痛快! 男達の幻想郷   作:豊之丞

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彼女から告げられた、知られざる事実。

*全編シリアス展開


命の約束 1

「おばさん………」

 

 

あれから、傷を負ったおばさんを担ぎ込み、永琳さんによる緊急手術が始まった。

 

俺は一人、広い座敷で静かに待った。

 

今は、永琳さんを信用するしかない。

 

不安と苛立ちから、煙草を吸いっぱなしだった。

 

何度も煙管に葉を詰め、火を付け、灰にし、灰皿に灰を落としてはまた葉を詰め火を付けを繰り返す。

 

もう、一刻以上は経っているが、永琳さんも助手の鈴仙さんも、まだ出て来ない。

 

「遅いなぁ………」

 

その時間が、恐ろしく長く感じた。

何時まで続くのかと思ってしまう位に。

 

「祐さん…」

 

その時、背後から声を掛けられる。

 

「…………輝夜さんか」

 

永遠亭の主、蓬莱山輝夜が部屋へと入ってきた。

 

「煙草ばっか吸ってちゃ、体に悪いわよ?」

 

「……………っ」

 

「それから…、服が血だらけだけど、大丈夫?」

 

「ああ………これは俺の血じゃない、彼女の血だ」

 

「さっき担ぎ込まれた人間がいたって聞いたけど、その人間なの?」

 

「そうだ」

 

「そう…………ほらっ、これで少し拭いておきなさい」

 

「ありがとな、姫」

 

輝夜さんからハンカチを渡され、体に付いた血を拭き取った。

 

「ねえ、聞いてもいい?」

 

「何だい?」

 

「貴方とその人間は、どういう関係なの?」

 

「あの人はな、俺にとっては………」

 

 

『ガラガラ…』

 

 

その時、襖が開き、奥から永琳さんと鈴仙さんが出てきた。

 

「永琳さん!」

 

「祐助………落ち着いて聞いて頂戴」

 

「おばさんは…おばさんはどうなった!?」

 

不安と苛立ちが重なったせいで、思わず永琳さんに突っ掛かろうとしてしまうが、鈴仙さんが間に入る。

 

「祐さん、お願いだから冷静になって!」

 

「あっ…………すまない、つい逸ってしまった」

 

「………とにかく、そこに座って」

 

永琳さんに促され、座り直した。

 

飯台を間に置き、永琳さん達と向かい合った。

 

「それで、どうだったんだ?」

 

「……………っ」

 

彼女の表情は、これまでに見た事が無い位に曇っていた。

それが、全てを物語っていたのだ。

 

「まさか……」

 

「………ごめんなさい…………」

 

「…………っ!?」

 

「彼女は、助からないわ」

 

「そ、そんな……!」

 

「残念だけど、急所を突かれ、しかも深く抉られてしまっていて、それでいて出血が多過ぎて手の施しようが無かったの。 あとほんの僅かでも急所を外れていれば、何とか戻す事も出来たのに…」

 

「…………っ!」

 

永琳さんの話に、俺は震えが止まらなかった。

 

「でもね、彼女が今の時点で生きている事自体が奇跡なのよ、本来ならとっくに絶命していてもおかしくないのに、まだ生きている。 あの人間、思いの外、心臓が強いわ」

 

「…………っ」

 

そう言われても、返す言葉が無かった。

 

「出来る限りの延命処置はしておいたわ、止血も施したし、出血で足りなくなった血は、薬で賄っておいた」

 

「そ、そうか………」

 

「私が出来る最善を尽くしてはおいたけど……それでも長くは無いわ…」

 

「長くない………あと、どれだけだ?」

 

「私の見立てでは……………」

 

「師匠! それ以上は……」

 

「良いんだうどんげ、永琳さん、言ってくれ」

 

「……………3日よ」

 

「み……3日………」

 

それを聞いた瞬間、体中の力が抜けるような感覚に陥った。

 

「彼女がもっと若ければ、もう少し長らえたかもしれないけど……あの年齢では、体力的にそれが限界よ…」

 

「な、何てこった……」

 

俺の脳内に、絶望の二文字が過る。

 

どうして、あんな優しい人がこんな事に……。

 

「祐さん……大丈夫?」

 

「………す、すまない、気が動転してしまって……」

 

「無理も無いわ…」

 

