子供達の姿を見て、「あの出来事」を思い出してしまう…。
「暇だ……」
例の一件から2日。
俺、近藤祐助は家に引きこもりがちな生活をしている。
あの日、そのまま家に帰れば良かったのに、ついでだからと夜飯の買い出しに商店に言ったのが悪かった。
何と、偶然にも慧音さんと稗田の当主が居合わせており、鉢合わせとなってしまったのだ。
「しまった!」と思った時には、時既に遅かれし。
俺の姿を見るや否や、彼女達は早速怪我の事を追及してきた。
よく考えれば、当たり前な事だ。
妖怪退治をした時の形のままで来ていたのだから。
包帯だらけの身体。
切り裂かれてボロボロになっている服。
おまけに、返り血を浴びて血だらけになっている。
体の方は、香霖堂で拭き取ったのだが、服までは拭き取れていなかった。
そんな状況で、何事も無かったような顔して買い物をしている自分。
普通の人間なら、当然ビビるだろう。
よく考えれてみれば、そこに居合わせた他の客や店員も、俺を見て青ざめてたっけ?
夜飯の事に気を取られていたせいで、すっかり失念していた。
何とか誤魔化そうと言い訳を考えたが、やはりあの二人を誤魔化す事は容易な事では無かった。
当然というか、やっぱり無理だった…
誤魔化しきれないと観念した俺は、5体の妖怪に襲われた事、退治はしたが居合わせた妖怪を庇って怪我を負い殺されかけて、霖之助さんに助けられたという事を素直に話した。
『何でもねえよ!こんなの妖怪退治の勲章みないなもんだ!』的に、平静を装いサバサバ話したら…、
あーら大変
慧音さん大激怒!
店の外に引っ張り出され、大々的にお説教。
何せ、昨日も危ない目に遭っておいて、今日は大怪我ついでに殺されかけたと来たんだ。
我慢の限界を超え、ついに噴火してしまったんだよな。
仕舞いには、阿求のお嬢にも泣きながら怒られる。
小一時間程、説教されました…。
二人の剣幕に圧倒され、俺は俯いて、ずっと黙って聞いていた。
二人とも、俺の事を心配してくれてるのは、よく分かったのだが…、
うん、ぶっちゃけ泣きそうだった。
それを知った、慶治達やおやっさんにも怒られたよ。
次の日は、稗田の家に呼び出され、半日みっちりとお説教。
同じ事を何度も何度もクドクドと言われ、いい加減ウンザリした。
流石に、あれはキツいぞ…。
そして、俺に下された処分は、傷が完治するまでは、里の外に出る事は禁止。
怪我が治らないうちからの激しいトレーニングも禁止、またぎの仕事など以ての外だと切り捨てられた。
そりゃ無いよ、俺の仕事を取らないでくれ…。
だが、不幸中の幸い、仕事道具は修繕に出しており、どちらにしても仕事は出来ない。
だから、こうして家に引きこもって暇を持て余している。
怪我の度合いも、思った以上に酷く、必要最低限の動きにも差し支える程痛んだ。
「受けた時は、そこまで痛くなかったんだが、時間を追うごとに痛みが増してきやがった。 やっぱり妖怪の一撃は甘くみちゃいかんな…」
そんな独り言を呟きながら、部屋の中をゴロゴロしていた。
「いい天気だなぁ…」
そんな一言が、口から出る。
縁側付近で寝転がっていたので、外の様子が見えた。
『(♪)通りゃんせー 通りゃんせー
こーこはどーこの 細道じゃー
天神さまの 細道じゃー』
表から、子供達の童歌が聞こえた。
…そうか、今日は日曜日だったな。
何時もなら、寺子屋にいる時間だもんな。
「(♪)ちーっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お礼を納めに まいります……っと」
…つい、口ずさんでしまった。
俺も子供の頃は、ああして遊んでたっけ…。
「あの子が生きていれば……」
あの時、どうして守り通せなかったのだろう…
もっと早くに動いていれば…
あの子だけじゃない、
彼女だって、死なずに済んだはず……
「…そう言えば、もうすぐ十三回忌なんだっけな……」
時間の流れとは早いものだ
あの頃の俺は
しばらくは悲しみに暮れ
まともに食事すら出来なかった
『お前のせいじゃない』
慧音さんや、おやっさんはそう言ってくれた
周りの人達も、励ましてくれたが
そんな簡単には割り切れなかった
妖怪を恨んだ、激しく恨んだ
その悉くを残滅してやった
満たされる事が無い日々
荒んだ日々
そんな、血に染まった毎日
毎日、妖怪を一匹以上は殺していたっけ
襲われようが、襲われなかろうが
抵抗しようが、無抵抗だろうが
目の前に妖怪が居れば、殺す
気が付けば、自分の目の前には妖怪の屍の山が出来ていた
そんな光景が当たり前になっていた頃
いつしか下級、中級妖怪達に恐れられるようになっていた
上級妖怪ですら、まともに俺とは関わろうとはしなかった
一端の人間如きが、格上の妖怪を無惨に惨殺していた
誰であろうと、妖怪と分かったなら、それこそ無差別で殺していた
まさに、殺戮そのものだ
情け容赦など、微塵も無かった
誰一人として、俺を止めなかった
いや、止められなかったと言った方が正解だ
いつしか、里の人間ですら俺の事を恐れていた
毎日のように、全身に妖怪の血を浴びて、真っ赤に染めて帰ってくる自分の姿
そんなものを見れば、誰だって戦慄するだろう
結果的に、里を襲う妖怪が極端に減った
それだけ、俺を恐怖の対象として見ていたんだろう
だが、それでも俺は止めなかった
あの時の俺は…
間違い無く、気が触れていた
慧音さんは泣いていた
血に染まる俺を止める事が出来ない自分に腹が立っていたのだ
