*注意!
残酷、流血描写がかなりあります。
閲覧する際には、ご注意下さい。
それは、祐助と鈴仙が悲鳴が聞く少し前の事。
とある集団が、原っぱを散策していた。
「こんな所ですが、どうでしょうか?」
「悪くないな、この辺りに新しい拠点を作れば、人里も近いし、いざという時は逃げるにももってこいだ」
「ならば、早速段取りを…」
「ああ、今度こそ抜かるなよ?」
「はい。親方の期待に応えられるように………」
その時であった。
「見付だぞ! 黒蛇の世多一!」
『………っ!?』
一人の人間が声を上げ、その者達の前に立ちはだかった。
その人間は、白装束を纏い、腰には日本刀を差していた。
「何だ、お前は?」
「忘れたとは言わさんぞ! 26年前、お前達に殺された我が娘とその夫の事を!」
「26年前だ!?」
「フンッ、俺たちが人間を殺すなんざ日常茶飯事なんだ、一々覚えてなんか無いな!」
「待て」
男達がざわめく中、「親方」と呼ばれた男が前へ出る。
「貴様、その人間の親族か?」
「その通りだ、我が娘、歩美はお前に殺されたのだ!」
「…………そうか、思い出した。 お前があの出来損ないの夫婦の親だったのか」
『ハハハハハ……!』
「何を……よくもヌケヌケと……!」
男の馬鹿にする言い草に、怒りを露にする。
「それで、この俺に何か用か?」
「知れたこと! 此処で会ったが百年目、今こそ娘と婿の仇、此処で討つ!」
「仇を討つだぁ? ………アッハハハハハ!」
その一言に、男は大笑いする。
「みんな聞いたか? 人間の分際で仇を討つだってよ? しかも、こんなヨボヨボなババァがよぉ!!」
「ええ、聞きましたよ、この人間、どうかしてますよ! 親方に楯突こうなんて10000年早えんだよ!」
「おかしくて、笑いが止まらねえや!」
『ハハハハハ…!』
子分と思われる男達も、みんな彼女の事を笑った。
「何を戯けた事を!? 26年もの間、地底に逃げ込んでいた卑怯者どもが!」
「何だと…?」
「最早逃しはせぬ、覚悟せよ!」
淡化を切った彼女は、腰に差していた刀を抜いた。
「本気でやるのか?」
「言うまでもない!」
「フンッ、老いぼれが! 大人しくしてれば、長生き出来たものを…」
「今さら命など惜しくは無い、お前を討てばそれで本望だ!」
「そうか、そこまで言うなら…」
その瞬間、男から膨大な妖気が溢れ出す。
「娘の所に送ってやる」
少しずつ、彼女に近づく。
「…………っ!」
彼女も、刀を構え、ゆっくりと動く。
「………覚悟ぉ!!」
一瞬の間合いから踏み込み、男に斬りかかる。
「フッ……」
だが、男はそれを涼しい顔でかわす。
「エイッ! ヤァ!」
それでも、彼女は攻めの手を緩めない。
「うわぁぁぁ!!」
何度も刀を振り、男に立ち向かう。
それはもう、鬼気迫る気迫であった。
しかし、
「……小賢しいわ!」
一振りを避けた男が、彼女に手刀を繰り出す。
「うがはぁっ!」
それを背中に受け、倒れてしまう。
「くぅぅぅ……まだ…まだ……」
何とか立ち上がろうとするが、受けたダメージが大きく、体がふらついてしまう。
「無駄な抵抗は止めな、最初からこうなるのは分かってたんだ」
男の圧倒的な力に、彼女に最初から勝ち目は無かった。
「さあ、そろそろ茶番は……」
「キッ…!」
しかし、それでも男の一瞬の隙ををつき、
「はぁぁぁぁぁっ!!」
渾身の力を込め、刀をを突きだした。
だが……
「オラァ!」
『スパーンッ!』
「…………っ!?」
鈍い音と共に、刀は弾き飛ばされた。
その反動で、彼女もまた飛ばされ倒れる。
全力を出し切った身体は、立ち上がる事はおろか、もう起き上がる事も出来なかった。
「フン、無駄な足掻きよ…」
男が、飛ばされた刀を拾い上げ、彼女の方へと近づく。
「これが妖怪と人間との差だ。 最初から、お前に勝ち目など無かったのだ」
「くっ………おのれ………!」
「むざむざと自分で命を捨てたようなものだ、馬鹿な奴め!」
「…………最早これまでね………歩美………哲榛さん………ごめんなさい………貴方達の仇討ち………果たせませんでした………」
「さあ、お望み通り、あの世に送ってやる。自分の刀で死ねるなんて幸せだろ?」
男が、彼女目掛け刀を構える。
彼女は、一切の抵抗をせず、目を瞑った。
「今………私も……そっちへ………」
「死ね」
男が、腕を振り下ろした瞬間、
刃先が彼女を貫いた。
「ぎぇゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
その叫びは、遠く、遠くまで轟いた。
貫かれた刃先から血が伝い、彼女の白装束が真っ赤に染まり出す。
そして、周りを真っ赤な血の池へと変えた。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
それでも、まだ彼女は息があった。
流れ出す夥しい出血で衰弱しているのに、まだ男を睨んでいた。
「このババァ、しぶとく生きてやがるな」
それを見た男は、怒りを滲ませながら、彼女を貫いた刀に手を掛ける。
「そんな目で俺を見やがって、楽には死にたくないみたいだな!」
