そこで、色々なやりとりがされた。
更に予想外な出来事も…。
「うわ…、これ、結構酷いじゃないの…」
祐助の家に上がった鈴仙は、早速祐助の怪我の傷を確認しているが、予想以上の深手で表情が曇った。
「この傷の直りの遅さは、妖怪にやられたせいなんだろう」
「多分そうだろうけど、無茶し過ぎよ」
「油断していたとはいえ、手痛い一撃だったよ。 だがな、あの判断は間違いではなかったと思う」
「えっ…、どういう事?」
「あそこで朱鷺子を庇ってなければ、間違い無く彼女が致命傷を負っていた筈だ」
(どうして、この人間は自分を犠牲にして…)
祐助の身体に巻かれた包帯を交換しながら、鈴仙はそう思っていた。
「…それは、貴方がどうなっても良いと思ってやったの?」
「ほどんど咄嗟だったんだ、そこまで考えてる余裕は無かった」
咄嗟とはいえ、自分の命も顧みない行為に、鈴仙は憤りを感じていた。
「…何でよ」
「れ、鈴仙さん…?」
「どうして、貴方は自分を犠牲にしてまで、弱小妖怪を助けようとするのよ!」
「えっと……どうしてって言われてもな…」
何事も無いように話す祐助に、鈴仙はついに怒り出してしまう。
「もっと自分を大事にしなさいよ! 大体これが初めてじゃないでしょう! 以前だって、妖怪退治で大怪我したじゃない! 何で懲りないのよ!?」
「そう言われても、俺の仕事はまたぎ兼妖怪退治だからな。 怪我を恐れてちゃ、この役目は勤まらんよ」
「そんなの、霊夢に任せれば良いじゃない! 貴方は普通の人間だって事を忘れないで!」
「霊夢にばかり任せてたら、アイツの仕事が増えるだろ? 雑魚位俺達で何とかしないとな」
「その雑魚相手に大怪我したのは誰よ!?」
「だから、これは……」
「庇ったなんて、ただの言い訳じゃないのよ! 貴方の事を心配している人達の事を考えた事があるの!?」
「…済まない……」
「いい加減にしてよ…」
「鈴仙さん…」
「現に、私だって…」
鈴仙は、そこまで叫ぶように喋ると、俯き今にも泣きそうな表情をしていた。
「君も、心配してくれてるのか?」
「……っ! それは…その……」
祐助の問い掛けに、ハッと我に返った鈴仙は、顔を赤くして更に俯いてしまった。
「…ありがとな、鈴仙さん」
「……っ!」
祐助は鈴仙の手を握り、優しく微笑んだ。
「……とにかく、手当ての続きを…」
「ああ、頼む」
鈴仙は、再び包帯を巻く作業を始めた。
それからしばらく、手当てを終え、二人は縁側で会話をしていた。
「鈴仙さんも、随分と変わったな」
「ええっ!? そうかな…?」
「そうさ、初めて会ってからしばらくは、ガチガチの敬語で、しかも小声でしか喋らなかったからな」
「それは…、あの頃はまだ慣れてなかったし、私って臆病だし人見知りもするから…」
「そんな鈴仙さんも、今じゃ普通に会話も出来るし、結構ズケズケと物言うようになったよな」
「ちょ、ちょっと! 止めてよ! 恥ずかしいじゃない…」
恥ずかしさから顔を赤くして、持っていた湯呑みのお茶を一気に飲み干してしまった。
「私の態度…、気に障った…?」
鈴仙が、そう恐る恐る祐助に尋ねる。
「いや、逆だよ。そんな人見知りだった鈴仙さんと、こうして普通に会話が出来る位に打ち解けたのは、俺としては光栄さ」
祐助は、笑いながらそう答えた。
「光栄だなんて…、私の方こそ貴方にお世話になりっぱなしで…。 里の人間との仲裁にも入ってくれたし、案内もしてくれたし、此処で休ませてくれるし…、感謝してもしきれないわ」
「鈴仙さんは苦労人だからな、何だか放っておけなかったんだ」
「祐さん…、本当に……」
彼女は、小声で何かを言っていた。
「…何か言ったか?」
「あ…、いや……何でもないわ…」
祐助には、其れが聞こえてはいなかった。
「…まあいい。 それより、薬の入れ替えがまだだっけな、薬箱を取って来るよ」
「ええ、お願い」
