痛快! 男達の幻想郷   作:豊之丞

6 / 37
怪我を負った祐助を手当てする鈴仙。
そこで、色々なやりとりがされた。

更に予想外な出来事も…。


妖怪兎は人参に弱い

「うわ…、これ、結構酷いじゃないの…」

 

祐助の家に上がった鈴仙は、早速祐助の怪我の傷を確認しているが、予想以上の深手で表情が曇った。

 

「この傷の直りの遅さは、妖怪にやられたせいなんだろう」

 

「多分そうだろうけど、無茶し過ぎよ」

 

「油断していたとはいえ、手痛い一撃だったよ。 だがな、あの判断は間違いではなかったと思う」

 

「えっ…、どういう事?」

 

「あそこで朱鷺子を庇ってなければ、間違い無く彼女が致命傷を負っていた筈だ」

 

(どうして、この人間は自分を犠牲にして…)

 

祐助の身体に巻かれた包帯を交換しながら、鈴仙はそう思っていた。

 

「…それは、貴方がどうなっても良いと思ってやったの?」

 

「ほどんど咄嗟だったんだ、そこまで考えてる余裕は無かった」

 

咄嗟とはいえ、自分の命も顧みない行為に、鈴仙は憤りを感じていた。

 

「…何でよ」

 

「れ、鈴仙さん…?」

 

「どうして、貴方は自分を犠牲にしてまで、弱小妖怪を助けようとするのよ!」

 

「えっと……どうしてって言われてもな…」

 

何事も無いように話す祐助に、鈴仙はついに怒り出してしまう。

 

「もっと自分を大事にしなさいよ! 大体これが初めてじゃないでしょう! 以前だって、妖怪退治で大怪我したじゃない! 何で懲りないのよ!?」

 

「そう言われても、俺の仕事はまたぎ兼妖怪退治だからな。 怪我を恐れてちゃ、この役目は勤まらんよ」

 

「そんなの、霊夢に任せれば良いじゃない! 貴方は普通の人間だって事を忘れないで!」

 

「霊夢にばかり任せてたら、アイツの仕事が増えるだろ? 雑魚位俺達で何とかしないとな」

 

「その雑魚相手に大怪我したのは誰よ!?」

 

「だから、これは……」

 

「庇ったなんて、ただの言い訳じゃないのよ! 貴方の事を心配している人達の事を考えた事があるの!?」

 

「…済まない……」

 

「いい加減にしてよ…」

 

「鈴仙さん…」

 

「現に、私だって…」

 

鈴仙は、そこまで叫ぶように喋ると、俯き今にも泣きそうな表情をしていた。

 

「君も、心配してくれてるのか?」

 

「……っ! それは…その……」

 

祐助の問い掛けに、ハッと我に返った鈴仙は、顔を赤くして更に俯いてしまった。

 

「…ありがとな、鈴仙さん」

 

「……っ!」

 

祐助は鈴仙の手を握り、優しく微笑んだ。

 

「……とにかく、手当ての続きを…」

 

「ああ、頼む」

 

鈴仙は、再び包帯を巻く作業を始めた。

 

 

それからしばらく、手当てを終え、二人は縁側で会話をしていた。

 

「鈴仙さんも、随分と変わったな」

 

「ええっ!? そうかな…?」

 

「そうさ、初めて会ってからしばらくは、ガチガチの敬語で、しかも小声でしか喋らなかったからな」

 

「それは…、あの頃はまだ慣れてなかったし、私って臆病だし人見知りもするから…」

 

「そんな鈴仙さんも、今じゃ普通に会話も出来るし、結構ズケズケと物言うようになったよな」

 

「ちょ、ちょっと! 止めてよ! 恥ずかしいじゃない…」

 

恥ずかしさから顔を赤くして、持っていた湯呑みのお茶を一気に飲み干してしまった。

 

「私の態度…、気に障った…?」

 

鈴仙が、そう恐る恐る祐助に尋ねる。

 

「いや、逆だよ。そんな人見知りだった鈴仙さんと、こうして普通に会話が出来る位に打ち解けたのは、俺としては光栄さ」

 

祐助は、笑いながらそう答えた。

 

「光栄だなんて…、私の方こそ貴方にお世話になりっぱなしで…。 里の人間との仲裁にも入ってくれたし、案内もしてくれたし、此処で休ませてくれるし…、感謝してもしきれないわ」

 

「鈴仙さんは苦労人だからな、何だか放っておけなかったんだ」

 

「祐さん…、本当に……」

 

彼女は、小声で何かを言っていた。

 

「…何か言ったか?」

 

「あ…、いや……何でもないわ…」

 

祐助には、其れが聞こえてはいなかった。

 

「…まあいい。 それより、薬の入れ替えがまだだっけな、薬箱を取って来るよ」

 

