遅くなりましたが、2018年も宜しくお願いします。
翌朝、永遠亭の面子や兎達との静かな朝食を食べていた。
昨晩は、もう遅いからと永琳さんから寝床を提供され、一泊した。
やはり昨日の事があったせいか、どことなく重い雰囲気が漂っていた。
こんなことになったのは自分にも責がある。
申し訳無い気持ちになりながらも、食事をした。
「祐さん、昨日はちゃんと寝れたかい?」
「ああ、一応はな。 お気遣いありがと」
近くに座っていたてゐさんに声を掛けられる。
いつもは、直ぐに何かしらの悪戯をしようとするのだが、今日はその様子は無い。
「永琳さん、少し頼みがある」
「何かしら?」
「俺は、一旦里に戻る。 彼女に縁のある人達にこの事を伝えなければならない。 しばらくおばさんをお願いしたい」
「大丈夫よ、彼女は私の患者。 責任を持って面倒見るわ」
「ありがとう、恩に着る」
「それから、ウドンゲを連れて行きなさい」
「えっ…?」
「し、師匠?」
「貴方一人で動くのは大変でしょ? 今日はウドンゲを使ってくれていいわ」
「永琳さん………スマン……」
表情をあまり変えなかったが、彼女の気遣いに俺は頭が上がらない思いだった。
―――――――――――――――――――
「とりあえず、これからどうするの?」
朝食をすませ、俺と鈴仙さんは人里に向かって竹林を歩いていた。
「君には、まず寺子屋に行ってほしい」
「寺子屋に?」
「慧音さんに伝えなければならない。 平九郎も居るだろうから、ヤツから慶治にも伝えて欲しいんだ」
「それで……?」
「みんな集まったら、近藤道場に来てほしい」
「道場に行けばいいんだね?」
「ああ、お手数掛けるが頼む」
「分かったわ」
彼女は、俺の頼みを承諾してくれた。
本当に助かる、いづれはお礼をしなくては。
「みんな、あの人間には所縁があるの?」
「そうだ、慶治も平九郎も、昔は おばさんにはお世話になったんだ。 そして何よりも、うちの道場は彼女が居なくては成り立たなかった事もあったから、親父とも長い関係なんだ」
「そうなんだ……」
「さて、どうやって打ち明けようか……」
あと2日の命だなんて………どう言えばいいんだよ……。
―――――――――――――――――――
「………………っ!」
「……………………」
鈴仙さんと別れた俺は、すぐに道場に赴き、この事を親父に伝えた。
「なんという事だ……!」
親父の顔が悲痛に歪んでいた。
「全然知らなかったぜ、おばさんにそんな事があったなんてよ」
「ああ、話しにくい事件といのもあってな……あれは儂もよく覚えておる、26年前のあの日、悲しい日であったわ……」
そうして、親父は静かに語りだした。
「前日の夕方に二人の行方が分からなくなったから遅くまで探したが結局見付からなかった。 そして翌日、偶々釣りをしに行ったうちの門人が、二人を発見したのじゃ。儂もすぐに駆け付けたのじゃが……それはもう惨たらしい有り様でのう……」
「そして、通夜の夜、おばさんは下手人の妖怪に殺されそうになった」
「儂も、あれには頭に来てな、徹底的に探したのじゃが、結局は見付からなかったんだ」
「地底に逃げたんだってな?」
「そうじゃ、八雲紫がそう伝えてきたと先々代が言っておった」
「そして、それが原因でおばさんは兄から勘当されてしまった」
「それに関しては、儂も彼女の実家の方に再三抗議したのじゃが、一切聞き入れてもらえなんだわ…」
親父も昔の事を思い出したのか、苦い表情をしていた。
「それでは、あまりにも彼女が不憫でな、だから儂が周りの面倒を見てやったのじゃ、水智江さんには以前より世話になっていたからのう…」
「そうか……」
「しかし、水智江さんも全く無謀な事を………何故儂に相談してくれなかったんだ!」