しかし、滅入ってばかりもいられない、今は彼女に……、

 

「永琳さん、今 おばさんに会えるか?」

 

「ええ、今は意識も戻ってるし、少し位は話せるわ」

 

「そうか……彼女に話があるんだ、良いか?」

 

「……分かったわ、でも、傷に障るから余り長話はダメよ?」

 

「ああ、ありがとう」

 

永琳さんに許しを貰い、俺は彼女のいる部屋に行く。

 

「悪いが、しばらく二人きりにさせてくれ」

 

それだけを言い残し、部屋へと入った。

みんなは、何も言わずにそのまま座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おばさん………水智江さん……」

 

「祐助…さん……」

 

部屋には、おばさんが布団で横になっていた。

確かに意識はあるが、明らかに弱々しい。

 

薬品と血の両方混ざり合った異様な匂いが、部屋中に充満していた。

 

「ありがとう、祐助さん………まさか、彼処で貴方に会えるなんて…思っても無かったわ……」

 

「おばさん……」

 

俺は、彼女の横に座り、差し出して来た彼女の手を両手で握った。

 

「温かい……そして…大きい……いつの間にか、こんなに立派になっていたなんて………私ったら……何時も、すぐ近くにいたのにねえ……」

 

「おば……水智江さん……どうして……ぁぁ………こんな事に…?」

 

水智江さんの手は冷たかった。

いつもあんなに温かく感じた彼女の手。

今日は、その温もりが殆んど無かった。

 

彼女の変わり果てた姿、冷たい手に、尚一層悲しみが込み上げ、溢れる涙を抑えれなかった。

 

「そんなに……泣かないで………貴方に、涙は…似合わないわ……」

 

彼女は俺に手を差し伸べたが、俺は違う方向を向き、手で涙を拭った。

 

「……ごめんなさい……こんな姿の水智江さんを見てたら、悲しくなって……」

 

「良いんです…………これも…仕方無かった事……」

 

「仕方無かった…?」

 

「はい…、敵討ちをする以上……返り討ちにされる事も覚悟せねば………」

 

「敵討ち? 一体どういう事ですか?」

 

「………………」

 

彼女はしばらく目を閉じ、黙りこんだ。

 

 

そして、少しの沈黙後、彼女は口を開いた。

 

 

「…………分かりました、貴方には、全てをお話します」

 

「はい……」

 

「これは…この話は………今から26年前に遡ります」

 

「26年前………」

 

 

「私には娘が居ました、歩美と言いまして、一人娘でした。 よく気が利く子で幼い頃から家の手伝いをしてこなしてくれました。私達夫婦が共働きで不憫な思いをさせていた筈なのに、愚痴1つ言う事はありませんでした。夫が病で亡くした時だって涙1つ溢さず私を気遣ってくれました。本当は自分だって泣きたい位に悲しかった筈なのに………そして、あの子が19の時にある男性に会いました。 名前を哲榛と言いまして、私の兄が営むお店で働いていたのを歩美が見て、あるきっかけで付き合うようになり、二人はいつしか思い合うようになりました。 先方の家族からは、次男坊だから養子に出しても良いと言われました。 兄もその気なら自分が仲人になってもよいとまで言ってくれまして、晴れて祝言を挙げる事が決まったのです。 その時の私は、嬉しくて嬉しくて…………苦労ばかり掛けてきたあの子が、今度こそ幸せになれると、そう信じておりました……………しかし、26年前のあの日…………ぅぁぁぁっぁぁ……!」

 

 

おばさんは、堪えていたものが抑えられなくなった様に、泣き出した。

 

 

「26年前、一体何があったのですか?」

 

「ぐすっ……………あの日、二人は近くの河原へ出掛けると言い残し、出掛けて行きました。 しかし、夕暮れになっても戻っては来ず、里中の人達が探してくれましたが、その日は見つかりませんでした。そして、翌日…………二人は、近くの森で……無惨な姿で見つかったのです」

 

「…………っ!」

 

「もう、翌月には祝言を挙げ、晴れて夫婦になる二人がどうしてこうなったのか? どうして、あの時引き留めなかったのか? 何度も何度も…自分を責め、後悔しました……」

 

「そ、そんな事が……」

 

「うぐっ……あの二人の最後の姿は、昨日の様に思い出せます。 あんなに綺麗だった娘の顔が………惨い事に……」

 