そう言って、祐助は立ち上がり、居間の方へと歩いて行った。
「何でかな…、以前なら人間の1人や2人、怪我しようと殺されようと、あんまり気にも止めなかったのに、今は…」
彼女は複雑な心境ではあったが、何処かで彼への恩義を感じていた。
「あれだけ苦痛だった師匠の遣いも、今こうして普通に出来るのは、全て貴方のおかげよ…、ありがとう……」
1人になった縁側で、彼女はそう呟いた。
その表情は、とても穏やかであった。
―――――――――――――――――――
「えっと…、これでよしと。 薬の入れ替えは終わったわ」
「お疲れさん」
入れ替えを済ませた薬箱を手に取り、祐助は再び居間の方へと薬箱を片付けに行った。
「今回の怪我の塗り薬を入ってるから、マメに塗ってね」
「ああ、ありがとうな」
片付けを終え、縁側へと戻ると鈴仙の後ろ姿が日に照らされいるせいか、眩しく見えた。
本人は、とてもリラックスしているのか、脚を組み、床に手をついて伸び伸びとして、目を瞑って上を向いていた。
以前なら、まず見れなかった鈴仙の素の姿があった。
(服装もそうだが、鈴仙のあの兎の耳は特徴的だよな…、でも、耳では無いって言ってたっけ?)
「良い天気だよな…」
「そうね…」
そんな事を考えながら、鈴仙の隣に腰掛けた祐助は、湯呑みにお茶を注いだ。
「ほら、お茶だよ」
「うん、ありがとう」
彼女は湯呑みを受け取ると、逸れをゆっくりと飲み始めた。
それを見た祐助も、静かに茶を飲んでいた。
「貴方の傷の事は、お師匠様に伝えておくわ。 また、新しいお薬を処方してくると思うから」
「世話掛けてすまない、永琳さんにも宜しく伝えておいてくれ」
「…そう言えば、『たまには遊びに来い!』って、姫様が言ってたわよ?」
「げぇっ…、あの我が儘姫に捕まったら、当分帰れなくなるんだよなぁ…」
「まぁ…、分かるけど…」
二人は、苦笑いしていた。
「…そうだ! 君に土産があるんだった」
「えっ、お土産?」
「去年辺りから、小さいながら家庭菜園を始めてみたんだ。 うどんげは人参は好きか?」
「人参……」
人参というキーワードを聞いた瞬間、鈴仙の表情が変わる。
「何を言ってるんですか! 大大大好きに決まってるでしょ!? 私は兎よ!」
「そ、そうか…」
(正確には、妖怪兎なんだが…)
いきなりの豹変に、祐助の顔が引きつる。
「…とにかく、そんな君にコレをやろう」
そう言いながら、祐助は台所へと向かう。
そして、何かが入った箱を持って戻ってきた。
「……何コレ?」
其れを見た鈴仙が、不思議そうに尋ねる。
「何って、人参さ」
箱を開けると、そこには大量の人参が詰まっていた。
「うわぁぁっ! こんなにあるの!? しかも大きいわね!?」
「ああ、コイツは所謂『風見幽香スペシャル』ってんだ」
「はぁっ!? 風見幽香スペシャル!?」
何故そこで、その名前が出て来るのか、鈴仙は戸惑っていた。
「実はな、この人参の元の苗も、もっと言えばうちの花壇の土も、幽香直々の特別ブレンドが為された、正にスペシャリティな仕様なんだ」
「その……あの妖怪も、貴方の家に出入りしてるの?」
「まぁ、滅多に来ないがな。 それでも、時々抜き打ちとか称して庭の様子を見に来るんだ。 何か問題があればシバかれるんだ…」
「そ…、そうなんだ…」
祐助のその話に、鈴仙は冷や汗をかいていた。
「だかな、流石はフラワーマスターだ、その二つ名は伊達じゃないぞ。 この人参、メチャクチャ甘くて旨いぞ」
そう言うと、祐助は人参を一本取り出し、鈴仙に渡した。
「そのままで食ってみ」
「えっ!? 生で?」
「大丈夫だよ、ちゃんと洗ってあるから」
「いえ、そうじゃなくて…」
「とにかく食ってみ、食えば分かる!」
「そ、そう…」
鈴仙は、その人参を凝視しながら、いざ食べる事にした。
「それじゃあ、いただきます…」
『バリッ、バリッ、バリッ…』
口にした人参を、音を立てながらかじる。