「きっと、娘夫婦の事だから、自分でケリを付けたかったんだろう……」
「それにしたって、相手が悪すぎる。 段平振り回したって勝てる相手では無いんだ」
「今更言っても仕方無い、だから親父には頼みたい事がある」
「黒蛇の世多一だったな、探すんじゃろ?」
「そうだ、俺はおばさんに約束したんだ」
「何を…?」
「それは……」
その時だった
「先生、皆さんが来られました」
「そうか……構わん、通せ」
「はいっ」
親父がそう伝えると、門人はすぐに戻っていった。
鈴「祐さん、みんな来たわ」
「ありがとう、鈴仙さん」
慧「祐助、一体何事だ?」
慶「みんな呼び出したりして、どうしたんですか?」
桐「まあ落ち着け、みんなそこに座れ」
平「はい……」
親父に促され、皆が座る。
「これから話す事は重大な事だ、落ち着いて聞いてほしい」
俺は皆に向かって、これまでの経緯を語った。
「――――――――大体のいきさつは、こんなものだ」
『……………………っ』
俺が話し終わると、やはり皆は沈んだ表情になっていた。
慶「あのおばさんが、そんな事に…!」
平「昔そんな事があったなんて……」
慧「何て事だ……またあの悪夢を繰り返してしまうのか…!」
やはり、皆の表情は悲痛であった。
とりわけ、慧音さんは当時の事を知っているだけに、尚更であった。
「悲しい気持ちは分かる、俺だって昨日は………」
『………えっ?』
「………いやっ、何でもない。だが、悲しんでばかりもいられない、おばさんを手に掛けた奴等はきっと人里にも害を及ぼす。 対処しなければ……」
桐「そうじゃ、彼女のような犠牲者をこれ以上出してはならん」
平「でも、奴等の居所は……」
桐「今探索させておる、もう少し待つのじゃ」
『はい………』
「平九郎……慶治……」
俯いたままの二人に声を掛ける。
「直ぐに永遠亭に行け、これがきっと………最期になるから……」
「「…………っ!」」
「鈴仙さん、案内してやってくれ」
「分かったわ」
「慧音さんも………」
だが、慧音さんは申し訳無さそうに俺を見る。
「すまない……私はまだ授業があるから……」
「そうか……」
「祐さんはどうするの?」
「俺は準備があるから、一旦家に戻る、後から行く」
「道は大丈夫?」
「大丈夫だろう、不安だったら妹紅を呼ぶ」
「そう……」
「それじゃ、俺達は先に…」
「ああ!」
そうして、慶治、平九郎、鈴仙は立ち上り、部屋を出た。
「私は寺子屋へ戻る、出来たら後で行くつもりだ」
「分かった」
そう言って、慧音さんも出て行った。
「儂も行きたいのじゃがな……」
「分かってる、親父は道場を空けれないからな」
「出来ない事も無いが…」
「俺が行くよ、そっちの方は頼んだぜ」
「うむ、何か分かったら繋ぎをつける」
「おう!」
俺もまた、そうして道場を出た。
色んな思いが頭の中を交錯し、道中どの道で自宅に戻ったか覚えてなかった。
そして、自宅に戻り真っ先に着替えをし、風呂を沸かす。
僅かだがおばさんの血の臭いが、部屋中に漂う。
それが堪らなくなり、直ぐに縁側の引き戸を開けて換気する。
もう、この服は着れない。
おばさんの血の臭いがする服なんて……。
「よし………」
風呂から上がり、身支度を整える。
仕事道具もしっかりと鞄に詰め込み、封をする。
冷たい茶を一杯だけ飲み干し、鞄を担ぎ玄関に向かう。
そして、靴を履こうとした時だった。
(ドンドン)
「祐さーん!」
外から聞き慣れた声が聞こえる。
「和子か」
戸を開けると、何時ものように元気いっぱいな妖怪犬がいた。
「遊びに来たんやよ、今日は何して……」
「スマン和子、今日はそんな気分じゃないんだ」
「へっ?どうして?」