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
刺した刀で彼女の傷口を抉る。
「だったら、苦しみまくれ! そして、絶望の中で死ねぇ!」
「あぎぇゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男が執拗に傷口を抉り、瞬く間に血の池が広がった。
「さあ、もう終わりだ!」
そう言って、手に力を込めようとした時だった。
「親方! 誰か来ます!」
子分の一人が声を上げた。
「マズいですよ、こんな所を見られちゃ我々の正体が……」
「チッ、間の悪い…!」
それを聞いた男が、彼女への攻めを止める。
「よし、お前ら見られる前にズラかれ! またいつも通りにな!」
『はいっ!』
それを合図に、妖怪達は一斉に散らばった。
それは時間にして、僅か数秒程であった。
残されたのは、串刺しにされた彼女だけであった。
「む……無念…………歩美………」
辺りの草花を彼女の血が真っ赤に染め上げていた。
「どっちだ………」
悲鳴が聞こえた方向へやってきたが、まだ見つけられない。
「…………っ?」
すると、鈴仙さんが何かを察知した。
「どうした? 何か分かったのか?」
「いいえ、そうじゃないわ。 この先にあった波長の集まりが、いきなり散々になったのよ」
「俺達の事に気付いたのか?」
「多分………」
その時、吹き抜ける風と同時に鼻をつく匂いを感じた。
「…………っ!? これは!?」
「血の…匂い!?」
「まさか……」
「祐さん! こっちよ!」
「ああ!」
匂いがした方向へ、全速力で駆け出した。
そして、少し開けた原っぱへと出た。
「……………っ!!」
その瞬間、鈴仙さんの顔色が変わる。
「鈴仙…さん……?」
「ゆ……祐さん………あ、あ…あれ………」
鈴仙さんが指差した先には……
「……………っ!?」
変わり果てた老婆が、刀で串刺しにされているものだった。
辺りは血で染まり、凄惨を極めていた。
「お……おいっ!」
直ぐに、彼女の元へと駆け付ける。
「あ………ああぅぁぁぁ………」
「ひ、酷い…!」
「何て事を……今抜いてやるからな!」
彼女に刺された刀を、思いっきり引き抜く。
「がはぁぁぁぁ!!」
彼女の叫びが響く。
「早く止血を………」
「ああ…………か………はっ…………」
「………えっ?」
何かを言いたげに、老婆は血塗れの手で俺の腕を掴んできた。
「…………そんな…! おばさん!?」
「わ……わ…………若…先生……?」
俺は、彼女の顔を見て驚いた。
何時も、道場の雑用をこなしているおばさんだったのだ。
「祐さん…? 知り合いなの?」
「な、なんで………どうしてだ……どうしてですかぁ!!?」
叫ばずにはいられなかった。
「若…先生………貴方が…私を……私の最期を………」
「一体誰が……誰がやったぁぁぁぁ!!!?」
「祐さん、落ち着いて!」
「嬉しいです………若先生になら…私は………」
「おばさん! ダメだ! しっかりしてくれぇ!!」
「祐さん!」
取り乱す俺に、鈴仙さんが声を掛けた。
「お願いだから、落ち着いてよ!」
「………っ! 済まない…つい………とりあえず止血を」
何とか落ち着いて止血をしようとする。
しかし、出血が酷く、噴き出す血を全く抑えられない。
重ねたガーゼが、直ぐに赤く染まる。
「クソ……全然血が止まらねえ…!」
「傷口が深くて、これ以上は無理よ!」
俺も鈴仙さんも、自分の服が血で汚れるのも気にせず手当てを続けるが、全く効果が無い。
気が付けば、二人とも返り血を浴びたかのように赤く染まっていた。
「祐さん、このままじゃいけない!早くこの人間を永遠亭に運ぶわ!」
「分かった!」
永遠亭に運ぶべく、俺はおばさんを担ぎ上げる。
「うがはぁぁ!」
おばさんの呻き声がしたが、それを気にしているどころでは無かった。
「おばさん、苦しいだろうが耐えてくれ! 直ぐに永遠亭に連れて行くからな!」
「わ…若先生………」
「鈴仙さん、君は飛べ! 先に行って永琳さんにこの事を伝えるんだ。そして、治療の準備をしてくれ!」
「で、でも…祐さんは……」
「俺に構うな! 早く行けぇ!!」
「わ……分かったわ!」
俺の叫びに圧倒された鈴仙さんは、永遠亭に向かって飛び立っていった。
「おばさん、頼む……死なないでくれ……」
「若先生……いいんです……もう私は…いけない……」
「ダメです! 弱気な事を言っちゃいけません!」
「もう……ダメなんですよ………だから…このまま……」
「もう喋るなぁぁぁ!!!」
「…………っ!?」
分かってはいる、分かってはいるんだ…。
だけど……だけど………!
「このまま……終わらせやしない!!」
「若……祐助さん………!」
彼女をおぶったまま、俺は全速力で竹林へと駆け出した。
今は、彼女を助ける事だけを考え、がむしゃらに走った。
彼女から流れ出す血が身体を伝い、道に血痕を残していた。
頼む、死なないでくれ…!
水智江さん!!
続く。
この後に待ち受ける、厳しくも悲しい現実……。
彼女の過去に、一体何があったのか?