「ええ、お願い」

 

そう言って、祐助は立ち上がり、居間の方へと歩いて行った。

 

 

「何でかな…、以前なら人間の1人や2人、怪我しようと殺されようと、あんまり気にも止めなかったのに、今は…」

 

彼女は複雑な心境ではあったが、何処かで彼への恩義を感じていた。

 

「あれだけ苦痛だった師匠の遣いも、今こうして普通に出来るのは、全て貴方のおかげよ…、ありがとう……」

 

1人になった縁側で、彼女はそう呟いた。

その表情は、とても穏やかであった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「えっと…、これでよしと。 薬の入れ替えは終わったわ」

 

「お疲れさん」

 

入れ替えを済ませた薬箱を手に取り、祐助は再び居間の方へと薬箱を片付けに行った。

 

「今回の怪我の塗り薬を入ってるから、マメに塗ってね」

 

「ああ、ありがとうな」

 

片付けを終え、縁側へと戻ると鈴仙の後ろ姿が日に照らされいるせいか、眩しく見えた。

 

本人は、とてもリラックスしているのか、脚を組み、床に手をついて伸び伸びとして、目を瞑って上を向いていた。

以前なら、まず見れなかった鈴仙の素の姿があった。

 

(服装もそうだが、鈴仙のあの兎の耳は特徴的だよな…、でも、耳では無いって言ってたっけ?)

 

「良い天気だよな…」

 

「そうね…」

 

そんな事を考えながら、鈴仙の隣に腰掛けた祐助は、湯呑みにお茶を注いだ。

 

「ほら、お茶だよ」

 

「うん、ありがとう」

 

彼女は湯呑みを受け取ると、逸れをゆっくりと飲み始めた。

それを見た祐助も、静かに茶を飲んでいた。

 

「貴方の傷の事は、お師匠様に伝えておくわ。 また、新しいお薬を処方してくると思うから」

 

「世話掛けてすまない、永琳さんにも宜しく伝えておいてくれ」

 

「…そう言えば、『たまには遊びに来い!』って、姫様が言ってたわよ?」

 

「げぇっ…、あの我が儘姫に捕まったら、当分帰れなくなるんだよなぁ…」

 

「まぁ…、分かるけど…」

 

二人は、苦笑いしていた。

 

「…そうだ! 君に土産があるんだった」

 

「えっ、お土産?」

 

「去年辺りから、小さいながら家庭菜園を始めてみたんだ。 うどんげは人参は好きか?」

 

「人参……」

 

人参というキーワードを聞いた瞬間、鈴仙の表情が変わる。

 

「何を言ってるんですか! 大大大好きに決まってるでしょ!? 私は兎よ!」

 

「そ、そうか…」

 

(正確には、妖怪兎なんだが…)

 

いきなりの豹変に、祐助の顔が引きつる。

 

「…とにかく、そんな君にコレをやろう」

 

そう言いながら、祐助は台所へと向かう。

そして、何かが入った箱を持って戻ってきた。

 

「……何コレ?」

 

其れを見た鈴仙が、不思議そうに尋ねる。

 

「何って、人参さ」

 

箱を開けると、そこには大量の人参が詰まっていた。

 

「うわぁぁっ! こんなにあるの!? しかも大きいわね!?」

 

「ああ、コイツは所謂『風見幽香スペシャル』ってんだ」

 

「はぁっ!? 風見幽香スペシャル!?」

 

何故そこで、その名前が出て来るのか、鈴仙は戸惑っていた。

 

「実はな、この人参の元の苗も、もっと言えばうちの花壇の土も、幽香直々の特別ブレンドが為された、正にスペシャリティな仕様なんだ」

 

「その……あの妖怪も、貴方の家に出入りしてるの?」

 

「まぁ、滅多に来ないがな。 それでも、時々抜き打ちとか称して庭の様子を見に来るんだ。 何か問題があればシバかれるんだ…」

 

「そ…、そうなんだ…」

 

祐助のその話に、鈴仙は冷や汗をかいていた。

 

「だかな、流石はフラワーマスターだ、その二つ名は伊達じゃないぞ。 この人参、メチャクチャ甘くて旨いぞ」

 

そう言うと、祐助は人参を一本取り出し、鈴仙に渡した。

 

「そのままで食ってみ」

 

「えっ!? 生で?」

 

「大丈夫だよ、ちゃんと洗ってあるから」

 

「いえ、そうじゃなくて…」

 

「とにかく食ってみ、食えば分かる!」

 

「そ、そう…」

 

鈴仙は、その人参を凝視しながら、いざ食べる事にした。

 

 

「それじゃあ、いただきます…」

 

 

『バリッ、バリッ、バリッ…』

 

 