「ちょっとな、重大な事が起きてよ…」
「何それ?重大とか言ってまた一人で抜け駆けする……」
「人一人が死にかかってるんだ、抜け駆けもあるかぁぁ!!」
「…………っ!!?」
気持ちに余裕が無かったせいで、つい怒鳴ってしまった。
「…………ゴ、ゴメン、つい大声出してしまった………今、本当に一大事なんだ」
「祐さん………一体何があったの…?」
「君にも少しは関わりがある話だろうから、ついて来い、話してやる」
「う、うん……」
和子も、おばさんとは面識がある、ちゃんと話しておかなければ。
ツラい現実を直視する事になるが……。
「―――――――そういう事なんだよ……」
「うぐっ…………ひっく………ぐすっ……」
道中、これまでの経緯を話終ると、彼女はずっと泣き続けていた。
「私………あの人間にはよくしてもらったから………妖怪だと分かっても優しくしてくれた、着物もくれた……私嬉しかった………絶対恩返しするって決めてたのに……ぐすっ……あと二日で死んじゃうなんて………うえぇぇぇん………」
「悲しいだろうが、気をしっかり持てよ……」
泣きじゃくる和子の肩を叩いて慰めてやった。
この様子だと和子にとっても水智江さんは大切な存在だったと想像出来る。
「さあ、そろそろ竹林だ、俺の側から離れるなよ」
「ぐすっ………うん……」
そうして、竹林に入り一路永遠亭へと向かった。
「…………っ」
永遠亭に到着すると、慶治と平九郎が客間で座っているのが見えた。
慶治はずって俯いたままで、平九郎は声を押し殺して泣いていた。
「おかえりなさい」
「ああ……」
直ぐに永琳さんが出迎えてくれた。
すると、直ぐに和子が切り出す。
「あの………あちき……私もおばさんに会わせて!」
「貴女が?」
「私も、あの人間にはお世話に……」
「………っ」
「永琳さん、会わせてやってくれないか?」
「…………分かったわ」
そう言って、永琳さんは和子をおばさんのいる部屋へと案内した。
「はあ……」
何故か分からない、溜め息が出てしまう。
そして、二人のいる客間へと向かった。
「祐さん………」
「…………っ」
「おばさんには会ったか?」
「はい、話も出来ました」
「そうか……」
「うぐっ………」
平九郎は尚も泣いていた。
「平九郎、もう泣くな。 最後に二人の姿を見れただけでもあの人は幸せだと思うよ」
「で、でも………」
「俺だって、どうしてこうなってしまったのかと思うと…、どうかしちまいそうだよ……」
「祐さん…」
「でも、今しっかりしなきゃ、何も出来ないだろ?」
「あっ……」
「二人とも、頼むから気をしっかり持つんだ」
「……はい」
弱々しいが、確かに返事は聞こえた。
すると、
「祐助、ちょっといいかしら?」
「うん?」
部屋の奥から、永琳さんが俺を呼んだ。
「どうしたんだい…?」
招かれるままに、永琳さんの元へと行く。
「貴方に話があるの」
そう言って彼女は俺を別の部屋へと案内した。
「……それで、話ってのは?」
「貴方やあの二人の様子を見てたら居た堪れなくなって………でも、私の独断では出来ないから、貴方に判断して欲しい」
「何の話だよ?」
「あの人間の余命はあと二日なのは言うまでも無いわね?」
「分かってる」
「でも………彼女を助ける方法が1つだけある」
「えっ…………それは本当か!?」
それを聞いた時、微かな希望が見えたように思えた。
「ええ、でも…………」
「でも何だよ? 方法があるんなら教えてくれ!」
すると、彼女は目を閉じ黙り込む。
そして、徐に口を開く。
「蓬莱の薬を飲ませるのよ」
「ほ……蓬莱の……薬……!?」
それを聞いた瞬間、俺の中の希望の光は一瞬で絶たれた。
続く。
次回、迫られる選択・・・。