 

衝撃的だった。

 

おばさんの過去に、そんな悲しい事実があったなんて…。

知らな過ぎたのは、俺の方だったんだ……。

 

しかし、同時に疑問も感じた。

 

 

「……しかし、おばさんはどうして仇の事を?」

 

「それは……二人の通夜の時でした。 外の空気を吸おうと表に出た時に……」

 

 

 

 

 

――――あの時、突然数人の男達が私を囲みました。

 

『おい、少し話がある。 俺達に付き合ってくれないか?』

 

『貴方達は、何者ですか?』

 

『黙ってついてくれば、怪我はしないで済むぜ』

 

『な、何を………ぐわっ!?』

 

 

その時、腹部に男の一撃を食らい、意識を失いました。

 

そして、意識を取り戻した時には、里の外の雑木林に居ました。

周りには、逃がさないとばかりに大人数の男達が、私を囲ってました。

 

その多数の男達の中に、一際体の大きな男が座ってました。

 

『一体貴方達は何者ですか? 何故この様な真似を!?』

 

『お前が、あの娘の母親か?』

 

『歩美の事を言ってるのなら、そうよ!』

 

『そうか、やは貴様が母親か……』

 

『それがどうしたと言うの?』

 

『あの男も、そうなのか?』

 

『哲榛さんは、娘の婿よ!』

 

『フンッ、何だ夫婦か……なら、都合が良かったな』

 

『どういう事なの? 説明しなさい!』

 

『あの二人はな…、知り過ぎたんだよ』

 

『知り過ぎた?』

 

『俺達の正体と、秘密をな……』

 

すると、人間の姿をしていた筈の男達が、みるみるうちに変貌していった。

そうはもう、口で語るのもおぞましい姿でした。

 

『お、お前達は……妖怪!?』

 

『そうだ、俺達は妖怪だ』

 

『ヘッヘッヘッ………』

 

周りの妖怪達が、気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

『あの二人はな……俺達が殺した』

 

『な、何だと!? 何故そんな事を!?』

 

『言っただろ? 知り過ぎたとな…』

 

『何を知り過ぎたというのだ!?』

 

『俺達の正体も然ることながら、俺達の最高の計画をな』

 

『最高だと? お前達は何を企んでいる?』

 

『それを聞いたら、貴様は生きては帰れんぞ?』

 

『…………どうせ、そうほう共は私を生かしてはおかんだろ!?』

 

『フンッ、読まれたか。 まあいい、それならば、冥土の土産に教えてやろう、その計画をな!』

 

『一体何を……しようとしているの?』

 

『人間の里をな……我が渦中に収めるのよ』

 

『な、なんだと!?』

 

『天狗や河童、狐に狸と、色んな勢力が人間の里を狙っているが、奴ら等に人間の里を渡す訳にはいかん。俺達が乗っ取ってやるんだ!』

 

『な、何故そんな事を?』

 

『知れた事よ、人間達を俺達の配下に置き、もっと信仰させるのよ、そして、俺達の力をもっと高め、幻想郷で一大勢力を築くんだ』

 

『…………っ!』

 

『そうすれば、人間を食らおうが犯そうが自由だからなあ! まさに、俺達の天下だ!』

 

『な…なんと、恐ろしい事を……!』

 

『それが幻想郷の摂理よ、人間は妖怪を恐れて生きる、貴様ら人間はそうして生きるしかないのよ…』

 

『そんな事……』

 

『貴様に何が出来る?』

 

『賢者様や巫女様が許すとでも思っているのか?』

 

『八雲紫か、フッ………奴かて所詮は妖怪、人間を食らう事など、屁とも思っちゃいないさ』

 

『くっ……』

 

『まあ、確かに博麗の巫女は手強いが、手が無い訳では無い。 あの女が目ん玉ひんむく様な手立てがちゃんとあるんだ!』

 

『……………っ!』

 

何と恐ろしい!

