
そこから後は、和やかな雰囲気で食事が進んだ。
日頃の世間話に、それぞれが夢中で俺に振って来る。
俺は、それを静かに聞いて応えてやる、それだけで彼女達は満足してくれる。
…………疲れた。
美味い料理を食いながら疲れるって、おかしいだろ?
『常識に捕らわれてはいけないんですね!』
誰かさんの台詞が、脳裏を過ぎった。
だが、この疲労感がまだ序の口だという事を、この時の俺はまだ知らない…。
続く。
さて、如何だったでしょうか?
書いてて思いましたが、主人公は ゆうかりん並のドSかもしれないw
次回は、若干の戦闘やその他要素があるかも?
お楽しみに。