慶治や他の友人は、恐れから口出しが出来ず
おやっさんですら、諦めたかのように俺のやる事に口出ししなくなっていた
気が付けば
多くの妖怪から恨みを買い
人間達からは恐れおののかれていた
孤立無援
まさに、そんな状況だった
今考えれば、よく生き延びる事が出来たもんだ
殺されていてもおかしくない状況だったのに
奇跡としか言いようが無い
いや……、
「あの子」のおかげかもしれないな
「あの子」の存在が、俺を救ってくれたのかもしれない…
そうでなければ、俺はとっくに三途の川を渡っていたであろう
だが、本当の所は自分自身でも分からない
妖怪に対して、あれだけの惨い仕打ちを行っておきながら
未だに、五体満足でいられる自分が不思議でならない…
もう、あれから10年以上は経つのか……
「(♪)行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせー…」
あまり思い出したくない過去の出来事…。
…いかんいかん、俺の悪い癖だ。
出来るだけ、思い出さないようにしなきゃ。
「軽く、身体を動かすか…」
むくりと起き上がり、軽くシャドーボクシングを初めてみる。
「フッ…、ハァッ…」
身体は動くが、やはり傷が痛む。
力を込めると、なお痛みが増す。
「……止めとこ、慧音さん達にシバかれちまう」
傷を庇いながら座り、湯呑みにお茶を入れる。
「ああ〜、冷てえぇ…」
朝入れたお茶は、すっかり冷えていた、当たり前だよな。
「煙草を……」
卓上に置いてある煙管に手を出そうとしたが、
「あっ…、傷に差し支えるから、しばらくは吸うなって言われてたっけ…」
ニコチン中毒の俺に煙草を吸うなって、マジ拷問だよ…。
吸いたい吸いたい吸いたい吸いたい吸いたい………
我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢………
気分が悶々としてきた。
「どっか散歩に行くか…、近場位なら……」
立ち上がろうと、足に力を入れた時であった。
『グキッ!』
「うおっ!? 痛ってぇぇぇぇ!?」
不覚にも、足を挫いてしまった。
激痛のあまり、しばらくその場で悶絶。
おまけに、怪我をした傷も激しく疼き、二重三重の苦しみに襲われる。
「うぅぅぅ…、情けねえ…」
情けなくて、涙が出てきた…。
ツキが無い時ってのは、とことんこんなもんだわな…。
「…そろそろ、厄神様のとこに行って来んとあかんかな…」
きっと、俺には厄が溜まってるんだ。
それこそ、雛さんが喜ぶ位の。
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
「…ごめんくださーい!」
…………っ?
いつの間にか、寝てしまったらしい。
「こんにちは! 祐助さん居ますかあ!?」
……この声は!
「はいよ! 少し待ってて」
傷に配慮してゆっくりと起き上がり、玄関へと向かった。
「あっ! こんにちは、祐助さん」
「やあ、鈴仙さん。こんにちは」
「お薬の入れ替えに来ました!」
「お疲れさん……って、今日は私服なのかい?」
「はい、何時もの服は洗濯して、間に合わなかったので」
鈴仙さんが、里へ来る時は甚平のような着物を来て、編み笠にうさ耳と長い髪を隠しているが、今日は何時も永遠亭で見る服装、外の世界で言えば女子高生の制服みないな服装である。
やっぱり、彼女にはこの服が似合ってるし、可愛い…。
「…どうしたの?」
「…いや、何でもない」
危ねえ…、ちょっと下心が出そうになった。
いやあ、この姿を見て下心が出ない男は居ないって。
だが、彼女はあくまでも妖怪だ、それ以上の事は無い。
少なくとも、俺はな。
「一応、他の所は回って来たので、此処が最後です」
「そうか…、その言い方だと、何か言われたな?」
「はい………ええ、慧音に薬の入れ替えついでに、貴方の怪我を見て欲しいって言われたわ」
「そうだったか…、悪かったな、使いっぱしりみたいな事になってしまって」
「気にしないで、私も貴方には何時もお世話になってるから」
鈴仙さんが、俺の身体をジロジロと見ている。
「怪我は、酷いの?」
「直に見て貰えれば分かるさ、とりあえずこんな感じだ」
包帯だらけの身体を見せると、彼女は驚いていた。
「うわ…、派手にやられたのね…」
「相手は妖怪だからな、手加減なんてしてはくれないさ」
「……とにかく、その傷は、今から見させて貰うわ」
「ありがとな、まあ上がってくれ」
「うん!それじゃ、お邪魔します」
彼女は、木箱を背負ったまま家に上がってきた。
慧音さんに言われたとは言ってたが、うちは永遠亭のある方角にあり、彼女が立ち寄るには丁度いい立地らしい。
さっき、「最後」なんて言ってたが、実はうちに寄るのは毎回最後なのだ。
ぶっちゃけ、此処は彼女の休憩所も兼ねている。
一見、厚かましくも感じるが、俺は彼女の苦労を良く知っているので、文句も言わないし、邪険にするつもりも無い。
正直なところ、俺としては彼女の姿を見れるのは嬉しい。
目の保養になる……(ニヤニヤ
これで、人間ならば文句なしなんだが…。
…って、妖怪相手に色目は不要だよな。
さて、とりあえず、お茶でも出してやりますか…。
今回は、残酷描写に加えて「闇」描写も入ってます。
童歌「通りゃんせ」が、アクセントになってるかと。
後半は、コミカルに仕上げましたが、どうですかね?
次話は、コメディ中心な話になると思います。