 

私は、全身に寒気を感じ、震えが止まりませんでした。

この者達に、人里を支配されては里は破滅する。

 

こんな奴らに娘や婿が殺されたのかと思うと、激しい怒りが込み上げてきました。

 

『その為に、お前達は娘と婿を殺したというのか!?』

 

『そうよ! しかも、その一部始終を覗き見しやがって、おまけに博麗の巫女にチクりに行こうとまでしていたんだ』

 

『それで、手に掛けたと…?』

 

『そうだ、ああいう惨たらしい殺し方をした方が、見せしめになると思ってな!』

 

『ハッハッハッハッハッハッ!!』

 

『おのれ……貴様達……!』

 

私は、持っていた懐刀を手に取り構えました。

敵わないと分かっていても、許す事が出来なかった!

 

『ほう…、自分から死にに来るとはなあ……馬鹿な女だ』

 

『黙れ! この恨み、貴様の死を以て晴らす!』

 

『出来るのか? 貴様ごとき人間風情が……』

 

『…………っ!?』

 

その時の、妖怪から滲み出る妖気に、私の身体は恐怖で竦んでしまい、動けなくなりました。

 

『どうした? 俺の妖気に怖じ気づいたか?』

 

『くっ……あぅぁ……!』

 

『フンッ、所詮人間などそんなものだ』

 

どうする事も出来ない自分に、あの時程絶望した事はありませんでした。

 

『さあ、無駄話もそろそろ終わりにしようか……話を全て聞いた以上、生かしては帰さんぞ』

 

『……このっ…………!』

 

動かない身体を、何とかしようと必死になっていた所、男が一瞬隙を見せたように見えました。

 

 

『…………はぁぁぁ!!』

 

 

その瞬間、無我夢中で妖怪に刺し掛かった、一矢報いる為に。

しかし、それは無駄でした。

 

『無駄な足掻きだ! さっさと死ね!!』

 

『なっ…………がはぁぁぁ!?』

 

その一撃を意図も簡単に躱された瞬間、髪の毛を掴まれました。

そして、膝蹴りを受けてしまったのです。

余りの強烈な一撃に、体が言う事を利かず、吐血してしまいました。

 

『うっ……うぉぇ……!』

 

『フンッ、大して力も入れてないのにそのザマか、人間は脆いなあ………ハッハッハッハッ!』

 

『う…うるさい!…………早く殺せ!』

 

『言われなくても、あの世に送ってやる!』

 

妖怪が大きく腕を上げ、私目掛け振り落とそうとするのを見て、私は思いました。

 

(これで、二人の元へ……)

 

そう覚悟を決め、目を瞑った時でした。

 

その瞬間、凄い衝撃音が聞こえ、妖怪達が怯みました。

 

『そこの妖怪ども! 待てぇ!!』

 

博麗の巫女が、私を助けにやって来たのです。

 

『しまった! 博麗の巫女だ! ズラかれ!!』

 

そこで、私の意識は途絶えました――――

 

 

 

 

 

「気が付いた時は、診療所の布団で寝かされていました。 聞く所によると5日は眠っていたとの事でした…」

 

「ギリギリの所で、助けられた訳ですね…」

 

「………でも、どうせなら、あのままあの妖怪の手に掛かった方が、娘に会えたかもしれないのに………」

 

「そんな……」

 

「……それで、怪我が完治してからは、仇の正体も分かっていたので、巫女に退治依頼をしました。しかし…………」

 

 

 

 

 

『な、何故? 何故出来ないのですか!?』

 

『申し訳ありません………リーダー格の者と仲間共は地底へと逃げ込んでしまいました…』

 

『逃げた場所が分かっているなら、是非……』

 

『それが、出来ないのです!』

 

『ですから、何故ですか!?』

 

『強力な結界が張られているからです』

 

『結界?』

 

『あの妖怪どもが、どうしてその結界を超えれたかは分かりません。 しかし、それを私が破ろうとすれば、博麗大結界にまで影響を及ぼす事になります。 幻想郷を護る者として、それだけは出来ない……』

 

『そんな……このまま泣き寝入りしろと言うのですか? それでは、あの二人が余りにも不憫じゃないですか!!』

 

『申し訳無い………諦めて下さい………』

 

 

 

 

 

「先々代は、私に深々と頭を下げて詫びました。どうしても、仇討ちは出来ないと。 それだけではありません。祝言の仲人を買って出てくれた兄が、掌を返したかのように冷たく接して来たのです」

 

 

 

 

 

 

『博麗の巫女に勝手に退治依頼とは、余計な事をしてくれたな!』

 