「(なかなか良い音を立てて食べるな…)」
『モグ モグ モグ……』
「…………」
「…………っ」
彼女は丸ごと一本を平らげてしまった。
「…お味は、どうかな?」
「…………っ」
「…………っ?」
「…………お」
「……おっ?」
「美味しい……」
そう呟いた鈴仙の目つきが変わる。
「こんなに甘くて美味しい人参を食べたのは初めてよ! 月でもこんなボリュームがあって美味な人参は無かったわ!」
「あ、あの……うどんげ……?」
「お代わりぃぃぃぃ!!」
「うおぉぉっ!?」
人参の入った箱を奪い取り、人参を貪り出す妖怪兎。
「あ……あの……」
『バリッ!バリッ!バリッ!バリッ!』
「(な、何だあの食欲は…)」
「これ美味しい! もっと!もっとぉぉぉ!」
何かに取り憑かれたかの様に、人参を手に取り口に頬張る妖怪兎。
これには、祐助も開いた口が塞がらなかった。
『バリッ!バリッ!バリッ!ボリッ!!』
「(うわぁ…、これはとてもじゃないが、『見せられないよー!』的光景だ…)」
完全にキャラ崩壊している妖怪兎を目の前に、彼の顔は引きつっていた。
「うま――い! この人参は全部私のモノよ! 他のヤツらに食わせるなんて勿体ない!特にてゐなんかに渡してたまるかぁぁぁぁ!!」
「(マジすか…)」
それは、何時もの彼女では無い有り様であった。
気が付けば、箱一杯だった人参が、半分位まで減っていた。
「あーあ、美味しかった! ご馳走さま!」
「………っ」
大満足と言わんばかりに、満面の笑みを浮かべる鈴仙。
祐助は、直ぐは言葉が出なかった。
「…どうしたの、祐さん?」
「お前…、良く食ったなぁ…」
「そりゃそうよ! こんなに美味しい人参、他のヤツらなんかに…………っ!!?」
そこまで言った鈴仙は、ハッと我に返った。
「…そんなに、美味かったかい?」
「あっ…! あ……ああ………あ…あああ………」
先程までの笑顔とは打って変わって、彼女の表情は急激に青ざめていった。
祐助の方は、笑みを浮かべて鈴仙を見ていた。
「うどんげ…」
「その……あの……これはね………その……あれなのよ………これがそれで……甘いあれこれ……うさ……えええ…とび……かん……りん……まるって……」
全く日本語になっていない意味不明な言い訳をする妖怪兎。
完全に動揺する鈴仙に、祐助が笑いながらトドメの一言を言い放った。
「なんかさ…、小動物を見てるようで、とっても可愛かったぜ!?」
「――――っ!?」
「まぁ、気にすんな。 所詮、兎だもんな」
「い………」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
余りの恥ずかしさに、鈴仙は頭を抱えて超絶叫した。
彼女の絶叫は、家どころか、里中にも聞こえるかという位で木霊した。
―――――――――――――――――
「ゆっくり帰りなよ」
日が傾きだした頃、祐助は鈴仙を見送ろうと表へ出ていた。
「うぅぅ…、あんな醜態を見られちゃうなんて…、恥ずかしい…」
目と頬を真っ赤にし、彼女は半泣きになっていた。
「そんな事もあるさ、誰にも言わないから心配しなさんな」
「…本当?」
上目遣いで祐助を見る鈴仙。
(そんな目で見るなよ…、惚れてまうやろうがぁぁぁ!!)
彼は、心の中でそんな事を叫んでいた。
「約束するよ、また何時でも来いよ」
「……っ! うん!」
それを聞いた鈴仙の表情は、パァッと明るくなった。
「じゃあ、私行くね。 人参ありがとう!」
「おお、みんなに宜しくなぁ」
薬の入った木箱を担ぎ、人参の入った箱を持つと、鈴仙は飛び上がった。
竹林の方へ飛んで行く彼女を、祐助は手を振って見送った。
「いやぁ、楽しい一時だった。 明日は何しようかねえ?」
1人そう呟きながら、家へと入って行った。
鈴仙、可愛く描けたかな?
なるべく、彼女の魅力を引き出す様にしたんですが…。
キャラ崩壊も仕様ですw