口にした人参を、音を立てながらかじる。

 

 

「(なかなか良い音を立てて食べるな…)」

 

 

『モグ モグ モグ……』

 

 

「…………」

 

 

「…………っ」

 

 

彼女は丸ごと一本を平らげてしまった。

 

 

「…お味は、どうかな?」

 

 

「…………っ」

 

 

「…………っ?」

 

 

「…………お」

 

 

「……おっ?」

 

 

「美味しい……」

 

 

そう呟いた鈴仙の目つきが変わる。

 

 

「こんなに甘くて美味しい人参を食べたのは初めてよ! 月でもこんなボリュームがあって美味な人参は無かったわ!」

 

 

「あ、あの……うどんげ……?」

 

 

「お代わりぃぃぃぃ!!」

 

 

「うおぉぉっ!?」

 

 

人参の入った箱を奪い取り、人参を貪り出す妖怪兎。

 

 

「あ……あの……」

 

 

『バリッ!バリッ!バリッ!バリッ!』

 

 

「(な、何だあの食欲は…)」

 

 

「これ美味しい! もっと!もっとぉぉぉ!」

 

 

何かに取り憑かれたかの様に、人参を手に取り口に頬張る妖怪兎。

 

これには、祐助も開いた口が塞がらなかった。

 

 

『バリッ!バリッ!バリッ!ボリッ!!』

 

 

「(うわぁ…、これはとてもじゃないが、『見せられないよー!』的光景だ…)」

 

 

完全にキャラ崩壊している妖怪兎を目の前に、彼の顔は引きつっていた。

 

 

「うま――い! この人参は全部私のモノよ! 他のヤツらに食わせるなんて勿体ない!特にてゐなんかに渡してたまるかぁぁぁぁ!!」

 

 

「(マジすか…)」

 

 

それは、何時もの彼女では無い有り様であった。

 

 

気が付けば、箱一杯だった人参が、半分位まで減っていた。

 

 

「あーあ、美味しかった! ご馳走さま!」

 

「………っ」

 

大満足と言わんばかりに、満面の笑みを浮かべる鈴仙。

祐助は、直ぐは言葉が出なかった。

 

 

「…どうしたの、祐さん?」

 

「お前…、良く食ったなぁ…」

 

「そりゃそうよ! こんなに美味しい人参、他のヤツらなんかに…………っ!!?」

 

そこまで言った鈴仙は、ハッと我に返った。

 

「…そんなに、美味かったかい?」

 

「あっ…! あ……ああ………あ…あああ………」

 

先程までの笑顔とは打って変わって、彼女の表情は急激に青ざめていった。

祐助の方は、笑みを浮かべて鈴仙を見ていた。

 

「うどんげ…」

 

「その……あの……これはね………その……あれなのよ………これがそれで……甘いあれこれ……うさ……えええ…とび……かん……りん……まるって……」

 

全く日本語になっていない意味不明な言い訳をする妖怪兎。

 

完全に動揺する鈴仙に、祐助が笑いながらトドメの一言を言い放った。

 

「なんかさ…、小動物を見てるようで、とっても可愛かったぜ!?」

 

「――――っ!?」

 

「まぁ、気にすんな。 所詮、兎だもんな」

 

 

「い………」

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

余りの恥ずかしさに、鈴仙は頭を抱えて超絶叫した。

 

彼女の絶叫は、家どころか、里中にも聞こえるかという位で木霊した。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「ゆっくり帰りなよ」

 

日が傾きだした頃、祐助は鈴仙を見送ろうと表へ出ていた。

 

「うぅぅ…、あんな醜態を見られちゃうなんて…、恥ずかしい…」

 

目と頬を真っ赤にし、彼女は半泣きになっていた。

 

「そんな事もあるさ、誰にも言わないから心配しなさんな」

 

「…本当?」

 

上目遣いで祐助を見る鈴仙。

 

(そんな目で見るなよ…、惚れてまうやろうがぁぁぁ!!)

 

彼は、心の中でそんな事を叫んでいた。

 

「約束するよ、また何時でも来いよ」

 

「……っ! うん!」

 

それを聞いた鈴仙の表情は、パァッと明るくなった。

 

「じゃあ、私行くね。 人参ありがとう!」

 

「おお、みんなに宜しくなぁ」

 

薬の入った木箱を担ぎ、人参の入った箱を持つと、鈴仙は飛び上がった。

 

竹林の方へ飛んで行く彼女を、祐助は手を振って見送った。

 

「いやぁ、楽しい一時だった。 明日は何しようかねえ?」

 

1人そう呟きながら、家へと入って行った。

 




鈴仙、可愛く描けたかな?
なるべく、彼女の魅力を引き出す様にしたんですが…。

キャラ崩壊も仕様ですw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。