『余計な事とは何ですか!? 私は娘を殺されたのですよ? 仇を討ちたいと思うのは当たり前ではありませんか?』

 

『そんな事をして、変に妖怪達を刺激したらどうする? 里の人達にまで被害が及ぶかもしれないのだぞ! そこまで考えたのか!?』

 

『しかし、それではあの二人が余りにも可哀想だとは思いませんか? もうすぐ夫婦になれる筈だったのに……』

 

『人間は妖怪には敵わないんだ、幻想郷で生きる以上仕方無い事なんだ、あの二人は運が無かったとしか言い様が無い』

 

『兄さんは悔しくは無いんですか? 後継ぎだった筈の哲榛さんを殺されて、口惜しくは無いのですか?』

 

『私だって悔しいさ!私には息子が居なかったからね、哲榛の事を実の息子のように思っていたよ。 しかしだ、相手が悪過ぎる! 其奴は只の妖怪では無いのだぞ、人里を支配しようとしていた凶悪な妖怪だ、我々が逆立ちしたって勝てっこ無いんだよ!』

 

『ですから、兄さんからも巫女様にお願いして下さいよ! 今頼れるのは巫女様しか居ないんですよ!?』

 

『その巫女からは、出来ないと断れたのだろ? ならば、何回言ったって無駄だ、博麗の巫女の手をこれ以上煩わせるな、この事は早く忘れるんだ!』

 

『そんな理由で、泣き寝入りなんて嫌です! 何とかなりませんか?』

 

『ええい、しつこい! これ以上この事件を引き摺る事はお店の商いに影響するんだ! 今後この話を持ち込む事は許さん!』

 

『兄さん! そんなのあんまりじゃないですか! 哲榛さん事を目に掛けていたんじゃないのですか? 仲人を真っ先に引き受けたのは兄さんじゃないですか! どうして、そんなに冷たくするのですか!?』

 

『うるさい! 主はこの私なんだ、これ以上私に楯突くなら、今後うちの敷居は跨がせないないよ!』

 

『兄さん! お願いですから力を貸して下さい!』

 

『くどい! 最早、お前とは兄弟では無いわ! 誰か、この女を摘まみ出してくれ!』

 

『兄さん! お願いだから……兄さーん!!』

 

 

 

 

 

 

「信頼していた兄さんから絶縁され、頼れる人も居なく、私は毎日泣いていました。その後は、慧音先生がよく慰めてくれまして、少しずつ落ち着きは取り戻しましたが、やはり二人を失った悲しみはなかなか癒えませんでした。その間に近藤先生を始め、多くの人達が色々と動いてくれていたみたいです。皆さんのご協力には感謝してもしきれません。しかし……それでも、仇に辿り着く事は出来ませんでした。それ故に失望と無気力が支配した事もありましたが、何時かきっと二人の仇を討てる日が来ると信じて生きて来ました。そして……以前起きた異変で、地底の妖怪達が地上に現れるようになったと聞いた時は、もしやと思い、頻繁に探りを入れてました。 そして、その仇が見つかった時、ようやく26年前の仇討ちが出来ると信じ、準備をしてきました。でも、結果は……………返り討ちだったわね………フフフフ………」

 

最後、彼女は自虐的に笑った。

こんな惨めな姿を恥じているのだろうか。

 

「おばさん……さぞ、辛かったでしょう………俺の前ではちっとも、そんな素振りは見せなかったけど、おばさんはずっと、そんな過去を背負って生きて来たんですね……」

 

「祐助さん………貴方には分かりますか? 私の口惜しい日々が……」

 

「えっ………?」

 

「祐助さん、答えて下さい! こんな事が許されて良いのですか? 私の娘は殺された一方で、殺した下手人は今この瞬間も、のうのうと生きているんですよ? こんな理不尽が許されるのですか!?」

 

「そんなの………許される訳が…………無い!!」

 

「……っ!? ……………ごめんなさい、貴方に訴えたって、どうにもならないのに……」

 

「い、いえ………………」

 

それ以上、何も言えなかった。 彼女の悲しみを考えれば、そう責められたって仕方が無かったのだから。

 

「………だから、貴方が血に染まっていた時期、私は貴方を責める事は出来ませんでした」

 

「…………っ!?」

 

「貴方の妻子の事を聞いた時、私は自分の娘や哲榛さん事と重ねてしまいました。 そして、貴方が妖怪相手に残忍な行為をしていた時も、私だけは貴方を庇護しました。 むしろ、もっとやれ! もっと殺せ! とも思ってましたから」

 

「お、おばさん……」

 

「……ねえ祐助さん、私が貴方にその事で怒った事を覚えてる?」

 

「ええ、覚えてますよ。 おばさんは『今日はどれだけ殺したの?』と聞いてきたから、俺は『今日は10匹だった』と言ったら、おばさんは……」

 

「『全然甘いわ! もっと殺しなさい! 50や100なんかじゃ生温い! 服が汚れる事や里の人達が言う事なんて気にしなくていい! 徹底的に叩き殺しなさい! 血に染まった服は私が洗ってあげる、貴方に陰口叩くヤツがいれば私が黙らせてあげる、貴方は余計な事は何も考えずに妖怪を殺しまくれば、それで良いのよ!!』 そう言いましたね……」

 

「あの時は、驚いた以上に………何故そこまで捲し立てるのか分かりませんでした。 しかし、今やっとその理由が分かりましたよ」

 

「それが、貴方を更に追い詰める結果になったなんて………私は本当に浅はかでした……ごめんなさい……」

 

「いいんですよ、もう終わった事です……」

 

「…………っ」

 

少しの間、水智江さんは黙っていた。

何かを考え、思い出しているかのように。

 

「……敵に返り討ちにされた事を悔しく思ってたけど、良く考えてみれば当然の結果ね……貴方を支援した事で、私もまた妖怪達に恨みを買っていた、その怨念が自分に付きまとい、敵討ちが返り討ちになる結果を招いてしまった。 馬鹿ね、私ったら……」

 

「おばさん、それは違います!」

 

おばさんの言葉に、俺は反論をした。

あれは………そうじゃない!

 

「あの行為は、俺が勝手にやった事なんです! おばさんは何もやっちゃいないんですよ! 全ては俺の責任なんです!」

 

「祐助……さん………」

 

彼女は、目を見開いて俺を見つめていた。

 

そうだ、あれは俺の仇討ちみたいなものだったんだ………恨みを買うのは俺だけなんだ。

 

 

「水智江さん…、仇の名を教えて下さい」

 

 

「仇の名は………黒蛇の世多一……」

 

 

「黒蛇の世多一、ですね?」

 

 

彼女は静かに頷いた。

 

その名前、確かに耳に焼き付けた。

 

そして、ゆっくりと顔を近付け、水智江さんの耳元で囁いた。

 

 

「――――――――――――――――――――」

 

 

「――――――――っ!!?」

 

 

その瞬間、彼女表情は驚きに満ちた。

 

 

「ゆ、祐助……若先生…! それは…本当ですか?」

 

 

「はい……必ず………約束します」

 

 

「はっ……! あぁぁぁっぁぁぅぁ……祐助さん………ありがとう……ございます………!」

 

 

彼女は俺の手を力一杯握り、涙を流した。

俺もまた、彼女の手を握り返した。

 

その時の彼女の手は、とても温かかった。

俺の知っている、水智江さんの手の温もりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………っ」

 

彼女との話を終えた俺は、部屋を出た。

 

「祐さん…」

 

座敷では、永遠亭のメンバーが俺を待っていた。

 

「話は済んだの?」

 

「ああ……少しばかり時間が掛かったな、すまなかった」

 

外の空気が吸いたく、縁側の方へ向かおうとすると、永琳さんに止められた。

 

「祐助」

 

「うん…?」

 

「話の内容は聞かないでおくけど、これだけは聞かせて」

 

「何だい?」

 

「貴方とあの人間はどういう関係なの?」

 

 

そうか、まだ話してなかったな。

さっき、輝夜さんにも同じ質問をされていたのに。

 

 

「あの人はな、俺にとっては………母親も同然の人なんだ」

 

 

「えっ…、母親!?」

 

 

一同は驚きを隠せない様子であった。

 

 

 

 

続く・・・・・・。




祐助の口から出た、母親も同然とは一体どういう事なのか?


本当は、一気に書き上げる予定でしたが、これ以上長くなるのも考えものだったので、一旦区切る事にしました。

どういう事になるのかは、次話を読んで下さいね!
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